原題:Punch-Drunk Love

天才監督が作った“今までにない映画”は、一生に一度の恋に向かって暴走するラブ・ストーリー

第55回カンヌ国際映画祭正式招待作最優秀監督賞受賞

2002年10月11日全米初公開

2002年/アメリカ/94分/カラー/DTS / Dolby EX 6.1 / SDDS 配給:東宝東和

2004年03月03日よりビデオリリース 2003年 7月26日よりロードショー 恵比寿ガーデンシネマにて

(C)2002 REVOLUTION STUDIOS DISTRIBUTION COMPANY,LLC

公開初日 2003/07/26

配給会社名 0002

解説



名作のリメイク、シリーズのパート2に3、オマージュ以前のパクリ……。新鮮な映画体験が減っている今、“今までにない映画”が登場した。今年で33歳の天才監督ポール・トーマス・アンダーソン(以下、PTA)の最新作『パンチドランク・ラブ』である。

この映画は、デイヴィッド・リンチが審査委員長を務めた02年カンヌ国際映画祭においてPTAに監督賞をもたらし、03年のゴールデン・クローブ賞をはじめ多くの映画賞にノミネート中。02年10月、ニューヨーク、ロサンゼルス、トロントの3都市5館で限定公開されたものの、公開3週目で481館に拡大、全米で大ヒットした。

PTAは、27歳で70〜80年代のポルノ映画業界における擬似家族の愛をテーマにした『ブギーナイツ』(155分)を、29歳で12人の一見無関係な人間関係が運命のイタズラで共鳴する24時間を描いた『マグノリア』(187分)を監督・脚本・製作。ダイナミックな群像劇を得意とする若き映画作家として世界的な評価を得たが、今回はかんしゃく持ちの自称・青年実業家パリーと離婚歴のあるインテリ女性リナとの“PUNCH-DRUNKLOVE”(強烈な一目惚れ)を描いたラブ・ストーリー、上映時間も95分。本作は映画史上だけではなく、PTA史上的にも新しい4本目の監督作となった。

バリー・イーガン役は、「サタデー・ナイト・ライブ」出身の人気俳優アダム・サンドラー。気は弱いけれど、腕っぷしが強いのはヒット作『ウェディング・シンガー』や最近作『Mr.ディーズ』の主人公と同様。でも、バリーのキャラクターは……。仕事に関しては真面目だが、食品会社のマイレージ宣伝の応募要綱のスキをつき、プリンを大量買いして一生無料で飛行機旅行をしようとする変った男でもある。また、ふだんは心優しいのに、いきなりキレて姉の家の窓ガラスをキックで割るなど、自分の中にコントロールできない暴力的なもう一人の自分がいるようなのだ。この複雑な役どころはサンドラー以外では考えられない名演。しかも、サイレント喜劇王バスター・キートンに負けぬほど走る走る走る。

リナに扮したのは、『奇跡の海』や『アンジェラの灰』など、これまでヘビーなヒロイン役が多かったイギリスの名女優エミリー・ワトソン。『アメリ』の主演候補にも名前が挙がっていただけあり、同僚であるバリーの姉が見せてくれたイーガン家のファミリー写真を見てパリーに一目惚れし、包み込むような愛を注ぐ—不思議ちゃん的女性で、癒し系のキャラクターが見事にハマっている。

脇を固めるのはPTA映画の常連、性格“肥満”俳優フィリップ・シーモア・ホフマン。テレフォン・セックス・サービスを利用したゆすり屋ディーンを怪演。バリーの共同経営者で、人のよいランスを、これまたPTA組のルイス・ガスマンが絶妙に演じている。

実は、バリーのエピソードの一部は実話。ヘルシー・チョイス社のプリンを合計12,000個以上購入し、125万マイルを貯めた“プリン男”は実在するのである。とはいえ、『パンチドランク・ラブ』は“小説より奇なりな事実”を超えた作品となっている。

それはツボツボで入る、世の中の刺激におびえがちな主人公の知覚と連動した一人称カメラや、突如音量が大きくなるSEなど、オーディオ&ビジュアル・ショックゆえではないだろうか。耳もいい監督として知られるPTAは、『ブギーナイツ』ではビーチ・ボーイズの「神のみぞ知る」といった70年代のヒット曲を適材適所に、『マグノリア』ではエイミー・マンの歌を大胆に使い、演出効果を上げたが、今回はSEと音楽の中間的なサウンド・コラージュを多用、ハリーの不安な精神状態を表す。手がけたのは『マグノリア』のサウンドトラックだけではなく、フィオナ・アップルやバッドリー・ドローン・ボーイ(『アバウト・ア・ボーイ』他)らのプロデューサーとしても有名なジョン・フライオン。バリーの幻覚とおぼしきタイトル・デザインやインターミッション的にはさまるサイケデリックな映像は、現代アートの新進作家ジェレミー・ブレイクに発注された。

映画の後半。バリーは、リナがありのままの自分を愛してくれる初めての女性だとわかり、二人の恋を邪魔するバイオレンスに立ち向かう勇気を得て、身体にみちあふれるエネルギーをかんしゃくで消耗するのではなく、愛の生活のために役立てることを学ぶ。そう。『パンチドランク・ラブ』は、愛に不器用な男と愛におびえる女が甘くとろける恋に落ちるまでを、パンチがきいた音や映像で描いたワン&オンリーの映画、“一生に一度の恋に向かって暴走するラブ・ストーリー”なのだ。

劇中、故ハリー・ニルソンがロバート・アルトマン監督『ポパイ』のために書いたラヴ・ソング「ヒー・ニーズ・ミー」が流れる。歌はオリーブを演じたシェリー・デュバル。ハワイのホテルで再会したバリーとリナの熱いキスシーンがシルエットになる画作りといい、『パンチドランク・ラブ』は、ポパイとオリーブのような純愛を複雑な現代に蘇らせる試み、と見ることもできるかもしれない。

