2003年/日本/カラー/ステレオ/88分/ヴィスタサイズ/ 配給:日本出版販売

2003年01月23日よりDVDリリース 2003年12月13日より渋谷シネ・ラ・セットにてロードショー

(C)2003 日本出版販売/ケイエスエス

公開初日 2003/12/13

配給会社名 0434

解説


 人々が“未来”に“希望”という文字を重ねることが出来なくなったのは、いつの頃からでしょうか。明るい未来を予測しずらい現代において“生きること”の虚無を一番知っている層が、今の若者達かも知れません。
 フリーターや無職、その日が楽しければそれでいいと、街には刹那的に生きる若者達が急増しています。しかし、彼らが皆、現在の自分の生き方を肯定しているかというとそうとも言えません。自己の苦悩や現実とのギャップに苦しみながら、自分を変えようと必死で格闘している若者も少なくありません。
 『カミナリ走ル夏−雷光疾走ル夏−』は、そんな葛藤する青年と少女の姿を真撃に描いた次世代の青春映画です。スタイリッシュな映像と音楽、リアルなセリフで青春映画という普遍的なジャンルに“今”という時代の息吹を余すところなく刻み込みました。
 過ぎてしまった時間は取り戻すことが出来ない。たとえそれが光り輝いていようが、後悔に満ちていようが。そして未来という時間を信じられない若者は、空しく今を生きるしかない。
 バッティングセンターで働く主人公の青年・雷は毎日を惰性で生きていた。その表情や瞳は暗く、決して何も期待してはいない。雷の周りには孤独感やあきらめや狂気を秘めた人間たちが数多く登場し、彼らもまた自らの人生に満足していない。そんなどん詰まりの中で暮らす雷でも、心の中に潜む熱い何かが爆発し、暴走し始めた。そして、孤独な美少女・夏生との出会いにより、自身の青春を取り戻すことを決意する。
過去に決着をつけることは、新しい自分を生きるために不可欠なこと……。
 監督には「漂流街」「殺し屋1」など数多くの三池崇史作品の助監督としてその才能を磨き、2003年1月に「殺し屋1」の主人公・イチの高校時代を担いた「1−イチ−」で監督デビューを果たした丹野雅仁。本作が初の劇場公開作品だが、そのずば抜けた映像センスと確かな作品づくりは、今後の日本映画界で注目されること間違いない。
 脚本は、2000年、弱冠23歳にして初の劇場公開作品「19」にて監査・脚本・主演し、トロント国際映画祭など各国の映画祭で高い評価を得て、サラエボ国際映画祭で新人監督特別賞を受賞した渡辺一志。俳優としての才能も高く、今や伝説のカルトムービーとなった三池崇史監督の「ビジターQ」に出演。本作では主人公を狂ったように追跡する男・渋谷を好演。そして主人公を演じるのは「バトル・ロワイアル」「青い春」「ロボコン」「ロッカーズ」や最新作「木更津キャッツアイ〜日本シリーズ」などの話題作に次々に出演し、次世代の日本映画界を担う注目のJ-MOVIEアクター塚本高史。活躍著しい彼が本作では陰りのある寡黙な主人公・雷を抑えたトーンで演じ、今までとは全く違う顔を見せる。
 雷と心を通わすヒロイン・夏生に「リリィ・シュシュのすべて」「ピカ☆ンチ」そして「ハーケンクロイツの翼」が公開を控える注目の美少女・伴杏里。雷と青春を共にすごしたハジメ役には「ポルノスター」「ナインソウルズ」の千原浩史。また雷とバトルを操り広げる虎鉄に「殺し屋1」「青い春」のKEE。ヤクザのわし鼻には「模倣犯」「刑務所の中」「踊る大捜査線 THE MOVIE2一レインボーブリッジを封鎖せよ!」など出演作多数、名バイプレイヤー・小木茂光と、魅力溢れるキャスティングが実現。
 音楽は、THE SALINGERで活躍中のEDDIEがテーマ曲「声が響き渡れば」の提供にとどまらず、劇中の楽曲の作成と初プロデュースを行った。

ストーリー

過ぎた時間は二度と戻ってこない。
そう、あの夏はもう二度と戻ってこない。

上空を飛ぶ飛行機。
両翼を広げた、その巨大な金属の物体はどこを目指して飛んでいくのか?
見慣れた光景と聞きなれた轟音。そして何も起こらない、何も変わらない退屈な毎日…。

千葉県の、どこかの街。
暮巳雷・20歳(塚本高史)。国道沿いの寂れたバッティングセンターが彼のバイト先だ。使い古されたピッチングマシーン“巨人くん”に黙々とボールを流し込んで行く雷。その手先はひどく機械的で、全くやる気が感じられない。空虚な瞳と極端に少ない口数、そして時折見せる信じられないほどの激しい苛立ち。バッティングセンターのオーナー(塩田時敏)は、そんな雷の気性をとうにあきらめていた。「イマ、いい子、いないのよ」。

