原題:小城之春/SPRINGTIME IN A SMALL TOWN

2003年日中平和友好条約締結25周年記念

第59回ヴェネチア国際映画祭アップ・ストリーム部門グランプリ(サン・マルコ賞)受賞

2002年/中国/カラー/116分/アメリカン・ヴィスタ/Dolby SRD/ 後援:(社)日中友好協会、(財)日中友好会館、日中文化交流協会、(社)日中協会 配給:角川大映映画

中国映画の全貌 2007にて上映::http://www.ks-cinema.com/schedule.html 2004年03月17日よりDVD発売開始 2003年5月10日よりBunkamuraル・シネマにてロードショー 他全国順次公開 〔大阪:梅田ガーデンシネマ/名古屋:シネプラザ50/札幌:シアターキノ/福岡:シネサロン・パヴェリア〕

©Glory Top Properties.

公開初日 2003/05/10

配給会社名 0058

解説


 田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)監督10年ぶりの新作「春のまど惑い」(原題「小城之春」)が、2002年ヴェネチア国際映画祭コントロコレンテ部門のグランプリを受賞した。
「春の惑い」のロケ地となったのは、張芸謀(チャン・イーモウ)監督の「上海ルージュ」でも撮影場所となった、景勝地・蘇州西南東山鎮太湖(たいこ)のほとりにある小さな街。田壮壮が自ら監督するのは、93年の「青い凧」以来となる。

 「春のまど惑い」は、国際的に活躍する強力スタッフが結集し、5人しか登場しない登場人物には、舞台出身の実力派キャストがそろえられている。製作は第五世代の紅一点、李少紅(リー・シャオホン/監督作品「紅おしろい」)。脚本は陳凱歌(チェン・カイコ—)監督の「子供たちの王様」の原作者で中国現代文学の旗手、阿城(アー・チョン)。撮影は「花様年華」「夏至」の李屏賓(リー・ピンビン)。そして衣装は「グリーン・デスティニー」でオスカー受賞者となった香港の葉錦添(ティン・イップ)が担当している。主要登場人物は全篇を通して3人。ヒロインの旧家の若奥ユイウェンには、舞台女優としてのキャリアを持つ胡靖?(フー・ジンファン)。ユイウェンのかつての恋人で、上海からやってくる医者チーチェンに《北京舞台王子》として人気の高い辛柏青(シン・バイチン)。ユイウェンの夫リーイェンには、『人間四月天』、『乱世英雄呂布韋』など中国の大河ドラマに出演している呉軍(ウー・ジュン)。ほとんど3人だけで繰り広げられる、濃密な精神的三角関係を、圧倒的な緊張感の中で演じている。
 この「春のまど惑い」はリメイク作で、オリジナルは費穆(フェイ・ムー)監督が48年に発表した「小城之春」(1948)。フェイ・ムーの「小城之春」は、張芸謀監督が、「中国映画のベスト1」として挙げたこともある名作。
 田壮壮監督は、「春のまど惑い」の時代背景となる、新中国成立直前の人々の寄る辺ない気持ちが、新世紀を迎えた現代人の心情にマッチすると考え、中国映画史上初となるリメイクを思いたったという。
田壮壮は、この新しく生まれた21世紀版『小城之春』=「春のまど惑い」を、中国映画の先駆者に捧げている。

ストーリー


1946年。中国・蘇州。抗日戦争の傷跡を残しつつも、小さな街は穏やかな春を迎えている。
ダイ家の妻ユイウェンは、買い物籠を提げ街外れの城壁をぼんやりと歩いていた。ここは彼女が唯一ひとりになれる、お気に入りの場所だった。遠くから、汽笛の音が聞こえてくる。ユイウェンは、由緒ある旧家ダイ家に嫁いだが、抗日戦争に巻き込まれ旧家は没落。今は使用人も年老いたホワン一人だけで、長患いの気難しい夫リーイェンとその妹の4人で、平穏だが変化のない日々を送っていた。

だがユイウェンが城壁で聞いた汽笛は、予期せぬ来客を運んできた。かつて上海で共に医学を志していた夫の旧友が、夫を訪ねてきたのだ。ユイウェンは久々の来客の姿を見て驚く。それは16歳のときの初恋の相手、チーチェンだった。
二人の関係を知らないリーイェンは、純粋に旧友との再会を喜ぶ。やがてユイウェンは、チーチェンが抗日戦争に参加するために自分の前から姿を消したこと、今は上海で医者になっていることを知る。

ユイウェンは、ホワンにチーチェンの泊まる部屋に自分が丹精して咲かせた蘭の花を飾らせる。ほのかに漂う蘭の芳香に、チーチェンはユイウェンの秘められた心情を感じ取る。
その夜、ユイウェンは長い回廊を渡り、チーチェンの部屋を訪ねた。終戦直後の蘇州では、深夜、停電になる。揺らめく蝋燭の灯りだけを頼りに、かつての恋人同士が顔をあわせる・・・。ユイウェンが流した突然の涙に、チーチェンは二人の夫婦仲がうまくいっていないことを察する。

