フレイルティー／妄執

２００１年１１月、アメリカのある小さな映画祭に出品された１本の低予算映画は、あまりにショッキングな題材から注目を浴び、その反響により、『チョコレート』等の話題作で知られるインデペンデントの名門、ライオンズ・ゲート・フィルムズで全米での公開が決定した。
やがて、この映画を観たハリウッドを代表する監督であるサム・ライミ、ジェームズ・キャメロン、ジョナサン・モストウ、アイヴァン・ライトマン、更にスティーブン・キングらの賞賛を次々と受け、最終的には、大手メジャー会社のパラマウントまでも動かし、全世界配給が決定したのである。
その映画のタイトルは、『フレイルティー／妄執』———。

『フレイルティー／妄執』は、俳優、ビル・パクストンが自らのアイデアを温め、待望の初監督に挑んだホラー映画である。だが、この映画で描かれる恐怖は、お化け屋敷のような絶叫タイプでも、サイコ、スプラッター、オカルトなど、どこにでも存在する様なありふれたものではない。観る者の心に深く根差し、映画を観た後々まで、むしろ時が経てば立つほどその恐ろしさが増すという精神的な恐怖を描いたマインド・ホラーである。
この恐怖は、重く深く、観るものに伸し掛かり、いつまでも後を引く——。
そして、この恐怖を、あなたの記憶から拭い去ることはできない！！

“神の手”（ゴッド・ハンド）という謎の文字を現場に残す殺人鬼が、テキサスのバラバラ殺人事件として全米中を震撼させていた、ある嵐の夜、 “神の手”を追い続ける事件の担当捜査官ドイルの前に突如、一人の男が現れた。　男はフェントンと名乗り、連続殺人鬼の正体を知っていると告げた。真犯人は実は自分の弟で、人々を殺害後、＜悪魔がそこら中にいる＞という謎めいた言葉を残して自殺を遂げたと言い出す。しかも、まだ警察でも未確認の死体が無数に存在すると言う。
ドイルは話を信じなかったが、フェントンの話には更に続きがあった。１９７９年のうだるような暑さの夏に始まった、彼の父親にまつわるその物語は、信じ難く、そして身の毛がよだつ、世にも恐ろしい内容だった・・・。

　低予算作品である『フレイルティー／妄執』は、VFXや特殊メイクなどの視覚効果、音響効果、編集テクニックなどの技術が作り上げる恐怖演出に一切頼ることなく、真正面から挑んだ正統派のホラー映画である。
この映画が生み出した、かつてない狂気と恐怖に満ちた題材にリアリティを与えているのは、出演者の熱演と、製作スタッフが最後まで維持し続けた確信以外の何物でもない。
キャストは、事件の真相を握る謎の男フェントン役に扮する、『評決のとき』『U-571』『コンタクト』のマシュー・マコノヒーと、回想シーンに登場するフェントンの父親に扮する、『アポロ１３』『ツイスター』『シンプル・プラン』のビル・パクストン。この二人の主演者の、時を越えた迫真の競演が恐怖を最大限まで増幅させる。共演は、事件を追うFBI捜査官ドイル役に『Uターン』『ニクソン』『サドン・デス』のパワーズ・ブース、フェントンの少年時代役に『ドメスティック・フィアー』『スパイ・キッズ２』のマット・オリアリー、ダラスの田舎町の保安官スモールズ役に『暴力脱獄』『イージー・ライダー』で知られるベテラン、ルーク・アスキューがそれぞれ扮し、フェントンの幼い弟のアダム役には新鋭ジェレミー・サンプター、グリフィン捜査官役に『U—５７１』や人気TVシリーズ「アリー・ｍｙ・ラブ」のダーク・チートウッドが出演し、脇を固めている。
　スタッフは、とても監督デビュー作品とは思えぬ演出を見せ才気を発揮した主演のビル・パクストンを始め、製作には全ての『チャイルド・プレイ』シリーズを手掛けたデヴィッド・カーシュナ—、『１５ミニッツ』のデヴィッド・ブロッカー、『チャイルド・プレイ／チャッキーの花嫁』のコリー・シーネガの３人。脚本は本作品で長編映画デビューを飾ったブレント・ヘンリー、撮影は『ジョーズ』『カッコ—の巣の上で』『ロッキー』シリーズの２・３・４などを手掛けた名匠ビル・バトラー、プロダクション・デザイナーは『コレクター』『サウンド・オブ・サイレンス』『クローン』のネルソン・コーツ、そして恐怖を増幅させる不安なメロディを奏でる音楽は、手掛けた映画音楽は僅かではあるが作曲家兼クラシックの指揮者兼ソングライターでもあるブライアン・タイラーが手掛けるなど、結集した職人たちが各々見事な手腕を発揮している。

史上初！　血の出ない映画で＜ＰＧ−１２＞指定での公開

ＰＧ—１２とは、親の同伴なしで小学生以下の子供の鑑賞はできない指定。
１９９８年から導入されて以来、現在まで５０本以上の作品が規制を受けているが、その半数以上を占めるホラー映画に限って言うと、通常は血が飛び散るような作品に対して付けられ、強い残酷描写やスプラッター的な要素がない作品が、こうした規制を受けるのは極めて異例である。
『フレイルティー／妄執』の恐怖は、マインド・ホラーとでもいうべき心理的な恐怖であるが、それだけショッキングな題材であり、また、観る者に深く与える心理的影響がうかがえる。
ホラー映画で知られるサム・ライミ監督は、非常に怖い映画として絶賛された『死霊のはらわた』の監督としても有名で、そこでは、かなり残酷な描写を演出しているが、この『フレイルティー／妄執』を観た後には、「スクリーンに慈悲を請う気分だった・・」という感想を残しているほどである。