痛いほど、愛に撃たれる。

2004年/日本/カラー/35mm/ビスタサイズ/DTSステレオ/111分 配給:リトルモア

2004年11月17日よりDVD発売開始 2004年6月19日より、テアトル新宿にてロードショー

公開初日 2004/06/19

配給会社名 0093

解説


98年、リトルモアMOVIES*第一弾『プープーの物語』(主演:上原さくら、松尾れい子)でデビューした渡辺謙作監督。一風変わった少女二人の冒険物語は、その個性的な内容ゆえ賛否両論猛々しく「鈴木清順の弟子」としての面目躍如、新作が待たれていた。そしていよいよ5年の歳月を経て、本作『ラブドガン』が完成した。血縁ではない、いわば師弟の絆に結び付けられた男たちのエモーショナルなドラマと、彼らに触発され、悲しみの先へと新しい一歩を踏み出してゆく少女の成長課とが綾をなす、“愛”についての物語である。
主人公の殺し屋・葉山田且士は幼い頃に殺された両親の復讐を遂げるべくさすらっている。そのさなか、川べりの土手で少女・観幸に出会う。観幸もまた両親を失くし深い喪失感のなかにいる。葉山田は育ての親である殺し屋・丸山と、チンピラ・種田に追われている。観幸はやり場のない深い悲しみにケリをつけようとしている。そして、葉山田に仕事を依頼する……。
過去に決着をつけようとする疑似親子未来を取り戻そうとする少女、未来しか持っていないような若造。鍵を握るのは色つきの銃弾……。
ファンタジックな道具立てで「生と死」「愛」といった普遍的かつ壮大なテーマをかかげた渡辺監督。それらを気難しい表情で語るのではなく、また「リアル」という名の態のよい逃げ道を作るのでもなく、あくまで「ファンタジよ」に寄り添いながら誠実に綴ってゆく。監督によるオリジナル脚本は、小説の映画化作品にはない、映画的な迫力と緻密さに満ちている。
孤高の殺し屋・葉山田を演じるのは永瀬正敏。孤独な者だけが持ちうる静かなやさしさを漂わせる。『隠し剣鬼の爪』(山田洋次監督)の主演も控え、映画俳優としての魅力は増すばかりである。
殺し屋との出会いで悲しみを乗り越えてゆく少女・観幸に『ユリイカ』『害虫』の宮崎あおい。スクリーン上の彼女の存在感は、現代の日本の女優のなかでも群を抜いている。少女の不安定な内面と女としての強さと弱さを見事なまでに演じ、今後ますます注目されることは間違いない。
そして、葉山田の育ての親であり、いまは葉山田を撃つために病んだ身体をひきずり歩く殺し屋・丸山に、『座頭市』『ゲロッパ1』の印象も記憶に新しい岸部一徳。瓢々とした独特の表情は唯一無二の魅力である。
丸山に小突かれながら道行きをともにするチンピラには新井浩文。
『青い春』『GO』『ジョゼと虎と魚たち』など多くの話題作に出演し、人気急上昇中である。闇雲にツッパるチンピラぶりと少しずつ丸山を慕ってゆくさまをいきいきと演じている。
決着をつけた丸山と葉山田。若い種田と観幸は彼らから何を得たのだろうか。種田と観幸は、ナポレオンのアルプス越えよろしくバイクを駆り腕を高く上げて、どこへ向かおうというのが。

*リトルモアMOVIES:テアトル新宿とリトル・モアが、新人監督を起用して、1年間4本の映画を98年4月より提供した映画シリーズ。豊田利晃監督(『ポルノスター』)らを輩出。

