不安と希望がいっぱいにつまった場所。ジム。

2001年/日本/カラー/16mm/124分/ 配給:こたつシネマ、スローラーナー

2003年1月29日(水)よりシネマ下北沢にてレイトショー公開

公開初日 2003/01/29

配給会社名 0331/0048

解説


不安と希望が、いっぱいつまった場所。ジム。
  多摩川の丸子橋を渡ってすぐのところに、北澤ボクシングジムはあります。元日本ジュニアバンタム級チャンピオン北澤鈴春が、22才でこの場所にジムを開いて8年。このジムにのべ1000人もの練習生が、それぞれの思いをボクシングに注いできました。壁にぶらさがったグローブ。汗まみれのシューズ。サンドバック…。しかし、誰もがチャンピオンになれるわけではありません。おそらく、多くの若者は、自分がまだ何者か分からなないまま、汗を流しているのです。『ジム』は、北澤鈴春とジムの若者達を追ったフィルムです。ジム。それは、誰もが抱く不安と希望が、いっぱいつまった場所なのでしょう。

北澤鈴春とジムの若者たち。
彼らを優しく包むような寺島進のナレーションと谷川賢作の音楽。

監督は、今回が初劇場公開作品となる山本起也。沢木耕太郎のノンフィクション『一瞬の夏』、そしてなによりボクサー北澤鈴春と出会うことで6年にわたって北澤ジムを撮影。更に幾度となく編集を繰り返し、慈しむように『ジム』を完成させた。そんな山本監督の思いを代弁するかのようなナレーションを、北野武監督作品の常連でもある寺島進が担当。寺島自身も、ボクシングファンであり、ジムに通った経験を持っている。音楽は、ジャズピアニストでもあり市川昆監督『四十七人の刺客』、市川準監督『竜馬の妻とその夫と愛人』のサウンドトラックも手掛けた谷川賢作。ジムを去るもの、そして、別の職業に新たな道を模索するもの、まだジムにいて汗を流すもの、そして、そこで迷い悩むものの姿。寺島進のナレーションと谷川賢作の音楽が、北澤ジムの若者達を優しく包んでいく。

ストーリー

 私が、ボクサー北澤鈴春を初めて見たのは1991年。後の世界チャンピオン鬼塚勝也の持つ日本ジュニア・バンタム級タイトルに挑戦した試合だった。大方の予想を覆し大接戦となった試合は、最終的には鬼塚の勝利で終わる。しかし、私に強烈な印象を残したのは、敗れた北澤の方だった。『越せない壁ではない。絶対に越してみせる』と語った北澤のコメントを読んで、私も彼が壁を乗り越えていくのを一緒に見続けていきたいと思った。実際、北澤は翌年、日本タイトルを獲得する。しかし、初防衛戦を前に、突然の網膜剥離で北澤は引退を余儀無くされる。  
北澤鈴春がジムを開いたと知り、いてもたってもいられなくなった私は北澤ジムを訪れる。そして、自分自身ボクシングを始める一方で、ジムの会長となった北澤の育てる4回戦ボクサーたちを撮影し始めた。  

4回戦ボクサーの一人、吉川祐二郎。18歳。予備校生。戦績は1勝(1KO)2敗。カメラを向けられると恥ずかしそうに俯く彼は、4回戦ボクサーの登竜門、新人王トーナメントに出場するが、強烈なKO負けを喫する。翌日、彼はジムを辞めた。
北澤鈴春は、元世界チャンピオン花形進がジムを開いて8年目にして育てた初めての日本チャンピオンだった。「お前は目が出っ張ってるから、お前みたいな目は網膜剥離になりやすい、と冗談めかして言っていたところそれが現実になってしまったから、今はそういうことを自分の選手に言わない事にしている」そう花形は語る。

