原題:CATHARSIS

2002年/日本/35mm/カラー/アメリカン・ヴィスタサイズ/113分 配給:アルゴ・ピクチャーズ

2003年11月8日(土)より新宿武蔵野館にてレイトロードショー公開  

公開初日 2003/11/08

配給会社名 0090

解説


神戸児童連続殺傷事件、佐賀バスジャック事件、長崎幼児殺害事件、米国コロンバイン高校乱射事件等、世界中で多発するティーンエイジャーの犯罪。この映画は、連続少女殺人事件を犯した少年とその家族が、再生と希望を模索する物語。
監督は、数多くのTVドキュメンタリー番組の演出を経て、処女作『青の塔』が各国映画祭で話題をさらった坂口香津美。長編2作目となる本作では、自身の故郷である鹿児島県種子島を舞台に、日本的な精神風土を根底に据えながら、自然の摂理である生と死の根源的なテーマに挑んだ。生と死の本質を、美しい南の島を舞台に、「次代の生を養うための死」の意味さえ込めて描き出している。
愛する家族が罪を犯したときに、あなたにできることは何か。罪を償うとは。罪を犯した者に、救済はあり得るのか。加害者の少年とその家族が、あなたの住む街にやって来たとき、あなたは彼らをどのように受け入れることができるのか。『カタルシス』は、この重いテーマを静かに私たちに投げかける。
少年の母親を演じるのは、『さらば愛しき大地』、『火垂』の体当たりの演技が絶賛されたベテラン女優・山口美也子。父親役に「オンシアター自由劇場」出身、内外の舞台で活躍の俳優・真那胡敬二。そして、主人公の加害少年役は、ドラマ「少年H」(CX系)でその演技力が高く評価された尾上寛之。ヒロインで少年の妹役には、「ウルトラマンコスモス」での神秘的な美しさが話題の14歳・斉藤麻衣。弟の昴役を演じ、撮影当時若干9歳ながら圧倒的な演技力を見せた大高力也は、子役としてすでに豊富な経験を持つ。叔父役には国際的な武道家(大道塾代表師範)の東孝。叔父の妻役で、南の島で生きる女性の情愛と逞しさを好演した川上麻衣子は、最近ではテレビ、映画に加えて、舞台女優としても活躍の幅を広げている。叔父の長女役の谷口舞は、撮影当時11歳で、聖なる島の少女を透明感のある凛々しさで好演。叔父の次女役の園田萌絵は、亜熱帯の光と風土が生んだ種子島初の期待の新人。
音楽は、『楢山節考』『影武者』『うなぎ』でカンヌ映画祭パルムドール受賞三作品の音楽を手掛けた巨匠・池辺晋一郎。本作では、池辺自身がピアノ演奏も手掛けた。ヴァイオリン演奏と映画初出演は、本年度出光音楽賞受賞の17歳の国際派、神尾真由子。全篇に流れる楽曲は、南の島の海に降り注ぐ光のように、厳かで美しい。
撮影の長谷川貴士は、テレビの録音技師出身で、監督の坂口香津美の第1作『青の塔』で撮影デビュー、2作目となる本作でも坂口とパートナーを組み、独自の映像感性を発揮した。照明の佐藤譲は、国内外で評価の高い多数の日本映画を手掛けてきたベテランの技で神話的世界を光の表現で構築した。録音の田中博信は南の島の大自然の息吹と人物の内面世界を繊細かつダイナミックに捉えた。美術の松尾文子の手による、印象的なセットの数々、細部にまでこだわった表現は、人物の心理を浮き彫りにした。スチールの渡邊俊夫は、詩情をたたえる世界を表現。美術協力の磯見俊裕は、家族が向かい合う小屋のデザイン、美しさが鮮烈な葬儀シーンと笹の舟等、南方文化の色濃い血を織り交ぜながら、美術を全面的にサポートした。音響デザインの本田孜は、メジャーからインディーズまで綿密な音楽設計で数多くの録音を手掛けてきた日本映画界のベテラン。
宣伝美術の廣村正彰は、広告からグラフィック、空間デザインと、その活動は内外まで幅広く、多岐に及ぶ広告デザイン界の草分けだが、今回、映画の宣伝美術を初めて手がけ、本作に新たな視点を与えた。写真提供の藤原新也は、現代を代表する写真家であり、思想家である。その哲人が捉えた祈りのような一瞬の「沼に咲く赤い蓮の花」のポスターは、「この世に生まれた罪と愛、二つの真実を表現している」とドイツの映画祭で評判を呼んだ。