今日もバッターボックスでは常連客のヤクザ・わし鼻(小木茂光)が、意気揚揚とバットをかまえている。その脇にはセーラー服姿の女子高生・夏生(伴杏里)とヒロコ(立花彩野)。夏生とヒロコがわし鼻にまとわりつき無駄口を叩くのは、ただお金をえびるためだった。だが、夏生の瞳に時折宿る、孤独な光に気づく者はいなかった。

街角には青少年の健全な育成を呼びかける、千葉ロッテ・猿津外野手(益子和浩)の大きな看板が張り出されている。そこには「青春は直球勝負!」の文字が。MAXコーヒー色の黄色いセドリックの運転席からその看板を見上げているのは、夏にもめげず、派手な長袖シャツで決めたクールな男・渋谷(渡辺一志)。「青春は直球勝負かぁ〜。」けど直球生かすにはカーブも投げねぇとな」と、訳知り顔でつぶやく彼の手元には愛車と同じMAXコーヒーが握られていた。

翌日。バッターボックスにはあいも変わらず夏生とヒロコを伴ったわし鼻が立っている。カーブのボタンを連打するわし鼻。しかし、“巨人くん”から飛んでくるのは、彼の頭めがけた直球ばかり。遂にわし鼻が雷を打席に引っ張り込み怒鳴った。「おい、いい加減にしろよ。どこ調整してんだよ……。」ふてくされながらそれに応える雷。「うち、カーブやっていないんで」。怒り狂ったわし鼻が雷を突き飛ばした瞬間、雷の中で“何か”がはじけた!いきなりバットを掴み、わし鼻の顔に渾身の一撃を食らわせる雷。動かなくなったわし鼻に一弊をくれ、やがて無表情にバットをぶら下げたまま店を出ていゆく雷を誰も止めることは出来なかった。

店の外では渋谷がMAXコーヒーを片手に舎弟分・バッファローにうんちく話の真っ最中である。静かに渋谷の後を通過した雷は突然、渋谷の愛車・セドリックに乗り込んだ。そして彼を追って無我夢中でセドリックの助手席に滑り込んだ夏生。ナイフで刺すようにビートに乗って、セドリックは爆走する。

「ねぇ、行くとこ決めてないなら連れてってほしいところが有るの。」
海の見える一本道を走り抜けていくセドリック。丘の向こうには水平線が広がっている。今日は夏生の18歳の誕生日。もう会うことの出来ない最愛の父。その父が船で夏生の18歳の誕生日に千葉沖を通る時、汽笛を鳴らしてお祝いする…。そんな約束をずっと信じてきた夏生だった。だが、汽笛は聞こえない。あきらめようとする夏生に雷が言った。「目を閉じろ。聞こえないか」。目を閉じた夏生の耳(心の中)にほんのかすかに、汽笛の音が聞こえた…。ぶっきらぼうだが、でも確かな雷の優しさに触れ、夏生は少しづつ、閉ざしていた心を開いていく。

18歳の父親にお祝いしてもらったら、オトナになって街を出るそう話す夏生。彼女との出会いが、雷に新しい一歩を踏み出す力を与えた。

走り出す雷。彼は高校時代バッテリーを組んでいたハジメ(千原浩史)を訪ねた。3年前の千葉予選決勝戦。ピッチャーだった雷は最後のバッターを目の前にし、ハジメに出したストレートのサインを無視してカーブを投げた。その瞬間、甲子園への夢は消えたのだった。最後のバッターが、今や千葉ロッテのスター選手となった猿津だった。

ハジメは雷に硬球を渡した。使い込まれた汚れた硬球。それはあの日の硬球だった。「あいつな、今日天台球場でデーゲームや。今すぐ行ったら間にあうんちゃうか?」。

猛スピードでセドリックをぶっ飛ばす雷の瞳は、以前とは別人のように輝いていた。

「今度こそ俺は、猿津と直球で勝負するんだ!」

あの日の一球を取り戻すために、青春を取り戻すために。
今、雷は走っていく。

だが、球場を目指す雷を、愛車とそれに乗せてあった大切LPレコードを奪われ常軌を逸した渋谷が執拗に追っていた。
ボコボコにした夏生を連れて…。

スタッフ

監督:丹野雅仁
プロデューサー:前田茂司、小松俊喜
脚本:渡辺一志
撮影:田中一成
照明:栗田崇
音楽:EDDIE
衣装:宮田弘子
エンディングテーマソング:声が響き渡れば/THE SALINGER

キャスト

塚本高志
伴杏里
千原浩史
KEE
渡辺一志
塩田時敏
立花彩野
松本梨香
EDDIE
小木茂光

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