原題:Ten Minutes Older: The Trumpet

生きるとは、この10分を生きること。

2002年12月19日ドイツ初公開

2002年/イギリス・ドイツ・スペイン・オランダ・フィンランド・中国/カラー・モノクロ/92分/ 配給:日活

2004年07月09日よりDVD発売開始 2003年12月13日より恵比寿ガーデンシネマにて公開

公開初日 2003/12/13

配給会社名 0006

解説


『10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』は7人の監督が、“結婚・誕生・進化・孤独・死・運・郷愁”—誰の人生にも訪れる7つの出来事を10分という短い時間に凝縮させ、それぞれの珠玉を生みだした。7人の監督たちが描いた人生の出来事は、何気ない普段の生活の中にこそ、大切なことがあるとあらためて気づかせてくれる。それぞれの10分ずつの人生を一つにまとめたとき、あたかも一人の人生を体験するような充実感と重量感が生まれ、そしてそれらはメビウスの輪のように連なっていく。まるで、人生は前に進むしかないのだと7人の監督が語っているかのようだ。
『過去のない男』の前夜とも呼べる、寡黙なラブストーリーを仕上げたカウリスマキ。映画ファンが最も新作を待ち望む監督、ビクトル・エリセは、“誕生と家族”をテーマに描いた10年ぶりの新作。作品を発表するたびに物議を醸し出す、ヘルツォークがあらたに投げかける問題作。そのスタイリッシュな作風から、映画界のみならず各界アーティストからリスペクトされてやまないジャームッシュがクロエ・セヴィニーと組んだモノクロームの一作。Road、Rock、Relativityと、これまで追い続けてきた3つの“R”を10分に凝縮させた自作の集大成とも言えるヴェンダース。アメリカ大統領選開票10分前をスリリングなテンポでみせていくスパイク・リー。ハリウッド進出を経て、高まる故郷・中国への想いをあますところなく表現したチェン・カイコー。
それぞれの監督の個性が十二分に堪能できる本作は、2002年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品され、出席したエリセ、ジャームッシュ、ヴェンダースという夢の3ショットに世界中のジャーナリストが殺到した。

●アキ・カウリスマキ「結婚は10分で決める」
『過去のない男』の名コンビ、カティ・オウティネンとマルク・ペルトラ主演、同じく『過去のない男』に出演のロックバンド、マルコ・ハーヴィスト&ポウタハウカも登場するカウリスマキらしい寡黙なラブストーリー。刑務所から出所したばかりの男がたった10分で決めた“結婚”を描く。

●ビクトル・エリセ「ライフライン」
『マルメロの陽光』から10年。世界中の映画ファンが待ち望んだビクトル・エリセの新作が誕生した。しのびよる戦争の影に覆われた小さな村に響く新たな生命の“誕生”の物語。舞台はスペインの片田舎。静かで緊密なモノクロームの画面の中に、暑い夏の午後の牧歌的雰囲気が漂う。エリセが生まれた年と同じ、1940年の物語。静けさの中にも、第二次世界大戦突入の混沌とした不穏な空気が見え隠れする。自ら自叙伝的な作品と語る、パーソナルな一作。

●ヴェルナー・ヘルツォーク「失われた一万年」
新作を発表する度に、物議を醸し出す異才・ヘルツォークが新たに投げかける異色作は、ブラジルとボリビアの国境付近、アマゾンのジャングルの奥地に81年まで住んでいたウルイウ族についてのドキュメンタリーだ。“進化”とは何かを考えさせられる一作。

●ジム・ジャームッシュ「女優のブレイクタイム」
映画界に対する冷静、かつロマンチックなまなざしで展開される女優の“孤独”。クロエ・セヴィニー演じる女優が、トレイラーで過ごすブレイクタイムは10分しかない。まわりの手厚いケアが彼女を追い込んでいくアイロニック物語。抑えたタッチのモノクロフィルムで、シーンとシーンの間に、何かを予感させながら何も起きない、というジャームッシュらしさを存分に楽しめる一作だ。

