ナイン・ソウルズ

監督デビュー作の『ポルノスター』で社会に対する理由のない苛立ちと衝動を描き、日本映画監督協会新人賞を受賞、続く『アンチェイン』では様々なリングで闘う4人のボクサーを5年に渡り追いかけるなど、常に人々の魂を揺さぶり続け、カリスマ的な人気を誇る豊田利晃監督。3作目の『青い春』では、若者たちの退屈で無感情な日々、閉塞感を鮮烈に描き、新しい若者の群像として高い評価を得、大ヒット
を記録した。
　その豊田利晃監督の待望の最新作である『ナイン・ソウルズ』は、何もかもを失った者たちが本当に必要なものを探し、求め、それを再び取り戻していく姿を、豊田監督ならではのあたたかなユーモアと鋭利な視線、そして現代社会に投げかける強烈なメッセージを込めて描き出している。世間から隔絶されたある刑務所。偶然見つけた穴から脱走に成功した9人の男たち。目的がある者、勢いで脱獄した者。さまざまな想いを抱えながらも、彼らは１台のバンに同乗し、富士山麓の小学校に隠された大金を目指す。しかし、苦労の末、ようやく辿り着いた先で見つけたのは大金ではなく、小さなガラスの鍵だった。ガセネタだとわかり途方に暮れる9人。だが、旅を続けるうち、彼らの心には生まれて初めての充実感と新たな決意が生まれていた。そして9人の旅の目的は、それぞれが囚われる前にやり残したことへの決着へと変わっていく。果たして彼らの決着とは…。
豊田監督は常に、現代社会にはびこる閉塞感を鋭敏に捉えている。その閉塞感はひとりひとりの人間が内包し、自らが作り出しているものともいえるのだ。そんな世界で、わずかな夢、ささやかな幸せ、手の届きそうな願いを持って生きようとするには、人間同士が集まることで何かが始まるという奇跡を信じるしかないのかもしれない。
誰とも歩み寄ることができず、バラバラに生きてきた9人の男たちが、しだいに互いの存在を許しあい、気持ちを通い合わせ、強い絆で結ばれていく姿は、ある種の希望さえ与えてくれる。そして、男たちの絶妙な絡み合いは、哀しみを越えた笑いをも生み出す。彼らはそれぞれの魂が求めるものを見つけ、その方向へと同時に走り出し、自らの人生を全うすべく加速していくのだ。

こんな9人の男たちには、強力で個性的な俳優が集結した。主演は『青い春』の主人公、九條役などでその傑出した才能をいかんなく放つ松田龍平。CM「鬼武者2」でも豊田監督と組むなど、監督とは絶大な信頼を寄せ合っ
ている。9人のリーダー的存在には、日本を代表する俳優である名優、原田芳雄。その他、『ポルノスター』の主役で強烈な印象を残した千原浩史、『ポルノスター』『青い春』等での荒々しい存在感が光る鬼丸、一筋縄ではいかない独自の笑いのスタイルを確立している板尾創路、ファッション誌などでモデルとしても活躍中のKEE、マジシャンとしてデビューし『青い春』での名演も注目を浴びたマメ山田、『パルコフィクション』などで監督としても高い才能を認められている鈴木卓爾、そして『神様の愛い奴』の監督・プロデュースで世間を騒然とさせた大宮イチが、大楽源太と改名して出演している。
また、本作品で美しいウェディングドレス姿を披露する松たか子、ストリッパーという大胆な役柄を可憐に演じる伊東美咲をはじめ、京野ことみ、唯野未歩子、今宿麻美、鈴木杏といった豪華な女優陣が、男たちのドラマを見届ける重要な役どころとして出演している。その他にも、『青い春』のオバケ役で静かな存在感を発揮した瑛太や國
村隼、北村一輝、井上順等が脇を固めている。音楽は、『ポルノスター』の映画音楽も担当したdip。7月にはオリジナルサウンドトラック<9souls>とオリジナルニューアルバムをリトルモア・レコーズより2枚同時にリリースする。閉じこめていた自分の魂を解き放つ時、そこにどんな光を見つけるのだろうか。