原題:Lost in Translation

2003年10月3日全米初公開

2003年/アメリカ・日本/102分/ビスタサイズ/SRD 提供:東北新社/アーティスト・フィルム/フジテレビジョン 配給:東北新社

2004年12月03日よりDVD発売開始 2004年4月17日よりシネマライズにて公開 2004年12月03日よりビデオレンタル開始

公開初日 2004/04/17

配給会社名 0051

解説


『ヴァージン・スーサイズ』で鮮烈な監督デビューを飾ったソフィア・コッポラ。そのリリカルな感性がさらに際立つ待望の第2作目が『ロスト・イン・トランスレーション』である。違う文化、違う言葉、とりわけ無国籍都市として不思議な変貌をくり返す東京に放りだされたハリウッドの俳優、ボブ・ハリスと若いアメリカ人女性スカーレットの出会い。ともに、言い知れぬ不安と孤独感にさいなまれながら、年齢も性別も超えて、2人の魂は溶けあっていく……。
 事の発端は、20代のソフィアが東京を訪れた瞬間から。数年の間に6〜7回と、頻繁に来日した彼女は日本に、とりわけ東京という街にインスパイアーされて、「撮りたい!」と思い、脚本の執筆を始めた。そびえ立つ高級ホテルの窓から一望する東京の街は、彼女に時として疎外感を与え不安をかき立て、また、外に出れば、空を埋め尽くすかのように所狭しとまばたく極彩色のネオンや、薄暗い密室空間のカラオケ・ルームや、パチンコ屋が、無国籍ムードをあおるばかり。とりわけ、ハリウッド・スターの広告は、たとえばブラッド・ピットの頭が浮かんでる自動販売機などに奇妙さを感じたという。
 本作は、感受性豊かなソフィアならではの視点で描かれた、いわば“ソフィア・コッポラの東京物語”といえる。彼女が初めて目にして興味惹かれたもの、奇妙に感じたものを背景に、そこを訪れた人々の心の彷徨を、ブラット・ピットならぬハリウッド俳優のボブ・ハリスと、ソフィアの分身であるシャーロットを主人公に綴っている。そして、そのていねいな心理描写は、なんの関係もないと思っていた人との束の間の出会いが貴重な時間へと変わり、永遠に心に残る思い出を生みだすという、偶然性の妙と、得も言われぬ幸福感をはらんでいる。
 もちろん、思い入れたっぷりの脚本の映像化は、こだわりの連続。まずは、オール東京ロケを決行し、スタッフも90パーセントが日本人という徹底ぶりだ。しかも、「スナップ・ショットを撮るような、インフォーマルな感覚をめざし」、主人公たちが街を歩くシーンは持ち運びが簡単にできる小型カメラを用い、時にゲリラ的に撮影が行われている。さらに「ロマンチックな雰囲気をだしたい」と願い、ハンディなビデオ撮影をあえて拒否し、フィルム撮影にこだわり続けてもいる。その効果は絶大で、日頃見慣れているはずの日本人にとってさえ、東京の風景に旅情的なニュアンスが漂ってメランコリックな気分に。 そして、ソフィアのこだわりに応えて繊細な演技と絶妙なコンビネーションを披露したのは、ボブ役のビリ・マーレイとシャーロットに扮したスカーレット・ヨハンスン。ビルに関しては、脚本が完成した段階で「ビルに演じて欲しい」というソフィアの熱望が実現。
いつもスタッフに囲まれて暮すスターの日常から切り離され、突然、迷子になったような中年男の不安と戸惑いをにじませる存在感は秀逸だ。『チャーリーズ・エンジェル』(00年)などではユーモラスな存在感を披露しつつ、『天才マックスの世界』ではペーソスを漂わせた繊細さもアピール。本作では、さらに孤独を倍加させた演技で、その多彩なキャラクター・アプローチは、まさに名優の域に達しているといえる。そして、そんなベテランに一歩も引けを取らずにうつろう女心を自然な演技でかもし出した19才(!)のスカーレットの才能には、誰もが驚かされるだろう。絶賛された『ゴーストワールド』(00年)の透明感漂う美少女からさらに進化し、若さ特有の将来への不安や期待をはかなく現すいっぽうで、時に成熟した女性の魅力を発さんする姿は、魅了されるばかり。
 このほか、シャーロットの夫でフォトグラファーを演じているのは、『ヘヴン』(02年)でも個性的な演技が評価されているジョヴァンニ・リビシ。ソフィアとは『ヴァージン・スーサイズ』のナレーションを担当して以来の付きあいだ。友人といえば、ソフィアが実際に来日した時に、カラオケ初体験させたチャーリー・ブラウンというニックネームの友人をはじめ、ファッション・デザイナーとしても活躍するソフィアだけに、日本のファッション関係の友人たちも数多く出演している。
 ソフィアの映画では、ムードやトーンを設定するために、音楽が重要な鍵を握っている。今回は、バンド“エール”のドラムス担当のブライアン・レイツェルによるコンピレーション『東京ドリーム・ポップ』の中から数曲が選ばれたほか、カラオケのシーンでは、ロキシー・ミュージックでおなじみの『MoreThan This』や『NoBody Does It Better』などが歌われている。
 ちなみに、繊細な脚本にていねいな演出、そしてキャストの巧みな演技。この映画の3大要素をクリアした本作は、ゴールデン・グローブ賞のミュージカル・コメディ部門で作品賞を受賞したばかりか、ソフィア・コッポラ監督が脚本賞、ビリ・マーレイが主演男優賞を獲得し、アカデミーでもノミネーションは確実視されている。