●ヴィム・ヴェンダース「トローナからの12マイル」
Road、Rock、Relativityと、これまで追いつづけてきた3つの“R”を10分におさめたヴェンダース。砂漠のど真ん中でのバッド・トリップを経験し、意識を失いかけながら迫り来る悪夢の隣り合わせにある“死”を描く。

●スパイク・リー「ゴアVSブッシュ」
2000年11月の米大統領選で破れたゴアの最大の敗因=“運”。コントラストの強いモノクロの映像で、猛烈に鋭くスパイク・リーからの政治的メッセージが発せられる。小気味よい映像のリズムが圧巻な一作。

●チェン・カイコー「夢幻百花」
目まぐるしい変貌を遂げる北京の時の流れについていけずに無垢な男が固執する心の宝石への限りない“郷愁”を描く。チェン・カイコーは、ハリウッド進出を経て高まる故郷・中国への想いをユーモラスかつ哀切な比喩として表現した。

ストーリー

●アキ・カウリスマキ「結婚は10分で決める」
一人の男が留置所から釈放された。路上に出て、男は通行人に次のモスクワ行きの汽車の時刻を尋ねる。その足で、自動車修理工場を共同で設立した相棒のところに行き、自分の権利を買い取らせ、その分の金を得る。「シベリアに行って、石油を掘るんだ。そして結婚するんだ」
女はまだ何も知らない。モスクワ行き出発まで、わずかな時間しか残されていない。一刻も早く、女を連れ出し、プロポーズをし、旅立ちを承諾させなければ。
駅に来て、女はふと立ち止まる。「指輪がないのに行けないわ」出発まであと1分。
「どんな指輪が御入用で?結婚ですか婚約ですか?」と尋ねる宝石屋の店員に、
男は答える。「結婚だ!」
そして、二人はモスクワ行きの汽車に座っている。イルクーツク目指して。

●ビクトル・エリセ「ライフライン」
新生児がベッドで眠っている。出産を終えたばかりの母親もまた休んでいる。屋根裏部屋に少年が座り、自分の左腕に時計を描く。腕を耳に付け、音を聞く。チック、タック、チック、タック…。
赤ん坊のおくるみの腹のあたりに小さな血の染みが見える。時間の経過と共に赤ん坊の腹の染みは次第に知らぬ間に大きく広がっていく。そして、赤ん坊は泣き叫び始める。家族は仕事をそのまま放っぽり出して、新生児の部屋に駆けつけ、卓を囲む。産婆が赤ん坊のへその緒を縫い直し、母親はようやく子供を胸に抱くことが叶う。と同時に、世界を取り囲む不穏な空気は、目の前に迫っているのだった。

●ヴェルナー・ヘルツォーク「失われた一万年」
ウルイウ族は、近代文明との接触をあからさまな暴力によって拒んできた。それでも、押し寄せてくる伐採人と金鉱探しによって、じわじわと追い詰められる。ブラジルのインディオ局は、このような半遊牧の生活を続ける民族との最初の接触は、民族史学者の任であるという認識に達し、探検隊を派遣。その結果、石器時代の暮らしを続けてきた人々が、わずか数週間という超スピードで現代までの足跡をたどることになった。アルミの鍋、カップ、そして病原菌。他の人間が1万年をかけて養ったウィルスや病原菌などに対する抵抗を、ウルイウ族が持つすべもなく、その大半がインフルエンザや水疱瘡などに感染しわずか1年で死に絶えた。
それから、20年。ヘルツォークは、ウルイウ族の居住区域に入った。そこで彼は、かつて戦士だったタリとワポに出会う。野球帽をかぶりTシャツを着ているふたりだが、時計には依然としてなじんでいないようだ。昔の生活の話になると、彼らは活気づく。しかし、彼らの昔の日々は終焉にむけ、今や秒読みの段階に入っている。

●ジム・ジャームッシュ「女優のブレイクタイム」
女優がトレーラーに連れて来られる。1本のタバコを吸うほどの時間が与えられた。緊張を解き、リラックスできるはずの休憩だが。
ヒールの高い靴を脱ぎ、体を伸ばし、タバコに火をつける。BGMはピアノソナタだ。そこに携帯電話が鳴る。ボーイフレンドから!彼女の言葉に親しさが漂う。ドアを叩く音。メーキャップ係が入って来て、ヘアをチェックする。電話は続く。またもやドアを叩く音。今度は録音技師だ。電話の向こうの彼に、さよならのキス。わずか数秒、誰にもじゃまされず、まどろみつつピアノソナタに身をまかせたと思ったら、ドアがノックされる。もう、セットに連れ戻される時間なのだ。

