原題:Assasination of Richard Nixon

2004年/アメリカ/1時間47分 配給:ワイズポリシー、アートポート

2006年01月27日よりDVDリリース 2005年6月11日、テアトルタイムズスクエア、シネセゾン渋谷、銀座テアトルシネマ他にてロードショー

公開初日 2005/06/11

配給会社名 0043/0014

解説


《9・11》事件を予見した衝撃の知られざる実話の映画化が登場

1974年2月。ひとりの男がワシントンのバルチモア国際空港に降り立った。彼はある強い決意を胸に秘めていた。それは、民間機をハイジャックし、ワシントンに向かい、ホワイトハウスめがけ撃墜する。そして当時ウォーターゲート事件の只中に居た大統領、リチャード・ニクソンを暗殺すること……。
『ミスティック・リバー』でアカデミー主演男優賞に輝いた名優ショーン・ペンが、歴史の中からは葬り去られ、忘れ去られてしまった実際の事件を取り上げた、大胆な衝撃作に挑んでみせた!

主人公サム・ビックは平凡なセールスマンだった。ボスの期待に応えようと、懸命に営業のテクニックを磨くサム。営業成績が上がれば、当然サラリーも増える。それもこれも、すべては一度崩壊した自分の家庭を再生するためだった。しかし生来の不器用さが災いして、思うように業績は上げられない。ボスから与えられたデール・カーネギーの自己啓発テープの声と、連日テレビの画面から放出されるウォーターゲート事件のニュースが、まるでサブリミナルの様に彼の肉体に侵入し、精神にダメージを与え始める。妻に誓った家庭の再生は、焦れば焦るほど、どんどん遠のいていく。追い詰められたサムはテレビ画面のニクソン大統領を見つめる。アメリカ国民に自分を売り込み、大統領選で再選を果たしながらも、ウォーターゲート事件を起こした彼こそは、純粋なアメリカの夢をふみにじった男に思えたからだ。そして、彼はニクソン暗殺の決意を秘め、目的地へと飛び立とうとしていた……。
民間機をハイジャックしてホワイトハウスに墜落させる、というこの映画の大統領暗殺計画は、2001年の《9・11》事件そのままの筋書きだ。まるであの事件を予見していたかのように、監督のニルス・ミュラー、そしてショーン・ペンによってその2年前から企画が温められてきた。《9・11》以前でさえもリスクの大きいこの企画に、さらにレオナルド・ディカプリオ、アレクサンダー・ペインが製作に参加を表明した事で、あまりにも衝撃的なこの作品は完成に漕ぎ着けたのである。

家庭の温もりとレナード・バーンスタインを愛する男。
ショーン・ペンの圧倒的な演技力が大きな感動を喚ぶ。

『ミスティック・リバー』では娘を失った父親の混乱を見事に演じてアカデミー主演男優賞に輝いたショーン・ペン。同じ年に公開された『21グラム』での好演も記憶に新しく、今やハリウッドのナンバーワン演技派男優。そんな彼がオスカー受賞後、初めて取り組んだのが、今回のサム・ビック役。実在した男の物語を再現した彼は「これまでで最も大変な役作り」とコメントする。妻から定職に就く事を条件に別居を強いられ、週一度の子供との面会もわずかな時間だけ、しかも軒先でしか希望は叶わない。家族の再生だけを信じて生きている男に、その希望が絶たれてしまったら…。
当時のサム・ビック本人を取り巻く環境を入念に再現しながらも、ショーン・ペンの深い洞察力に依って導きだされたサム・ビック像は、凄まじいほどのリアリティーで観る者の心を揺るがす。その緻密さと繊細さに於いては、『ミスティック・リバー』や『21グラム』、『lam Sam/アイ・アム・サム』さえも凌ぐ名演で新たな感動を生み出した。

レオナルド・ディカプリオ、アルフォンソ・キュアロン、アレクサンダー・ペイン。今をときめく大物たちがエールを送った大型監督ニルス・ミュラーのデビュー作

この作品の企画がスタートしたのは99年のこと。アメリカの歴史に興味を持つ
UCLA出身の新人監督ニルス・ミュラーは、サム・ビックの暗殺未遂事件に興味を持ち、彼の実話にインスパイアされた脚本を完成させた。主人公のキャストは最初からショーン・ペンと決まっていたが、政治的な内容を含んだ作品のため、資金繰りが思うように進まない。そんな彼を支えたのが、ハリウッドを代表する大スター、レオナルド・ディカプリオや『サイドウェイ』で今年のアカデミー賞をにぎわせたアレクサンダー・ペインといった才人たちだ。脚本に共感したふたりは製作総指揮となって、ミュラーをバックアップ。やがて、『天国の口、終りの楽園。』で大成功を収めたアルフォンソ・キュアロン率いるアンへ口・プロダクションズが製作を買って出た。企画がスタートして、完成までには数年を要したが、先行きが不透明な時代に生きる平凡な男の心の葛藤を克明に映し出したこの作品は、多くの大物映画人たちの挑戦的な夢と新たな映画作りへの夢がひとつとなり、遂に完成に至ったのだ。
それに応える形となったミュラーの演出はカンヌ国際映画祭でも高い評価を受
け、初期のマーティン・スコセッシやジョン・カサヴェテスなど70年代の監督が持っていた感覚を現代的に変容させる事が出来る希有の才能だと評された。

