みんな夕焼けみてた、宇宙のはじっこで。

2004年カンヌ国際映画祭監督週間オープニング作品

2003年/日本/143分/カラー/ヨーロピアン・ヴィスタ/ドルビーSRD 配給:クロックワークス、レントラックジャパン

2005年02月25日よりビデオレンタル開始 2005年02月25日よりDVDリリース 2004年7月17日よりシネマライズにてロードショー

(C)2003「茶の味」製作委員会

公開初日 2004/07/17

配給会社名 0033/0350

解説



鮮烈なデビュー作『鮫肌男と桃尻女』(1999)、つづく『PARTY7』(2000)で邦画の新時代を切り開いた石井克人が四年の歳月を経て、再びスクリーンに帰ってきた。若いエネルギーを爆発させた前二作とは対照的に、のほほんとしてとぼけた味わいの最新作『茶の味』は、映像作家・石井克人の新たな挑戦である。満開の桜が咲き誇り、青々とした麦畑に春風が吹き抜け、美しく心の和む山間の自然を背景に描かれる、奇妙でそれでいて抱きしめたいくらい愛しい「春野家」のハートフルな物語。まるで大和絵のような情緒と、軋みを立てる現代文明の小さな不協和音。「ニッポンの原風景」のなかにときおり放たれるCG映像は、これまでの石井ワールドとの接点を垣間見せながら、あくまで「和」の調和のなかで心に溶け込んでいく。のどかな青空にぽっかり浮かんだ巨大な「?」マークのようにフワフワした映像世界は、やがて森羅万象への愛とやさしさで観客をあたたかく包みこみ、ピースフルな充足感へと導いていく。
山間の小さな町に住む春野家の、家族のそれぞれは皆、春霞のような小さなモヤモヤを心に抱えている。物語のやさしいトーンにふさわしい和久井映見のナレーションが映画の冒頭で、一家の長男、春野一の恋の悩みを語る。
「片思いの女の子が転校してしまった。告白どころか一度も声をかわしたことさえなかったことを、一は後悔していた。」
そして一は、新しい転校生アオイにまたもや一目惚れ。恋の悩みはつきない。
小学校に入学したばかりの妹、春野幸子の悩みは、ときどき巨大な自分の分身が勝手に出現し、学校の校庭や、家の庭先で自分のことをじっと見下ろしていることだった。
「一体いつになったらあの大きな自分が目の前から消えてくれるのか。」
もしかしたら鉄棒で逆上がりができるようになることが解決への糸口なのかも、と幸子は考える。
この二人を軸に描かれていく春野家の人々。子育ても一段落した妻の美子は再開したアニメーターの仕事に没頭し、他のことは上の空。一方、催眠治療士である夫のノブオは平凡な日々の生活に退屈し、夫婦間の微妙なミゾも気にかかっている。美子の弟、スタジオミキサーのアヤノは、いまだに失恋を引きずっている。ノブオの弟、漫画家の轟木は本業に身が入らず、自分への誕生日プレゼントとして自主制作CDを作ることで現実逃避。それぞれの小さな葛藤が穏やかに収束していくなかで、家族をやさしく見守るのは、引退したアニメーターであった春野家の祖父、アキラおじいである。彼が画帳に遺した「家族の風景」は、みなで眺める神々しい夕焼けとオーバーラップし、バラバラに生きているかのような家族を共通の想いでつないでゆく。宇宙のはじっこの縁側で、茶でもすすりながらしみじみと思うこと。それは、こんな瞬間が永遠につづいて欲しいという「祈り」ともつかない「ピースなキモチ」。石井克人の世界が一瞬にしてひろがってゆく。
「誰もが誰にも相談できない、小さなモヤモヤを抱えて生きているけど、それぞれのタイミングで時間が勝手に間題を解決してくれる。」とは撮影稿の冒頭に記された石井監督の言葉である。『茶の味』は、ゆるやかに流れていく自然のなかで描かれる人々の営みを通して、ライフタイムの普遍的リアリティを表現しようとする野心的試みでもある。
小学校の校庭を練りまわす暴走族まがいのライダーや、地元ヤクザ、アニメのコスプレイヤー、浮気をばらされて突如「キレる」漫画家の女性アシスタントなどなど、従来の石井ワールド的「ユーモラスな刺激」も健在で、そうした要素は戯画化された現代日本のリアリティの一部として、物語の必要不可欠なディテールを構成している。
巨大な分身の出現に悩む小学生・幸子を演じる坂野真弥は、本作が本格的な映画デビュー。
ぼんやりと物思いにふけっているような幸子の存在感が、春という季節が持つアンニュイなトーンとぴったりと重なり、劇中ずっと無気力だった幸子が見せる最初で最後の笑顔はイノセントに光り輝く。恋多き一役の佐藤貴広は、思春期の多感な高校一年生をナチュラルに演じ、監督自身の分身ともいえるキャラクターとして、また万人が持つ。恥ずかしい季節の記憶”を思い起こさせ、しみじみとした共感を呼ぶ。
二人の主役たちをささえるのは、まず彼らの父母役に、円熟してますます役者としての華を感じさせる手塚理美と三浦友和。また、前二作にも出演しているアヤノ役・浅野忠信、一シーンのみの出演ながらアヤノを“振った”元恋人役が印象的な中嶋朋子、一が一目惚れしてしまう転校生・アオイ役の”女子高生のカリスマ”土屋アンナ、特殊メイクで老け役に挑んだアキラ役・我修院達也といったキャストが脇をしっかりと固めている。他にも寺島進、武田真治、加瀬亮、岡田義徳ら個性派俳優が物語にアクセントを加え、漫画家役のCMディレクター・轟木一騎、舞踏家の森山開次、『新世紀エヴァンゲリオン』の監督・庵野秀明、構成作家の堀部圭亮など、多彩なゲスト出演者も、クロスオーバーな人脈を持つ石井監督ならではのキャステイングである。
スタッフ陣は、撮影・松島孝助、照明・木村太朗、美術・都築雄二、録音・森浩てスタイリスト・宇都宮いく子ら石井組のレギュラーメンバーが栃木・茂木町に建てられたオープンセットの春野家を中心に、新しい次元に進んだ「石井ワールド」の世界観を創り上げた。
音楽は日本が世界に誇るダブバンド、土生“TICO”剛率いる「リトルテンポ」。スティル・パン、ペダルスティールギター等様々な楽器を交えながら、『茶の味』テーマのメロディを重層的に展開してゆく。また、エンデイングテーマは、土生プロデュース「あたいの涙」(2002)でアルバムデビューした藤田陽子が作詞とヴォーカルを担当し、たおやかな和製ラヴァーズロックを聞かせる。
この『茶の味』は映像作家である石井克人が、前二作で培ったスタッフ・キャスト、そして自身の演出力の成熟によって切り開いた新たな地平であり、映画監督としての“第二のデビュー”ともいえるであろう。
なお、この作品は二〇〇四年カンヌ国際映画祭監督週間のオープニング作品として正式出品が決定した。