ストーリー



 ハリウッド・スターのボブ・ハリス(ビル・マーレイ)は、ウィスキーのコマーシャルの撮影のために、ひとりで東京へやってきた。ホテルに向かうリムジンの窓から見える風景は、原色のネオンが所狭しとまたたき、なぜか少しだけ不安にさせる。ホテルのロビーで彼を出迎えた日本人スタッフたちは、次々にプレゼントを渡して歓待してくれる。ボブはうれしさと同時に、違和感を覚えて、またも不安が胸をよぎる。そして、その不安な心をさらにかき立てるように、渡されたのが妻からのファクシミリ。息子の誕生日の不在を責める内容に、心がちくちくと痛むのだった。
 眠れない夜。時差ボケのせいか、見知らぬ街への期待と不安のせいか。はたまた最近、ぎくしゃくしだした結婚生活への危機感のせいか。ベッドを抜け出して、ホテルのバー・ラウンジでグラスを傾けるは、外人歌手の歌声も耳に入らず、ひたすら物思いにふけるばかりだった。
 いっぽう、同じホテルにもうひとりのアメリカ人が滞在していた。フォトグラファーの夫(ジョバンニ・リビージ))の仕事に同行してきた若妻のシャーロット(スカーレット・ヨハンスン)。夫を送りだした後の彼女は、言い知れぬ孤独と不安にさいなまれていた。
忙しい仕事に疲れてぐっすりと眠る夫の隣りで、シャーロットもまた眠れない夜を過しているのだった。
 長い夜を過したボブは、翌朝、エレベーターに乗りあわせたシャーロットに目を留める。彼女のさりげない笑顔に、ちょっぴり心が救われる思いだった。しかし、コマーシャルの撮影スタジオに入れば、それも束の間。ディレクターは身振り手振りでシーンの説明を詳しく言っているようだが、通訳は「振り向いて、カメラを見て下さい」とごく短くしか訳さない。コミュニケーションのとれない人々に囲まれて、ボブはますますナーヴァスになっていく。
 同じ頃、地下鉄で向かった渋谷の街中で、シャーロットも疎外感にさいなまれていた。
腕を組みながら大声で話す若いカップルたち、読経の流れる寺院……。人々の喧騒に包まれても、静寂の世界にいても、淋しさはつのるばかり。ホテルへ帰ってアメリカの友人に思わず電話をするが、まったく違う時間の流れを感じてさらに孤独が増すだけ。知らずしらずにこぼれる涙をぬぐいながら、シャーロットはそっと受話器を置いた。
 相変わらず、言葉の通じないスタッフに囲まれるスタジオでささくれ立った心をなだめるためにバー・ラウンジにいったボブは、エレベーターで会った女性の姿をみつけた。そして、ボブの視線に気がついた彼女から、1杯のカクテルが贈られてきた。おたがいの存在を意識しはじめた2人は、翌日の夜、バーのカウンターに並んで座っていた。
「なぜ東京に?」
「いくつかの理由で。妻から逃れるために。息子の誕生日を忘れてしまったし。200万ドルのギャラでウィスキーのCMに出演するため。CMより芝居に出るべきだが……。君はなぜここに?」
「カメラマンの夫の撮影が東京であって。ヒマだから着いてきたの。結婚して2年目」
「僕は25年」
「眠れないの」
「僕もだ」
 たがいに同じ心の揺れを感じ取った2人は、急速にうち溶けていく。シャーロットの友人のパーティに誘われて出かけるボブ。カタコトの英語を話す若者たちとの会話に酔い、カラオケでピンクのウィッグをつけて歌うシャーロットに魅入る。遊び疲れて帰るタクシーのなかで眠ってしまったシャーロットを抱きかかえてベッドに寝かせたボブは、そっとドアを閉めて自分の部屋へと帰るのだった。 ボブは、コマーシャルの撮影が終了したが、急きょ、テレビ出演の話しが舞い込み滞在を延ばすことになった。またしても、眠れないホテルでの夜が待ち受けている。しかし、いまはシャーロットがいる。その安心感は、シャーロットも同じく感じていた。2人はスシ屋やシャブシャブ屋でランチを共にし、ホテルの部屋で古い映画を見る。いっしょに過す時間にかわす会話は短くても、いままで誰にも話せなかった本音の不安や悩み。胸のなかにしまい込んだわだかまりが溶けていくようだった。孤独感を共有した2人は、いまや誰よりもわかりあえる絆さえ感じていた。
 しかし、ボブは明日、帰国する。出会いのバー・ラウンジで見つめあう2人。
「帰りたくない」
「それじゃ、いっしょに残って」
 そういって手を握りあうが、それでもいつものように、エレベーターに乗って、別々のフロアのボタンを押すしかないのだ。“おやすみ”の軽いキスをして……。

スタッフ

監督・脚本:ソフィア・コッポラ
音楽プロデューサー:ブライアン・リエトゼル
衣装デザイナー:ナンシー・スタイナー
プロダクション・デザイナー:アン・ロス、K・K・バレット
編集:サラ・フラック
撮影:ランス・アコード
ライン・プロデューサー:カラム・グリーン
アソシエイト・プロデューサー:ミッチ・グレイザー
エグゼクティブ・プロデューサー:フランシス・フォード・コッポラ、フレッド・ロス
プロデューサー:ロス・カッツ、ソフィア・コッポラ
フォーカス・フィーチャーズ提供
アメリカン・ゾエトロープ、エレメンタル・フィルムズ製作

キャスト

ビル・マーレイ
スカーレット・ヨハンソン
ジョバンニ・リビシ
アンナ・ファリス
林 文浩

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