原題:Ararat

2002年カンヌ国際映画祭正式出品作品 2002年カナダ・アカデミー賞主要5部門受賞 <最優秀作品賞><最優秀主演女優賞><最優秀助演男優賞> <最優秀衣装デザイン賞><最優秀作曲賞>

2002年/カナダ/カラー/115分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル 配給:ギャガ・コミニュケーションズ Gシネマグループ

2003年10月4日よりシャンテシネ他にて全国順次ロードショー 2004年05月21日よりビデオリリース 2004年05月21日よりDVDリリース

公開初日 2003/10/04

配給会社名 0025

解説


哀しみの歴史の中で失われた母と子の絆が、時代を越えて今蘇る。
愛と涙で織りなす壮大な叙事詩。

カンヌ映画祭の国際映画批評家連盟賞を受賞した『エキゾチカ』と、同映画祭審査員グランプリを受賞した『スウィートヒアアフター』で、カナダを代表する巨匠の座を不動のものにしたアトム・エゴヤン。彼の待望の新作は、自身のルーツであるアルメニアの画家アーシル・ゴーキーの「芸術家と母親」の絵画をモチーフに、家族と民族の歴史を交錯させて描いた野心的な大作。現在と過去、現実と虚構がつづれおりをなすドラマを通じて、母と子、国と人、芸術と人間との絆をみつめた壮大な叙事詩である。
20世紀の歴史上、いまなおトルコが事実として認めようとしない聖なる山アララトの麓で起きたアルメニア人の虐殺。その史実にスポットを当てた映画を作ろうと決断したエゴヤンは、「なぜ虐殺が事実と認められないのか、なぜその拒絶は今も続いているのか、そして拒絶を続けることがどんな結果を生むのかという問題を、すべてこの映画で描かなくてはならなかった」と語る。
虐殺と、その史実が黙殺されることによって失われたもの。それを象徴する存在としてエゴヤンが選んだのは、虐殺で母を亡くしたアルメニア人の亡命画家アーシル・ゴーキーが描いた「芸術家と母親」の絵画だった。母なる国が永遠に失われたことを物語るように、キャンバスから削りとられた母の手。そこに虐殺の傷痕の深さを感じ取ったエゴヤンは、同じように過去のトラウマを持ち、心が離ればなれになった現代の親子のエピソードを通して、失われた絆の再生を試みていく。望郷と喪失、そして母への限りない思慕に満ち溢れたゴーキーの絵画。その芸術の力に啓発され、過去を認める勇気を持ち、拒絶の歴史から解放される現代の母と子。民族の悲劇のなかで失われた絆のぬくもりが、人生という現在進行形の時間の中にいる登場人物の心のなかで蘇っていく様を、大きな時間のうねりのなかに描きあげたドラマは、見る者の胸に至福の感動を呼び起こさずにはおかない。
そのドラマのスケール感をいっそう確かなものにしているのが、エゴヤンの手によって選び抜かれたアンサンブル・キャストだ。エゴヤンの分身ともいうべき映画監督のサロヤンを演じるのは、フランスを代表するエンタテイナーのシャルル・アズナブール。同性愛者の息子との断絶に苦悩する関税検査官のデビッドには、カナダ出身の名優クリストファー・プラマー。また、ゴーキーの研究をする大学教授で、息子との絆を見失ったヒロインのアニには、エゴヤン作品の常連アーシニー・カンジャンが扮し、力強い演技で魅了する。その他、脇を固めるのは、『シン・レッド・ライン』のイライアス・コティーズ、『ザ・コア』のブルース・グリーンウッド、『トーク・レディオ』のエリック・ボゴシアン、『百合の伝説/シモンとヴァリエ』のブレント・カーヴァーといった充実の顔ぶれ。さらに、本作でデビューを飾った21歳の新人デヴィッド・アルペイがアニの息子ラフィに、『渦』で脚光を浴び、『Les Invasions barbares – le declin continue幸せな最期(仮題)』で2003年カンヌ国際映画祭・主演女優賞を受賞したマリ・ジョゼ・クローズが彼の恋人シリアに扮し、フレッシュな個性を光らせている。
ゴーキーの絵画は未完だったのか? 税関に持ち込まれたフィルム缶の中身は? シリアの父はなぜ死んだのか? さまざまな謎解きの要素をはらんでスリリングに展開する物語を、巧みな時間操作を加えて語りあげていく脚本は、エゴヤン自身が担当。撮影のポール・サロッシーを筆頭に、スタッフにはエゴヤン組の常連が揃い、監督のビジョンの実現に大きく貢献している。
2002年のカンヌ映画祭でプレミア上映されたのち、トロント映画祭で上映された本作は、カナダのアカデミー賞に相当するジニー賞で9部門のノミネートを受け、作品賞をはじめとする5部門を受賞した。