説得力ある演技でうならせる。ナオミ・ワッツ、ドン・チードルといった実力派俳優たちの競演。

サム役のショーン・ペンの名演をサポートする豪華な共演陣の演技も、この映画の大きな見どころである。サムの別居中の妻マリー役で複雑な女心を演じてみせるのが、ペンとの共演作『21グラム』でアカデミー主演女優賞候補となったナオミ・ワッツ。サムが心から信頼を寄せる修理工の友人ボニーには大ヒット作『オーシャンズ12』の実力派ドン・チードル。彼は最新作「ホテル・ルワンダ“Hotel Rwanda”」でもアカデミー初め各賞主演男優賞候補に挙げられている。サムにセールスマンの心を叩き込もうとするボスのジャック役には『スター・ウォーズエピソード2』のジャック・トンプソン。サムの兄でタイヤ店のオーナーのジュリアスには『モンテ・クリスト』のマイケル・ウィンコットがそれぞれ扮し、役に深い説得力をもたらしている。
撮影監督は『スリーピー・ホロー』でオスカー候補となったエマニュエル・ルベッキ、プロダクション・デザインは『恋は嵐のように』のレスター・コーエン、編集は『プレッジ』のジェイ・キャシディ、衣裳デザインは『レインメーカー』のアジー・ゲラード・ロジャースが担当している。

ストーリー

1974年2月22日。ワシントン、バルチモア国際空港。そこには、ある重大な決意を秘めた男が立っていた。彼は敬愛するアメリカの音楽家、レナード・バーンスタインに宛てたテープで、自分の正直な心のつぶやきを語っていた。

「私の名はサム・ピック。アメリカという名の砂漠に埋もれた1粒の砂のような存在です。でも、私に運さえ味方してくれたら、ある計画を実行してこの国の権力者に思い知らせてやります」

1年前。44歳のサム・ビックは事務機具のセールスマンになったばかりだ。これまで職を転々とし、兄ジュリアス(マイケル・ウィンコット)の経営するタイヤ会社でも働いていたが、うまくいかず、新しい就職口を見つけたのだ、自信あふれた仕事場のボス、ジャック(ジャック・トンプソン)は、サムにカーネギーが著わした自己啓発のカセットテープ『道は開かれる』を渡し、有能なセールスマンになるためのコツを伝授する。
そんなボスは、アメリカの大統領ニクソンを称して「世界一の商売人」と云った。それというのも、ニクソンが体のいい営業文句で2億人の国民にまんまと自分を売りつけ、2度も大統領の座を手にいれたからだ。ボスの力強い言葉に駆りたてられ、新しい仕事での成功を夢みるサムだった。
彼には1年前に別居した妻マリー(ナオミ・ワッツ)と3人の子供がいた。彼女は子供たちとの週一回の面会を認めていたが、家のドアから中に夫を入れる事は拒絶していた。従ってサムは玄関の軒先で三人の子供たちと会う事になる。この日もサムはマリーの元を訪ね、子供たちの写真をカメラに収めようとするが、シャッターを押した瞬間にマリーに静止されてしまう。出来あがった写真には、アンバランスな構図の中に、子供たちの姿が辛うじて収められていた。
一方、マリーは生活のため、ミニスカートをはいて、カクテルバーで働いていたが、サムにはそれが気に入らない。まるで町の男たちに媚びを売るような格好だ。新しい職場の名刺を彼女に誇らしげに見せ、自分との復縁を持ちかけるサムだった。しかし、そんなサムにマリーはつれない態度をみせる。

「本当にこのままの状態でいいのでしょうか?ひとりの男が富を独占していま
す。アメリカン・ドリームはどこに?父や祖父のように、私はその夢をつかみたいのです」

サムはボスに言われるままに、セールスの仕事をこなしていた。
時には客を半分欺くような方法で、ボスは価格を決める。そんな誠意のない商売が、サムには我慢できなかった。車の機械工をしている黒人の友人ボニー(ドン・チードル)に仕事の愚痴をこぼすこともあったが、妻や息子と安定した家庭を営む温厚なポニーは彼をなだめ、なんとか、仕事を続けさせようとした。サムとボニーには未来の夢があった。スクールバスにタイヤを乗せてセールズをすることだ。サムはそれを斬新なアイディアと信じていた。
ある日、サムはボニーの家庭を訪れ、彼らの温かいもてなしを受ける。ボニーの一人息子から食事の後、おやすみのキスを求められたサムは、その子をきつく抱擁し続け、涙が自然に溢れ出てくるのを止められなかった。

