原題:The Magdalene Sisters

2003年1月21日イギリス初公開

2002年/イギリス・アイルランド/ビスタサイズ/ドルビーデジタル/1時間58分/ 原作:ソニーマガジンズ/ 配給:アミューズピクチャーズ

2004年04月23日よりDVDリリース 2004年04月23日よりビデオリリース 2003年10月11日より恵比寿ガーデンシネマにてロードショー

公開初日 2003/10/11

配給会社名 0008

解説


マグダレン修道院———キリストによって改心した娼婦マグダラのマリアにちなんで名づけられたその施設は、19世紀に”堕落”した女性や娼婦のための避難場所としてアイルランドに建設された。20世紀に入ってカトリック教会が運営するようになると、”慈悲深い”シスターたちのもとで厳格に管理され、“一族に恥をもたらした”女性たちが洗濯部屋で働かされた。私語は禁じられ、家族と会うこともできない監禁生活は刑務所より過酷。中には施設に閉じ込められたまま一生を終える女性もいた。そして、この独善的な宗教と偏狭な社会の遺物のようなマグダレン修道院は1996年まで存続した。
2002年のベネチア映画祭で金獅子賞に輝いた本作は、マグダレン修道院に収容された女性たちの衝撃的な実話をもとにしている。何の罪も犯していないのに、孤児だったり、レイプの被害者だったり、婚姻外の子供をもうけただけで社会や家族、カトリック教会から“堕落した者”と決め付けられた少女たち。まるで看守のような心のゆがんだ修道女たち。この信じられない実態をイギリスのテレビ・ドキュメンタリーで知ったピーター・ミュラン監督は、より多くの観客にこの事実を知ってほしいと考えた。これまで隠されてきたその犠牲の大きさに愕然とし、不当な扱いに怒りを覚え、彼女たちの物語に触発されて脚本を書き上げた。
ミュラン監督は映画の舞台をすでに世の中では多くの女性たちが自由を享受していた1964年のアイルランド、ダブリンに設定した。3人の主人公は、マグダレン修道院の一つに同じ日に収容された少女たち—美しい孤児のバーナデット(ノーラ=ジェーン・ヌーン)、いとこにレイプされた少女マーガレット(アンヌ=マリー・ダフ)、赤ん坊と引き離された未婚の母ローズ(ドロシー・ダフィ)。それぞれが理不尽な理由で修道院に送り込まれ、冷酷なシスターたちに労働力として酷使され、外に出ることはおろか外部の人間と話すことも禁じられてしまう。すべての人間性を剥奪された環境の中で、それでも最後まで決して希望を失わず立ち向かう彼女たちの凛とした、美しいほどの力強さ。映画はそんな彼女たちの姿を、圧倒されるような深い感動とともに描き出している。
監督・脚本のピーター・ミュランは、ケン・ローチ監督の『マイ・ネーム・イズ・ジョー』(98)でカンヌ映画祭の男優賞を受賞した一流の俳優でもある。3本の短編の後に発表した長編監督デビュー作『オーファンズ』(97)の後、第2作目となる本作でいきなりヴェネチア映画祭金獅子賞を受賞するという快挙を成し遂げ、名実ともに世界の頂点に立った。
手持ちカメラの臨場感あふれる映像と、正攻法でじっくり構えた重厚な映像を絶妙に配した撮影は、監督いわく「構図よりキャラクターを強調した生々しいスタイル」。一杯の水、一切れのパンといったディテールまで神経の行き届いた力強い演出は、安直なドキュメンタリー・スタイルやセンチメンタルなメロドラマからは遠く、ありふれた驚きや安っぽい同情など寄せつけない。透徹した視線と人間洞察力が登場人物にナチュラルな真実味を与え、画面に緊張感をみなぎらせる。見る者は一瞬たりとも画面から目を離せず、そこに映る少女たちの息づかいを耳元に感じとることができるのだ。
主人公の3人にはフレッシュな女優が選ばれた。孤児で気の強いバーナデットにはこれが映画デビューとなるノーラ=ジェーン・ヌーン、レイプされたために修道院に入れられたマーガレットには『工ニグマ』のアンヌ=マリー・ダフ、未婚のまま妊娠したローズには舞台出身のドロシー・ダフィという個性的な顔ぶれ。また、憎々しいほど厚顔なシスター・ブリジットには『ヘンリー5世』『恋の骨折り損』のベテラン、ジェラルディン・マクイーワンが、修道院の先輩クリスピーナには『ジャニスのOL日記』で主役を務めたアイリーン・ウォルシュが扮している。また、監督自身も娘を修道院に追いやる頑迷な父親役で出演している。
ちなみに、マグダレン修道院の存在が一般に知られるようになったのは、修道院で働いた経験を持つパトリシア・バーク・ブローガンが戯曲“Eclipsed”を発表した92年のこと。97年にはシンガー・ソングライター、ジョニ・ミッチェルが“The Magdalene Laundries”を世に送り出し、修道院で生き残った者たちの非公式なプロテスト・ソングになった。

