男の孤独が少女の運命を弄ぶ

2002年/日本/カラー/35mm/ビスタサイズ/ステレオ/96分/ 配給:アートポート

2003年04月19日よりビデオ発売&レンタル開始 2003年04月19日よりDVD発売&レンタル開始 2002年12月7日より銀座シネパトスにてロードショー公開

公開初日 2002/12/07

配給会社名 0014

公開日メモ 監禁の現場を屋根裏からのぞき見たかのような迫真のセックス描写と、ノンフィクションという形態の持つリアル性が読者にまるで自分が誘拐犯になって少女を飼育しているかのような背徳感を抱かせる秀作だ。

解説



『完全なる飼育』シリーズは、現実に起きた少女誘拐監禁事件をもとにした「女子高校生誘拐飼育事件」(松田美智子/幻冬舎)を原作とする監禁の現場を屋根裏からのぞき見たかのような迫真のセックス描写と、ノンフィクションという形態の持つリアル性が読者にまるで自分が誘拐犯になって少女を飼育しているかのような背徳感を抱かせる秀作だ。記念すべき映画化第一作目『完全なる飼育』は、シリーズを通して最も原作と構成が近い{
小島聖が女子高生・クニコを、竹中直人が誘拐犯・岩国を演じ、物語の展開もキャラクターの名前も原作に忠実だ。小島の肉感的な身体は原作の邦子を妨佛とさせ、竹中とのリズミカルな掛け合いや、個性的な脇役達に映画ならではの面白味があった。二作目の『完全なる飼育 愛の40日』では原作から設定を離脱させ、女子高生・暗者(深海理絵)、誘拐犯・住川(緋田康人)、そして晴香に催眠療法を施す心理カウンセラー(竹中直人)の三人を軸に物語が展開する。誘拐した男と監禁された少女の間に生まれた愛憎が、性的・心的な結びつきをどのように構築するかというメインテーマは変わらす、深海のはかなけなたたずまいと澄んだ眼差しが、晴香というキャラクターに浮世離れした透明感を与えニ人の関係の危うさを見事に体現した。そして待望の三作目となる今回、『完全なる飼育香港情夜』というタイトルが示すとおり、舞台は日本ではなく香港に移った。香港を修学旅行で訪れた女子高生がタクシー運転手に誘拐・監禁されるのだ。女子高生・愛を演じる伊藤かなは本作が映画初主演。10年ほど前、バラエティ番組の企画コーナーで双子の美少女姉妹「なつ・かな」としてデビューし人気を得た。幼い頃から大人に囲まれた芸能生活を過ごしてきたせいか、劇中で伊藤演じる愛が見せる孤独の表情は自然で吸引力を持つ。愛がまわりの誰にもかまわれずに孤独を感じていたように、伊藤も大勢の見知らぬ大人に囲まれ同じように孤独を感じていたのかも知れない。愛を誘拐するタクシー運転手・ボウには『パレット・オブ・ラブ』、『カラー・オブ・ペイン野狼』など日本人俳優との共演経験が豊富なトニー・ホーを起用。香港人のボウは、前二作の男達のように言葉で少女の心を探る術を持たないコミュニケーションのとれない状況でどうやって二人の関係が築かれていくのか。舞台設定ゆえに生まれる物語の妙味であるが、ホーは抜群の演技力で欲望と愛情の狭間を揺らめく孤独な男の心情を描き、少女との距離感を巧みに演じる。さらに、もはやシリーズに欠く事の出来ない存在となった竹中直人(『ピンポン』)も愛のクラス担任・橋本として出演二作目のヒロイン深海理絵(『パコダテ人』)も意外な役どころで出演しており、本シリーズのファンには嬉しい驚きであるーー。そのほかにも、アルメン・ウォン(『上海グランド』)、ロー・カーイン(『女人、四十。』)、マン・ホイ(『蜀山奇博天空の剣』)、アルフレッド・チョン(『アクシデンタル・スパイ』)など、香港映画界の名役者達が出演しているのも見逃せない。
 監督サム・レオンは『無間題』シリーズに代表されるように、日港映画界の垣根を軽々と飛び越え精力的に活躍する監督・プロデューサー/日本映画的な落ち着いた色合いの映像が美しい前二作に対して、今作では監督が得意とする香港映画的な色彩豊かな映像がちりはめられている。本人俳優と香港人俳優のアンサンブルも全く違和感な<演出した。言葉の通じない二人の感情を台詞で補うわけにはいかない。さりげない仕草や表情に心の動きを織り込み、刻々と変化する少女と男の関係を丹念に描いた手腕は秀逸だ。

ストーリー



 高校生の愛は東京の片隅に母親とニ人きりで暮らしていた。父親は女をつくりどこかへ消え、母親は酒におぼれ、愛のことを顧みる著は誰もいなかった。修学旅行で訪れた香港でも、友達のいない愛はホテルを抜けだしてたった一人で深夜の繁華街をさまよっていた。歩き疲れた愛はタクシーに乗りホテルへ帰ろうとする。ところがタクシーは郊外へ向かい、寂れた一軒家の前で止まった。運転車のボウは愛を家に押し込むと、広東語で怒鳴り散らし、服を脱ぐように命令する。訳も分からないままに丸裸にされ、愛は家畜のように体をブラシで洗われた…。
 翌日、愛の失踪が発覚する。クラス担任の橋本は強く責任を感じ、単身香港に残り愛を探す決意をする。しかし、愛の失踪を目撃した者はなく、東京の母親も酒におぼれ無気力でとても協力を頼める状態ではない。橋本は愛の孤独を知り心を痛めた。
 逃げ出す機会をうかがう愛は、ボウの気がゆるんだ瞬間をねらい、ポットで頭を殴り家を飛び出す。右も左も分からないまま、愛は野原を走り抜けた。足がもつれ、後ろにボウが迫ってくる。力尽き草むらに倒れ込むと、逆上したボウがのしかかってきた。衣服が引き裂かれ乳房が露わになる。愛は力の限り抵抗した。激情にまかせ愛を押し翻したボウだが、怯えきった表情に気づくとそれ以上のことは出きなかった。そんなボウに対して、愛も奇妙な感情を持ち始める。自分と同じように孤独な生活を送る男に対して徐々に親近感を抱き始めていたのだが…。

スタッフ

監督:サム・レオン
原作:松田美智子
製作:松下順一
脚本:サム・レオン、トミー・ロー
音楽:吉川清之
撮影:フォン・ユン・マン
美術:エリック・ラム
衣裳:ウィリアム・フォン
編集:ウー・ワン・ホン

キャスト

鳴島愛:伊藤かな
ユン・ボウ:トニー・ホー
橋本裕司:竹中直人
ソーガイ:ラム・シュー

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