「善人が大勢いるこの国は善良な国家です。でも、こんな時代では何が“善”なのでしょうか?」

仕事への不満が募るサムは、ある日、テレビに出演して現在の政治を批判するブラック・パンサーの黒人党員の力強い口調に打たれた。さっそく、彼らの事務所を訪ね、カンパの金を渡すが、党員は見知らぬ白人の訪問客にどこかそっけない態度を見せるだけだ。

家に帰り、ひとりでわびしい食事をとるサムの小さな願いは、家族の愛を取り戻すことだ。しかし、ある夜、マリーと家族がキャデラックに乗った男性と帰宅するのを目撃して、サムは大きな衝撃を受ける。さっそくサムは彼女がつとめるバーに出向くが、マリーはサムの詰問にうんざりし、ふたりの関係はさらに悪化する。会社ではボスにヒゲをそるよう命じられるサム。ボスは不器用なサムを一人前のセールスマンに成長しようと必死になっていた。

「独立心を持つことは罪なことですか?私自身のボスは私でしかない。でも、この国には今も奴隷制度が存在しているのです。従業員という名前の新しい奴隷がいます」

会社の金儲け主義に違和感を感じ続けるサムは、遂に自分の夢を現実のものにしようと決意し、ボニーとタイヤの商売を始めるため、中小企業庁の事務所に融資を頼みに行く。しかし、その審査には8週から10週間かかることを知らさせる。ボニーは黒人の自分を共同経営者にしたら、審査ではねられるだろう、とサムに言うが、サムにはボニーこそが、心から信頼できるパートナーに思えた。
会社ではボスがサムの家庭生活を詮索し始めていた。ボスは家庭を維持できない男性は優秀なセールスマンになれないと信じていたからだ。そして、サムと妻を食事に招待したいと言い出す。マリーにそのことを相談するが、サムと夫婦のふりをしてボスに会う気はないとマリーははねつける。家族への愛を断たれ、金儲けだけを優先するセールスの仕事にも失望しきったサムは、自分の純粋な人間性が傷つけられることに我慢できず遂には会社をやめてしまう。
さらに、裁判所からマリーとの一方的な婚姻関係の破棄が言い渡された。サムは必死でマリーと連絡を取ろうとするが叶わない。家族の愛情の喪失が確信に変わった時、サムは初めて声を荒げて哭くのだった。

「彼らは何さまのつもりなのでしょう。この星はどん欲な者たちが牛じっています。傲慢なやからには警告が必要です」

サムに残された唯一の希望はボニーとの店の開業だ。しかし、中小金業庁からの融資の許可は下りず、サムの手違いが原因でボニーは窃盗容疑で刑務所に入れられた。ボニーは兄の計らいで刑務所から釈放されたが、弟に激しい失望を感じた兄は彼に絶縁を言い渡した。未来へのすべての希望を断たれたサムは、遂にある決断を下す。
テレビではニクソン大統領が自分の正義を訴えていた……。

「正直者はバカを見る。それはかまわない。でも、私は黙って負ける気はありません。自信というのは王者の病です。サム・ビックは王者とは無縁の存在でした。ただ、ウソのない世界を求めただけです」

サムはバルチモア空港に居た。完璧とも思えるシミェレーションを終え、すべては計画通りに事が進むはすだった。彼は足を煩った男に成り済まし、片足にギブスをはめ、そこにピストルを装着した。これで通関も苦せず遣り過ごせる。搭乗口近くのベンチに腰掛け、彼の緊張は頂点に達していた。額から冷や汗が滲む。気持ちを落ち着かせようと天を仰ぐ。搭乗開始のアナウンスがはじまる。数人の乗客たちが列を作り始める。サムは立ち上がり呼吸を整えると、周囲に発砲しながら、一気に機内へと走り込んでいった。

サムの居た街はいつものように平静を保っていた。ボニーもマリーもボスも、いつもの日常に復帰している。彼らは、傍らのテレビ受像機が映し出している、ハイジャック未遂事件のニュースに気付かない。
サムの家の壁には、いつの日か彼自身が撮った、アンバランスの構図の子供たちの写真が貼付けてあった……。・、

スタッフ

監督:ニルス・ミューラー
脚本:ニルス・ミューラー
   ケビン・ケネディ

キャスト

サミュエル・ビック:ショーン・ペン
マリー・ビック:ナオミ・ワッツ
ボニー・シモンズ:ドン・チードル
ジャック・ジョーンズ:ジャック・トンプソン
マーチン・ジョーンズ・ブラッド・ヘンク
トム・フォード:ニック・サーシー
ジュリアス・ビック:マイケル・ウィンコット
ハロルド・マン:ミケルティ・ウィリアムソン
マエ・シモンズ:エイプリル・グレイス
受付員:リリー・ナイト
サミー・ジュニア:ジャレッド・ドランス
エレン:ジェナ・ミルトン
ジュリー:マリア・マッサ
マリーの母親:エイリーン・ライアン
ジョーイ・シモンズ:デレク・グリーン
メル・サミュエルズ:ジョー・マリネッリ
怒った運転手:ロバート・ケネス・クーパー
女性会社員:トレーシー・リン・ミッデンドーフ

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