原題:VIBRATOR

あたし、あなたにさわりたい。

ベネチア国際映画祭ニューテリトリー部門正式出品作品

2003年/日本/カラー/ヴィスタサイズ/ドルビーSR/95分/R-15 配給:ステューディオ スリー、シネカノン

2006年01月26日よりDVDリリース 2004年06月25日よりDVD発売開始 2003年12月6日よりシアター・イメージフォーラムにてロードショー

公開初日 2003/12/06

配給会社名 0407/0034

解説


原作と出会い、なかなか見つからない主演女優探しという紆余曲折を得て、失望が絶望に変わりかけたときに巡り会ったのが寺島しのぶ。何とか口説き落として出演を承諾してもらい、映画「ヴァイブレータ」は<生>への一歩を踏み出すことになった…。
短い時間のなかでお互いへの愛しさをつのらせる男女を主人公にこの作品が描くのは、特別ではない男女のどこにでもある出会い.行きずりの関係と別れ、それなのに、なぜかすてきに見えて、羨ましいとさえ感じる。それはこの映画が、誰かといることの心地良さや他人の温度を体感することの安らぎを感じさせ、同時に心の渇きを潤してくれるからだろう。そしてそれこそ、原作が多くの女性に共感を持って受け入れられた理由でもある.原作は赤坂真理の同名小説。独自の文体で主人公・早川玲の心の動きを描いた物語に、現代女性の多くは「私のことが書いてある」と共感。今や女性から絶大な支持を得ている.頭のなかで聞こえる様々
な”声”のせいで不眠、過食、食べ吐きを繰り返す主人公は現代社会に生きる女性のひとつの典型だ。触覚を刺激するような言葉で書かれた原作は、芥川賞候補にもなった。
31歳の早川玲を演じるのは寺島しのぶ。舞台での活躍が評価される正統派女優ながら、今までのイメージからはかけ離れた玲を繊細かつ大胆な演技で熱演。精神的に擦り切れ、疲れきっていながら、どこかに純粋さとあどけなさを持つ玲。ともすれば、ただの自分勝手で孤独な女性に見えてしまいがちな彼女を、誰もが共感できる女性として寺島しのぶは見
事に演じている。玲のなかに生まれた岡部への愛情を見せる表現力といい、この作品の命運が彼女の存在にかかっていたことはいうまでもない。
玲が好きになるトラッカーの岡部希寿役には大森南朋.『Quartetカルテット』でのビオラ奏者、『殺し屋1』での殺し屋、『OUT』での殺される夫など、出演作ごとに印象の変わる彼が、本作でも今までとは違う役に挑戦。どこにでもいるようでいない普通のトラック運転手を、瓶々とした自然体で演じている。ふとした瞬間に玲へ向けられる微笑やさりげない仕草が、ふたりの心の歩み寄りを感じさせる。大森自身の男の色気が漂うミステリアスな魅力は、玲がコンビニで岡部を見かけたときに彼に惹かれ、トラックに乗り込むことをとても自然に感じさせている。
荒井晴彦の、原作に忠実な脚本は、女性特有の赤坂真理の世界を、より客観的なまなざしで映画の世界に織り込んでいる映画が原作よりも玲と岡部のお互いの<感応>をより解明に映し出しているのは、荒井晴彦の脚本によるところが大きい。
監督は『東京ゴミ女』、『美脚迷路』、『理髪店主のかなしみ』など、日常生活の隙間を独自の映像センスで切り取る廣木隆一。玲の本当の”声”を字幕で挿入し、余分な装飾や説明なしに、あくまで玲と岡部の心の動きに寄り添った演出が心に染み入る。コンビニ前の暗い空間から新潟の白い風景へと、トラックの外に広がる景色が変わる様も玲の解放されていく心に重なる。
現代に生きる女性にとって、『ヴァイブレ一タ』は”自分の映画”に他ならない。彼女たちはこの映画をと
おして、今まで他人と分かち合えないと思っていたものを、誰かと共有できるのだと感じるはずだ。そして主人公の玲と同じように孤独や痛み、渇きを持つ自分を”普通”だと思える。今までより、もっと愛してあげ
たくなる。玲が岡部と過ごしたあとで、「自分がいいものになった気がした」のと同じように。
『ヴァイブレータ』は、二人の主人公の感応をとおして、観客と映画の感応を生み出し、観るものの心を優しく包み込む何かを感じさせてくれる作品だ。

