第26回ぴあフィルムフェスティバル・オープニング作品

2004年/日本/カラー/ 配給:『トニー滝谷』プロジェクトチーム+スローラーナー

2005年09月22日よりDVDリリース 2005年1月29日、テアトル新宿、ユーロスペースにてロードショー!

(C) Taishi Hirokawa

公開初日 2004/07/03

公開終了日 2004/07/03

配給会社名 0402/0048

解説



今度の市川準監督の最新作は、
村上春樹さんの短編小説『トニー滝谷』です。

市川準監督が、映画化を暖め続けていた短編小説があります。「トニー滝谷」。作者は、村上春樹さん。『レキシントンの幽霊』という本におさめられたこの愛すべき小説を知っているでしょうか?
孤独であり続けたトニー滝谷という、ひとりの男。
彼のまなざし。彼の感じたこと。彼の幸福…。
そして、大事なものを失った彼の前で、涙を流した見ず知らずの女のことをトニーは忘れることができませんでした。でも、トニーの回りには誰もいなくなくなってしまうのです。そして、思い出の数々さえも…。
村土春樹さんがハワイで偶然買った“TONY TAKITANI”とプリントされた1枚のTシャツ。そこから、小説家の想像力の中で豊かに育てられた小説は、今度は映画監督の想像力の中で育ち、ひとつの映画として、もうすぐみなさんの前にあらわれるはずです。

主演のトニー滝谷役には、国内外で確実なファンを獲得し、独特の演出でバラエティ溢れる舞台を演じるイッセー尾形を迎え、共演には幼い頃から数々の映画、ドラマ、舞台を経て、実力とともに、個性派女優として変貌しつつある宮沢りえ。両俳優とも、市川監督自らのこの作品への熱い思い入れに賛同しての参加となりました。登場人物である、トニーとその父である滝谷省三朗は、イッセー尾形が一人二役を演じ、同じく、トニーの妻A子と、妻の死後、トニーの前に現れるB子の二役を宮沢りえが演じます。

一人二役に加え、横浜市緑区の環境事業局空き地にステージを組み、ほとんどのシーンをステージ上で撮影するという市川監督の演出構想にも、これまでにない、映画の新たな可能性を求めた映像展開への意識が伺えます。撮影は、8年ぶりに写真集『TIMESCAPE 無限律動』を発表したばかりの広川泰山。市川監督とは『東京マリーゴールド』『竜馬の妻とその夫と愛人』などでコンビを組む照明の中須岳士、録音の橋本泰夫など市川組ともいうべきスタッフが『トニー滝谷』の世界を支えています。

ストーリー




太平洋戦争の始まる少し前、トニーの父親はちょっとした面倒を起こして、中国に渡った。日中戦争から真珠湾攻撃、そして原爆投下へと至る激動の時代を、彼は上海のナイトクラブで、気楽にトロンボーンを吹いて過ごした。

彼がげっそりと痩せこけて帰国したのは、昭和21年の春だった。
彼の名は滝谷省三朗、彼が結婚したその翌年にトニーが生まれた。
そしてトニーが生まれた三日後に母親は死んだ。
あっという間に彼女は死んで、あっという間に焼かれてしまった。

孤独な幼少期をおくり、やがて美大で地に足の着かない‘芸術’を学ぶトニー。
目の前にある物体を一寸の狂いもなく、細部に至るまで正確に写生するトニー。
女学生「うまいんだけど、体温が感じられないのよね」

—体温?それらはトニーにとってただ未熟で醜く、不正確なだけだった…。

数年後、デザイン会社へと就職し、そして独立しイラストレーターとして自宅のアトリエで仕事をこなすようになる。彼の家には様々な出版社の編集部員が出入りしていた。その中に原稿のあがりを待つA子。

トニー「すみません…お待たせして…」
A子「はい」

トニーは父親とは何かの用事で二年か三年に一度くらい顔を合わせるだけだった…。

トニー「…なんというか、服を着るために生まれてきたような人なんだ」
父「それはいい」

ルノー5を洗っているA子。木陰で眺めているトニー。
トニーの人主の孤独な時期は終了し、やがて新たな生活と共に、幸せの中に浸れるようになった。

よく似合っているブラウスが風になびく。

しかし一つだけ、トニーには気になることがあった。それは妻が、あまりにも多くの服を買いすぎることだった…。

ルノー5が、ブランドの紙袋を後部座席にいっぱいに走る。

「僕は何もお金の事だけ問題にしてるんじゃない…」
「私にもわからないの…どうしょうも…」

なんとかそこから抜け出してみると約束した彼女は、買ったばかりのいくつかの洋服を返品する事にした。帰りの車中、信号待ちの間、彼女はずっとその返品したコートとワンピースのことを考えていた。信号が青に変わる。はじかれたようにアクセルを踏み、大きくハンドルを切る、A子…。トニーに残されたのは、部屋ひとつ分の、サイズ7の服の山だけだった。

トニーの家に面接に来るB子
「噴くした妻の服が、家に沢山残っているんです。…それをここで働くあいだ、制服のかわりにあなたに着てほしい」
残された服たちは、まるで彼女のために作られたみたいに、ピッタリだった。
あまりに高価な服たちを目の前に、理由もなく涙を流す、B子。
「とりあえず、一週間分の服と靴を選んで持って帰って下さい」

夜、妻の衣装部屋で、月光にの中の服たちを見つめているトニー。
—その服は、妻が残していった影のように見えた。かつては温かな息吹を与えられ、妻とともに動いていた影ー

「あなたが持って帰った服と靴は全部差し上げます。だからこのことは忘れてほしい。
そのカシミヤのコートも、スーツケースも全部あげる」

トニーは結局、古着屋を呼んで、妻の残していった服を全部引き取らせた。
そして妻が死んだ二年後に、滝谷省三朗が死んだ。父の残したものは、膨大なコレクションのジャズのレコードだった。レコードはカビ臭かったので、定期的に部屋の窓を開けなくてはならなかった。

—そのようにして、一年が過ぎた。
やがて父の残したジャズレコードも、中古レコード屋を読んで処分した。
レコードの山が無くなると、今度こそ、トエー滝谷はひとりぼっちになった。

いろんなことをすっかり忘れてしまったあとでも、彼はときどき思い出す。かつてその部屋で、妻の残していった服を見て、涙を流した見知らぬ女のことを。その女の、おどろいた顔、くたびれたエナメルの靴。名前も覚えていないその女のことを、忘れることができなかった。

とあるアパート、部屋のおくで、電話がなっている。
小走りに部屋の中に消えていく、カシミヤのコート。

誰もいないアトリエ
部屋のおくで、静かに受話器をおくトニー。

スタッフ

監督:市川準
原作:村上春樹「トニー滝谷」(文藝春秋刊『レキシントンの幽霊』所収)より
エグゼクティヴプロデューサー:米澤桂子
プロデューサー:石田基紀
アソシエイトプロデューサー:越川道夫
脚本:市川準
撮影:広川泰士
照明:中須岳士
録音:橋本泰夫
美術:市田喜一
助監督:早川喜貴
編集:三條知生
製作:ファーストプレイス
共同製作:『トニー滝谷』プロジェクトチーム
企画:市川準事務所
制作プロダクション:ウィルコ
配給:『トニー滝谷』プロジェクトチーム+スローラーナー

キャスト

イッセー尾形
宮沢りえ

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