原題:Divine Intervention

2002年カンヌ映画祭審査員賞受賞・国際批評家連盟賞受賞 2002年シカゴ映画祭シルヴァー・ヒューゴ審査員特別賞受賞 2002年ヨーロッパ映画祭最優秀外国映画賞

2002年/フランス・パレスチナ/カラー/35mm/94分/1:1.85/ドルビーSRD 配給:フランス映画社

2003年10月25日よりDVD発売開始 2003年4月26日よりユーロスペースにてロードショー

公開初日 2003/04/26

配給会社名 0094

解説


「D.I.」(ディー・アイ)は02年カンヌ映画祭でコンペ正式部門に同映画祭史上初めて登場したパレスチナ映画。コメディーで、前半はポエティックなユーモアのつみ重ねで心を奪い、後半、監督スレイマンが主役で登場するとともに一転、大型のギャグ爆弾を織りまぜて意外な展開に。満場を笑わせ、酔わせて、大喝采を浴びた。「D.I.」は正式受賞結果の前日に発表される国際批評家連盟賞(FIPRESCI)で、「過去のない男」、「ボウリング・フォー・コロンパイン」、「戦場のピアニスト」など有力候補をおいて最優秀作品賞(正式部門)に選ばれ、さらに正式コンペの賞そのものでも堂々審査員賞を受賞して、2冠受賞の快挙を果たした。

「D.I.」のテーマは中東紛争。深刻な映画と思いきや、ユーモアとギャグが詩情豊かにあふれ、中東紛争情勢に詳しくなくても思わず笑いに誘われ(ギャグの数は全編で50にものぼる!)、しかも、イスラエルとパレスチナの対立を平面的に描くのではなく、より深く、「イスラエル国籍のパレスチナ人」の視点から紛争を描き出して人々を感動させた。登場人物のイスラエル人とパレスチナ人を識別したくなるけれども、顔だけで瞬時に見分けるのは現地の人にも難しいという。その点、車のナンバープレートの色の違いはヒントになるかもしれない。黄色がイスラエルの登録車で、白がパレスチナの登録車だ。

主な舞台は3つで、イスラエル領のナザレと、イスラエル占領下の東エルサレムと、パレスチナ側のラマラとエルサレムを封鎖するチェック・ポイント。
ナザレでエリアの父が心臓発作で倒れ、東エルサレムに住むエリアが病院に駆けつける。エリアが愛するマナルはパレスチナ自治区のラマラの女性で、検問を通れないのでエルサレムに入れない。ふたりがデートできる唯一の場所はチェック・ポイントの駐車場だ。銃口光る検問所を、愛は果たして通過できるか…。

エリア・スレイマンは1960年ナザレ生まれ。ナザレは48年にイスラエル領となり、エリアもイスラエル国籍のパレスチナ人。82年からほぼ10年間ニューヨークに移り住んで、『論争の終わりのための序章』(91)と『殺人というオマージュ』(92)の中短編2作を発表したあと、93年にナザレに帰り、翌年から東エルサレムに移り住んだ。長篇劇映画第1作『消滅の年代記』(96)でヴェネチア国際映画祭・最優秀新人監督賞を受賞。『消滅の年代記』から「D.I.」に2作とも主演もしながらセリフはまだひと言も発していない。普段はいたって快活でジョークを交えてよくしゃべる。カンヌでの記者会見でも全部パレスチナで撮影できたのかと聞かれ、シューティング(撮影)は全部はパレスチナではできなかった、別な連中(イスラエル軍のこと)がシュート(銃撃)していたからねと答えて記者たちを爆笑させた。
ヒロインのマナル(オリジナル・クレジットでの役名は「女」)を演じるマナル・八一デルはエルサレムに生まれラマラで育ったパレスチナ人で、ドイツで社会学を修めてラマラに戻り、ドイツのTVリポーターをしていた。映画は初出演。彼女がイスラエルの狙撃兵部隊と対決する“ニンジャ”バトルのシーンでの鮮やかなアクションとギャグが人気を呼んでいる。

主要スタッフは第1作『消滅の年代記』の撮影バティーニュらフランス人と、パレスチナ人、イスラエル人で構成。00年10月にベツレヘムでクランク・インして01年春にナザレ、8月にフランスのムルムロンとマルセイユ近くのレスタク山中、12月にハイファ、02年1月東エルサレムまで、第2次インティファーダによる中断や、厳しい撮影許可待ちをおりこんで、!年4ヶ月に渡った。
音楽は全編スレイマンによる選曲構成(サントラ=ビクター)。なかでも、近年世界的人気のナターシャ・アトラスが歌うスクリーミン・ジェイ・ホーキンスのくアイ・プットア・スペル・オン・ユー>や、さらにはマドンナのプロデュースなどで知られるMIRWAYSの曲が驚くべきシーンで登場する。
アラビア語原題“YADON ILAHEYYA”(ヤドン・イリヘイア)はく神の手〉の意味。英語題のDIVINE INTERVENT10N、仏語題のINTERVENTION DIVINEは、神の仲裁、介入から、神のお助け、神だのみ、まで含む意味の広い言いまわしで、日本公開題名は作者スレイマンの同意で「D.1.」と決定した。

