2003年/日本/ 配給:東宝

2003年11月8日より日劇3ほか東宝洋画系にてロードショー公開 2004年06月11日よりビデオリリース 2004年06月11日よりDVDリリース

公開初日 2003/11/08

配給会社名 0001

解説


猫を愛し、おしゃれで、シックで、おいしいもの好き。好奇心旺盛で、大胆で、せっかちで、気に入ったとなったらとことん愛する。4人きょうだいの長女で、“妹弟”思いで、そしてちょっぴりファザコンで──
テレビドラマで昭和の市井の「家族」と「女性の恋愛」のさまざまな表情を描いて、同時代の女性たちに広く熱く支持されていた向田邦子。
 彼女が書いた、テレビの脚本・エッセイ・小説には、決して明るいだけでなかった“昭和”の時代に、時にシニカルに、時に大らかに逞しく生きたすべての世代の「生」が生き生きと描かれていました。向田邦子が台湾旅行中の飛行機事故で突然この世を去ってから22年経ちます。
しかし今も彼女の作品は当時からのファンを魅了し続け、また近年向田戯曲の舞台化などで新たなファンを獲得しつつ、その人気は衰えることを知りません。
これは、景気の低迷などで漠然とした社会不安が漂い、またよりどころとなる最小単位の≪家族≫でさえ崩壊しかかっている現在、彼女がずっと書き続けていた「家族への回帰」というテーマが、今の人達に求められているからかもしれません。
年老いた父親に愛人と隠し子疑惑が発覚。その対応に大わらわする竹沢家の4姉妹。でも、実は彼女たちもお互い人には言えないそれぞれの問題を抱えていた…。
「阿修羅のごとく」は、昭和54(1979)年NHKで放映された、向田邦子脚本の傑作ドラマです。放送当時、女性を阿修羅像に形容した設定と、そのショッキングなセリフまわしや赤裸々に描かれる家族間の愛憎劇が女性視聴者の圧倒的な支持を集めました。
この向田邦子の「傑作ドラマ」を、「それから」(原作・夏目漱石)「失楽園」(原作・渡辺淳一)でコンビを組んだ筒井ともみの脚本を得て森田芳光が映画化。昭和54年当時の舞台設定はそのままに、まったく新しい劇場版「阿修羅のごとく」として2003年11月スクリーンに登場させます!
 阿修羅とは、表面的には、仁義礼智信を揚げるかに見えるものの、内には猜疑心が強く、互いに事実を曲げまたいつわって他人の悪口を言い合い、言い争いの象徴とされるインド民間信仰上の神の事。この物語では、まるで阿修羅のごとく、竹沢家の四姉妹が本音をぶつけ合い、悪口をいい、お互いの不幸をねたんだり、ほくそえんだりしますが、逆にその底辺には親身になって相手を思いやる暖かい感情が流れています。向田邦子は、女性を阿修羅にたとえながら、そこにある本当の家族の姿や、親子の感情の機微を見事に描き出したのです。
今回24年ぶりの「阿修羅のごとく」映像化にあたっては、劇場版ならではの四姉妹が実現しました。華道の師匠でありながら出入りしている料亭の主人と不倫中の未亡人、長女・綱子役に大竹しのぶ。一見平穏な生活を送っているかに見えて、実は夫の浮気を疑っている次女・巻子役に黒木瞳。あまりにも恋愛下手の為、いまだ独身で四女に嫉妬している三女・滝子役に深津絵里。そして、連戦連敗ボクサーの卵と同棲中の四女・咲子役に深田恭子。各世代を代表する個性的な女優が、時に美しく、時に恐ろしいそれぞれの〈阿修羅な生き物〉を演じます。
 美しい日本の四季を通じて描かれていく、四姉妹と彼女たちを取り巻く人達の喜怒哀楽。向田邦子は、昭和の日本人の「品」を漂わせながら、優しくも辛らつな視点で、四つの「愛」の形を描きました。長女綱子の、偲ぶ愛。次女巻子の素直に信じられなくなった愛。三女滝子の遅咲きながらも純粋な愛。四女咲子の、若々しく激しい愛。そこには、まるで阿修羅像のように、心の内側で考えたことと違うことを口にし行動する、そんな女性たちの「性」が見事に活写されています。そしてこの普遍的なテーマは、21世紀の今こそ、私たちに様々な問いを投げかけてくるようです。
さらに今回の映画化にあたっては、森田監督の絶妙なテンポの演出が、登場人物をどこか憎めない、ちょっと笑ってしまうキャラクターに仕立てていきます。それは、「姉妹ってへんなもんね。ねたみ、そねみも、すごく強いの。そのくせ、姉妹が不幸になるとやっぱりたまんない…。」という言葉に集約されているように“家族の絆が持つ温かさ”という作品テーマに帰着します。
向田ワールドの到達点ともいえる名作が、演技派俳優陣による丁々発止の競演、そして森田監督の絶妙な演出と三位一体となり、「美しくも恐ろしく、時に深刻で、でも可笑しくてどこかほっとする」4つの「愛」の物語として、この秋よみがえります。

