原題:SUNSHINE

激動の20世紀ハンガリー歴史の荒波にもまれたある一族の盛衰を3世代にわたって描いた壮大な叙事詩

1999年/オーストリア、カナダ、ドイツ、ハンガリー/カラー/180分/DTS / Dolby Digital / SDDS 配給:エスパース・サロウ

2003年03月21日よりビデオ発売&レンタル開始 2003年03月21日よりDVD発売&レンタル開始 2002年10月12日より銀座テアトルシネマにてロードショー公開

公開初日 2002/10/12

配給会社名 0087

公開日メモ 激動の20世紀ハンガリー歴史の荒波にもまれたある一族の盛衰を3世代にわたって描いた壮大な叙事詩

解説



20世紀。歴史は怒濤のごとく押し寄せて彼らに栄光を極めさせ、返す波で地獄の底に引きずり込んだ。これはブダペストに生きたユダヤ人ゾネンシャイン一族3代の栄光と受難、愛と戦いを描いた一大叙事詩である。
 物語は、語り部であるイヴァンが曾祖父エマヌエルからはじまる一族百年の歴史に思いを馳せることによって幕を開ける。19世紀後半、父の死により、12才にして母と弟を養うことになったエマヌエル・ゾネンシャイン(ドイツ語で『日の光、喜び、太陽」という意味)は故郷の村を出、ブダペストにやってくる。醸造所につとめ、勤勉に働き、25才で独立すると自らの姓から取った名前の薬草酒”サンシャインの味”で大成功する。イグナツはエマヌエルの長子で、この映画を実際のハンガリー史に即してみた場合、彼の人生は、第一次世界大戦までのオーストリア=ハンガリー二重帝国の時代に重なっている。イグナツは法律家として成功するが、やがて第一次世界大戦が勃発し、従軍裁判官として皇帝派よりの判決を繰り返したため、戦後共産化したクン・べ一ラ政権により軟禁される。しかし程なく共産政権も崩壊し、今度は共産政権を倒した軍事政権のもと報復裁判を求められる。めまぐるしく変わる世の波に翻弄された一生であった。
 アダムはイグナツの次男で、この時代は第一次世界大戦後から、共産政権時代、それに続く王政復古時代、そして第二次世界大戦までの激動期にあたる。フェンシングに才能を開花させたアダムは、1936年ベルリンオリンピックのハンガリー代表として金メダルを獲得し、国民的英雄となるが、第二次世界大戦のナチスによるユダヤ人迫害の渦から逃れることが出来ず、強制収容所に送られる。
 イヴァンはアダムの息子で、第二次世界大戦後、ハンガリー動乱をはさむ社会主義政権期、停滞の時代に生きた。父の復讐に燃え、戦後警察に入りファシスト狩りに狂奔するが、時はスターリン影響下の恐怖政治期。裏切り、告発、粛正。心晴れることがないまま、警察を辞し、民主化運動に活路を見出すが、ハンガリー動乱により逮捕され、3年の月日を刑務所で送る。出所したイヴァンは、祖母ヴァレリーの元に身を寄せる。ヴァレリーこそはイグナツ、アダム、イヴァンとゾネンシャインの男たちを直接知る人。激動する歴史の中で唯一人生き延びてきた。ガルシア=マルケスの「百年の孤独」にでてくるグレートマザーとも言うべきウルスラに似ていなくもない。彼女のもとイヴァンは穏やかな日々を送る。しかし、百年近く生きた彼女にも死が訪れる。要らなくなった家財の中から見つかった曾祖父エマヌエルの手紙、思い出されるヴァレリーの「それでも人生は美しい」という言葉。ようやくイヴァンは暗い過去に決別し、自己を回復する兆しを見るのだった。
