精霊流し
一本のバイオリンがつなぐ、 美しくも悲しい《母と子》の愛の物語
文部科学省選定(青年向け)
2003年/日本/カラー/ビスタサイズ/DTSステレオ/109分/ 配給:日活・東北新社
2007年12月21日よりDVDリリース 2004年05月07日よりDVDリリース 2003年12月13日よりテアトルタイムズスクエアほか全国ロードショー 2003年9月13日より長崎先行ロードショー
公開初日 2003/12/13
配給会社名 0006/0051
解説
一本のバイオリンに託された想いと、受けとめる重さ。ひとりの少年がおとなになってゆくさまを、暖かく静かに見守る心優しき人々。愛する母が死ぬまで胸に秘めて語らなかった、ある真実……。切ないまでの《母》の愛の深さに、胸がしめつけられるような、今年いちばん泣ける映画が完成した。この映画『精霊流し』を見た後、あなたはきっと、遠くにいるお母さんと話がしたくなるはず。
亡くなった大切な人の魂を、華やかに装飾した「精霊船」に乗せて海の彼方に送り出す、長崎の伝統行事《精霊流し》。古来より何百年にも亘って続けられてきたこの慰霊の行事は、1945年長崎に原爆が投下されたわずか1週間後にもとり行われた。大きな悲劇に負けまいとする長崎の人びとの強い意志の力が、伝統行事を断ち切ることなく続けさせたのだろう。映画『精霊流し』の主人公のひとり節子も、1945年8月9日に長崎にいた。彼女もまた、自分に降りかかった運命に負けず、強く生き抜こうとしてゆく。映画では、長崎市民の協力で再現された《精霊流し》の場面が、クライマックスを鮮やかに彩る。
原作は、日本のミュージックシーンを代表するアーティスト、さだまさし。自作の名曲「精霊流し」をモチーフとした自伝的な原作小説は、2001年幻冬舎より発表され、40万部を超えるベストセラーとなった。企画・翻案は、『陰陽師』の近藤晋。NHKで「男たちの旅路」など衝撃的な話題作を世に出してきた敏腕プロデューサーは、原作では表記されていない、あるポイントを浮き上がらせた。それは、1945年8月9日に、節子も長崎にいた、というものである。
この意欲的な作品の映像化を託された監督は『化粧師』の田中光敏。定評ある映像美は本作でも遺憾なく発揮され、母と子の切ない物語を情感豊かに描き上げることに成功している。
結集したキャストも魅力的だ。
主人公・雅彦役は新星・内田朝陽。堂々たるその演技は早くも大成を予感させる。その叔母・節子役に日本を代表する女優の松坂慶子。母には、美しさと清楚さが光る高島礼子。そのほか、『ロックンロール・ミシン』の池内博之、『愛する』の酒井美紀、『化粧師』の椎名桔平、『居酒屋兆治』の田中邦衛などの実力派の演技陣が出演。美しくも悲しい物語に、深い奥行きを作っている。
ストーリー
青い海が見わたせる長崎の家で、美しく優しい母(高島礼子)の深い愛に包まれ、幼い日の櫻井雅彦はまっすぐに育っていた。母は、雅彦がバイオリン奏者になることを夢見ていた。その思いに応えようと、雅彦は東京で学ぶことを決める。そのために、母の妹・節子(松坂慶子)の嫁いだ鎌倉の家で暮らしはじめる。その家には、後妻の節子とは血の繋がっていない春人という息子がいた。ある日のこと、長崎の母が、鎌倉にやって来た。鎌倉での暮らしの中で、まるで母のように雅彦をいたわる叔母と、懐かしい長崎の母。ふたりの《母》の前で、雅彦はバイオリンを弾いてみせる。その音色に聴き入るふたりの、ほんとうの胸のうちを雅彦が知ったのは、ずっと後になってからだった……。
時は過ぎ、大学生になった雅彦(内田朝陽)は、人の良い野川(椎名桔平)が経営する小さな自動車修理工場でのアルバイトに明け暮れる毎日を送っていた。長崎の母もすでに亡く、母の思いがこもったバイオリンは、部屋の隅に置き去りにされていた。そのような日々の中、叔母の節子が、突然、離婚して長崎へ帰ることを決める。節子を母として愛してきた春人(池内博之)は、予想もしていなかったなりゆきに、激しく戸惑う。なにかが静かに、しかし大きく動き始めた。
長崎に戻った節子は、海が見える小高い丘の上にジャズバー《椎の実》を開いた。 鎌倉では、雅彦と春人がともに好意を寄せていた徳恵(酒井美紀)が、雅彦への想いを打ち明ける。だが、半端な自分に苦しむ雅彦は、徳恵の気持ちを受け入れられない。傷ついた徳恵の前に、母を失った春人が現れた。春人は、《母》節子と暮らすことを決め、長崎に向かう。《息子》春人との再会を喜ぶ節子であったが、幸せな時間は長くは続かなかった。春人が、海でボートから転落し、亡くなってしまったのだ。春人の死を知り、駆けつける雅彦と徳恵。節子と雅彦は、徳恵が春人の子を身籠っていることを知った。
節子は自分の人生を大切に生きている。春人も自分の道を歩き始めたところだった。そう気づいた雅彦は、自分を見つめなおそうと、長崎に戻ることを決めた。長崎に帰った雅彦は、節子の入院を知る。見舞いに訪れた雅彦に節子が語ったのは、これまで胸の内に秘めていた1945年8月9日の遠い記憶だった。そして、自分が血液のガンに冒されていることも。病院から戻った雅彦に父(田中邦衛)は、雅彦の本当の母親は節子であることを伝える。驚く雅彦だったが、《実の母だと思っていた育ての母》と《母代わりの叔母だと思っていた本当の母》—ふたりの《母》が自分に向けていた愛情の深さと重みを、はじめて知るのだった。
夏。《精霊流し》がにぎやかに始まった。節子と春人の魂を送る「精霊船」を海に流した雅彦は、初めてこう呼んだ。「ありがとう、かあさん」
スタッフ
原作:さだまさし『精霊流し』(幻冬舎刊)
監督:田中光敏
脚本:横田与志
製作総指揮:植村伴次郎、中村雅哉
製作:気賀純夫、早河洋、笠原和彦、石原清行、瀬崎巖
企画・翻案:近藤晋
エグゼクティブ・プロデューサー:見城徹、松本勉、遠谷信幸、木村純一
プロデューサー:辻井孝夫、田中渉、福吉健、村上比呂夫、宇都宮弘之
撮影:柴崎幸三
照明:上田なりゆき
美術:斎藤岩男
編集:川島章正
録音:宮本久幸
音楽:大谷幸
主題歌:さだまさし「精霊流し」(フォアレコード)
キャスト
櫻井雅彦:内田朝陽
石田春人:池内博之
木下徳恵:酒井美紀
櫻井喜代子:高島礼子
池田洋治:山本太郎
染丸:仁科亜季子
和田忠:蟹江敬三
野川初雄:椎名桔平
櫻井雅人:田中邦衛
石田節子:松坂慶子
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