2002年/日本/カラー/ヴィスタサイズ/85分/ 製作・配給:ワイズ出版

2005年08月26日よりDVDリリース 2003年7月12日よりユーロスペースにて同時ロードショー

公開初日 2003/07/12

配給会社名 0339

解説



寡作でありながら、今もなお新たな信奉者を獲得し続ける漫画家・つげ義春。彼の作品は、竹中直人監督『無能の人』、石井輝男監督『ゲンセンカン主人』『ねじ式』など、その独特の世界観とユーモアを熱烈に愛するひとクセある異才たちによって映画化されてきた。そしてついに多くのファンを持つロングセラー・エッセイの映画版が完成!「貧困旅行記」の一編「蒸発旅日記」をベースに、漫画作品「必殺するめ固め」「初茸狩り」「西部田村事件」、エッセイ「猫町紀行」などのイメージやエピソードを加えてシナリオ化、待望の作品がいよいよ誕生した。今年は、久々の新刊「つげ義春の温泉」が出版されたほか、注目の若手監督・山下敦弘による『リアリズムの宿』の公開も予定され、『蒸発旅日記』の公開が“つげブーム”の決定打となりそうだ。

日々の暮らしに行き詰まりを感じた主人公の漫画家・津部は、ありったけの金と時刻表だけを持って、顔も知らない、まだ会ったこともない女性・静子のもとへと旅立った。津部は自分の作品の愛読者だという彼女と結婚できさえすれば、今とはまったく違う生活が得られると思っていたのだった……。

冒頭、主人公はいきなり一面識もない女性と結婚しようと思い付き、列車に乗ってしまう。かと思うと、列車の中で出会った若い娘と結婚するのもいいかもしれない、と想像をふくらませ、やっと到着した土地ではストリッパーに思いを寄せて、「このまま君についていこうかな」などとつぶやく。呆れるほど唐突でワケのわからない行動ばかりのはずなのに、観客を知らぬ間に完全に引きずり込み、巻き込んでいくのが、つげ式“蒸発”の旅の摩詞不思議なところ。その旅に観客を手招きする役割を果たしているのが、スクリーンに次々と映し出される魅惑的なイメージの洪水だ。文字盤が反転した時計、裸でなまめかしく横たわる少年、赤い布と戯れる踊り子、喪服を着た煙草売りの女、墓石を探す男。そして、それらをつなぐ静かな水のイメージ……。生きていくことへの根源的な不安が生み出す迷宮のような世界が見事に映像化され、妖しく花開く。そして、生と死、官能とやすらぎ、夢と現実が背中合わせになった“蒸発”の旅が綴られていくのだ。

監督は映像ファンタジー『アンモナイトのささやきを聞いた』が、カンヌ国際映画祭などで話題を呼んだ山田勇男。寺山修司のスタッフとして活躍し、映画『草迷宮』では美術監督もつとめ、その後、物語性にとらわれない独自の美意識にあふれた短篇を撮り続けてきた彼が、10年の沈黙を破り、『蒸発旅日記』を完成させた。

現実と幻想とが奇妙に混ざりあい、その境界が暖昧になっていく瞬間。昭和歌謡を思わせるノスタルジックなつげワールド。そのすべてを具現化するために美術監督・木村威夫の登場となる。『東京流れ者』『ツィゴイネルワイゼン』『ピストルオペラ』の鈴木清順をはじめ多くの巨匠たちを支えてきた日本映画界の重鎮が、既成概念には決してとらわれない魔術的なイマジネーションと色彩・空間造形で、つげ+山田映画を異次元へといざなってくれる。

また助監督をつとめたのは、『書を捨てよ町へ出よう』から『さらば箱舟』まで全ての寺山修司監督作品で助監督・記録係をつとめた森崎偏陸。寺山修司の没後20周年にあたる今年は、映像詩展や回顧展、演劇「青ひげ公の城」の競演など、さまざまなイベントが各地で開催される。寺山の厚い信頼を得ていた山田、森崎がタッグを組んだ本作が、注目を集めることは間違いない。

主演には、木村威夫が芸名の名付け親となった若手俳優・銀座吟八。ヒロインに抜擢されたのは、写真家の荒木経惟に見出だされた秋桜子(こすもすこ)。また墓石を探す老人を田村高廣が演じ、重厚な存在感を見せている。

ストーリー



日々の暮らしに行き詰まりを感じた主人公の津部は、ありったけの金と時刻表だけを持って、顔も知らない、まだ会ったこともない女性・静子のもとへと旅立った。津部は自分の作品の愛読者だという彼女と結婚できさえすれば、今とはまったく違う生活が得られると思っていたのだった。列車に乗り込んだ津部は、乗り合わせた若い娘に「ふるさとを案内しましょうか?」と誘われ、「この人についていって結婚するのもいいかな。別の生き方ができるのなら、相手は誰でもいい」と空想する。しかし、夜更けに目をさましたとき、娘の姿はもうなかった。

静子の住む町の旅館に着いた津部は、静子が看護婦として勤務する病院に電話をする。旅館にやってきた静子はよく話す、明るい女性だった。津部は唐突に「泊まれませんか?」と静子を誘うが、無断外泊は禁じられているため、今日は無理だといわれる。静子は「来週の今日、絶対来ます」と約束をして、旅館を去っていった。明るいところが津部の好みには合わなかったが、「多少のことは我慢して結婚してしまうかな」と思うのだった。

1週間待たされることになった津部は、どうにも間が持たず、旅に出ることにした。その旅で、精神病院から抜け出した患者、墓石を探す男、そしてストリッパーの娘と出会うことになる……。

スタッフ

企画・製作・プロデューサー:岡田博
原作:つげ義春
脚本:北里宇一朗、山田勇男
監督:山田勇男
美術監督:木村威夫
撮影監督:白尾一博
製作:ワイズ出版

キャスト

銀座吟八
秋桜子
清水ひとみ
住吉正博
藤繭ゑ
夕沈
飯島大介
近藤京三
木下真利
七海遥
和崎俊哉
和田幾子
田村高廣

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