監督は「メフィスト」(81)でアカデミー賞外国語映画賞を受賞、「コンフィデンス 信頼」(79)の大ヒットで日本でも知られるハンガリー出身の巨匠イシュトヴァーン・サボー。世界的な名声を誇るサボーは「ミーティング・ヴィーナス」(91)でハリウッド進出、本作ではハリウッドの演技派キャストと巨額な製作費を得て、母国ハンガリーの現代史を背景に壮大な叙事詩を作り上げた。サボー作品では、異常な状況における人間の性の問題が大胆に描写される。実際、ゾネンシャインの男たちはいつも道ならぬ恋に身を焦がす。イグナッは法律上の妹と、アダムは義姉と、イヴァンは人妻と。「汝姦淫するなかれ」モーゼの十戒が心の奥底深く刻まれているからなのか、ユダヤ人である彼らの情熱に身を任せた行為は常に当人たち自身を内部から浸食してゆく。行く末に破滅的な結果が待つと知っていればいるほど、欲望を封じた末の爆発的な官能の奔出は、人につかの間の陶酔を、時には救いさえも、もたらすものなのかも知れない。またサボーは、悲劇的な過去の現実から現在のハンガリーを検証するスタンスを取り続ける。ゾネンシャインの百年、それはユダヤ人差別と改姓・改宗という同化=民族のアイデンティティ喪失、それと社会の中での個人の浮き沈み垂成功と過
ちの歴史である。これだけならば怨恨と後悔を積み重ねるものに過ぎないのかもしれない。しかし、クライマックスでイヴァンが見つける曾祖父エマヌエルの手紙は、ユダヤ民族の処世術を突き抜け万人に開かれた普遍的な人生哲学を示すものである。またヴァレリーの「それでも人生は美しい」という言葉は、人生に対するどんな否定をも無化する、大いなる肯定の言葉である。そういった意味でこの映画は過去を蒸し返すような告発の連鎖からは無縁であり、未来を開く今の物語として見事に成功しているのである。
 ちなみにハンガリーは伝統的にフェンシング、特にサーブルが強く、ベルリン大会の前のアムステルダム五輪に続き、実際にベルリン五輪でもサーブル団体種目で金メダルを獲得している(残念ながら、金メダリストのなかにアダム・ショルシュという名はない)。「突き」の他に「切り」もある最も実戦的なサーブルが強いところなど、自らフン族の末喬を任ずるハンガリー人の面目躍如というところか。百年にわたるゾネンシャインの男たち3代、イグナツ、アダム、イヴァンの性格の違いを的確に表現し、かつ脈々と流れる血筋の連続をも感じさせる出色の演技を見せたのは、「シンドラーのリスト」(93)「イングリッシュ・ペイシェント」(96)でアカデミー賞の常連となったレイフ・ファインズ。絵巻物のように現れる豪華共演陣は、ファシスト狩りの陣頭に立ち後に粛正という非業の死を遂げるクノールに、「アルタード・ステーツ/未知への挑戦」で衝撃的にデビューし、「蜘蛛女のキス」(85)でアカデミー賞・カンヌ映画祭主演男優賞を受賞したウィリアム・ハート、狂おしい恋に身を焦がすグレタに、「ハムナプトラ」シリーズ(99-01)「スターリングラード」(00)で人気上昇中のレイチェル・ワイズ、恐怖政治をしたたかに生きる婦人警官キャロルに、「クラッシュ」(96)「ザ・ハリケーン」(99)のデボラ・カーラ・アンガー、フランスから帰国する共産主義者、晩年のグスタフに、「X一ファイル」のジョン・ネヴィル。撮影は、「コンフィデンス信頼」(79)「メフィスト」(81)などサボー作品や「男が女を愛する時」(94)「海の上のピアニスト」(99)のうヨシュ・コルタイ。音楽は、「アラビアのロレンス」(62)「ドクトル・ジバゴ」(65)「いまを生きる」(89)「ゴースト ニューヨークの幻」(90)の巨匠モーリス・ジャール。なお、ヨーロッパ映画祭では主演男優賞・撮影賞脚本賞の3部門を受賞。ゴールデン・グローブ賞では作品賞・監督賞・オリジナル作曲賞の3部門にノミネートされ、ヴィスコンティの「山猫」、ベルトルッチの「1900年」と並び称されるほどの高い評価を受けた。

