原題:VOZVRAHCHENIYE/THE RETURN

なんで今さら帰ってきたんだ

2003年第60回ヴェネチア国際映画祭グランプリ金獅子賞受賞、新人監督賞受賞 2004年セザール賞最優秀外国映画賞ノミネート 2004年第61回ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞ノミネート

2004年8月27日全米公開

2003年/ロシア/カラー/105分/ 配給:アスミック・エース

2005年04月08日よりビデオリリース 2004年9月11日、シャンテシネ他にて公開 2005年04月08日よりDVDリリース

公開初日 2004/09/11

配給会社名 0007

解説


≪ヴェネチアを、世界を魅了した 衝撃のデビュー作≫
2003年、ヴェネチア映画祭。授賞式の会場は、新たな名作の誕生に沸いていた。北野武、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥらを抑え、グランプリである金獅子賞と新人監督賞をダブル受賞したアンドレイ・ズビャギンツェフ監督は、満場の惜しみない喝采を浴びた。ロシア作品の受賞は1962年のアンドレイ・タルコフスキー監督『僕の村は戦場だった』、91年のニキータ・ミハルコフ監督『ウルガ』に次ぐ3作目、しかも公式上映後15分間も拍手が鳴り止まなかったという本作は、監督1作目にしてグランプリ受賞という同映画祭始まって以来の快挙も成し遂げた。その後も『父、帰る』は世界各国の映画祭への出品・受賞を総なめにし、セザール賞やゴールデングローブ賞にも名を連ねた。39歳の新人監督デビュー作の、何が観客を捉えるのか。何が批評家を魅了するのか。

≪12年ぶりに、 父さんが帰ってきた≫
母とささやかに暮らしていたふたりの兄弟のもとに、ある夏の日、家を出ていた父が12年ぶりに帰ってきた。「どうして今ごろ帰って来たんだ」。「今まで何をしていたんだ」。写真でしか見覚えの無い父の突然の出現に、兄弟の思いは様々に揺れ動き、とまどう。父は無口で、兄弟には何の説明もしない。そして父は、ふたりを湖への小旅行に誘う。それは父子水入らずの、初めての旅だった。
父さんは、僕たちに何を伝えたかったのだろうか?

母子家庭のふたりの少年のもとに、ある日突然、見知らぬ”父”が現れる。彼は何処からやってきたのか、今まで何をしていたのか。謎を突きつけられたまま物語は動き始め、観客は少年たちと同様、疑問を抱えたまま物語に引きずり込まれていく。車で荒野をひた走りながら、父と子の関係は絶えずぶれ続ける。12年という時間を埋めんとする父子3人の旅の辿り着く果てには、何が待ち受けるのだろうか。
元々のシナリオから余分な要素をことごとく排したという物語は、ストイックでシンプルなだけに強い印象を残す。神話的あるいはキリスト教的なモティーフが巧みに配されたミステリアスな語り口、サスペンスフルでさえある父子の心理的葛藤。”家族”という根源的なテーマを今のロシアの中に描いた深い洞察による力強い人間ドラマが、国境を越えて万人の心を揺さぶるのである。
『父、帰る』は、答えを求めない。父の過去も、電話の相手も、箱の中身も、全ては父とともに突然現れ、そして去っていく。後には深い問い掛けだけが残される。父の存在とは、家族の絆とは。

