原題:CHELSEA WALLS

ぼくたちの、夢のかけら。 イーサン・ホーク初監督作品

2002年4月19日アメリカ初公開

2001年/カラー/35mm/ドルビーSRDデジタル/1:1.85ヴィスタサイズ/上映時間109分/3037.8m 日本語字幕翻訳:石田泰子 配給:シネマパリジャン、メディア・スーツ

2003年02月07日よりDVD発売開始 2002年8月3日よりテアトルタイムズスクエアにてロードショー公開

公開初日 2002/08/03

配給会社名 0043/0066

公開日メモ ぼくたちの、夢のかけら。イーサン・ホーク初監督作品

解説


伝説のホテル、チェルシーに魅せられた人々へのレクイエム

もしも、このホテルがなかったら、今のニューヨークの文化はなかったかもしれない!
 マンハッタン西23丁目7番街と8番街に立つチェルシー・ホテル。20世紀ニューヨーク・カルチャーの発祥地として知られ、作家のマーク・トゥエインやトーマス・ウルフ、アーティストのアンディ・ウォーホール、歌手のボブ・ディラン、シド・ヴィシャスなどにゆかりの深い場所だ。
 今も伝説上の人々の魂が息づくこのホテルで、はかない夢とせつない愛を求めて生きる都市生活者の心もようをリリカルな映像と豪華キャストで描いた野心的な作品が登場した。
監督は、「リアリティ・バイツ」や「ガタカ」といった主演作が話題を呼び、今年、「トレーニング・デイ」の演技が認められて、見事、アカデミー賞候補となったハリウッドの人気男優、イーサン・ホーク。デジタル・ビデオを駆使した今回の映画で念願の監督デビューをはたし、映画作りの新しい可能性に挑戦。“ロサンゼルス・タイムズ”に「美しく、詩情あふれる映画」と絶賛されている。ホークの私生活上のパートナーであるユマ・サーマンや友人のロバート・ショーン・レナードなど、彼の人脈をうまく使った個性的なキャストも大きな話題となっている。
 映画では複数の主人公たちの日常生活が、それぞれのホテルの部屋でとらえられる。詩人になる夢を抱きながらも、ホテルのバーで働く美しい女性、グレース。彼女にひそかに思いを寄せながらも愛に踏み出す勇気のない画家のフランク。ミネソタからボブ・ディランのようなミュージシャンになるのをめざして出てきたテリーとロス。破滅志向を持ち、酒と女に目がない熟年作家のバド。バドを愛しながらも、彼とは幸せな生活が送れなかった妻グレタ。心からの愛を求めながらも、それを得ることができなかったバドの愛人マリー。つつましい生活を送りながらも、愛と詩を見つめる若い黒人女性オードリー、彼女への愛と悪い仲間への忠誠心との間で揺れ動くナイーブな青年テリー。そして、クラブで歌うベテランのジャズ・シンガー、スキニー・ボーンズといつも廊下やエレベーターで謎めいた詩を朗読するディーン。
 彼らはこのホテルに住み、四方を古い壁に囲まれた部屋で過去の亡霊たちと向きあいながら、現代のニューヨークで生きている。「チェルシー・ホテルにはゴーストたちが住んでいる。だから、この映画を使って、ゴースト・ストーリーを作れないかと思った」とイーサンは今回の映画についてコメントしているが、この初監督作品で、実在した過去の偉人達の幻影を登場人物達に重ね合わせながら、現代と過去のボヘミアン魂が交差する場所としてホテルを使い、伝説の場所の幻想的な雰囲気を見事に映像化してみせる。影響を受けたというヴィム・ヴェンダースの監督作やドグマ宣言による「セレブレーション」などの手法も巧み取り入れる。