ストーリー


1964年、アイルランドのダブリン。神父の立ち会いのもと、結婚式のパーティが佳境を迎えていた。熱気あふれる会場には歌と太鼓の音が響きわたり、人々がダンスに興じている。しかし、昂揚した雰囲気の中、従兄弟のケヴィンに誘われ控え室に行ったマーガレット(アンヌ=マリー・ダフ)は、そこで彼にレイプされる。会場に戻ったマーガレットが泣きながら友人に打ち明けると、この“一族の不祥事”はすぐに神父の耳にも伝わった。彼らはマーガレットをいたわるどころか、とがめるようにみつめた。そして数日後、ベッドで寝ていたマーガレットは、突然両親に起こされると神父の車に乗せられた。「姉さんをどこに連れて行くの?」という弟のイーモン(キアラン・オーーウェンズ)問いかけにも誰も答えるものはいなかった。
アトラクタ孤児院。大きな瞳と勝ち気な表情が魅力的な美しい少女バーナデット(ノーラ=ジェーン・ヌーン)は近くで働く少年たちの人気の的。それが院長たちには“ふしだら”と映っていた。
ローズ(ドロシー・ダフィ)は未婚のまま病院で赤ん坊を産んだ。両親と神父は“罪深い”母親から生まれたばかりの赤ん坊を取り上げて連れていく。
マーガレット、バーナデット、ローズの3人が連れてこられたのはマグダレン修道院だった。ここを管理しているのは修道女たち。シスター・ブリジット(ジェラルディン・マクイーワン)は3人を性悪女と決めつけ、マグダラのマリアのように祈りと労働によって神に奉仕し、“罪”を悔い改めるように言った。ここに収容された女たちは囚人のような制服を着て洗濯部屋で働かされた。私語は厳禁。シスターの先導で整列して歩き、手洗いに立つときも監視がつく。家族と会うことも許されなかった。それは刑務所以上に過酷で自由のない世界だった。ローズは同じ名前の少女がすでにいるという理由でパトリシアと呼ばれることになった。
女たちは無駄口を叩いたり、反抗的な態度を見せるとお仕置きを受け、頭を剃られた。マーガレットは数日前にここを脱走したウーナ(メアリー・ミューレイ)が実父(ピーター・ミュラン)によって連れ戻されるのを見て絶望感に襲われる。ローズはクリスピーナ(アイリーン・ウォルシュ)が姉に手を引かれて門の所まで会いに来た幼い息子に愛おしそうな視線を送るのを見て、自分の赤ん坊のことを思い出していた。バーナデットは洗濯物を運んでくる若い男にたのんで脱走しようとするが、もう一息のところで男が怖じ気づいたために失敗する。
修道女は何かにつけて女たちをいじめた。裸で並ばせ、彼女たちの体を笑いものにした。クリスピーナは濡れたパジャマを着て、流感にかかって死のうとさえ思いつめた。高熱を出し、首吊りをはかった彼女をマーガレットたちが救った。しかし、クリスピーナが大切にしている聖クリストファーのメダルを拾ったバーナデットは、クリスピーナの屈託のない寝顔を見てメダルを自分のポケットに入れる。
ある日、マーガレットはフィッツロイ神父(ダニエル・コステロ)の部屋でクリスピーナが彼の股間に顔を埋めているのを目撃する。修道院の運動会の日、神父は喜々として修道女たちを8ミリで撮影していた。裏庭に回ったマーガレットは扉が開いているのに気づいていったんは逃亡しようとしたものの、ためらいを感じて壁の中に戻ってくる。その夜、マーガレットはバーナデットがクリスピーナのメダルを隠し持っているのをみつけてとっくみあいの喧嘩をした。卑劣な行為を責めるマーガレットにバーナデットは言う。「私たちには苦しみの人生しかないのに、彼女は苦しんでいないから」と。
聖体の休日。沿道はパレードで沸き立ち、ホームの女たちも青いケープ姿で町に出た。やがて屋外の会場に集った市民の前で神父が説教を始める。しかし、突然神父は聖衣を脱ぎ、真っ赤に腫れあがった体をかきむしりながら裸で走り出す。前日、マーガレットが神父の下着を洗う洗濯機に、裏庭でとってきたかゆみを起こす草を入れたのだ。しばらくしてクリスピーナも体をかき始め、大声で「あんたは堕落した神父よ」と何度も叫んだ。そしてその夜、彼女は精神病院へと送られていった。
クリスマス。シスターの講演に続いて、大司教が選んだ『聖メリーの鐘』という映画が上映された。そのとき、ホームに一人の青年がやってくる。それはある神父からの書状を携えたマーガレットの弟イーモン(イーモン・オーウェンズ)の成長した姿だった。私服に着替えるマーガレットここを出るのはこんなに簡単なことだったのか……。最後の抵抗のように廊下でシスター・ブリジットに立ち向かったマーガレットは、そんな彼女をあざ笑うシスターの前に跪き、主の祈りを唱える。
マーガレットが去ったある日、ホームで何十年も過ごした老女ケーティーが死んだ。ローズはクリスピーナがいなくなったことを彼女の姉に教えようとしてムチで打たれた。バーナデットの怒りはふくらんでいった。こんな所で犬死にするのはイヤだ。バーナデットはローズを誘って逃亡することを決意した。1度しか会ったことがないが、ダブリン郊外で美容師をしているいとこを頼って脱出するのだ。
シスター・ブリジットの部屋で門の鍵を探す二人。しかしその時、シスター・ブリジットが部屋へと入って来る—。

