原題:Hard Goodbyes: My Father

幼くして父の死に直面した少年の成長と、家族の再生の物語

2002年ロカルノ国際映画祭・最優秀主演男優賞受賞 2002年トロント国際映画祭正式出品作品

2002年/ギリシア・ドイツ/カラー/108分/ドルビーSR/ 配給:シネカノン

2007年2月24日、渋谷シネ・アミューズにて感動のロードショー

(C) 2003 Sipapu Films Inc.

公開初日 2007/02/24

配給会社名 0034

解説


ジュール・ヴェルヌの『月世界旅行』、パパのお土産のチョコレート、
さびしさに耐えられないママ、大人ぶっている兄ちゃん、
自分の息子がわからないおばあちゃん、酒飲みのおじさん、
アポロ11号の月面着陸、そしてぼくとパパの約束。
「アポロが着陸する瞬間を、テレビでいっしょに見よう」

“アポロが月面着陸した日、パパが死にました”
1969年のアテネ。10歳の少年イリアスは、大好きな父親を突然の交通事故で失う。死の事実を受け入れることができない彼は、行商人の父が旅立つ前に残した置き手紙に書かれた約束を胸に、父の帰りを待ち続ける……。
『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』(85)『ポネット』(96)に続く、深い哀しみに直面した子どもの内面世界をみずみずしく描いた感動作。限りない想像力で愛する者の不在を乗り越えていく少年の心を見つめながら、三世代にわたる家族の喪失と再生を綴る珠玉の作品がギリシャから届いた。

詩情豊かに描かれる、小さくて大きな宇宙
監督・脚本は、短編映画やテレビドキュメンタリーを中心に活躍するペニー・パナヨトプル。自伝的要素を含んだ本作は彼女の初長編であり、“さよなら以外のすべてを教えてくれた両親へ”捧げられている。
ギリシャ古代劇やオペラでキャリアを積んだ美術監督兼衣裳デザイナーや、本業は船乗りである音楽家といった異色スタッフとともに、誰もが経験する永遠の別れをメランコリックかつ色鮮やかに表現し、テサロニキ国際映画祭で3部門を受賞したほか本国の主な映画賞を席巻した。

「星の王子さまみたい!」と監督が一目惚れしたヨルゴス少年
主人公のイリアスを演じるのは、監督が一目見て「星の王子さまみたい」と心を掴まれたというヨルゴス・カラヤニス。はかりしれない哀しみをたたえたその大きな瞳で世界中の観客の胸をしめつけ、2002年のロカルノ国際映画祭ではジェラール・ドパルデューやロビン・ウィリアムズをおさえて史上最年少の主演男優賞を獲得! 
イリアスを取り巻く大人たちには、『タッチ・オブ・スパイス』のステリオス・マイナス、『日曜はダメよ』『女の叫び』で知られる伝説的女優デスポ・ディアマンティドゥなど、ギリシャ内外の映画・演劇界でリスペクトされている実力派が集結。“それでも続く人生”を歩んでいく遺された者たちの姿を、繊細に演じている。

ストーリー

1969年の6月。アポロ11号の月面着陸を40数日後に控え、ギリシャ中が沸き立っている。

アテネに住む10歳の少年、イリアスも月面着陸を心待ちにしているひとり。家電製品の行商をしているため、なかなか家に帰ってこない父親と一緒にテレビ中継を見る約束をしているのだ。

ある朝、目を覚ましたイリアスはベッドの上にお土産のチョコレートを発見する。それは大好きな父が帰ってきたというしるし。父は駆け寄ってきたイリアスを抱き上げ、二人は宇宙の話で盛り上がる。しかし母は終始イライラしていて、14歳の兄アリスも不機嫌だ。海辺に家を買って家族みんなで暮らすのが父の夢なのに、アパートの部屋に流れる空気は冷たい。

イリアスと父は、近くに住んでいる祖母と伯父の家を訪れる。アルツハイマーを抱えた祖母は、時々息子と孫の区別がつかなくなる。口を開けば、伯父の離婚した妻や、イリアスの母の悪口ばかり。そんな祖母に、父はいつも行商先から手紙を書いているようだ。イリアスが祖母の部屋で見つけた〈愛する母さん 元気ですか〉で始まる何通もの手紙には、旅の様子や家族の近況が書かれていた。