ストーリー


十九世紀も終わり頃、オーストリア=ハンガリー二重帝国の紅顔の少年がたどたどしくも希望に満ちた足取りで歩いている。彼こそこの後、イグナツ・アダム・イヴァン(レイフ・ファインズ3役)と3代にわたって語られるソネンシャイン一家繁栄の礎を築いたユダヤ人のエマヌエルである。勤勉で誇り高いエマヌエルはブダペストの醸造所で働き、25才で独立、子どもの頃死んだ父の秘伝のレシピで薬草酒を作り自らの姓から“サンシャインの味”と名付け売り申した。これが大いに当たり、エマヌエルは一財産築くことになる。彼は長子イグナツと次子グスタフを授かり、また若くして逝った弟の娘ウァレリーを養女にし、厳しくも愛情を持って育てた。そして時が経ちイグナツは法律家を志す物静かな青年に、グスタフは医者を目指す活発な若者に、ヴァレリーは発明されたばかりの写真に興味を示す見目麗しい娘へと成長した。
●イグナツの物語
幼い頃から仲が良かったイグナツとヴァレリー(ジェニファー・エール)の問に芽生えていた恋の兆しは、イグナツが法律を勉強をするためのウィーン留学が迫ったある日、エマヌエルの知るところとなる。兄妹が愛し合うことを案じたエマヌエルはイグナツを諌めるのだった。ウィーンでのイグナツはエマヌエルの諌言を受け入れ、ヴァレリーからの手紙にも返信しなかったが、ヴァレリーのウィーン訪問によってその戒めば破られる。二人は短い逢瀬に燃え上がり、イグナツが留学を終えブダペストに帰ってからは、堰を切ったように性愛の奔流に身をゆだねた。二重帝国の判事にとして頭角をあらわしはじめるイクナツは、上司にユダヤ風の姓を変えることを勧められる。これを知ったエマヌエルは落胆するが、信仰を捨てないと言う条件で容認する。イクナツ・グスタフ・ヴァレリーの三人は検討の末、ラテン語で仕事、運命を意味する「ショルシュ」という姓を名乗ることにした。その矢先、ウァレリーが妊娠した。皆がそろったタ食時、イグナツはエマヌエルに結婚の許しを求めるのだが、母ロースは驚きのあまり卒倒する。しかし、エマヌエルは自分が若かりし頃恋が実らず不本意な結婚をしたことを思い起こし、二人の結婚を認めた。
 イグナツは腐敗はびこる二重帝国で順調に出世してゆく。しかし、共産主義に傾倒しはじめたグスタフと腐敗した政府を非難するヴァレリーは、イグナツに反発し、度々請いを起こすようになった。
サラエボ事件を機に、世の中は第一次世界大戦へと突入してゆく。イグナツは皇帝に忠誠を誓い、国内の反乱分子に対し次々と過酷な判決を下してゆく。皇帝が崩御した日、父エマヌエルの言ト報を受けたイグナツは運命に対する言いしれぬ不安に苛まれた。皇帝と父、二つの大きな拠り所を失ったイグナツに畳みかけるように事件が訪れる。二重帝国の降伏と妻ヴァレリーからの離婚の申し出である。自分を殺し、体制と父という二つの権威に盲目的に従っていたイグナツヘ、ウァレリーは愛を失っていたのだ。
降伏後、帝国は革命により終焉し、共産化した政府の幹部にクスタフが着任する。イグナツは反革命のかどで軟禁された。しかし、共産政権は百日あまりで軍事政権に取って代わられ、グスタフはフランスに亡命、報復裁判を拒んだイグナツは体調を悪化させ死に至る。そして、彼の後を追うように母ローズも他界した。

■アダムの物語
一家にはヴァレリー(ローズマリー・ハリス)と二人の息子イシュトヴァーンとアタムが残された。ユダヤ人である彼らに世間は冷たいが、血気盛んな青年に育った二人はそれをものともせずに生きていた。兄イシュトヴァーンに勧められてはじめたフェンシングで才能を開花させたアタムはカソリックヘ
の改宗を条件に将校のクラブヘと誘われる。フェンシングを極めんとするアダムは改宗を決意し、洗礼の手続きのとき出会ったハンナ(モリー・パーカー)を見初める。ハンナは既に婚約していたが、アダムの強引な誘いに徐々に惹かれはじめていた。将校クラフで新たな師マルギダイ男爵と出会い、剣を利き腕左手に持ち替えたアタムは、ついに国内での選手権での優勝を手中にした。機熟してハンナと結婚し、息子イヴァンも生まれ順風満帆というところだが、そこには兄嫁グレタとの道ならぬ恋が始まろうとしていた。ベルリンオリンピンクにハンガリー代表として臨んだアダム。金メダルをかけたイタリア代表との最終戦、これに勝てば念願の世界一である。あと1ポイント取れば勝利できるというときアタムは「天に坐す我等が父よ・・・」とカソリックの祈りの言葉を唱えていた。果たしてアダムは金メタルを取り国民的英雄として凱旋する。
幸せは長く続かなかった。グレタに関係を迫られ、兄や妻への罪悪感に苛まれながらも結局はクレタを受け入れる。折しもユダヤ新法が可決され、来るべき破滅へのスピードが加速しはじめていた。ユダヤ人迫害への危機感からグレタは出国を迫るが、アダムは愛国心のため従うことができない。執拗なグレタの言葉と、暗い世情はアダムの身辺を重く閉塞した空気で包んでゆく。ナチスのハンガリー占領にいたり、それは頂点に達する。ユダヤ人たちはゲントーに押し込められ、その後程なく強制収容所に送られる。その途中で殺される者、収容所で殺される者、この世の地獄であった。極寒の収容所で、ナチスの看守はアダムにユタや人であることを認めさせようと水を掛けて拷問をする。しかし、アダムはナチスの非道には決して屈せず、息子イウァンの見ている前で、ハンガリー人のオリンピンク金メタリストであるという誇りと自らの命を引き換えにしたのだった。ソ連軍によるブダペスト解放で第二次世界大戦は終結した。生き残れたのはウァレリーと孫のイヴァンだけだった。

