原題:Ten Minutes Older: The Cello

知の森では、この10分が永遠となる。

2002年12月19日ドイツ初公開

2002年/イギリス・ドイツ・スペイン・オランダ・フィンランド・中国/カラー・モノクロ/106分/ 配給:日活

2004年07月09日よりDVD発売開始 2003年12月20日より日比谷シャンテ・シネにて公開

公開初日 2003/12/20

配給会社名 0006

解説

『10ミニッツ・オールダー イデアの森』の8作それぞれは、西洋・東洋の哲学者たちが地上から宇宙へと思いを馳せて思索した“時間の謎”に挑む8人の監督たちの知識のエッセンスが満ち溢れている。
遥かな時代にインド、ギリシャの哲人たちが捉えた“時間”の正体。しかしその概念は、「永遠の回答」とはならず、“時間”を巡る考察は、現在もまだ永遠のテーマである。『イデアの森』は過去、現在、未来—遥かなる時空を超えて、“時間の謎”を解き明かす8人の巨匠監督たちの限りない知への探求である。
故郷・イタリアを舞台に独特の映像美と秀逸なストーリーで魅せるベルトルッチ。4分割画面、10分間ワンカット、というセンセーショナルな手法を取り入れたマイク・フィギス。『つながれたヒバリ』で東欧を代表する監督となったイジー・メンツェルが実在の老優の人生を10分に凝縮した耽美的一作。『メフィスト』でカンヌ ダブル受賞を果したイシュトヴァン・サボーが「一寸先の闇」を描いた異色作。ヴィンセント・ギャロ主演『ガーゴイル』で新境地を開拓したクレール・ドゥニがジャン=リュック・ナンシーを主演に据えて展開する現代哲学論。『ブリキの太鼓』でカンヌ パルム・ドール受賞監督となったフォルカー・シュレンドルフはアウグスティヌスの「告白」を独自の解釈で表現する。日本中を涙で包んだ大ヒット作『イル・ポスティーノ』監督マイケル・ラドフォードは宇宙時間の不可思議さを描く。そして、ラストを飾るのはジャン=リュック・ゴダール。1本1分の映像を10本、という贅沢な10分を用意した。
本作は、2002年のヴェネチア国際映画祭特別招待作品として上映され、『10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』に続き、いまだかつてない壮大なプロジェクトの締めくくりとして、世界中の注目を集めた。

●ベルナルド・ベルトルッチ「水の寓話」
一日千秋の思いで水を待つ男の話を通して描く時間の絶対性と相対性。インドの寓話をベースに、ベルトルッチが故郷・イタリアを舞台に独特の映像美と秀逸なストーリーで魅せる。

●マイク・フィギス「時代×4」
マイク・フィギスは、「Timecode」、『HOTEL』に続く、4分割のスクリーン、そして10分間ワンカットというセンセーショナルな手法を取り入れ、“記憶の不連続性”から時間にアプローチした。4分割のスクリーンの中で、映画はシンプルに、現在を通して過去と未来を探っていく。互いにつながりながらも、それぞれの部屋は異なった時間軸の中にある。ベケットやシーガルらに敬意を持って共感を示したような作品、とフィギスは語る。

●イジー・メンツェル「老優の一瞬」
『つながれたヒバリ』で東欧を代表する監督となったイジー・メンツェルが、同作出演後、30年近くの交流があった老優ルドルフ・フルシンスキーの人生を10分に凝縮した耽美的一作。ルドルフ・フルシンスキーは、イジー・メンツェルの代表作のひとつでもある85年の作品『スイート・スイート・ビレッジ』にも出演。アメリカ、イギリス映画にも数多く出演し、生涯の出演作は120作を越える。惜しまれながらも94年に74歳で逝去した。

●イシュトヴァン・サボー「10分後」
『メフィスト』で81年のアカデミー賞外国語映画賞を受賞したイシュトヴァン・サボーは、倦怠期にさしかかったある夫婦の日常を通して神のみぞ知る人生の一寸先の“未知の時間”を描く。