 俳優として確実な成長を遂げる一方、これまで劇団を作ったり、本を執筆したりと、その世界を広げてきたイーサンの新しい世界がここに完成した。ソニーpp100デジタル・カメラを使って、チェルシー・ホテルでのロケを敢行。16日間で早撮りした。「デジタル・カメラを使うと本の執筆や絵画を描くのと、同じような感覚で映画が撮れる。監督業はこれからも続けたい」と意欲満々。長年の友人二コール・バーデッツが86年に書いた戯曲の映画化で、バーデッツ自身が脚色を担当している。 芸術世界での成功を夢見ながらも、その夢の大きさにおしつぶされそうになっている住人たち。ひりひりするような孤独に向き合い、心の奥では純粋な愛を求めながらも、愛に臆病になっている都会人。その心の痛みが、近年、脚光を浴びるポエトリー・リーディングのスタイルで描かれ、まさにデジタル時代の抒情詩と呼びたい作品が生まれた。劇中では実際にホテルに住んでいたディラン・トーマスなどの詩も引用される。
 詩人になるのを夢見るヒロイン、グレースを演じるのは、「パルプ・フィクション」の人気女優ユマ・サーマン。私生活上のイーサンと彼女は“おしどりカップル”として知られるが、昨年、ふたりの間には2番目の子供も誕生し、ハリウッドのベスト・カップルといわれる。「ガタカ」の共演が縁で結ばれたふたりだが、一緒に組む作品は慎重に選んできた。今回、監督&女優という形で、「チェルシーホテル」での共作が実現。「ここでは特に彼女の繊細な部分を見せたかった」とイーサンは語るように、ショートカットにラフなロングスカートというファッションを身にまとい、他の映画では見せたことのない快活さと影のある女性を細やかに演じた。
 ユマ・サーマン以外にも豪華なアンサンブル・キャストが揃った。
ミュージシャン志望の青年テリーには「ドリブン」のロバート・ショーン・レナード、彼の友人ロスには「リアリティ・バイツ」のスティーヴ・ザーン、作家バドには「猿の惑星」のクリス・クリストファーソン、彼の妻グレタに「フィーリング・ミネソタ」のチューズデイ・ウェルド、愛人マリーに「シャンプー台の向こうに」のナターシャ・リチャードソン、画家フランクに「ザ・セル」のヴィンセント・ドノフリオ、詩人志望のオードリーに「キッズ」のロザリオ・ドーソンなど、個性的な顔ぶれが揃った。
 出演者で特に音楽ファンの注目をひきそうなのが、ベテランのクラブ歌手、スキニー・ボーンズの役で出演したジミー・スコットだ。日本ではNHKのドキュメンタリー番組で人気に火がつき、今年、新作アルバム「バット・ビューティフル」を発表したばかり。日本でも通の間では高い評価を得ているジャズ・シンガーで、俳優としてはデイヴィッド・リンチの「ツイン・ピークス」に出演。その彼が劇中、ジョン・レノンの名曲「ジェラス・ガイ」を歌い、登場人物たちの愛と孤独を見事に照らしだす。ジミ−の歌に惚れ込んだレノンの未亡人ヨーコ・オノが版権無料で曲の使用を映画のために許可した。また、劇中、テリーやロスが歌うフォーク系の挿入歌は、カントリー系のオルタナティブ・バンドの実力派として知られるウィルコのジェフ・トゥイーディーが担当している。
 映画の製作を担当しているのは、ニューヨーク・インディペンデント界の実力者、クリスティーヌ・バション。最近では「ベルベット・ゴールドマイン」「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」などの話題作で知られる。共同製作は「ボーイズ・ドント・クライ」のパメラ・R・コフラーと「テープ」(近日、日本公開予定)のアレクシス・アレクザニアン。撮影監督は「リトル・オデッサ」のトム・リッチモンドと「レクイエム・フォー・ドリーム」のカメラ・オペレーターだったリチャード・ルトコウスキー、プロダクション・デザインは「ラウンダーズ」では美術監督だったリック・バトラー、衣裳は「テープ」のキャサリン・トーマスが担当した。

