原題:Father and Son

2003年カンヌ国際映画祭批評家連盟賞受賞 2003年東京フィルメックス2003特別招待作品::http://www.filmex.net/ 2004年コペンハーゲン・シンガポール・イスタンブール・香港      キョーテボリ・ブエノスアイレス各国国際映画祭正式出品

2003年/独・露・仏・伊・蘭共同制作/84分/1:1.66 配給:パンドラ

2006年4月29日(土)よりユーロスペースにてレイトショー!!(連日21:00より)

公開初日 2006/04/29

配給会社名 0063

解説


重厚な建物の問の石畳を路面電車が走り、丈高い門扉の家々の向こうに、人々の暮らしが数百年に渡りひっそりと息づいている静かな街の一画に暮らす父と息子。映画はこの二人を中心に展開してゆく。彼らが二人だけの世界で生きるようになって何年になるのだろうか。二人の関係は父と息子というよりも、兄弟のようにも、時には同性のカップルのようにもみえる。父親、は軍隊を退役し、いい職を求めていた。軍人養成学校に通う息子は、日頃から理由のわからない悪夢に苛まれていた。父に庇護されながらも、だが、息子は思春期を迎えやがて父からの自立を成し遂げてゆく…

『ファザー、サン』は、人間関係に焦点をあてた三部作のうちの第二作目である。第一作目の『マザー、サン』と同様、場所も時代も架空で不明、すなわち、時間軸と空間軸を無視した構成である。例えば、軍隊の制服は最新のものだが、女性の服装や髪型は40年代、もしくは50年代や60年代頃のものでもあったり、北に位置する古い街の屋根や狭い道などが、太陽に照らされている。そのように不自然な仔まいの街でありながら、部屋には現代のどこにでも見られるような家具が置かれ、日常生活が営まれている様子だ。テーブル、ベッド、花瓶…。誰かがここで暮らしているのはうかがわれるのだが、生活のにおいがみえない。しかし、映画の中で語られる<戦争>は、父のそれはアフガン、息子のそれはチェチェンであり、実際にロシアがペレストロイカ後に直面している戦争なのである。

ソクーロフは、世界中の映画界を驚愕させた『エルミタージュ幻想』の後に、この映画をっくった。役者には多くの他作品同様、素人を起用している。会話が増え、音楽が多用されているという点では、多少なりとも、これまでのソクーロフ作品とは異なる側面も見られるが、死の影が漂い、奇妙に不釣合いな画面など、〈不調和の調和〉の醸し出す美学は健在である。特に、息子の体なのだろう、肌色の画面が動き、黒い穴が奥深く見えてくる冒頭には、ぐっとひきこまれてしまう。

ソクーロフ自身は、ロシアでインタビューに答えて、「自分のことを映画で描くことに関心がない」と語っているが、どうやらそうではない。彼は家族というものに大きな関心があるのではないだろうか。それは自分の家族から派生するものであり、自らの父との関係をこの映画を通して語りたいのではないだろうか。映画の父親同様、軍人だった父との有り得なかった関係への想いが込められているとみなすのは、あながち穿ってもいないだろう。記憶にある数十年前の出来事と現代との交錯は、彼にとっては父子関係という軸で考える限り、時空を無視できることに値するのだ。また、「父の愛は苦しめること息子の愛は苦しむこと」というセリフや、レンブラントの絵画〈放蕩息子〉への言及などから考えると、本作はキリスト教をキーワードとして読み解くこともできる。宗教的背景の異なる日本の観客にとっては、生じる疑問の多い映画だが、発しようとする疑問が、ソクーロフ色に染まってしまうと、ひたすら画面に吸い寄せられてしまい、疑問を上回る陶酔感に変わってゆく。知的刺激を呼び覚まされる作品である。この見事な技に対抗できる監督は他にはいないだろう。
ソクーロフは本作完成後、「第三作目は兄弟姉妹に関する映画」だと語っている。とどのっまり、彼はロシアと家族、すなわち自分を育んだ二大要素を大きなテーマとして、常に映画作りに対している監督なのである。

『ファザー、サン』は2003年カンヌ国際映画祭に出品され、〈透明感に溢れたソクーロフの最高傑作〉と高く評価され国際批評家連盟賞を受賞した。後、2003年から2004年にかけて世界各地の国際映画祭で上映され、2004年から始まった劇場公開は、フランス・ドイツ・オーストラリア・台湾と10ヶ国以上の地域で続き、2006年に入り1月にポーランドで公開されて、いずれの国でも、〈ソクーロフの最高傑作〉と高く評価されている。
日本では2003年の東京フィルメックスで特別招待作品として上映され、劇場公開が待たれていた作品である。

ストーリー



古びた建物の最上階に、父親と息子だけの小さな家族が暮らしている。父は軍を退役した。彼は自ら進んで軍人としてのキャリアを終わらせたのではない。周りの環境によってそうせざるを得なかったのだ。軍の前線で活躍していた彼も、今や中年にさしかかり、予備役である。航空学校の学生だった頃、彼は人生最初で最後の恋愛を経験した。妻となったその女性は、ひとりの男の子を産んだ。二人はともに20歳だった。彼女は若くして亡くなったが、彼にとってこの愛は、今でも心のうちに秘めているかけがえのない幸福なのだった。息子は成長し、彼も父親のように軍隊に入ろうとしている。父親は、息子を見るたびに妻を思い起こす。彼にとって息子は愛する人との統一体であり、いまだに続く彼女への愛情と引き離して考えることはできないのだ。父親にとっては、息子のいない生活など想像もできない。また息子も父親を献身的に愛している。
彼らの愛は、ほとんど神話的な美徳とスケールにまで達している。現実の世界では起こり得ないことだ。これはある種のおとぎぱなしのようなものである。

スタッフ

監督:アレクサンドル・ソクーロフ
製作:トーマス・クフス
脚本:セルゲイ・ポテパーロフ
撮影:アレクサンドル・ブーロフ
美術:ナターリヤ・コチェルギナ
録音:セルゲイ・モシコフ
編集:セルゲイ・イワノブ
音楽:アンドレイ・シグレ

キャスト

アンドレイ・シチェティーニン(父親)
アレクセ・イ・ネイムィシェフ(息子)
アレクサンドル・ラズバシ(サーシャ)
マリーナ・ザスーヒナ(少女)
フヨードル・ラヴロフ(フヨードル)

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