ストーリー



山間の小さな町に住む春野家の人々は、春霞のような小さなモヤモヤを心に抱えている。
長男の一(佐藤貴広)は片思いの女の子が転校してしまったショックでうちひしがれていた。後悔の念を乗せ、一の妄想なのか電車が走り去っていく。告白どころか、一度も声をかわしたことさえなかったのだ。もっとも声をかける勇気なんて初めからなかったけど、そう思うとなおさら自分のふがいなさを後悔する日々。
 一方、小学校に人学したばかりの妹、春野幸子(坂野真弥)の悩みは、ときどき巨大な自分の分身が勝手に出現し、家の庭先や、学校の校庭で自分のことをじっと見下ろしていることだった。「一体いつになったらあの大きな白分が目の前から消えてくれるのだろう。」誰にも言えない小さな葛藤が幸子を憂鬱にさせる。
 子育ても一段落した母の美子(手塚理美)は再開したアニメーターの仕事に没頭し、他のことは上の空。引退したアニメーターであり春野家の祖父、アキラおじい(我修院達也)の指導のもと、日夜アニメ『スーパーBlG』のキャラクターポーズ研究に余念がない。催眠治療士である父のノブオ(三浦友和)はアキラおじいと美子が自分にわからない世界で仲良くしているのが面白くなく、夫婦間に微妙なミゾを感じている。
ある風の強い日、美子の弟、アヤノ(浅野忠信)が実家である春野家に帰省する。東京でスタジオミキサーをやっているアヤノは、今度こそ自分を振った元恋人、寺子アキラ(中嶋朋子)のところに行って、「結婚おめでとう。」と一言、伝えたいのだ。長い橋の向こう岸に彼女が夫の実家を手伝っている八百屋があるのだが、どうしても橋を渡れない。すごすごと春野家に戻るアヤノ。

スタッフ

監督・脚本・監督・編集:石井克人
エグゼクティブ・プロデューサー:飯泉宏之
プロデューサー:滝田和人、和田倉和利
ラインプロデューサー:鶴賀谷公彦
撮影:松島孝助
照明:木村太郎
美術;都築雄二
録音:森浩一
スタイリスト:宇都宮いく子
音楽:リトルテンポ
音楽プロデューサー:緑川徹
音楽監督:ANIKI
VFXプロデューサー:石井教雄
CGディレクター:林田宏之
キャスティング:園田真吾、千葉直人
スケジュール管理:片島章三
助監督:志賀研介
振付:香瑠鼓
宣伝アートディレクター:関口修男
宣伝写真:若木信吾、関めぐみ
パラパラアニメ作画:平田敏夫
スーパーBIGアニメーションディレクター・
キャラクターデザイン・演出・作画・監督:小池健
アニメーションプロデューサ:丸山正雄、斎藤優一郎
アニメーション制作:マッドハウス

主題歌「茶の味」
作詞:藤田陽子
作曲:土生“TICO”剛
演奏:リトルテンポ&藤田陽子

「山よ」
作詞:石井克人
作曲:石井克人・櫻井映子
編曲:櫻井映子
うた:我修院達也&轟木一騎
コーラス:デューク・エイセス
MIX:栄田全晃

キャスト

坂野真弥
佐藤貴広

浅野忠信
手塚理美
我修院達也
土屋アンナ
中島朋子

三浦友和

轟木一騎
森山開次
武田真治
寺島進
加瀬亮
水橋研二
岡田義徳
庵野秀明
堀部圭亮

ナレーション:和久井映見

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