原題:Orbis Pictus

1997年/スロバキア/105分/ 配給:シネカノン

2004年04月23日よりDVDリリース 2003年11月15日より銀座シネ・ラ・セットにてほか全国順次ロードショー

公開初日 2003/11/15

配給会社名 0034

解説


ようこそ、不思議の世界へ!

ヨーロッパが誇るマルティン・シュリーク。日本ではまだその名はあまり知られていないが、スロヴァキアののどかな田園風景を描き、吸い込まれるようなその美しい映像と、エキセントリックな登場人物、思いがけない魔法のような遊びの要素と、民間伝承のような趣きに彩られた世界を作る巨匠である。
 30才のヤクプは仕事も上手く行かず、共に暮らす父親にも理解されない。そんな八方ふさがりの人生に変化を求めて田舎にある祖父の廃虚同然の屋敷を訪れ、不思議な少女に出会い、さまざまな来訪者にまきこまれていくうち、すべてが<なるように>再生されていく「ガーデン」。
 バツイチで失業中のトマス。彼の人生の一大転機ともいうべき時期を彼を取り巻く日常の切なくも優しいたくさんの言葉とモノの断片で紡ぎあわせ、スロヴァキアのベストフィルム・オブ・ザ・イヤーに輝いた「私の好きなモノすべて」。
一風変わった少女テレスカが一枚の古い絵図を頼りに長いあいだ音沙汰のなかった母親を捜す旅に出る。幻想的な森を舞台にしたスロヴァキア版「不思議の国のアリス」ともいうべき「不思議の世界絵図」。
 これらの作品に共通して描かれた、人間の悲喜劇、人間の不思議さ不気味さ。そして、まだあどけなさが残る少女の無意識に香るエロス、牧歌的風景でありながらどこか妖艶にもみえる自然の奇跡ともいうべき姿をこの映像の魔術師と異名をとるマルティン・シュリークはいとも易々と掬い上げていく。そして私たちを幸せで満たしてくれる。
これはとてつもなく豪奢な大人のおとぎ話である。

不思議の世界絵図
全寮制の学校を放校処分になった風変わりな少女テレスカは、一枚の古い絵図を頼りに長いあいだ音沙汰のない母親を捜す旅に出る。幻想的な森を舞台にしたスロバキア版「不思議の国のアリス」。