スタッフ

監督・脚本:ピーター・ミュラン
製作:フランシス・ヒグソン
共同プロデユーサー:アラン・J・ウィリー・ワンズ
エグゼクティブ・プロデユーサー:エド・ギニー&ポール・トリビッツ
撮影:ナイジェル・ウィロウビー
美術:マーク・リーズ
編集:コリン・モニー
音楽 (作曲・指揮・編曲):クレイグ・アームストロング
衣装:トリシャ・ビガー
キャスティング・ディレクター:レニー・ミュラン

キャスト

バーナデット:ノーラ=ジェーン・ヌーン
マーガレット:アンヌ=マリー・ダフ
ローズ/パトリシア:ドロシー・ダフィ
シスター・ブリジット:ジェラルディン・マクイーワン
クリスピーナ:アイリーン・ウォルシュ
シスター・ジュード:フランシス・ヒーリー
シスター・クレメンタイン:エイシン・マクギネス
シスター・オーガスタ:フィリス・マクマホン
ウーナ:メアリー・ミューレイ
ケーティ:ブリッタ・スミス
イーモン:イーモン・オーウェンズ
子供時代のイーモン:キアラン・オーウェンズ
ブレンダン:クリス・シンプソン
フィッツロイ神父:ダニエル・コステロ
ケヴィン:ショーン・マクドナー
結婚式の司祭:ショーン・マッキン
オコナー(ウーナの父):ピーター・ミュラン

LINK

□公式サイト
□IMDb
□この作品のインタビューを見る
□この作品に関する情報をもっと探す