●ヴィム・ヴェンダース「トローナからの12マイル」
男の気分は最悪だ。他の場所だったら病院を探すことなどそれほど難しくないが、現在地はモハーべ砂漠のど真ん中。「トローナ」という名の小さな町にようやく辿り着くが、クリニックと称する場所の看板には、「受付:月曜日から木曜日まで」とある。そう、今日は金曜…。次の町、リッジクレストまで12マイル。どうにかこうにか、10分で着くだろう。しかし、10分は、たちどころに過ぎ去ることもあれば、永遠に続くこともあることを男はまだ知らない。
この短い旅は、まさに文字通りバッド・トリップになる。ドラッグの入ったクッキーを食べてしまったことが原因らしい。なんとかして、この状況から引きずり出してもらわねばならない。道路が溶け出している。自分の目も耳も全てが信じられなくなってきた。

●スパイク・リー「ゴアVSブッシュ」
民主党の大統領候補アル・ゴアの陣営にいた選挙戦略アドバイザーや腹心らが集まって、アメリカ大統領選の勝敗を決定したと思われる数分間を、もう一度たどり直す。あの10分は思い出しただけで早くも、彼らの会話は熱を帯びていく。
次期アメリカ大統領に誰がなるのか、当時の副大統領アル・ゴアか、またはジョージ・W・ブッシュ・ジュニアか。それは、2000年11月にフロリダ州で決定した。当初は、民主党のゴアが共和党のブッシュに勝つだろうと予測されていた。だが、「ギャングの裏取引」がなされたため、テレビ局がこぞって声をそろえ、テキサス州知事ジョージ・W・ブッシュが優勢という予測を報道して影響を及ぼし、選挙結果をゆがませる結果となったのだ。

●チェン・カイコー「夢幻百花」
グン・ラは運送屋の組頭。ある日のこと、北京の高層ビルの前でフェンと名乗る一人の男に呼び止められる。フェンはグン・ラたちに引越しの手伝いを依頼する。そこで、彼らは小型トラックを走らせて目的地へと向かった。ところが、彼らが到着した場所には、掘り起こされた荒地が広がっていた。あったのは、小さな丘と1本の木だけ。
「イカれた奴の相手はしていられない」と、彼らはさっさと帰ろうとするが、フェンは、金を払うので引起しを早速始めてもらいたいと言う。彼は、存在しない重い家具を指し、トラックヘと運ぶよう指示する。すべてをようやく積み終えたふりをして、彼らは出発する。だがクルマは途中で道路の穴にはまり、立ち往生。フェンはその穴の中に、かつて自宅の門に掛かっていた小さな鐘を見つける。その鐘を手にし、楽しそうに走り去っていった。

スタッフ

監督:アキ・カウリスマキ、ヴィクトル・エリセ、ヴェルナー・ヘルツォーク、ジム・ジャームッシュ、
ヴィム・ヴェンダース、スパイク・リー、チェン・カイコー
音楽:ポール・イングリッシュビー
エグゼクティブ・プロデューサー、プロデューサー:ウルリッヒ・フェルスバーグ
プロデューサー:ニコラス・マクリントック、ナイジェル・トーマス

キャスト

「結婚は10分で決める」
カティ・オウティネン、マルク・ペルトラ

「ライフライン」
アナ・ソフィア・リャーニョ、ペラヨ・スアレス

「失われた一万年」
タリ、ワポ

「女優のブレイクタイム」
クロエ・セヴィニー

「トローナからの12マイル」
チャールズ・エステン、アンバー・タンブリン

「ゴアVSブッシュ」
マイケル・フェルトマン、ニック・ボールディック、マイク・ワウリー、サンドラ・ソビエラジ、ドナ・ブラジル

「夢幻百花」
フェン・ユエンジョン、グン・ラ、リー・チアン、チャン・ジン

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