原題:Atanarjuat, The Fast Runner

どこまでも男は走る。 家族のため、空と大地を守るため。

2001年カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)受賞 2001年トロント国際映画祭最優秀カナダ映画賞受賞 2002年アカデミー賞外国映画賞カナダ代表 2002年カナダアカデミー賞6部門受賞/2001年フランダース国際映画祭グランプリ受賞 2001年エジンバラ国際映画祭最優秀新人監督賞受賞

2002年4月12日カナダ初公開

2001年/カナダ/イヌイット語/172分/35mm/カラー/ 1:1.85ヴィスタサイズ/ドルビーSR/ 後援:カナダ大使館 配給:アルシネテラン

2004年02月06日よりビデオリリース 2003年6月28日より岩波ホールにて独占ロードショー

公開初日 2003/06/28

配給会社名 0013

解説



世界初のイヌイットによる長編劇映画

『氷海の伝説』は、北アメリカ大陸最北端に住むイヌイットに、先祖代々語り継がれてきたアタナグユアト(足の速い人)の伝説に基づく一大叙事詩である。白い氷原と青い空が果てしなく広がる北極圏の雄大な自然を背景に、4世代にわたる愛憎渦巻く人間ドラマが、イヌイット独自の風習を数多く織り込みながら、神話的スケールで力強く描かれている。制作費US190万ドル(約2億4千万円)を費やし、約5年をかけて製作された本作は、キャスト全員が現地で実際に暮らす人々で、監督や脚本家をはじめスタッフのほとんどもイヌイット。イヌイットによる、イヌイット語(イヌクティトゥト)を用いて製作されたオリジナリティ溢れる初の長編劇映画である。

独自の伝承文化を映画化した、類のない感動作

監督のザカリアス・クヌクたちにとって、本作の製作は、新たな挑戦の連続だった。個人の野心や嫉妬によって脅かされた共同体の危機を、いかにして乗り越えるか。古くから伝わる「足の速い人」の伝説を、まず8人の長老から聞き取り、5人の脚本家が1つの物語に組み立てていった。その後も、脚本執筆や美術、衣装などにおいて、長老や地元のアーティストのアドバイスを得ながら、製作は進められた。その結果、映像の細部に至るまで、イヌイットの文化や慣習、思想や感情表現がリアルに再現されることとなった。また撮影にはデジタルベータカムが使用された。これによってカメラが決して踏み込むことができなかった場所にも入ることができ、これまでにない臨場感ある映像が生まれた。
なお、本作は作品の完成を見ずにして亡くなった、共同製作、脚本のポール・アパク・アンギリックとアメリア・アンギリックの夫妻に捧げられている。

カンヌ国際映画祭を皮切りに、世界中に広がる感動の輪

『氷海の伝説』は、2001年カンヌ国際映画祭で世界初披露されると、イヌイット初の映画という話題性もさることながら、作品そのものが持つ新鮮な表現とダイナミックな映像美は人々を圧倒し、見事、新人監督賞にあたるカメラドール賞を獲得した。その後も世界中の映画祭に招待されて数々の賞を獲得し、本国カナダのアカデミー賞では6部門を受賞、米アカデミー外国語映画賞でもカナダ代表として選出された。また、フランス全土で公開されて大成功を収めたほか、アメリカでもロングランを記録して異例の大ヒットとなった。また、イギリス、イタリア、オーストラリア、ベネルクス3国、イスラエル、台湾など、世界中に上映の輪は広がり、イヌイット旋風が大きな反響を呼んでいる。

故郷ヌナブトに生きるイヌイットの思いを込めて

イヌイットは、本作が製作されたカナダとアラスカの北部のほか、グリーンランド、アジア北東部などの極北地域に住んでいる。舞台となったイグルーリックは、カナダ北東部メルヴィル半島の先端、バフィン島の西側にある小さな島である。この地域のイヌイットは、1993年にカナダ連邦政府と協定を結び、先住民権の放棄と引き換えに、土地の管理権、野生生物管理権、補償金を得た。そして1999年、多数派イヌイットが実質的な自治権を持つ、人口約2万人のヌナブト(イヌイット語で「我らの大地」)準州が誕生した。この映画の国際的成功は、ヌナブトの人々にとっても民族的な誇りとなっている。

ストーリー



これはイヌイットに、数百年も昔から伝わる物語である。

イヌイットは、夏は家族単位で生活し、冬になると酷寒の厳しい自然と立ち向かうために小さな集落を形成する。イグルーリックの、とあるイヌイットの村。リーダーであるクマグラックの息子サウリは、父が、自分よりもトゥリマックに目をかけているのを妬んでいた。彼は村を訪れた邪悪なシャーマン、トゥンガユアックとともに父を殺害する。そして、新しくリーダーとなったサウリは、トゥリマックを村八分同然に扱った。
息子の裏切りに対して、亡きクマグラックの妻パニクパクは、自身の兄コリタリクに希望を託す。彼に御守りに精霊が宿るウサギの足を手渡し、村を離れて身を隠すように助言した。また、2人の息子を抱えてひもじい思いをしている、トゥリマック家の面倒を密かに見るのだった。