アパートに戻ると、両親のいつもの喧嘩が始まった。イリアスはバスルームに駆け込んで耳をふさぎ、気をそらせるために数字を読み上げる。アリスはラジオの音を大きくした。父は明日、家を発つという。
次の朝、イリアスはこっそり父が出かけられないようにトランクから髭剃りセットを取り出し、学校に持って行く。しかし学校から帰ってくると、父は去った後だった。『月世界旅行』のページのあいだに小さな手紙を置き残して。
〈パパは仕事に行くが 月面着陸の日には戻ってくる お前も知る通りパパは必ず約束を守る 次はお前も連れていくよ〉
イリアスは「ママのせいでパパはいない」とアリスに訴える。しかしアリスは「違うよ。二人でキスしてたぜ」と言うのだった。

その時、電話が鳴り響いた。寝ている母の代わりにアリスが出る。アリスは受話器を置き「パパが逝った」とつぶやく。「知ってるよ」とイリアス。「違う、交通事故に遭った。もう帰らない」……二人が言い争う声を聞いて母が起きてきた。イリアスはバスルームに駆け込み、いつの間にか眠ってしまう。

親戚が集まって埋葬式が執り行われた。イリアスたちはこれから40日間喪章をつけなければいけない。学校で父について訊ねられたイリアスは、「パパは出張に行った」と答え、喪章は先生に立たされないための策略だと言い張る。

ある日、父の荷物が戻ってくる。イリアスはアパートの屋上の物置に〈パパとぼくの部屋〉を作り、チョコレートが入った箱や『月世界旅行』、髭剃りセット、筆記用具などを運び込む。月面着陸までの日数を数えるための特製カレンダーや、段ボール箱で作ったテレビも用意した。そして父のぶかぶかの背広をはおると、祖母に宛てて手紙を書き始める。
〈愛する母さん 元気ですか。全然会えなくなってとても寂しいです。愛してないからじゃなく、引っ越したんです。子供たちも一緒に、小さな島の浜辺にある小さな木の家に住んでいます……〉

日が経つにつれ、家の空気がますます重苦しくなっていった。母はやさしくなったり冷たくなったりと不安定で、アリスは学校をやめて働くと言い出す始末。イリアスは家を抜け出して車の中で一晩を過ごし、母や伯父を心配させる。ある午後、イリアスが学校から帰ってくると、母が屋上の荷物を投げ捨てているところだった。その翌日、イリアスはずっとしまっておいたチョコレートを学校のクラスメート全員に配る。

月面着陸まであと4日。イリアス、母、アリス、伯父の4人は海辺にある田舎の家に行くことになった。塗り直された父の車には、新しいテレビが積まれている。イリアスは〈この手紙を読んだら田舎の家に来てください 息子(下の方)より〉という父への手紙をアパートに残す。出発する直前、伯父はカメラを取り出し、久しぶりに明るい色のブラウスを着た母と相変わらずクールなアリスとイリアスの3人の家族写真を撮った。
酔っぱらい運転の伯父の歌声で賑やかなドライブが始まった。しかし途中で寄った父のお墓で、イリアスは母が泣いているのを見てしまう。アリスがそっとつぶやいた。「泣くために来たんだよ」その夜、4人はソファに並んで座り、テレビを見た。

7月20日、約束の月面着陸の日。伯父は老人施設にいる祖母に会うために帰ってしまった。イリアスは伯父が庭に建ててくれたテントの中で、今夜に向けた準備を始める。母とアリスはずっとテレビに釘付けだ。でも父は帰ってこない。アテネのアパートに電話をかけても出ない。イリアスはテレビの音をかき消そうとして、ラジオのボリュームを上げるが、ラジオもすぐに月面着陸の緊急放送に切り替わり、そして中継が始まった……。
「月面に降りた……ひとりの人間にとっては小さな一歩だが、人類には偉大な飛躍だ」
イリアスはテントの中で父の髭剃りセットを広げ、頬にシェービングクリームを塗ると、一人二役で会話を始める。「今どこにいるの?」「急いで月に行くところだ」「なぜゆっくり髭剃りを?」「出かける前は髭を剃る」「行く前にさよなら言って」

夜明け前。イリアスはテントを抜け出して海へ向かう。砂浜におりて、ボートに乗り込んだ。星空から父の声がした。

翌日、イリアスは初めて祖母に父の死を告げる手紙を書いたのだった。

スタッフ

監督:ペニー・パナヨトプル

キャスト

イリアス:ヨルゴス・カラヤニス
母:イオアンナ・ツィリグーリ
クリストス/父:ステリオス・マイナス
アリス/兄:クリストス・ブヨタス
祖母:デスポ・ディアマンティドゥ
テオドシウス/伯父:クリストス・ステルギオグル

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