原題:At Five in the Afternoon

第56回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞

2003年/日本/イラン=フランス/105分/35mm/1:1.85 配給:東京テアトル

2004年7月3日より、銀座テアトルシネマにてロードショー

公開初日 2004/07/03

配給会社名 0049

解説


2001年9月11日を経て・タリバン政権崩壊・タリバン時代には映画が禁じられていたアフガニスタンでは数々の映画プロジェクトが立ち上がった。その中で『午後の五時』には、2人の女性が完成させたという点でも、もっとも強いく女性へのメッセージ>がある。
監督と主演女優・イランの女性と、その隣国アフガニスタンの女性。奇しくも2人とも、撮影時、22歳。映画『午後の五時』の輝きは、2人の22歳のアジア女性の一期一会の出会いから生まれた、もう二度とない貴重な瞬間の記録でもある。

 監督は、サミラ・マフマルバフ。世界の映画界ですでに良く知られた若き女性監督である。『パンと植木鉢』や『カンダハール』で知られるイランの巨匠モフセン・マフマルバフを父に持ち、幼い頃から父の現場で映画に親しんだ。14歳の時には、映画の世界で生きたいと決意して学校を辞め、父の元で映画を学んだ。そして、わずか18歳で発表した長編『りんご』をカンヌ国際映画祭に史上最年少で正式出品。以来、新作を発表するごとに国際的な注目を集めて来た、まさに映画の申し子、といえる女性である。

一方・主演女優となったのは、それまで映画を観たことさえなかったアフガン女性アゲレ・レザイ。夫はパキスタンヘ行って行方不明になったままだ。女子学校で教師として職を得て、3人の子供を育てている。映画を知らない人が多く、また知っていたとしてもインド映画のように女性がセクシーな衣裳で歌い踊るというイメージがほとんどのアフガニスタンで、若い女性を主人公に得るのは、きわめて難しい。そのキャスティングの困難さは、サミラの妹ハナの長編ドキュメンタリー『ハナのアフガンノート』に見事に描かれているが、今回の主人公アゲレも、当初は出演をためらった。しかし、サミラがアフガン女性について世界に伝えたいと願うメッセージの真剣さに共感するとともに、自分自身も映画で何かを伝えたいという思いからついに出演を承諾した。

『午後の五時』というタイトル、スペインの詩人ガルシア・ロルカの詩の有名な一節からとられている。劇中で、ロルカの詩はサミラの創造力によって新しい詩となって登場するが、その詩に共振するように映画には死のイメージが溢れている。しかし、アフガンの現実を映すかのような悲劇と、同時に女性たちの希望が強くあらわされる。「大統領になりたい」「大統領になって戦争をなくしたい」という女性たちの夢。近親者の男性以外とは外出もできなかったアフガニスタンで、詩人とともに自転車の二人乗りをする胸のときめき。フランス兵士と片言の英語で会話し、まだ見ぬ国の指導者について尋ねる好奇心。彼女達の希望がまばゆく輝くほど、「ただ死だけがある……」ラストの悲しみが胸を打つのである。

『午後の五時』は広くアジアの女性に共感しうるメッセージを持っている。日本でも女性に参政権が与えられたのはわずか数十年前のこと。女性たちはつねに伝統的・保守的倫理観の壁に囲まれている。そして「戦争」という極限は、いつも弱者をもっとも過酷な状況におく。「国のリーダーになり戦争をなくしたい」「ひろく世界を知りたい」というアフガン女性の希求は、おそらくはどの国の女性にとっても我が事のように強く響くに違いない。

脚本は、サミラとその父モフセンの共同執筆。豊かな詩情とアフガンの過酷な現実を、美しいイマジネーションで捉えた撮影監督は『りんご』から『セプテンバー11』までサミラの全作品を担当している名手エブラヒム・ガフーリ。『午後の五時』は2003年5月のカンヌでワールド・プレミアされ、サミラは『ブラックボード 背負う人』に続いて審査員賞の栄冠に輝いた。

ストーリー



長い戦争によって、そして女性の就学や就労を禁止したタリバン政権によって、傷つけられてきたアフガン女性の中に今、希望が生まれようとしていた。ノクレは、女性が学問をすることは神への冒涜と信じている保守的な父親に内緒で学校へと通っている。彼女には夢がある。「アフガニスタンの大統領になって、戦争をなくしたい」——しかし、それはあまりにも遠い夢だった。 ある日、ノクレは難民だった詩人の青年と出会う。同じ夢を持つ同級生の死。餓死寸前の兄嫁の幼な子。過酷な現実を前にくじけそうになる気持ちを、青年に励まされながら、彼女は「自由」へと漕ぎ出そうとするが……。

スタッフ

監督:サミラ・マフマルバフ
脚本:サミラ・マフマルバフ、モフセン・マフマルバフ
撮影:エブラヒム・ガフーリ
音楽:モハマド・レザ・ダルヴィシ(アフガン伝統音楽に基づく)
編集:モフマン・マフマルバフ
配給:東京テアトル
宣伝:ムヴィオラ

キャスト

アゲレ・レザイ
アブドルガニ・ヨセフラジー
ラジ・モヘビ
マルズィエ・アミリ

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