「あなたにとって、父親とはどんな存在ですか」

≪自然を叙情的に捉えた、瑞々しい映像≫
静謐でエモーショナル、初監督とは思えない完成度。本作の監督、ズビャギンツェフは俳優志望だったが、新進気鋭のテレビ局であるレン・テレビのディレクターに転身、わずか数作を撮った後、この長編に挑んだ。そのセンセーショナルな登場から、タルコフスキーの再来とも評されるが、本人はポール・トーマス・アンダーソンや北野武等の作品に衝撃を受けたという。ペレストロイカ以降の新しい世代が、エンタテインメントの世界でもいよいよ頭角をあらわしてきた。
そんな監督の周りには、若いスタッフが集まった。品格をたたえる映像は、ズビャギンツェフ監督とはTVシリーズで知り合ったミハイル・クリチマン。”銀のこし”の技法による透明感のある画面が、ロシアの自然を叙情的に映し出す。雲や森、雨や湖、時に神聖で時に荒々しい情景、特に湖や雨といった水の表情が、物語に神秘的な深みを付加している。また、映像とともにドラマを盛り立てるのは、アンドレイ・デルガチョフの音楽である。アンヴィエントでミニマルなスコアが、物語の進行とともに緊迫感を増幅させていく。いずれもズビャギンツェフ監督の人脈で集まった、映画界では全くの”新人”たちであり、新しいロシア・カルチャーの担い手たちである。
粗暴で謎めいた父を演じるのは、主に舞台俳優として活躍しているコンスタンチン・ラヴロネンコ。父に反抗心を燃やす弟イワンには、撮影時は弱冠13歳だったイワン・ドブロヌラヴォフ。戸惑いながらも父を受け入れる兄アンドレイには、ウラジーミル・ガーリン。なお、ウラジーミル少年は、本作の撮影後、ロケ地であるラドガ湖で溺死した。2003年6月、本作の完成試写の直前に、友人と遊びに行ったときのことだった。ヴェネチア映画祭の授賞式の壇上で監督は、この受賞をウラジーミル少年に捧げた。

ストーリー


ある静かな夏の日に、その父さんが突然、帰ってきた。
大きな体をベッドに横たえて、まるで死んだように眠っていたかと思うと、家族にたった一言「久しぶり」とだけ言って、夕食のテーブルでは中央に座り、家長然としてあれこれ仕切りはじめる。母さんもお祖母さんも黙ったまま、ずっと視線を落としている。
はじめての再会に、僕も兄さんも頭の中がひどく混乱している。
父さんは、今まで何をしていたのだろうか?
一体どこからやって来たのか? 
言葉が少ない父さんが顎にたくわえた無精髭だけが、12年という空白の時間を物静かに語っている。

食事をしながら父さんは、明日からしばらくの間、僕たち兄弟と旅に出ると言い出した。あまりに突然の出来事でうまく呑み込めない。大きな期待と不安を抱えたまま、その日は兄さんと興奮して眠れない夜を過ごした。
次の日の朝、僕たち3人は釣り竿とテントを積み、日記を持って、父さんの車ではるか北部に位置する、湖に浮かぶ無人島をめざして旅に出た。父さんがいなかった日常がバックミラーに消え、新しい世界が目の前に広がっていく。
目的地までは3日かかるという。旅をしながら、父さんは僕たちに男としての強さを叩き込もうとしているようだ。どんな状況も自分で切り抜けていく力。時にはあまりにも粗野な教え方についていけなくなり、歯向かってみたりもしたけれど、その度に、力まかせに地面に叩きつけられるだけだった。周りの友達に「男のクズ」と馬鹿にされた時、父さんがいないことを恨んだ時もあった。でも、今となっては戻りたい気もする。彼がいなかった頃の生活に。父さんを慕っている兄さんとは反対に、僕は素直に接することが出来ないままに旅は続いていく。
目的の島につく頃には、僕の中には疑問と憎しみがどんどん膨らんでいた。

どうして今さら戻ってきたのだろうか? 
大体、この男は本当に僕たちの父さんなのだろうか?
彼は僕たちに何を伝えようとしているのか?
愛情のかけらも感じない横暴な振る舞いが、どうしても我慢ができなくなった僕は、遂に剥き出しの感情を彼にぶつけてしまう・・・。

スタッフ

監督:アンドレイ・ズビャーギンツェフ
製作:ドミトリイ・レスネフスキー
撮影:ミハイル・クリチマン
音楽:アンドレイ・デルガチョフ
脚本:アレクサンドル・ノヴォトツキー、ウラジーミル・モイセエンコ

キャスト

イワン・ドブロヌラヴォフ:弟イワン
ウラジーミル・ガーリン:兄アンドレイ
コンスタンチン・ラヴロネンコ:父

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