月日は流れ、村で辛酸を嘗めて育ったトゥリマックの2人の息子、アマダアックとアタナグユアトは退しく成長していた。兄アマダアックは力持ちで知られ、弟アタナグユアトは誰よりも速く走り、橇を引く犬たちを巧みに操ることができた。
サウリの息子オキは、父にも増して粗暴で邪悪だった。オキには親同士が決めた美しい許嫁のアートゥワがいたが、アートゥワは気さくなアタナグユアトと互いに思いを寄せ合っていた。
そんなある日、イグルー(ドーム状の雪の家)で宴会が開かれた。人々が見守る中、オキとアタナグユアトはアートゥワを巡って決闘を始める。アタナグユアトは、クマグラックの精霊の力で勝利し、アートゥワをめとることになった。そして、オキのアタナグユアトヘのライバル心はいつしか強い恨みへと変わっていった。

妻となったアートゥワは妊娠し、アタナグユアト夫婦は兄夫婦とともに幸せな生活を送っていた。ところが、アタチグユアトにかねてから横恋慕していたオキの妹プーヤは、アタナグユアトのカリブー猟に同行したことを機に、首尾よく彼の第2夫人に収まった。
それまでの5人にプーヤが加わった生活が、ぎくしゃくしながらも始まった。しかしある日、義理の兄までも誘惑したプーヤは家を追い出される。実家に戻った妹の話を聞いたオキは、長年の恨みを晴らすときがきたと考え、アタナグユアトを殺す決心をする。
オキは仲間とともに、眠っている兄弟のテントを襲撃し、アマダアックは即死する。アタナグユアトは間一髪で槍をかわし、裸のまま氷結した海をひたすら逃げ続けた。精霊に導かれながら、力の限り走り抜いたアタナグユアトは、命からがらシオラックに辿りつき、いつしか意識を失ってしまう。しかし、今は年老いたコリタリクの夫婦が、倒れたアタナグユアトを発見し、機転を利かせて追ってきたオキたちから彼を救った。一命を取り留めたアタナグユアトは、コリタリクから渡されたパニクパクのウサギの足を御守りに、愛する妻子のもとに帰るためにじっと静養を続けた。

一方、アタナグユァトの不在中に、オキはアートゥワを自分のものにしょうと、拒否する彼女を暴行してしまう。さらに、父サウリを事故死と見せかけて殺害し、何食わぬ顔で村のリーダーとなった。オキの横暴な振る舞いは、際限がなくなっていった。
冬が近づくと海は再び氷結し、陸はイグルーリックまで繋がった。アタナグユアトの体力も回復し、コリタリク夫婦とともに帰郷の旅に出た。コリタリクはウサギの足でオキに呪いをかける。それを知らずにウサギを食べたオキは、別人のように大人しくなった。

アタナグユアトたちは村にさっそうと戻ってきた。喜び出迎えるアートゥワやパニクパク。荒廃した村には明るい光が戻ってきた。アタナグユアトは単身オキたちに立ち向かう。彼は憎しみにかられることなく、オキとその仲間たちを抑えつけて、30年に渡る争いに終止符をうつ。
その夜、アタナグユアトを囲み村の集会がもたれた。シャーマンのコリタリクとパニクパクは、長い年月にわたって人々を支配してきたトゥンガユァックの悪霊に立ち向かい、勝利を収める。そしてパニクパクは、復讐ではなく許しと調和を人々に呼びかけ、オキとプーヤ、彼らの仲間2人にイグルーリックから出ていくよう命じるのだった。

皆が平和を祝おうとしたとき、アタナグユアトの息子、少年クマグラックがパニクパクに近づく。そして、その名を継いだ男の声で妻に自分の唄を歌ってくれと頼んだ。

スタッフ

監督:ザカリアス・クヌク
撮影:ノーマン・コーン
脚本:ポール・アパク・アンギリック、ノーマン・コーン
   ザカリアス・クヌク、ヘヴェ・パニアック
   ポールシー・コリタリク
編集:ザカリアス・クヌク、ノーマン・コーン
   マリー=クリステイン・サーダ
美術監督:ジェームズ・ウンガラーック
音楽:クリス・クリリー
衣装:ミシェリン・アマック、アツアト・アッキティック
製作:ポール・アパク・アンギリック、ノーマン・コーン
   ザカリアス・クヌク

キャスト

アタナグユアト:ナタール・ウンガラーック
アートゥワ:シルヴィア・イヴァル
オキ:ピーター・ヘンリー・アグナティアック
プーヤ:ルーシー・トゥルガグユク
パニクパク:マデリーン・イヴァル
コリタリク:ポールシー・コリタリク
サウリ:ユージーン・イプカグナク
アマグアック:パカク・インヌクスク
トゥンガユアック:アブラハム・ウラユルルク
クマグラック:アパヤタ・コチエク
ピッチュウラク:ルーク・タッカウガック
パカク:アレクス・ウッタク
トゥリマック:ステファン・クルヌッヌト

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