ストーリー



東京近郊の新興住宅街で、少女連続殺人事件が発生する。事件の加害者として逮捕された14歳の少年、大野南青紀の家族はそれぞれ名前を変え、見知らぬ土地で離ればなれに暮らしていた。
事件から3年後、南青紀が少年院を仮退院する日と同じくして、危篤状態にあるという郷里の母の臨終に立ち会うために、母の永遠子は家族とともに遥か九州のとある離島へと帰ることを決意する。南青紀にとって祖母は、幼い頃から両親と離れ、六歳の頃まで島で育ててくれた母親代わりの存在だった。事件後、初めて家族は再会する。兄の事件現場を目撃した長女の花鷲見は口がきけなくなっていた。
フェリーを乗り継いで数日間かけてたどり着いた島の港には、永遠子の弟の悟史とその家族が出迎えた。永遠子の家族は悟史に案内され、周囲の目を避けるように、人里離れた海辺の漁師小屋で生活を始める。だが、そこはすでに安息の地ではなく、加害者の家族として厳しい現実と直面することになる。
一方、姉の家族をひそかに迎え入れた悟史は、加害少年南青紀の血縁でありながら、郷里を出た長男を何者かに車で轢き殺された「被害者」の親でもある。しかも、犯人は未だ捕まっていない。甥っ子・南青紀の叔父である悟史は、加害者と被害者、双方の立場で苦悩する。
事件後、初めて一つ小屋の中で生活を共にする家族。永遠子は臨終を前にした物言わぬ母の姿に自己の存在を揺さぶられる。父親の由起夫は罪を犯した息子を受け入れることができず、幼い頃の息子との思い出に耽溺していた。花鷲見もまた、最愛の兄が犯した罪によって受けた心的後遺症に苦しんでいた。次男の昴にもまた、兄の事件が黒い影を落としつつあった。孤立した島での生活は家族に否応なく変革を迫る。
そして、訪れた祖母の死。島には「南方楽土」に旅立つ死者の棺を笹の小舟に載せて、波音を聞かせながら死者の魂を供養する慣習がある。その際、歌われる子守唄は、赤子になって再びこの世界へ戻って来るように、との島人の永遠の祈りが込められていた。数日後、小舟に家族は身を寄せている。その時、南青紀の目は何かを捉える。小舟を飛び下り、導かれるように駆け出す。波打ち際に倒れ、死に間際の身重の少女を父親の由起夫と共に救い上げる。新しい生命の誕生。南青紀はかけがえのない命の根源に触れた。「罪」を自覚した南青紀は、自らの行為によって生きる基盤を揺さぶられる。二つの命を救った行為に対して、島の人々は灯籠を流すことで、南青紀の犯した事件の被害者の御霊を供養する。岬に虹が出た日、家族はドラム缶で風呂を湧かした。風呂に浸かる末っ子の昴を囲んで家族は一つになる。慈しむように過ぎ去る時間。その夜、一家揃っての食事は、家族が忘れかけていた幸せの記憶を呼び覚ました。
翌朝、島は暴風雨に包まれる。その中を、昴と花鷲見を残して、両親と南青紀は新しい世界へと旅立つ。自責と後悔の念に苛まれながら、彼らを悼むように悟史は弔いの鐘を突き続ける。残された姉と弟はこれから二人で生きることを決意する。叔父の家族が見守る中、聖なる浜辺に立つ花鷲見に、天上から光が降り注ぎ、その瞬間彼女は言葉を取り戻した。

スタッフ

監督・脚本・編集:坂口香津美
撮影:長谷川貴士
照明:佐藤譲
音響デザイン:本田孜
録音:田中博信
美術:松尾文子
美術協力:磯見俊裕
音楽:池辺晋一郎
Violin:神尾真由子
Piano:池辺晋一郎
スチール:渡邉俊夫
メイクアップ:如月悠里
スタイリスト:荒木里枝
ヘアスタイリスト:白田和彦
制作主任:石原正信
方言指導:茅切妙香
助監督:西海枝良
撮影助手:下村哲郎
照明助手:榊野亜樹子
録音助手:大島宏樹
美術助手:橋本創
制作:影山孝史/恵美奈枝/上江洲太三/江上勲/土田知奈
CG:金大雄/西高志
編集オペレーター:堤哲雄
タイトル:吉田淳
音楽録音:古川健司
HDカラコレ:橋詰秀夫
HDレーザーシネマ:高野光啓/渥美大輔
光学リレコ:福田誠
タイミング:上野芳弘
プロデューサー:落合篤子

キャスト

母/永遠子:山口美也子
父/由紀夫:真那胡敬二
長男/南青紀:尾上寛之
妹/花鷲見:斉藤麻衣
弟/昴:大高力也
叔父/悟史:東孝(特別出演)
叔母/渚:川上麻衣子
叔父の長女/まひる:谷口舞
叔父の次女/果蓮:園田萌絵(新人)
芙蓉:神尾真由子(特別出演)
少年院教官:金子浩子、外村史郎、北條隆男
祖母/なぎ:中脇ケイ子
島の長老:長田實
身重の少女:木地山まみ
種子島のみなさん

LINK

□公式サイト
□この作品のインタビューを見る
□この作品に関する情報をもっと探す