Ｈ．Ｐ．ラヴクラフト　ＤＡＧＯＮ

《原作：Ｈ．Ｐ．ラヴクラフト》

20世紀、新たな恐怖を生み出したアメリカン・ホラー界の天才H.P.ラヴクラフト。スティーブン・キングを始め、世界の文学界・映像界に多大な影響を与えてきた彼の原点となった幻の原作『インスマクスの影』を、スペインを舞台に堂々映像化！

《監督：スチュアート・ゴードン》

アボリアッツ国際ファンタスティック映画祭最優秀恐怖賞を受賞、世界的大ヒットを記録した『ＺＯＭＢＩＯ 死霊のしたたり』のスチュアート・ゴードン監督が新たに挑む、荘厳、壮大な物語。

《IN A STRANGE TOWN》

そこは何かが違ってい…偶然流れ着いた港町、そこで出会う奇妙な住人達。恐怖の底から沸き起こった悲鳴の先では生け贄の儀式が催されていた……
世界的注目を集めるスペインの特殊効果の異能集団“ＤＤＴイフェクト・エスペシャレス”が手掛けた異色の最高傑作！異形の怪物たと末だ見たことのない驚異のＳＦＸ映像で、観る者を異世界へといざなう！！

【チェック・ポイント！】

　『死体蘇生者ハーバート・ウェスト』をポップなスプラッター描写満載で描きファンの度肝を抜いた『ＺＯＭＢＩＯ 死霊のしたたり』(85)で監督デビュー、『彼方より』を材にした『フロム・ビヨンド』(86)では人間の脳の奥底を越えた部分に広がる別世界を、ＳＭ願望全開のグロテスク・ワールドに仕上げたスチュアート・ゴードンが、Ｈ・Ｐ・ラヴクラフト原作に三度挑んだ最新作。ラヴクラフト小説には映画と同名の短編小説もあるが内用は全く別物で、基本線ではラストに引用文が出てくる『インスマウスの影』を、スペインに舞台を遷して映像化したものとなっている。
　そもそも『インスマウスの影』はゴードンにとって、90年代頃から映画化を企画するもなかなか実現しなかった積年の企画。ただその頃囁かれていたシノプシスでは、政府の陰謀でバイオハザードにあったインスマウス島の住人が半魚人化するという、原作を大胆にアレンジしたぶっとび作を想定したようだ。ゴードンによるラヴクラフトへのアプローチという点では、それはそれで一貫していたものと言えるのだが、フルムーンをはじめ各社で企画が流れた後、十数年ぶりにＢ・ユズナ＆Ｊ・フェルナンデス連合の“ファンタスティック・ファクトリー”で映画化された本作は、破天荒なスプラッタと言うよりも怪奇色が濃厚でゴードン版ラブクラフト作品としては異彩を放つ快作に仕上がった。
　資本の絡みもありスペインで行われたロケーションも、原作とは気持ち趣を異にするものの、狭い島の斜面に入り組んだように立つ建物と、その画面の隅を徘徊する妖しい影のイメージが出色。物語は嵐の一夜の出来事として展開されるのだが、稲妻が夜闇を切り裂き豪雨が降りしきる中、主人公のポールに異形の輩が迫る図は、トッド・ブラウニングの『フリークス／怪物團』(32)のクライマックスを彷彿させてくれる。
　半魚人のメイクは最近のスペイン・ファンタの大半でＳＦＸを手掛けているＤＤＴ。スーツで表現された触手の部分など、いかにも作り物めいた部分もあるけれど、異形のものどもの饗宴をダークな画調の中まずは効果的に見せてくれている。これはＣＧＩとの併用だけど、目つきがちょっといっちゃってるけど美貌で異形のヒロインには、逆『ポゼッション』(80)な妄想をいたくかきたてられますな(笑)。
　なお、ゴードンと脚本のデニス・パオリは『フロム・ビヨンド』の翌年に当たる87年にも、『Pulse Pounders』と言うオムニバス・フィルムの１挿話としてラヴクラフトの短編『邪悪な牧師』の映像化に取り組みながらも、企画自体が中断されていた。なお、今年に入ってからこの企画は、プロデューサーであったチャールズ・バンドの監督作品として再開したようだが、パオリのクレジットは残っているもののゴードンの名前は入っていない。それでも、この作品の撮影中に亡くなったデヴィッド・ゲイルの出演場面を始め元のフッテージは採用されているようなので、やはりこちらも見てみたいね。
（殿井君人）