●クレール・ドゥニ「ジャン=リュック・ナンシーとの対話」
目的地までの時間をひた走る急行列車。そのコンパートメントの中では、哲学者のジャン=リュック・ナンシーと若い女性・アナのふたりが時を忘れさせるほどの熱い議論を交わしている。ジャン=リュック・ナンシーは、心臓移植手術を受け他人の心臓によって生きている自分を省みて、他者と自己の関係を模索し続ける、実在の現代フランスを代表する哲学者。
運行時間とそれを上回る濃密な時間の対比が印象的な10分は、ヴィンセント・ギャロ主演『ガーゴイル』で新境地を開拓したクレール・ドゥニが展開する現代哲学論とも言える。なお、ドゥニは『10ミニッツ・オールダー』2作合わせて、唯一の女性監督である。

●フォルカー・シュレンドルフ「啓示されし者」
『ブリキの太鼓』でカンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞監督となったフォルカー・シュレンドルフは、ギリシャの哲学者アウグスティヌスの「告白」を原典に、蚊のモノローグを通して<過去の現在・現在の現在・未来の現在>という異なる“三つの「現在」”の概念に迫る。

●マイケル・ラドフォード「星に魅せられて」
日本中を涙で包んだ大ヒット作『イル・ポスティーノ』の監督、マイケル・ラドフォードは、80光年のタイムトラベルから帰還した宇宙飛行士の体験を通して“銀河時間”の不可思議さを描く。主演は、『ロード・トゥ・パーディション』の熱演も記憶に新しいダニエル・クレイグ。

●ジャン=リュック・ゴダール「時間の闇の中で」
時間に“最後の瞬間”が訪れるのか。「愛」「歴史」「静寂」「恐怖」「永遠」等、10のエピソードの“最後の瞬間”を映し出す中で、〈時間の闇=映画〉こそが「永遠」というメッセージを残す。
映画監督の代名詞とも言えるゴダールは、1本1分の映像を10本という贅沢な10分を用意した。

ストーリー

●ベルナルド・ベルトルッチ「水の寓話」
仲間と一緒に国を逃げてきた男たちは、イタリアの片田舎に着いた。老人の一人が群れから離れて違う方向にむかう姿を見た青年ナラーダは「どこにいくのだ?」と問いかける。木の下で立ち止まると老人は、「のどが乾いたので水を運んできてくれるか」、とナラーダに頼む。彼が川に辿り着くと、そこにひとりの美しい女性が通りかかった。故障してしまったバイクと悪戦苦闘しているようだ。言葉は通じなくても、二人は、見つめ合うと好意を抱き始める。彼は、彼女が村まで荷物を運ぶのを手伝った。二人は結婚し、子供を授かり、数年が経つ。そんな幸せな毎日を過ごすある日、ナラーダは車を購入する。大喜びの家族は、揃ってドライブに出かけた。しかしせっかくの車は、不慮の事故によって川に落ちてしまう。途方にくれてしまった彼だが、何かに導かれるように歩き出す。木の下にはあの老人がいた。老人は、「兄弟よ、水を探してどこまで行った。朝からずっと待ってたよ」と語りかけた。

●マイク・フィギス「時代×4」
長い廊下によってつながっている4つの部屋。それぞれの部屋は、一人の男の異なる記憶の瞬間をたどっている。
最初の部屋は、自叙伝を書こうとしている男がいる。恋人についての一段落にかかっているところだ。2つ目の部屋にいるのは、第二次世界大戦の戦争のおもちゃで遊ぶ少年。隣接する部屋の断片は、ブルーに輝いている。ふたりの若いカップルがいるのは、3つ目の部屋だ。女性がピアノを弾き、男性は60年代の歌を歌っている。お互い強く惹かれ合い、性的欲求を隠せずにいる。セックスを遂げたいが、どうにもそれは不可能のようだ。そして4つ目の部屋には、古いテレビセットが置かれている。片方には、年老いた男性、もう片方には、年老いた女性が映っている。お互いをテレビ越しに見ながら二人は会話を続ける。

●イジー・メンツェル「老優の一瞬」
チェコを代表する俳優にふさわしく、数多くの出演作からいくつかのシーンを使って10分は構成されている。そこには、一人の人間と映画の歴史が目に見える形で年を重ねていく様子がおさめられており、人生は長くない、一瞬のものであると語りかけてくる。過去の作品からの見事な映像がコラージュされた本作品には、メンツェルのちょっと風変わりで、それでいてうっとりさせられるユーモアが、余すところ無く表現されている。