●イヴァンの物語
イヴァンが祖母ウァレリーの元に帰ると、そこにはフランスに亡命していた大叔父グスタフが戻っていた。イヴァンはグスタフに責められる。「なぜ父アダムが殺されようとしているとき、大勢の捕虜たちはゲシュタポに反抗しなかったのか」とロイヴァンは何もできなかったと言い泣き濡れるだけだった。そんなイヴァンをグスタフは警察に口を利き、ファシスト狩りをやらせた。上司クノール(ウィリアム・ハート)のもと、父アダムを目前で殺されたイヴァンの追及は容赦なく、文化人までに向けられた。イヴァンの怨恨に導かれた猛烈な働きぶりが共産党の幹部に認められ、共産党に入党、若くして少佐に大抜擢された。
キャロル(テボラ・カーラ・アンガー)との出会いはそんなときだった。権カ者の妻であるキャロルとの不倫の恋にはいつも危険がつきまとった。スターリン主義の恐怖政治になっていたからだ。いつ誰に目撃されるかも知れないという不安のもと、二人は密会を続けていた。またしても反ユダヤ主義が台頭してくると、彼を抜擢した将軍は上司クノールの取り調べをイヴァンに命じた。いくら調べてもクノールに罪はなかったが、将軍はクノールを陥れるため、執拗に追
及を迫った。イヴァンは罪のないクノールを陥れることはできず、良心の呵責に苛まれ警察を辞めることにする。既に目を付けられていたイヴァンと関係することに危険を感じたキャロルは、心に反し関係の清算を望んだ。
スターリンの死後、クノールは名誉回復され、葬儀が執り行われるが、その席でイヴァンは弔辞としてこう言った。「彼を死に追いやったのは私である…これまでの自分に別れを告げよう」と。その後民主化運動に身を投じ、ハンガリー動乱の鎮圧で捕らえられ三年間の懲役に処される。出所後のイウァンは、ヴァレリーの元に戻り、穏やかな日々を過ごしていた。あるときウァレリーが、曾祖父のレシピ、一家繁栄の基礎を作った薬草酒”サンシャインの味”のレシ
ピを捜そうと言い出した。イヴァンとヴァレリーは方々ひっくり返すように捜すが見つからない。そして、居間の本棚を捜しているときヴァレリーは突然倒れてしまう。病院で名前を聞かれたウァレリーは・腺腫とするなか、かつての姓「ゾネンシャイン」を口にする。イウァンはr家の過去に思いを馳せ、「僕は誰なのか」と自己喪失に悩まされる。ヴァレリーの死後、一家百年の澱を拭うかのように大量の家財を処分していたイヴァンは偶然、曾祖父エマヌエルが祖父イグナツに宛てた手紙を発見する。そこにはユダヤ人として誇り高く生きるための人生哲学が語られていた。曾祖父のレシピは見つからずじまいだったが、レシピより大事なものを祖母は守ってきたのではないかとイウァンは思い、悲惨なことがあっても「それでも人生は美しいのよ」と語る祖母のように、自分だけの一度限りの人生を生きることを
決意するのだった。祖父が改姓した姓を捨て再びソネンシャイン姓に戻す届け出をしたイウァンは、かってないほどの開放感を味わい、麗らかな日射しの中を足取りも軽く雑踏に消えていった・・・。

スタッフ

監督・脚本:イシュトヴァーン・サボー
製作:ロバート・ラントス、アンドラス・ハモリ
共同脚本:イスラエル・ホロヴィッツ
撮影:ラヨシュ・コルタイ
音楽:モーリス・ジャール
美術:ジュジャンナ・ボルヴェンデーグ
衣装:ジュジャンナ・シュテンゲル

キャスト

イグナツ、アダム、イヴァン:レイフ・ファインズ
若き日のヴァレリー:ジェニファー・エール
晩年のヴァレリー:ローズマリー・ハリス
グレタ:レイチェル・ワイズ
キャロル:デボラ・カー・アンガー
クノール:ウィリアム・ハート
ハンナ:モリー・パーカー

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