ストーリー



バリー・イーガン(アダム・サンドラー)はロサンゼルスの北部、サン・フェルナンド・バレーの倉庫街で、相棒のランス(ルイス・ガスマン)と、トイレの詰まりを取るための吸盤棒(柄に飾りが付いたニュー・タイプ)をホテル向けに販売している。

その日、バリーは公私共に多忙だった。新調した真っ青なスーツを着て、早朝から出社。まず、ヘルシー・チョイス食品に「御社の食品10個で500マイル、クーポン券を送れば1,OOOマイル付くというマイレージ特典が豪華すぎるのではないか」と電話で質問。道路で佇んでいたら、車が自分の目の前に止まり、小さなピアノ(正確にはハーモニウム)を置いて、猛スピードで去っていた。午前7時には、見ず知らずの上品なピンクのセーターを着た女性リナ・レナード(エミリー・ワトソン)がやってきて、「修理屋さんが8時に開いたらこの車を修理に出して欲しい」と頼まれる。結局、気になっていたピアノをオフィスに運び込み、以後、ヒマがあれば愛でるバリーであった。

顧客とのセールス中にはロンダ、カレン、キャサリンー7人いる姉のうちの3人から「今夜のパーティに必ず来るように」と電話がかかり、仕事が度々中断。昼休みにはもう一人の姉エリザベスがやってきて、「今日のパーティで同僚のステキな女性を紹介しよう」と言われるが、バリーは遠慮する。

約束どおり、今日が誕生日の姉スーザンの家へ行ったものの、姉たちは“6歳の頃、バリーが自分たちにゲイだとからかわれ、窓ガラスをハンマーで割った過去”を蒸し返す。パーティがいい感じで盛り上がっているにも関わらず突然、バリーがリビングの窓ガラスをキックで次々と割った。夫たちの一人、歯科医のウォルターに謝り、「最近、急に泣き出すことがある」と告白しながら泣き出してしまうバリー。
とはいえ、スーパーでヘルシー・チョイス食品の何を買えば得か?をチェックし、自宅に戻ればテレフォン・セックス・サービスを申し込む。女の声に対して自分の事業の将来に関しては見栄を張るバリーだが、色っぽいトークに対しては反応が鈍い。

翌朝、出社の準備をしていると、昨晩の女から「家賃用の750ドルを貸して欲しい」と電話があって、あわてて切る。事務所へ行くと、大量のプリンが積まれている。不思議がるランス。仕事中に、例の女からしつこく電話がある。姉と彼女の同僚の女性リナがやって来て、「お昼を一緒にどうか?」と誘うが、バリーはそれどころではない。しかし、一人で戻ってきたリナからの明日のディナーの誘いには素直に応じるバリー。

次の日の晩。バリーとリナはレストランで食事をしている。「ちゃんとしたおつきあいをしたいから」と、「エリザベスから見せてもらったイーガン家のファミリー写真を見てバリーに惹かれ、わざと一昨日車を預けに行った」と告白するリナ。ディナーはなごやかに進むが、事務所にあった大量のプリンの話題のあとで、バリーはレストルームへ行き、トイレを素手で破壊する。店の支配人にバレて、二人は追い出されたものの、いいムードのまま、リナの部屋へ。一旦は簡単なキスで別れるが、リナに管理人の電話で呼び戻され、今度はちゃんとしたキスをして別れるバリー。
ところが、自宅に戻ろうとした刹那、何者かにピックアップ・トラックで拉致される。表向きはD&Dマットレスマンのオーナー、裏ではテレフォン・セックス・サービスを利用したゆすり屋をやっているディーン・トランベル(フィリップ・シーモア・ホフマン)の手先の男たちであった。バリーはキャッシュ.ディスペンサーから限度額の500ドルを下ろし、勘弁してもらう。しかし、口答えしたことから殴られ、夜の街を全速力で泣きながら走って逃げる。

次の日、事務所でバリーはハワイ行きをランスに宣言する。危険な男たちから逃げハワイへ出張中のリナへ会うためだ。スーパーでさらに大量のプリンを買い込み、ヘルシー・チョイス社に電話をするが、「マイレージの手続きが済むまで2ヶ月かかる」と言われ、キレるバリー。その足で空港へ行き、自腹でワイキキヘ。無事、リナと再会し、高級ホテルで甘い夜を過ごす。バツイチで恋人と別れて半年になるリナが、ありのままの自分を受け入れてくれたことで勇気が湧いたバリーは、テレフォン・セックス・サービスに戦線布告の電話を入れる。バリーとリナは、ロサンゼルスの空港からバリーの部屋へ車で向かう。しかし、そこへあのピックアップ・トラックが突っ込んできた。リナのダメージはひどそうだ。怒りのあまり飛び出すバリー。果たして、ゆすり屋たちとの戦いの結末は?そして、バリーとリナの愛の行方は?

スタッフ

脚本・監督:ポール・トーマス・アンダーソン
製作:ジョアン・セラー
   ダニエル・ルビ
   ポール・トーマス・アンダーソン
編集:レスリー・ジョーンズ
撮影監督:ロバート・エルスウィット
プロダクションデザイン:ウィリアム・アーノルド
衣装デザイン:マーク・ブリッジス
キャスティング:カサンドラ・クルクンディス
アートワーク:ジェレミー・ブレイク
音楽:ジョン・ブライオン

キャスト

アダム・サンドラー
エミリー・ワトソン
ルイス・ガスマン
メアリー・リン・ライスカブ
フィリップ・シーモア・ホフマン

LINK

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