ストーリー



孤独な恋人達は愛の交歓を知らない。
彼らはただ、自分の想いに押し潰されそうとしているだけだ。

ニューヨークのチェルシー・ホテルには、さまざまな人々が住んでいる。大都会のまん中で、孤独な日々を送りながらも。アーティストや詩人になる夢を追い続ける住人たち。古い壁に囲まれたそのホテルには、かつて住んでいた有名な文学者やミュージシャンたちの幻影が彷徨している。住人たちの中には、途中で夢破れ、アルコールやドラッグで命を失う者もいる。薬で死んだ客の部屋にやってきたベテランの警官は言う。「40年前は、アーティストのためのホテルだった」。しかし、新米の警官は、吐き捨てるように言う、「今はヤク中の巣だな」

「僕は同じ夢をよく見る。すごく寒くて、心がからっぽになる。そのたびに君を思い出すんだ。夢の中の僕はひとりぼっちなのさ」
詩人を夢見る繊細なグレースと優しい画家フランク

繊細な雰囲気と情熱的な眼差しを持つスレンダーな女性グレース(ユマ・サーマン)は詩人になることを夢見ている。彼女はチェルシー・ホテルのナイト・クラブでウェイトレスとして働きながら、詩を書いているが、彼女の夢はどこか遠いものに思えた。こんなグレースに密かな思いを寄せているのが、画家のフランク(ヴィンセント・ドノフリオ)だ。彼は時おり、彼女の部屋でお茶を飲みながら、とりとめもない話をする。ある時、台所でビンが割れ、グレースをそっと抱きかかえるフランク。美しい瞳でフランクを見つめるグレースの前でフランクの胸は高鳴るが、なぜか、彼女との愛に踏み出すことができない。実はグレースには身勝手な恋人トムがいた。映画の仕事をしている彼はグレースをニューヨークに残し、ロサンゼルスに仕事で出かけたが、それは失敗に終わる。彼は、ニューヨークに向かっていた。そして、明け方5時に、飛行機の中から電話をかけ、すぐに空港まで迎えに来てほしいと言い出す。グレースはタクシー代がない、という理由でトムの電話を切るが、彼への未練を完全に断ち切ることができない。この夜、グレースの部屋にはふたりの訪問客もいた。ひとりはホテルに住む作家のバドだ。酔っぱらった彼はグレースに一瞬の救いを求めにやってくるが、彼女がトムからのしつこい電話を切れずにいるのを見て、途中で自分の部屋に戻る。一方、彼女への電話が通じないことを心配したフランクも、明け方、部屋にやってくる。トムの気紛れな思いやりに辟易しはじめたグレースは、彼の気持ちを受け入れることをためらっていた??。

「このままじゃイヤなんだ。耐えられない。夜通し働いて、昼間は寝るだけ」
ミュージシャン志望のテリーとロス

ミネソタからミュージシャンとしての成功を夢見て、ニューヨークにやってきたのが、テリー(ロバート・ショーン・レナード)とロス(スティーヴ・ザーン)だ。ホテルヘ車を走らせながら、ギターに合わせて歌を口ずさむ。陽気でおしゃべりなロス。彼とは対照的に内省的な雰囲気のテリー。彼はまるでかつてのボブ・ディランのように都会の孤独を歌おうとする。ふたりはチェルシー・ホテルに滞在するが、夜は作曲し、昼は眠るという昼夜逆転の生活に、次第に疲れ始める。ある夜、ロスは街で出会った3人の客を連れて部屋に戻ってくる。派手な雰囲気の女性ローナ、ハイスクールに通う少女、黒人の少年。ロスはごきげんな笑顔を見せているが、創作活動に疲れきったテリーは自分の世界から出ようとせず、ローナの誘惑をかわす。そんなテリーに対して少年は、「大人になったら、探偵になりたい。誰の目にも映らない男になるんだ。ウォールマンと呼ばれ、僕は壁に溶け込む。生身の盗聴器になるんだ」と妙に哲学的な話をする。ハイスクールに通う少女は、テリーの側にすわり、彼の過去の話に耳を傾ける。テリーの弟は事件を起こして逮捕されたことがあり、テリー自身は療養所でロスと出会い、ミュージシャンになろうと決意したのだ。苦い過去の話を聞きながら、少女も彼に誘惑的な眼差しを向けるが、テリーはその誘いもかわしてしまう。明け方、テリーはガールフレンドだった女性に電話をかけ、辛い創作活動を振り返る。彼女との会話に一瞬癒されたものの、彼の心はどこかうつろだ。やがて、彼の部屋に入った警官たちはその変わり果てた姿を発見する??。