ストーリー


3月14日、雪の夜のコンビニ。女が酒を買いに来る。
早川玲、31歳。フリーのルポライターをしている彼女は、いっからか頭のなかで聞こえるようになった”声”
の存在に悩まされている。いつか聞いた誰かの言葉や雑誌の文章、言えなかった自分の気持ちが”声”として彼女のなかでざわめき、そのせいで不眠、過食、食べ吐きを繰り返す玲はアルコールに依存していた。
白ワインとジンを探す彼女の目に、コンビニに入ってきた一人の男が飛びこむ。長靴をはいたその男に反応した彼女のなかで、声がいう。「いい感じ」「あれ、食べたい」。玲の視線に気付いた男はすれ違いざま、
彼女の体に触れる。それを合図にするように、コンビニを出て行く男の後を追う玲。
コンビニの外、トラックの運転席に座る男が見える。トラックに乗り込む玲に男がいう。「ようこそ」。男は岡部希寿というフリーの長距離トラック運転手だった。ぎごちなく酒を飲みながら、やがてアイドリングの振動を感じながら二人は肌を重ねる。
夜明けになり、一度はトラックを降りた玲だが、再びトラックに戻る。「道連れにして」という玲を乗せ、
トラックは東京から新潟へ向けて走り出した。
窓の外を風景が流れるなか、二人はお互いのことを話し出す。岡部には妻と子供がいること、長い間ストーカーの女につきまとわれていること、中学もろくに出ていないこと、工務店で働いた後、ホテトルのマネージャーをしていたこと、それからトラックの運転手を始めたこと、これが二台目のトラックだということ。玲も自分の職業や、取材で会った女性から聞いた食べ吐きを自分でもするようになったこと、アルコールに依存していることを話す。言葉を重ねながら、肌を重ねながら、男との時間に身をゆだねていく玲。気がつくと、頭のなかの”声”は聞こえなくなっていた。あるのは、もう体に馴染んだエンジンのアイドリングの音
だけ・・・
残雪の白い景色が続く。男が無線のスイッチを入れ、他のトラッカーたちと交信を始めた。複数の声がスピーカーから聞こえてくる。玲はボイスコンバータを使って無線の声と交信しようとするが、突然、それまで聞こえなかった”声”が一気に彼女を襲う。どうしていいかわからず、玲は泣きながら「気持ち悪い。吐く」と苦しそうに訴える。岡部はうろたえ、トラックをガソリンスタンドに停める。玲は駆け出し、口に指を突っこんで吐こうとするが、どうしても吐けない。前はあんなにうまく吐けていたのに.助けようと駆け寄る岡部を拒絶しながら、「気持ち悪い、気持ち悪い」と繰り返し岡部を叩く玲。やっとの思いで嘔吐し、その場に崩れ落ちる。
岡部は玲をラブホテルに連れて行き、風呂を用意する。優しく玲の体にお湯をかけ、湯船に入れる。「この男が優しいのは感情じゃなくて本能だよ」。また”声”が聞こえる。玲は岡部に「殴って」と頼むが、岡部は「殴れねえよ。お前のこと好きだし」という。彼の気持ちも自分の気持ちもわからず、玲はただ戸惑い混乱する翌日、定食屋で昼食を食べながら、二人は本心を打ち明けあう。岡部は玲に「ずっと乗っててもいいよ」というが、玲はただ「ありがとう」とだけ答える。ふいに、岡部が玲にトラックを運転させようとする。「できないよ」といいながら、促されるまま運転席に座り、ハンドルを握る玲。岡部のいうとおりにハンドルを切り、彼女の運転でトラックが走る。玲の顔に笑顔が戻ったが、旅の終わりが近づいていることを二人は知っていた。
トラックが東京に戻った。同じコンビニの前。トラックを降り、外から運転席の岡部を見つめる玲を置いて、トラックはまた走り出す。「彼を食べて、彼に食べられた。ただ、それだけのことだった」と思いながら、玲は自分がいいものになった気がしていた。”声”たちも、今は消えていた。

スタッフ

監督:廣木隆一
原作:赤坂真理『ヴァイブレータ』(講談社)
脚本:荒井晴彦
製作:高橋紀成
プロデューサー:森重晃、青島武
撮影:鈴木一博
美術:林千奈
録音:深田晃
音楽プロデューサー:石川光

キャスト

寺島しのぶ
大森南朋
田口トモロヲ
牧瀬里穂

LINK

□公式サイト
□この作品のインタビューを見る
□この作品に関する情報をもっと探す