ストーリー



夜はもう明けたのだろうか。海沿いの道路に人影はない。白い軽トラックが猛スピードで走り過ぎる。と、自動販売機に激突した。男がふらふらと運転席から出てくる。額から血が流れている。葉山田且士(永瀬正敏)は荷台の箱から魚を掴み取り、額の傷にあてた。
花畑。初老の男が倒れこむ。「且士を殺せ」と眩いている。門脇組長(荒戸源次郎)だ。
寺の庭を掃いている丸山(岸部一徳)のもとに門脇組の男衆が訪ねてくる。仕事の依頼だ。門脇組の威信に賭けても葉山田を殺らなければならないのだという。丸山はくるべき時がきたという風情である。「しつけてください」と、種田(新井浩文)という若造が丸山に差し出される。鉄砲玉種田は生意気な態度をとるが、不意に向けられた銃口に度胆を抜かれてしまう。オレにもチャカをとねだって拳銃を手にするが丸山のくしゃみに驚いて暴発。そんな種田を諭すように、丸山は言う。
「銃弾は撃つ人間の感情によってその色を変える。感情がこもってなきゃ地金の色。悲しい奴が撃った弾は青。憎しみの込められた銃弾は黒。
そして怯えの黄色」
種田が撃った弾は黄色かった。悔しさに拳銃を投げつける種田を丸山は殴り倒す。拳銃の尊さを知れと。「しつけ」はもう始まっている。丸山は、憎悪にふるえる種田に少し興味を覚える。二人は葉山田を探す旅に出る。
小諸観幸(宮崎あおい)は高校を中退したいと女教師(伊佐山ひろ子)に告げる。教師は引き止めるが観幸の決意は固い。「あたしもう自立しなきゃいけないんですよ。生活費稼がなきゃ」。彼女の両親は死んでしまったのだ。父親が母親を殺し、そして父親は母親の死体とともに焼身自殺した。二人の遺体は黒焦げだった。女教師から励ましの言葉と葡萄を手みやげにもらい、観幸は精一杯のスピードでスクーターを走らせる。
悲しみを振り払うように。
堤防で道草を食ったあと、ふたたびスクーターにまたがりエンジンをかけた瞬間、誰かの手が観幸の手を握りしめた。葉山田だ。このスクーターを貸してほしいという。拒絶する観幸。葉山田は赤い拳銃をつきつける。
拳銃の名前はアキラ。観幸は私の心臓を撃ってくれと口にする。少女の言葉に焦った葉山田はよろよろと後ずさり、バタリと倒れてしまった。
観幸は葉山田を知り合いの医師・長谷川(野村宏伸)がいる病院に連れてゆく。長谷川は観幸を執拗に心配しているが、観幸はそっけない。
しかし観幸のふとした一言で長谷川の偏執狂的愛情は一線を越え、奇妙な治療がはじまる。危機的状況を救ったのは葉山田だ。観幸はぽつぽつと両親のことを話しはじめる。そして、殺し屋・葉山田に仕事を依頼した。「父の愛人を殺してください」。
丸山と種田は少しずつうちとけてゆくようだ。丸山の身体は病いに冒されている。日に日に弱っていく丸山を、種田は心配している。何かを託すかのように、丸山は種田に昔話をきかせる。葉山田が何をしようとしているかも。
葉山田は幼い頃に両親を殺された。母(川合千春)を殺したのは門脇、父(田辺誠一)を殺したのは丸山だ。葉山田はそれを最近まで知らなかった。葉山田の父は丸山の弟分だった。両親をなくした葉山田は丸山の家に預けられた。丸山は葉山田を愛した。しかし葉山田は寂しさのあまりストレス性の神経症になり、奇行にはしる。なんでもかんでも飲み込んでしまうのだ。蝋燭も線香も。そして銃弾を4発!
「誰かに殺されるとしたらどんなやつに殺されたい?」
「俺は、ものすごく俺を憎んでいるやつに殺されたい」
観幸と葉山田はそんなことを話しながら森へ向かう。観幸はもうある答えを見つけたのだ。森には焼け焦げた車が打ち捨てられている。その場所で、いよいよ決着の時を迎える。赤い銃弾の伝説もいまその姿をあらわそうとしている。
そして観幸は、ふたたびスクーターを発進させる。

スタッフ

監督・脚本:渡辺謙作
製作:孫家邦、石川富康、尾越浩文
撮影:安田圭
照明:上田なりゆき
美術:吉村桂
音楽:Dhal
衣装:野中美貴
配給:リトル・モア

キャスト

永瀬正敏
宮崎あおい
野村宏伸
伊佐山ひろ子
土屋久美子
川合千春
飯田孝男
水上竜士
猫穴善五郎
田辺誠一
荒戸源次郎
新井浩文
岸部一徳

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