ストーリー

 姉妹というものは、ひとつ莢の中に育つ豆のようなものだと思う。大きく実り、時期がきてはじけると、暮らしも考え方もバラバラになってしまう。うちは4人姉妹だが、冠婚葬祭でもないと、滅多に揃うことはない。ところが最近、偶然のことから、老いた父に、ひそかに付き合っている女性のいることが判ってしまった…
 昭和54年冬。三女・滝子の突然の呼びかけで、久し振りに竹沢家の4姉妹が集まった。70才を迎える父・恒太郎に、愛人と子供がいるというのだ。俄かには信じられないが、滝子の雇った探偵の写真には、見知らぬ女性と子供と写る父の姿があった・・・母・ふじの耳には入れないようにしよう、と約束する姉妹。
 この事件を機に、一見平和に見えた女たちがそれぞれに抱える、日常のさまざまな事件が露呈してくる。
 未亡人の長女・綱子は、華道の師匠で生計を立てており、出入りの料亭の妻子ある男性と付き合っているが、その妻に勘付かれてしまう。次女の巻子は、サラリーマンの夫と2人の子供と平凡な家庭を営んでいる。最近夫の浮気を疑い始め、ノイローゼ気味。図書館に勤める三女の滝子は、潔癖症の性格が災いして嫁き遅れている。父の愛人の調査を頼んだ内気な青年・勝又と恋愛感情はあるのだが、その恋はなかなか進展しない。四女の咲子は、売れないボクサー・陣内と同棲中。新人戦に勝ったあと、家族に紹介し結婚しようと思っている。母・ふじだけは、夫の愛人問題も耳に入っていないのか、泰然と日常を過ごしているようだった・・・
 季節が移り、滝子はようやく勝又と結ばれ、結婚に至る。その結婚式場に現れた咲子と、今はチャンピオンになり結婚した陣内だったが、控え室で陣内は倒れ、間もなく失明してしまう。夫のことで心乱れる咲子を襲うアクシデント。そのとき、敢然と事に立ち向かったのは、咲子と普段何かとぶつかることの多い滝子だった。
 父の騒動でも、母の身の上に急展開が生じた。巻子が、恒太郎の愛人宅の前に行ってみると、そこには呆然とドアを見つめる ふじの姿があった。母はいつの間に知ったのだろう・・・老いた母の心にも「阿修羅」が宿っているのか。巻子の姿を認めた時、ショックで倒れてしまう ふじ。病院に担ぎ込まれたが、ふじの意識が戻ることはなかった・・・
 結局、ひとりぼっちになってしまった父を、少し複雑な思いを抱きながら見守る4姉妹たち。さまざまな事件が過ぎ去って、竹沢家の茶の間で談笑するみんなに、それぞれの人生の新しい季節がやってこようとしていた。

スタッフ

監督:森田芳光
原作:向田邦子「阿修羅のごとく」より
脚本:筒井ともみ
製作:本間英行
プロデューサー:市川 南
アソシエイト・プロデューサー:春名 慶、三沢和子
撮影:北 信康
美術:山崎秀満
録音:橋本文雄
音楽:大島ミチル
照明:渡辺孝一
編集:田中愼二
助監督:杉山泰一
製作主任:橋本靖
製作担当者:川田尚広

キャスト

三田村綱子(長女):大竹しのぶ
里見巻子(次女):黒木瞳
竹沢滝子(三女):深津絵里
神内咲子(四女):深田恭子
里見鷹男:小林薫
勝又静男:中村獅童
神内英光:RIKIYA
枡川豊子:桃井かおり
[10代目]枡川貞治:坂東三津五郎
赤木啓子:木村佳乃
緒方:益岡徹
里見洋子:長澤まさみ
土屋知子:紺野美沙子
竹沢ふじ八千草薫
竹沢恒太郎:仲代達矢

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