ストーリー

スロバキア郊外のとある職業訓練校の一室。16歳になる少女テレスカは洋裁を学んでいたが、教師から呼び出されてもう学校を出てもよいと告げられる。そして母親宛ての手紙を渡されるが、母からは長い間音沙汰が無く、居場所もわからない。最後に立ち寄った図書室で古い絵図を見つけたテレスカは母親を捜しに首都を目指そうと決意し、こっそりそれを持ち出す。
 テレスカはまず駅にやって来ると、副駅長の一家に出会う。どうやらここで生活をしながら寂れた駅舎の管理をしているらしい。しかし列車は目の前を通り過ぎていくだけだった。この駅にはもはや列車が停まることはなく、通過する列車がコインや釘をペタンコな金属片に変えるのを見ることだけが楽しみなのだと知ったテレスカは幸運のお守りとしてそれらを受け取り、歩いて駅を後にする。
 駅で教えられた通りに丘を越えると一台のトラックが通りかかる。車に乗せてもらったテレスカに運転手の男は立派なラジカセを貰いものだと自慢げに見せ、彼女が促されて「母親はいつもいろいろな男の人の世話をしている」などと話していると車が煙を吐き出した。故障のようだ。仕方なく停車すると今度は新しいブランドものの衣類でいっぱいの荷台を開けて見せてくれる。好きなものを持っていっていいと言われたテレスカが一揃え選んでいると、横を数台の車がサイレンを鳴らしながら通りすぎた。すると男は慌てて残りの衣類にガソリンをかけ始めた。聞けばこれらの衣類もラジカセもいま車で通りすぎた彼らから「処分するように」と言われており、ものを壊せば壊すほどまた新しいものが買えるのだという。しかし何故なのか彼自身にもその理由はわからない。
 テレスカがなおも歩みを進めていくと、下半身が土の中に埋まっている老女を見つける。驚くテレスカに老女はこれは体からあらゆる痛みを取り去る方法なのだと説明した。彼女が地面から這い出るのを手伝い、老女が自分で建てたという家まで送っていくと、雨が降り出してきた。家に避難すると、壊れかけているように見えるその家にまつわる夫と11人の息子達の思い出をいろいろと話して聞かせてくれる。やがて夫を警察からかくまうために作ったという地下室から雨が浸水してきた。テレスカは安らかな表情でベッドに横たわる老女をひとり残し、居心地の悪いこの家を去る。
 さらに旅は続く。大きな川に流されたテレスカはとある村で岸に助け上げられ、自分と同じ年頃のヤクフという青年と知り合って心を通わせる。しかし彼はそこで盛大に執り行われていた結婚式の花婿で、50歳近く見える新婦の隣で浮かない顔をしていた。その後新婦が新郎の頭からふるいで粉をかけたり、参列者を新郎新婦がほうきで叩いたりという奇妙な儀式が続くなか姿の見えなくなったヤクフを探すと、彼は森の中にいた。兄が死んだために自分がその妻と子供たちの面倒を見ることになったのだと告白するヤクフにテレスカは「一緒に母親を捜しに行こう」と言うが、自分を呼ぶ声を聞いて彼は式に戻り、村の習わし通りに花嫁と二人でいかだに乗って川へ漕ぎ出して行った。
 テレスカは途中、弟のイムリシュコを訪ねることにする。とても頭の良い彼はやはり英才児教育のための施設に入れられている。元気そうな弟と久々の再会を果たした彼女は早速母について尋ねるが、ここにも半年前から姿を見せなくなったらしい。母から届いたという新しい住所が記された写真を差し出しながら「ここから出して」と頼むイムリシュコだったが、その気持ちを理解しながらも「私には無理よ」とテレスカが答えると彼は寂しそうに校舎に戻っていった。
テレスカが次に出会ったのはキャンピングカーで通りかかったエミルとマルタという夫妻だ。どうやら夫は有名なTVコメディアンのようだが、テレスカはTVを見ても何も覚えられないのでわからない。すると夫妻は彼女に同情して車で送ろうと申し出るが、いざ車に乗り込むと二人はテレスカをトルコに売ろうと口論を始め、終いには銃を取り出したマルタをエミルがナイフで刺してしまう。が、実はこれは芝居だった。呆然となるテレスカに笑い出す二人。本当は人生をやり直すために外国に行くという彼らは、この国が好きだったという旅嫌いの母のために車を停め、彼女の遺灰を撒いた。そして、別れのダンスを踊るとテレスカにも別れを告げて車に乗り込む。
 首都にだいぶ近づいてきたところでたどり着いた一軒のレストランでは会議が行われていた。裏口から調理場へ忍び込んだテレスカは片隅に初老の男性がうずくまっているのを見つけて心配するが、ドルサという名のこの男性は委員長の職にあり、会議が全員賛成に落ち着くのをここで待っているらしい。彼は父親が死んでからの苦労話をしながらお腹を空かせたテレスカのために料理を作り、食事の楽しみ方も教えてくれる。そうこうするうちに議論がまとまり、ドルサは人生で得た教訓のいくつかを彼女に与えると部下のもとに戻っていった。
 テレスカは遂に母のアパートに到着するが、部屋から出てきたのは見知らぬ男性だった。男はテレスカを部屋に招き入れるとひどい目にあったという母との生活の思い出を語り、そして母親宛ての手紙を盗み見てテレスカが自主性の欠如により放校処分になったことを知る。彼はその手紙に酒をたらして文面を読めなくすると、母親の引っ越し先を教えてテレスカを送り出す。
 テレスカは今度こそ母の住むアパートにやって来るがノックにも返事はなく、部屋の中にも姿が見当たらない。何か手がかりがないかと部屋の中を探っていると、テーブルの上のココア缶の陰から小さくなった母親が現れた。すっかり変わり果てた姿ではあるが、それでも母との再会を喜ぶテレスカ。しかし母は「子供たちを産んだせいで最低の人生だった」と冷たくあしらい、一緒に暮らそうと言うテレスカに「男はたくさん作ること」とひとつだけ忠告を与えるとその姿を消してしまう。
 ひとり取り残されたテレスカはふたたび旅に出る。何もない高い崖にたどり着いた彼女が絵図でその居場所を確認すると、そこは世界の果てだった。テレスカはこれまで絵図だけを頼りに、旅の記録のすべてをそこに書き記しながら旅を続けてきたが、もう必要ないと地面に埋めるのだった。

スタッフ

監督:マルティン・シュリーク
脚本:マルティン・シュリーク、マレク・レシュチャーク、オンドゥレイ・スライ 
音楽:ウラジミール・ゴダール

キャスト

ドロトゥカ・ヌゥオトヴァー
マリアン・ラブダ
ボジダラ・トゥルゾノヴォヴァー

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