ストーリー


母さん
たとえ僕たちの故郷が滅ぼされても
あなたの手のぬくもりは一生忘れない。

エドワード・サロヤン(シャルル・アズナブール)は、著名なアルメニア人の映画作家。1915年、聖なる山アララトの麓で起きたアルメニア人虐殺の史実を、当時のアメリカ人宣教師クラレンス・アッシャーの著作に基づいて映画化する企画をあたためていた彼は、その新作の撮影のため、カナダのトロントへやって来る。脚本家のルーベン(エリック・ボゴシアン)と作品の構想を固めていくなかで、サロヤンはひとりの画家の存在に注目した。虐殺で母を亡くしたあと、アメリカに移住し、「芸術家と母親」を描いた抽象表現主義の画家アーシル・ゴーキー(サイモン・アブカリアン)だ。少年時代の彼を自作に登場させようと考えたサロヤンは、ゴーキーの研究家として知られる美術史家のアニ(アーシニー・カンジャン)に、撮影の顧問を依頼する。未知の仕事にとまどうアニだったが、ゴーキーのことを人々に知ってもらう機会ととらえ、サロヤンの依頼を引き受けた。
未亡人のアニには二度の結婚歴があった。最初の夫は、アルメニアの自由を求める戦いのなかでトルコ大使の暗殺を企てて警官に射殺された人物。「彼は英雄として死んだ」と信じるアニだったが、18歳の息子ラフィは、父がテロリストなのか英雄なのかという疑問にさいなまれ、それがアニとの間に溝を作る原因になっている。さらに、二番目の夫の娘シリア(マリ・ジョゼ・クローズ)の存在が、母子の問題をますます複雑にしていた。今はラフィと恋人同士の間柄にあるシリアは、自分の父の事故死の原因がアニにあると考え、彼女に激しい憎悪を燃やしていたのだ。
サロヤンの新作は、トロントのスタジオでクランク・インの日を迎えた。主人公のクラレンス・アッシャーに扮するのは、実力派の人気俳優マーティン・ハーコート(ブルース・グリーン・ウッド)。敵役のトルコ人総督には、新人のアリ(イライアス・コティーズ)が抜擢された。このアリには、美術館に勤める同性の恋人フィリップ(ブレント・カーヴァー)がいたが、二人の関係をめぐって、フィリップと、空港の関税検査官をする父のデヴィッド(クリストファー・プラマー)のあいだは、ぎくしゃくしたものになっていた。
サロヤンの現場で、ラフィは雑用係として働いていた。映画の中で非道に振舞うアリの演技に憎しみをかきたてられた彼は、父が何のために生き、何のために死んでいったかを確かめるために、アララトへ旅立とうと決意する。
やがて帰国したラフィは、空港の税関で手荷物のフィルム缶を開けるのを拒んだため、デヴィッドの取り調べを受けることになった。二転三転するラフィの話に辛抱強く耳を傾け、真実を導き出そうとするデヴィッド。アルメニアの虐殺、ゴーキーの自殺、父の死。ラフィが喪失の歴史を語り終えたとき、デヴィッドは、自分のなかの何かが変わったのを感じる。
そしてラフィもまた、これまでとは違う目で世界を見始めていた。トルコへの旅路の果てに、旧アルメニアのアララト山で聖母子像を見つけた彼は、ゴーキーが、父が、サロヤンが、求めてやまなかった心の原点を理解したと感じていた。ようやく取り調べから解放された彼は、息子の身を案じて空港へ駆けつけたアニと固く抱き合った。背中に回された母の手のぬくもりに、ラフィは、自分たち親子の間に新しい歴史の1ページが開かれたのを感じる……。

スタッフ

監督・脚本・製作:アトム・エゴヤン
音楽:マイケル・ダナ
製作:ロバート・ラントス
撮影:ポール・サロッシー
編集:スーザン・シップトン
プロダクション・デザイン:フィリップ・ベイカー
衣装:ベス・ペスターナク

キャスト

ラフィ:デヴィッド・アルペイ
エドワード・サロヤン:シャルル・アズナブール
アニ:アーシニー・カンジャン
シリア:マリ・ジョゼ・クローズ
アリ:イライアス・コティーズ
マーティン・ハーコート:ブルース・グリーンウッド
デヴィッド:クリストファー・プラマー
ルーベン:エリック・ボゴシアン
フィリップ:ブレント・カーヴァー

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