翌朝、チーチェンは憔悴したリーイェンを診察する。リーイェンは自分を肺病だというが、診察の結果、その兆候はない。実は志半ばで旧家に戻り、ユイウェンと結婚したリーイェンは、鬱病にかかっていたのだ。
チーチェンは家にこもりがちのリーイェンたちを、舟遊びに誘い出す。春浅い川の水面を滑る船の上で、ユイウェンは久々に幸せを感じていた。リーイェンの機嫌もよく、シュウは「美しき青きドナウ」の調べにのせて、春の喜びを高らかに歌い上げた。チーチェンの登場は、旧家に活気を呼び戻した。

「話をしないか?」
チーチェンは、ユイウェンを城壁に誘い出す。「どこへ行こうか」と切り出す彼に、ユイウェンは「どこへでも」と答える。「君はいつでも人任せだね。昔からそうだ。」「違うわ。人任せなんかじゃない。私はあなたを待たなかったのよ。」「じゃ、僕が今行こうといったら、一緒に来るのか?」
チーチェンの思わせぶりな言葉に、ユイウェンはたじろぐ。
「本気なの・・・?」

二人の逢瀬を知らないリーイェンは、チーチェンに自分たち夫婦のことを相談する。リーイェンはユイウェンの心が自分にないことに気づいていた。そして妻として尽くせば尽くすほど彼女を冷たく感じ、自分も辛くあたってしまうと告白する。苦しむ親友の姿に、自己嫌悪に陥るチーチェン。
ユイウェンもまた、悩んでいた。最初は夫を愛そうと努力した。だが夫は鬱病になり心を閉ざし、彼女自身も心の中のチーチェンを消すことができなかった。
「まさかあなたが来るなんて・・・」
涙を流すユイウェンに、チーチェンは「自分が去るしかない」と告げる。だがそれを聞いたユイウェンは不意に、「夫が死んだら・・・」と口にする。チーチェンは、そんな彼女がにわかに恐ろしくなる。

何も知らないシュウは、上海からやってきた垢抜けたお客に、すっかり熱を上げてしまう。リーイェンとユイウェンの板ばさみになったチーチェンにとっても、無邪気なシュウの存在は救いだった。シュウに請われたチーチェンは、彼女の学校に行き、生徒たちにダンスを教える。男女が手を取り合い踊るワルツに、心ときめかせる生徒たち。照れ、笑いさざめきながらも一心に踊る生徒たちを見るうち、チーチェンも心が晴れてくる。シュウはチーチェンの相手を誰にも譲らなかった。

一方、リーイェンはチーチェンがきたことで、家の中に活気が戻ったことを心から喜んでいた。リーイェンはチーチェンが妹と結婚して、この家の中で診療所を開けばよいと考えていた。そのことをユイウェンに相談するリーイェン。ユイウェンは平静を装うが、その心には狂おしい嫉妬の炎が灯っていた。ユイウェンは、密かにある決意をした・・・。

シュウの16歳の誕生日。リーイェンとチーチェンはあっと驚く。普段慎ましいユイウェンが、結婚のときに着た艶やかなチャイナドレスに身を包み、皆の前に現れたのだ。シュウは自分のために姉が美しく装ったのだと無邪気に喜ぶが、3人の大人たちの間には、微妙な空気が漂う。そこで行われたゲームで、チーチェンとユイウェンは互いに大量の酒を飲む。冗談とも本気ともつかぬゲームの中、妖艶さをますユイウェン。妻の異変を感じ取ったリーイェンは、いたたまれず席をはずす。だがチーチェンとユイウェンは意に介さずゲームを続ける。そして酔ったチーチェンは、いきなり力任せにユイウェンを抱き寄せようとする。シュウは豹変した大人たちを恐怖した。傍目には楽しい誕生会で、何かが大きく変わってしまった———。

その夜、ユイウェンは意を決してチーチェンの部屋に入ろうとする。だが酔いの醒めたチーチェンは、彼女を拒んだ。部屋に錠を下ろしたチーチェンに激昂したユイウェンは、思わずガラス窓を叩き割ってしまう。
怪我した手にハンカチを巻き、ユイウェンはリーイェンの部屋に行く。手の怪我を見とめたリーイェンは、傷ついた手を優しく介抱する。そんな夫の姿に、ユイウェンは溢れる涙を止めることができなかった。介抱しながらリーイェンは、ユイウェンとチーチェンの間に、何かが起こったことを感じていた。

スタッフ

監督:ティエン・チュアンチュアン(田壮壮)
脚本・美術監修:アー・チョン(阿城)
製作:リー・シャオホン(李少紅)
共同製作:ジャン・チーチャン(江志強)
撮影:リー・ピンビン(李屏賓)
衣装・美術:ティン・イップ(葉錦添)
オリジナル「小城之春」(1948年)監督:フェイ・ムー(費穆)

日本公開版イメージ曲「もうひとりの私」
チェン・ミン(陳敏)〔東芝EMI〕
(作曲・二胡演奏)

キャスト

ユイウェン(玉紋):フー・ジンファン
リーイェン(礼言):ウー・ジュン
チーチェン(志忱): シン・バイチン
シュウ( 秀 ):ルウ・スースー
ラオ老ホワン(老黄):イエ・シャオカン

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