カンヌ映画祭を皮きりに「D.I.」はシカゴ映画祭やヨーロッパ映画賞でも受賞し、ヨーロッパ各国の公開から1月のアメリカ公開に至り、各国で公開そのものが注目されつつロングランヒットが続いている。本国では、パレスチナ自治区でのラマラでの初上映から、ナザレでの特別上映、そしてイスラエル側が初の公式上映と公認したハイファでの上映と、注目と緊張の公開が続いているが、結果的にはどこでも笑いが圧勝している。いっぽうアメリカのアカデミー賞は外国語部門で「D.I.」をノミネートで排除し、TIME誌ほかでスキャンダルとして大きく報道されているが、スレイマン本人は意に介さず楽しんでいる。<パレスチナのキートン〉と呼ばれ、<笑いの殺し屋〉、く笑いのファンタジスト>と数々の異名を贈られているスレイマンの今後は世界が目を離さない。

「D.1.」はエリアの亡き父に捧げられている。父フアドースレイマンは1948年の戦争でイスラエル軍に捕らえられ、仲間を密告せずに死の拷問に耐えたナザレの人で映画の完成前に世を去っているが、「D.I.」の前半は父の肖像だ。パレスチナの現代史を「イスラエルのパレスチナ人」として生きた父への思いをこめた献辞だろう。

ストーリー


ナザレ。サンタ・クロースが逃げ、少年たちが石を投げて追う。プレゼントは役に立たず、途方に暮れるその胸にはナイフが…。ナザレはイスラエル領でパレスチナ人もイスラエル国籍だが、インティファーダ闘争いらいナザレの子供は石を投げて闘うことを知っている。サンタ・クロースも楽じゃない。
そんなナザレの町を、朝、エリアの父が車で行く。敬愛こめて手を振るパレスチナ人たちに父は親愛をこめて挨拶を返すが、おはようヒモ、元気かおカマなど、その言葉は強烈!幸い車中の咳きで人々には聞こえないが。行きかう車のナンバープレートはどれもイスラエル登録を示す黄色だ。父の車も。どこか変にユーモラスなナザレの人々の日常。永遠にバスを待つ風の黒メガネの青年がいる。バスは来ないぞと告げに来るおせっかい男がいる。屋上に空き瓶を精力的に集める老人がいる。老人は自分の家の前の道路を壊す常習犯。テロリストか?と警察が捕らえに来る。老人は心臓発作を起こして警官が心配するが、本部の女性はウォーキートーキーからハスキーな声で“いつもの手よ、小児科に入院させなさい”。向かいの屋上に何が起こっても眺めつづける、ひなたぼっこの老人コンビがいる。毎朝ゴミ袋を隣家に投げ込む男がいる。ひたすら庭を掃除し続けるオバサンもいる。父が経営する自動車修理工場に“6”の数字の話をしに来るのが日課の青年がいる。迷惑駐車も日常的なもめごと。犯人らしい男に抗議してのらりくらりの場合、最後の手段はなんでしょう?

父は毎朝食堂で手紙を読む。自分の病状を知らせる病院からの手紙か、税務署からの手紙か、よい知らせばないようだ。そしてある日、税務署の差し押さえをくらう。自宅でも、工場でも。父は心臓発作で倒れる。息子エリアが車で病院にひた走る。空腹であんず(アプリコット)を食べ、捨てた種がイスラエル軍戦車を爆破したことも知らずに父の病院へ。幸い、父は命をとりとめていた。

チェック・ポイント(検問所)。エリアは父を看病しながら愛するマナルに思いをはせる。エリアはイスラエル占領下の東エルサレムに住んでいるが、マナルはパレスチナ自治区の街ラマラの女性だ。ラマラとエルサレムの間にはイスラエル軍が厳重監視するアル・ラムの検問所があり、ラマラ側からの白いプレートの車はイスラエル軍に容赦なく追い返されて通過できない。しかしそんななか、ラマラ側から、なんとハイヒールの女性が車から美しく降りたつではないか。美貌とセックス・アピールで敵の兵士ばかりか監視塔まで悩殺して、検問所を突破していく…。

現実のエリアがマナルとデートできるのはアル・ラム検問所の駐車場のわびしい一角だ。マナルはエルサレムに入れない。まなざしでエリアに行動を期待するだけ。エリアは優柔不断。マナルが検問所を通過できる機会を待つだけだ。終始無言のふたりは車内でハンド・セックスで心をかわしあう。
エルサレム。テロ攻撃は日常の風景で、民家が襲撃されても消火器ひとつでさっと火を消す。東エルサレムにはパレスチナ人居住区があり、そして、世界遺産で有名な「旧市街」がある。道に迷う観光客も多い。アラブ人の捕虜を護送中のイスラエル警官が美人の観光客に道を聞かれた場合、警官はどうするでしょうか?