●イシュトヴァン・サボー「10分後」
40代後半の女性が、ブダぺストのアパートでお祝いの食卓を整えている。センスのよい家具、古い時計、絵画、そして置かれている本は中流階級そのものだ。食事の用意が整った時、玄関のベルが鳴った。
彼女の夫は、ふたりの同僚に連れられて帰ってきた。なんとか家の中に押し込められている様子から、明らかに泥酔状態である。
ほとんど酔うことのない夫が酔っ払っているのを妻は滑稽に思った。そして飲むことのないビールを要求した時に、何かがおかしいことに気づく。キッチン、ダイニングでビールを探しまわった夫は、最後には怒りにまかせケーキを壊してしまう。妻はベッドルームで寝かしつけようとしたが、夫の抵抗はひどくなる一方だ。アパートを追いまわす夫から逃れようとするができない。最後にはケーキナイフを手にして、妻は勢いで夫を刺してしまう。

●クレール・ドゥニ「ジャン=リュック・ナンシーとの対話」
哲学者ジャン=リュック・ナンシーと若い女性アナ・サマルジャは、車中で会話を交わしている。アナはフランス人でないことにコンプレックスを抱えているようだ。
J=L・ナンシー:「君はフランスに来て皆の中に埋没したいと思ったそうだが、おかしいね。人の視界に入らないのと同じことだ。外国人に見られたくなかったということか?」
アナ:「ええ、この国の一員として混ざりたかったの」

●フォルカー・シュレンドルフ「啓示されし者」
我々を懸命に追いかけている時間と出来事が、通りすぎた途端に記憶と化してしまう世界。
ボートの年老いた男。
海に釣り竿をたらす少年。
妊娠した娘が、アフリカ系のボーイフレンドを紹介するために、キャンプ中の家族を訪れる。
一体時間とは何なのか?
誰がそれを説明できるのか?
そもそも、明確にそのことについて思考することすら可能なのだろうか?
にもかかわらず、時間をおいて他に、こんなにも我々に馴染みがあっていつも「今ここに存在する」というものがあるだろうか?

●マイケル・ラドフォード「星に魅せられて」
宇宙飛行士セシル・トーマスは、80光年の旅を終えて、遥か彼方、銀河系の外から帰還した。胸をよぎるのは、もちろん家族のことだ。
地球は西暦2146年出迎えたのはアンドロイドの女性、シャワーを浴びながら預金残高を指一本でチェックできる世の中に変わっていた。そして、医師による検査を受けたところ、彼の身体は飛行の間、10分間しか歳をとっていないことが判明した。
しばらく歩いているとひとりの女性に声を掛けられる。案内された先には年老いた息子がいた…。悲しい現実に直面しながらも、トーマスはまた宇宙に戻っていく。運命に従うかのように。

●ジャン=リュック・ゴダール「時間の闇の中で」
ゴダールの近年の独創的作品に顕著な、ビデオと映画の精巧なモンタージュを駆使して構成されている10分。自身の作品『フォーエヴァー・モーツアルト』、『メイド・イン・USA』、『小さな兵隊』、『ゴダールのリア王』、『女と男のいる舗道』ほか、パゾリーニの『奇跡の丘』や第二次世界大戦、ホロコーストなどの歴史的アーカイヴが使用され、時間について検証された複雑で刺激的な、かつ美しい10分間の世界を構築している。

スタッフ

監督:ベルナルド・ベルトルッチ、マイク・フィギス、イジー・メンツェル、イシュトヴァン・サボー、
クレール・ドゥニ、フォルカー・シュレンドルフ、マイク・ラドフォード、ジャン=リュック・ゴダール
音楽:ポール・イングリッシュビー
エグゼクティブ・プロデューサー、プロデューサー:ウルリッヒ・フェルスバーグ
プロデューサー:ニコラス・マクリントック、ナイジェル・トーマス

キャスト

「水の寓話」
アミット・ラヤニ・アロッツ、ヴェレリア・ブルーニ・テデスキ、タルン・ベディ

「時代×4」
マーク・ロング、ハワード・ゴーニー、ドミニク・ウエスト、マリア・チャールズ、アレクサンドラ・ステイドン

「老優の一瞬」
ルドルフ・フルシンスキー

「10分後」
イルディコ・バンサギィ、ガブール・マテ

「ジャン=リュック・ナンシーとの対話」
ジャン=リュック・ナンシー、アナ・サマルジャ

「啓示されし者」
ビビアナ・ベグロー、イルム・ハーマン

「星に魅せられて」
ダニエル・クレイグ、ローランド・ギフト、クレア・アダモソン

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