八尋亮は、北澤ジム唯一の6回戦ボクサー。ボクシングで金をもうけてパン屋を開くのが夢だと語る。ボクシングに専念するために大学も辞めた。何故そこまでしてボクシングを? と尋ねる私に、彼は自分の心情に訴えかけたある本の一節を朗読する。  

競馬に熱中する清水高志。21歳。大学生。彼も、戦績3勝(1KO)3敗の4回戦ボクサーである。新人王トーナメントに出場、初戦を突破した。戦う相手が怖いというより、これ以上負けることが怖いと清水は話す。  

青木克敏。20歳。戦績は4勝(1KO)1敗1分。父を亡くし母と二人暮らし。お母さんにインタビューさせてほしいという私の頼みを、青木は嫌だと断わる。母親と気が合わないから、何を言われるかわからないという。しかし、毎月のアルバイト代の半分を家に入れている。 

矢原隆史。23歳。戦績は4勝(1KO)5敗。定職についていない。試合が近いのにかき氷の機械を買って歩いているところを北澤会長に目撃され、こってりしぼられている。高校のころは野球部で、万年球拾いだった。そのことも含め、故郷にいい思い出はないという。  
そんなある日、花形ジムの星野敬太郎が日本チャンピオンになった。試合後の控室で花形は、星野は体が小さくてとてもプロでは通用しないと思っていた事を明かす。「だから、絶対はないんです」 そう花形は力説する。私は、星野が勤める花形ラーメンへ出向く。チャンピオンだけでは食べていけない星野は、試合が終わって間もないのにもう店に出ていた。同じ店には、元東洋チャンピオンの高田次郎も働いていた。「僕なんか中卒でしょ、8人兄弟で育ってきたから、お袋に楽させたいっていう、そういう時代ですよね」 高田は、自分がボクシングを始めた動機をそう語る。  

撮影を続ける中で、思い掛けないことが起こった。北澤ジムの清水、矢原の二人が、新人王トーナメントの決勝に揃って駒を進めたのだ。
 決勝を前に、私は北澤鈴春に現役時代の頃の話を聞く決心をした。それは、聞きたくても聞けないでいたことだった。それを聞くのは、どこか怖いことのように思えた。
 怪我をした時の事を多くは語りたがらない北澤。そんな北澤が強く訴えたことは、自分が選手として現役を断念したことと、選手を育てることは別ということだった。北澤の言葉を聞き、一瞬私は虚を突かれたような気持ちになった。北澤鈴春の第二ラウンドを見に来たと語る私に、今は続きとしての第二ラウンドではなく第一ラウンドなのだと北澤は語るのだった。

新人王の決勝、最初にリングに上った清水は、健闘空しく判定で敗れる。続く矢原は引き分けに終わるが、優勢点の差で見事新人王に輝く。
 新人王トーナメントは終わった。私の撮影も一応の区切りを迎えたはずだった。しかし、私は撮影を終える事ができなかった。  
   二年半後、矢原、清水、八尋、青木、吉川、北澤ジムの5人のボクサーは、それぞれの二年半後を迎えていた・・・

スタッフ

監督:山本起也
撮影:内藤雅行、宮武嘉昭、田代啓史、柳田義和
録音:大石和也
製作協力:野口香織、星田紀子
撮影協力:瀬川龍、山口達也、野口泰男、助川満
録音協力:鈴木興子
編集助手:岡明子
ネガ編集:山口とし子、石川歩
音楽演奏:谷川賢作、宮野裕司、大坪寛彦、青木泰成
アニメ製作:和田敏克、松田和美
タイトル:津田輝王
キネコ:笠原征洋、清水禎二
タイミング三橋雅之
ラボ塩谷眞道、鈴木優子
特別協力伊勢真一、浜田徹、本間喜美雄、吉村隆

キャスト

北澤鈴春
矢原隆史
清水高志
八尋亮
青木克敏
吉川祐二郎
北澤公徳
板倉一彦
花形進
星野敬太郎
高田次郎
松永喜久

「私」ナレーション:寺島進

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