エリアは、ある日ついに一計を実行する。マナルに「君への愛で、ぼくは狂っている」というラブ・メッセージを伝え、赤い風船をヘリウムで膨らませる。風船にはパレスチナ自治政府のアラファト議長の顔。風船はふわりふわり上空に飛びたち、イスラエル兵たちが敵の総大将の顔を認知して慌てる隙をついて、エリアはマナルとともに検問を突破する。風船は上空から世界遺産で名高い3つの宗教の名所旧跡をつぎつぎに訪れてイスラムの聖地である岩のドームに赤子のように里がえりし、地上のエリアとマナルもエルサレムヘ。

こうしてエリアは東エルサレムのアパートにマナルをかくまった。しかし白昼、アパートの前の道をイスラエル軍が封鎖する。むかいの邸がたびたびテロ襲撃を受けたがゆえの警備とは言え、パレスチナ人の居住区にイスラエル軍が来るのは異常な、挑発的な暴挙だ。しかも聞こえてくる会話から、むかいの邸の主が実はイスラエル側のスパイだったとわかるではないか。マナルは、眠るエリアをおいて、敢然と道に出る。チェック・ポイントを突破したあの女のように、イスラエル軍兵士とスパイの目の前で、死を覚悟したように、封鎖された道を行く。
マナルがいなくなった…。エリアは父の看病をつづけながらマナルを探し求める。ある夜はチェック・ポイントでイスラエル将校の横暴を目撃し、ある昼間は射撃練習場の広告看板の女の顔が目に飛び込んでくる。ハッタ(スカーフ)に顔を包んだ女がマナルに見えてくる。しかも信号待ちの隣の車には、イスラエルの旗を掲げ、パレスチナを奪うと決然としている入植主義者のシオニスト男がいるではないか。エリアも決然と(?)、カー・カセットで、“アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー”(スクリーミン・ジェイ・ホーキンスの“Iput a spell on you”をアラブの歌姫ナターシャ・アトラスが英語で歌ったヴァージョン)を響かせ、シオニスト男とにらめっこする。

射撃練習場の山中。イスラエル軍特殊狙撃部隊が標的を撃ち砕く。標的はパレスチナの女。中央の1枚が倒れない。標的の影からマナルが現われる。奇想天外なバトルが始まる。狙撃兵たちのラインダンス撃ちにごろ寝撃ち、マナルのインティファーダ石投げの秘術、新月手裏剣、手榴弾のお手玉遊びからジャスパー・ジョーンズ流の星条旗ならぬパレスチナ旗描き、さらにはパレスチナの地形の楯を操ってのブーメラン戦法などなど秘術を尽くしたバトルが展開するが一・。

スタッフ

監督:エリア・スレイマン
撮影:マルク=アンドレ・バティーニュ
美術:ミゲル・ティスラン、ドゥニ・ルノー
サウンド:エリック・ティスラン、サリム・アザジ、ウィリアム・シュミット
編集:ヴェロニク・ランジュ
歌:“I put a spell on you”(Screamin'Jay Hawkins)ナタ—シャ・アトラス他
ライン・プロデューサー:アヴィ・クラインバーカー
コープロデューサー:エリア・スレイマン
製作:アンベール・バルザン

キャスト

E.S.(エリア):エリア・スレイマン
女(マナル):マナル・ハーデル
エリアの父:ナーエフ・ダヘル
エリアの母:ナジーラ・スレイマン
サンタクロース:ジョージ・イブラヒム
テロじい(道路破壊老人):リアド・マサルウェ
父の工場の見習い1=バス停の男、ジャマル:ジャマル・ダヘル
父の工場の見習い2=ナンバープレートの男、アウニ:アメル・ダヘル
洗濯ものをほす奥さん:ルーバ・ワルワール
東エルサレムの要人(イスラエル側のスパイ):ジョージ・クレイフィ
信号待ちのイスラエル入植者:アレックス・ローレンス
夜のチェック・ポイントの将校:メナシェ・ノーイ
税務署員/狙撃兵を訓練する将校:アヴィ・クラインバーガー
サンタクロースの吐息:ミシェル・ピコリ

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