原題:JLG/JLG - Self-Portrait in December

1995年/フランス・スイス合作/フランス映画/製作:GAUMONT-PERIPHER工A/ 全3巻、1,520M、1x1.37/カラー/56分/ 日本語字幕:映画史字幕集団2002、監修協力:浅田彰/ 資料協力:奥村昭夫、筑摩書房/協賛:TRANS CONTINENTS/ 提供・配給:フランス映画社、共同提供:シネフィル・イマジカ

2004年07月24日よりDVD発売開始 2002年8月17日よりユーロスペースにてロードショー公開

(C)GAUMONT 1994

公開初日 2002/08/17

配給会社名 0094

公開日メモ 全編が詩の美しさで展開する傑作だが、題名にジャン=リュック・ゴダールのイニシャルであるJLGを冠しているように、ゴダールが自らを対象として世界を描こうとする新たな挑戦の意欲作。

解説


「JLG/自画像」は「ゴダールの決別」(93)に続いて35mmで製作された劇場用映画で日本初公開。中断していた大作「映画史」を2Aの章から再開したのと並行しての作品だ。全編が詩の美しさで展開する傑作だが、題名にジャン=リュック・ゴダールのイニシャルであるJLGを冠しているように、ゴダールが自らを対象として世界を描こうとする新たな挑戦の意欲作だ。自伝ではない、肖像でもない、自画像だとゴダールは言う。原題は“JLG/JLG”。副題として“12月の自画像”とあるように、撮影は93年の冬から翌年の春にかけて行なわれた。

 この映画はドキュメンタリー映画と呼ぶにはフィクションが随所に入っていて、ジャンルでくくるのは容易ではない。さまざまな要素がポエジーで自由に飛翔して渾然と一体化した映画で、ゴダールが言うように〈自画像映画〉というジャンルで呼ぶほかないのかもしれない。ゴダール自身は、自画像について次のように定義している。
 《自画像は絵画ではわりと普通にあるジャンルだが、文学ではそれほどではない。文学では自伝、回想、メモワールや死後のメモワールなどがあるだけです。

映画では、実際には不可能なジャンルです。私は自分が知らないところに行くのが大好きなので、映画における自画像とは何でありうるのか知りたかった。映画はどこまでいけるものなのか、そして、映画はどこまで自分を受けいれてくれる
ものなのか。》
 スタッフ・キャストとも少数構成で、撮影のイヴ・プリガンはゴダール作品は初めてだが、室内撮影も湖畔や山奥の風景も息をのむ美しさだ。録音は「新ドイツ零年」「ゴダールの決別」に続いてのピエール=アラン・ベス。共演者では、盲目の編集助手にジュヌヴィエーヴ・パスキエ。タネールの「ローズヒルの女」やアンヌ=マリー・ミエヴィルの『ルー・ナ・パ・ディ・ノン』に出演しているスイス女優だ。ラストシーン直前に山奥でひとりオウィディウスの〈変身物語〉の終章をラテン語で朗誦しているのはエリザベート・カザ。なぜかゴダールのコートを尻に敷いて朗誦し(オウィディウスの原文でローマとなっている覇権の国をアメリカと言い換えている)、とりかえそうとするゴダールをおいて悠々と立ち去る貫禄ぶりがおかしい。特別出演は、ゴダールの思想調査に来る映画局の査察官3人組に、チーフ役が映画雑誌〈ポジティブ〉をベースに活躍する批評家ルイ・セガン、蔵書を調査する係官が映画史家で京都映画祭や山形ドキュメンタリー映画祭に審査員として来日もしているベルナール・エイゼンシッツ、映像関連を調査する係官は映画作家に関するドキュメンタリーの名手で、勝手にしゃがれ」いらいゴダール映画に数多く特別出演している評論家アンドレ・S・ラバルト。
 音楽はベートーヴェンの弦楽四重奏曲と第七交響曲、ヒンデミットの〈葬送音楽〉、アルヴォ・ペルトの〈ミゼレーレ〉が、映像とあいまって、まるでこの映画のために演奏されたかと思わせるほどだ。
 製作は「右側に気をつけろ」(87)の大手ゴーモン。冒頭で電話が鳴るのは「右側に気をつけろ」と同じで、ゴダールが映画の注文を受けたと思わせる。レオン・ゴーモン(1863-1946)が1895年に創立したゴーモンは、「映画史」の制作再開をサポートしつつ、1995年の映画生誕百年と自社の創立百年記念のために、ゴダールに思うがままの作品をと制作を委嘱し、ついに画期的な映画が誕生した。完成とほぼ同時の94年横浜フランス映画祭で特別上映され、フランスでは映画誕生を祝う95年に一般公開された。日本での劇場初公開にあたっては、特別に浅田彰氏の監修を仰いだ。

ストーリー

 主人公はゴダールその人であり、ゴダールが生活するスイスのレマン湖畔のロールの自宅やアトリエ、そして幼い頃から親しんだ風景がゴダールの内心を示すようにたちあがってくる。
 アトリエの一角におかれた少年の写真に、喪に服していた思い出を語るゴダール。制作スタッフかららしい電話に安易な文化批判の映画にするのをなだめて考えにふけるゴダールは、アラゴンの〈断腸詩集〉をとりだして韻を踏む試みから、ウィトゲンシュタインの〈確実性の問題〉の盲者と手の一節を実際に映像で示し、ふたつの三角形で投射論を図解してダビデの星を描き、ナチスとイスラエル、そしてパレスチナの現代史に至るステレオ論を展開する。イマージュの結びつきについてのルヴェルディの論考から、ナチスの水晶と霧に思いをはせ、音と映像の結びつきの実験が画面上に現出する。
 岸辺を散歩するゴダールの耳に、愛する映画作家たちの映画の音がやまない。
スイスにいながら湖の両岸はフランスだ。否定すべきものを正面に見据えてそこにとどまると、ヘーゲルの言葉を引いて、キングダム・オブ・フランスと指さすゴダール。
 若い家政婦ブリジットが辞めるという。悪夢のように突然、フランスの国立映画局から査察官が立ち入り捜査にやってくる。風景の中に国がある。フランツ・カフカは、ポジは生まれながらにだれにでもある、ネガは作らなければならないと言った。破産同然のアトリエにとつぜん盲目の女性が訪れてきて、編集助手を志願してくる・・・。

スタッフ

監督・脚本・編集:ジャン=リュック・ゴダール
撮影:イヴ・プリガン
撮影助手:クリスチアン・ジャクノ
録音:ピエール=アラン・ベス
録音助手:ブノワ・イルブラン
編集助手:カトリーヌ・コルモン
助監督:チェリー・ボルド
衣装:マリーナ・ツリアーニ、コリンヌ・バエリスヴィル
音楽:ヒンデミット、ペルト、ベートーヴェン
製作主任:ジョゼフ・シュトルプ

キャスト

JLG(ジャノ、ムッシュー・ジャン):ジャン=リュック・ゴダール
編集助手を志願する盲目の女性:ジュヌヴィエーヴ・パスキエ
映画局の査察官:ルイ・セガン
映画局の査察官アンドレ:アンドレ・S・ラバルト
映画局の査察官ベルナール:ベルナール・エイゼンシッツ
本を読む少女:ナタリー・アギヤール
家政婦の少女ブリジット:ブリジット・バスチアン
森の老女:エリザベート・カザ

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