原題:Open Hearts

2002年度アカデミー賞外国語映画賞デンマーク代表作品 2002年度デンマークアカデミー賞作品賞含む最多部門受賞

2002年/デンマーク/カラー/35㎜/113分 配給:ギャガ・コミュニケーションズ

2004年07月02日よりDVD発売開始 2004年1月10日より、Bunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー

公開初日 2004/01/10

配給会社名 0025

解説



涙に濡れた頬の冷たさに目覚めた朝
誰かに抱きしめられないと、バラバラになりそうな夜
たった一つの石に一瞬で砕かれた人生のかけら—
拾い集めれば、こんなにも切ないラブストーリー
それでもこれは愛についての大いなる希望の物語

しあわせは黙って側にいるから、なかなか気付かない。ふしあわせは突然大声で駆け込んでくるから、心を奪われてしまう。結婚を間近に控えた若いカップル、ヨアヒムとセシリ、3人の子供を持つ医師ニルスとその妻マリーの場合もそうだった。未来は今日の延長線上にあると信じていた4人の人生に、突然投げ込まれた交通事故という一つの石。それは、まるでドミノ倒しのように次々と日常生活をなぎ倒していった。
—マリーの運転する車がヨアヒムを轢き、ヨアヒムは全身不随なった絶望からセシリを拒絶し、セシリは悲しみのあまりニルスに慰めを求め、ニルスはいつの間にかセシリに恋をする—。まるで意地悪な天使が退屈しのぎに作ったゲームのようだ。
心に受けた激しい殴打が作った傷を、少しずつ手探りで治していこうとする4人。彼らの傷口は愛で洗われたかと思うと、またその愛で開いてしまう。シンプルで飾り立てない映像が細やかに映し出すのは、4人の男女の姿を借りた様々な愛のデッサンなのだ。一度でも一瞬でも、全力で誰かを愛したことのある人なら、出会った日の恋人をニルスの仕草に、別れた時の恋人をヨアヒムの眼差しに、そしてあの日あの時、確かに身を引き裂かれるような切ない恋をしていた自分自身をセシリの後ろ姿に重ねてしまうに違いない。彼らの弱さに微笑み、したたかさにドキリとし、どんなに傷ついても愛すること、つまりは生きることに希望を抱く純粋さに胸を締め付けられ、いつの間にか涙が頬をつたうのを止めることができない。
ストーリーをかいつまんで話したりしないで、「まずは観てください」と気になる人に伝えたい。4人の誰かに深く共感したならその人は、愛について誰も教えてくれなかったことをもう知っている。『しあわせな孤独』はそんな映画だ。

2002年秋、デンマークで実に8人に1人が同じ1本の映画を観た。それがこの『しあわせな孤独』である。並みいるハリウッドの大作映画を押しのけての大ヒットという快挙を成し遂げたのは、デンマーク国立映画学校卒業後、ミュージックビデオやCMでも活躍しているスザーン・ビール監督。批評家からも高く評価され、国内で数々の賞を受賞した。
今回、ビール監督は「ドグマ」の規則にのっとって撮影している。「ドグマ」とはデンマークでラース・フォン・トリアー監督が中心となって立ち上げたムーヴメントで、セットは使わずに全てロケーション撮影、使用するのは手持ちカメラのみ、人工的な照明は使わないなどの約束を設けている。本作ではその手持ちカメラが、息づかいや微かな表情の動きまで捉えようと俳優たちに容赦なく迫る。ビール監督は、「ドグマ」の手法を使うことによって、人間の内面に深く踏み込み、その真の姿を描き出すことに成功した。
プロデューサーはトリアー監督の『奇跡の海』、カンヌ国際映画祭パルムドールに輝いた『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を手がけたヴィベケ・ウィンデロフ。また、ビール監督と共に脚本を担当したのは『キング・イズ・アライヴ』のアナス・トーマス・イェンセン。日常的なほんの短い会話のやり取りだけで、登場人物のキャラクターから心の動きまでを鮮やかに際立たせている。
セシリに扮するのは主に舞台で活躍し、これが長編映画デビュー作となるソニア・リクター。感情のゆれ幅が大きく、一瞬一瞬で喜怒哀楽を行き来するという難しい役どころを見事に演じた。濁りの微塵もない強く美しい瞳が印象的で、時には不運を逆手にとって自分の欲しいものを手に入れようとするずるささえも彼女が演じることによって共感を勝ち得た。セシリの婚約者のヨアヒムには『イディオッツ』『ゼイ・イート・ドッグス』のニコライ・リー・カース。事故のために全身不随、二度と恋人を抱きしめられないことはもちろん、歩くことすらできなくなり、やり場のない怒りをセシリにぶつける。時間が経つにつれて受け入れていく現実が、果てしなく続く静かな悲しみであることを、まさに顔の表情と声だけで演じきった。彼を車で轢いてしまうマリーには『セレブレーション』、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のパプリカ・スティーン。デンマーク映画界の個性派監督たちに愛されている演技派女優である。マリーの夫でセシリと恋に落ちる医師ニルスにはマッツ・ミクルセン。同情が恋へ、欲望へ、そしてもう戻れない愛へと変わっていく様を時にユーモアをこめて演じ、作品に奥行きとリアリティを与えている。

ストーリー


セシリとヨアヒムは結婚前の幸せな恋人たち。
ニルスとマリーは3人の子供に恵まれた夫婦。
マリーがヨアヒムを車で轢いたことから、4人の男女の人生は一瞬で砕けてしまう。
彼らは愛のかけらを抱きしめながら、痛いほど切ない新たな関係に踏み出した…。
セシリ(ソニア・リクター)は23歳。職業はコック。こじんまりとした温かな雰囲気のレストランで働いている。一緒に暮らしている恋人のヨアヒム(ニコライ・リー・カース)は大学で地理を専攻、あと1年で博士号を取得できる。研究のため外国の山々の地質調査に出かけるのだが、雪崩などの事故に遭わないかセシリは心配でたまらない。
ヨアヒムからセシリヘの贈り物。レストランでディナーの後、デザートの代わりに出てきた婚約指輪。しばらく留守にするお詫びのセクシーなアンダーウェア。
調査旅行に出かけるヨアヒムを車で送るセシリ。外へ降りたヨアヒムに突然、スピードを上げた車が追突する。セシリの視界に刻まれる、地面に広がるヨアヒムの真っ赤な血。
病院のロビーで待ち続けるセシリ。誰も何も教えてくれない。諦めて帰ろうとするが、体が拒絶して車に乗れない……きっともう彼女は二度と車に乗れない。
ヨアヒムが命と引き換えに手放したのは、首から下の全ての感覚と人を想う優しい気持ち。神経外科の女医に暴言を吐き、セシリにも出て行けと怒鳴り、ついに別れを宣言する。
ヨアヒムを轢いてしまったのは医師ニルス(マッツ・ミクルセン)の妻マリー(パプリカ・スティーン)。助手席の娘スティーネと口論していて前方をよく見ていなかったのだ。ヨアヒムはニルスの勤める病院に運ばれる。ショックを受けている妻を思いやるニルスは、代わりにセシリに謝りに行き、相談に乗るからと携帯番号を教える。そんな、ふとしたことから運命の車輪が回り始めたことを、みんなまだ知らない。
ヨアヒムはセシリの面会を拒絶する。無理やり病室に入って彼を抱きしめても一言も答えてはくれない。セシリは泣きながらニルスに電話をかけて来てくれるよう頼む。淋しさのあまり冷たく硬くなった心と体を抱きしめてほしい。セシリはその夜、久しぶりに男の首筋の温かさを額に感じ、寒い肩を包んでくれる腕の心地よさを味わった。
二人の部屋から自分の家具を運び出させるヨアヒム。セシリは、自分の心を見るようなガランとした部屋の中で、ニルスへ気持ちを傾けていく。ニルスは家族といてもセシリのことばかり考えてしまう。自分たちの人には言えない関係を心の片隅に追いやり、始まったばかりの恋に浮き立つ二人。
ニルスからセシリヘの贈り物。二人で座れる黒いレザーのソファ、非実用的なライト、ケンカしても仲直りできそうなベッド。
ニルスの態度がおかしいことに最初に気付いたのは娘のスティーネだった。彼女は父の後をつけ、セシリとの関係を知ってしまう。思い余って夜遅くにセシリを訪ねるスティーネ。セシリはマリーに連絡し、ついにマリーも二人の関係を知ることになる。
何とか冷静に振舞おうとするマリーの感情が爆発したのは、ニルスがセシリの住所をそらで言った時だった。
ニルスはセシリとの恋を選び、家を出た。ところが、セシリに病院からヨアヒムが会いたがっているという連絡が入る。事故の後、初めて明るい瞳でまっすぐにセシリを見るヨアヒム。まるで時間が彼にかけられた悪い魔法を解いてくれたようだ。ヨアヒムの「力を貸してくれ」の言葉にセシリは大きくうなずく。
セシリとの愛のかけらを抱きしめたまま、マリーの元へ帰らないニルス。ニルスのことをふっきれないセシリ。セシリの迷いを感じるヨアヒム。
街はクリスマスの飾りに溢れている。このもつれた糸を解いて、とにかく前へ進むには、ちょうどいい季節かもしれない……。

スタッフ

監督:スザーン・ビール
プロデューサー:ヴィベケ・ウィンデロフ

キャスト

セシリ:ソニア・リクター
ニルス:マッツ・ミクルセン
ヨアヒム:ニコライ・リー・カース
マリー:パプリカ・スティーン
スティン:スティン・ヴジェレガード

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