「俺は男だ。数少ない真の男なのさ。残ったのは俺たち3人。しかも、全員が酔いどれだ」
酒と女が欠かせない熟年の作家バドと女たち

熟年の作家バド(クリス・クリストファーソン)は自分の人生が、すでに最盛期を過ぎたことを知っている。アルコールずけとなり、自分を極限まで追いつめることで小説を書く彼。バドは古いタイプの男だった。こんな彼の人生には女性も欠かせない。離れて暮らす妻グレタ(チューズデイ・ウェルド)と愛人マリー(ナターシャ・リチャードソン)はバドを愛しながらも、辛い日々を送った。「あなたといると、私まで破滅してしまいそう」と語るグレタ。「彼を愛しても報われることはない」と言うマリー。ふたりともバドにとって大切なのは自分自身と作品だけ、と分かっていた。
ある夜、酒びたりの彼は、つかの間の話相手を求めて、グレースの部屋を訪ねるが、彼女は恋人トムからの電話に手こずっていた。彼女をあきらめ、部屋に戻ったバドはタイプライターに向かう。夜があけ、ベテラン編集者がトムの部屋に原稿を取りにやって来る。彼の前で減らず口をたたきながらも、自分がもう若くないことを自覚するバドだった。

「どうか訪れておくれ。愛の時間よ。共にとけあう時間よ。待ちわびる日々が思い出を葬る。恐れも彼方も、空の彼方に飛び散った」
詩人志望の黒人オードリーとナイーブな恋人ヴァル

グレイス同様、詩人をめざす黒人の若い女性オードリー(ロザリオ・ドーソン)は、ナイーブな恋人ヴァル(マーク・ウェバー)との関係に、心を痛めていた。詩人としての純粋な夢を抱き、たとえ、貧乏でも、彼との愛の生活を望むオードリー。一方のヴァルはオードリーを愛しながらも、貧乏生活に飽き飽きしていて、悪い仲間クラッチズ(ケヴィン・コリガン)とのうまい儲け話に興味を持つ。
そして、メキシコで稼ごうというクラッチズからの誘いに心が揺れていた。時にはホテルに何日も戻らず、オードリーを心配させる。
ふたりのチェルシー・ホテルでの時間には、優しい愛があふれている。しかし、それが永遠には続かないことをオードリーは知っていた。
ある朝、珍しくスーツを着込んだヴァルを見て、オードリーはすべてを悟った。クラッチズと車で街を出る決意をした彼をオードリーは切なく見つめる。「老人になっても、ふたりで笑いながら、上等のコートを着て、雪のセントラル・パークを歩くんだ」と、自分の夢を語るヴァル。愛を込めながらヴァルをみつめ、別れを告げるオードリーだった。

「君を傷つける気などなかった。僕はただ君に嫉妬しただけ」
クラブ歌手のスキニー・ボーンズと謎の男ディーン

部屋にやってきた靴磨きの少年にビリー・ホリディの話をするのが、ベテランの歌手スキニー・ボーンズ(ジミー・スコット)だ。

これまで苦労しながら人生を歩んできた彼は、チェルシー・ホテルのクラブで歌手として活動している。その夜は、ジョン・レノンの「ジェラス・ガイ」を歌う——「君を傷つける気などなかった。僕はただ嫉妬しただけさ」。

ホテルの廊下やエレベーターには、いつも、謎の男ディーンが立っていて、わけの分からないひとりごとをつぶやいている——「人間にとってゴーストたちは大切な財産だ。チェルシーは彼らの声が聞ける唯一の場所だ」

スタッフ

監督:イーサン・ホーク
脚本:ニコール・バーデッツ
原作:戯曲「チェルシ−・ウォールズ」
ニコール・バーデッツ著
製作総指揮:ジョナサン・シーリング、キャロライン・キャプラン、ジョン・スロス
製作:ゲイリ−・ウィニック、アレクシス・アレクザニアン
   クリスティーヌ・バション、パメラ・R・コフラー
キャスティング:シーラ・ジャフィ、ジョージアン・ウォーケン   音楽総指揮:アレックス・ステヤ−マーク
音楽監修:リンダ・コーエン
オリジナル音楽:ジェフ・トゥイーディー
編集:エイドリアナ・パチェコ
衣裳デザイン:キャサリン・ト−マス
プロダクションデザイン:リック・バトラー
撮影監督:トム・リッチモンド、リチャード・ルトコウスキー
ラインプロデューサー:ジョン・マーカス
製作:インディジェント・プロダクション
共同製作:キラーフィルムズ
制作:アンダー ザ インフルエンス フィルム
提供:インディペンデント フィルム チャネルプロダクションズ
配給:シネマパリジャン、メディアスーツ

キャスト

グレース:ユマ・サーマン
テリー:ロバート・ショーン・レナード    
ロス:スティーヴ・ザーン
バド:クリス・クリストファーソン
フランク:ヴィンセント・ドノフリオ
マリー:ナターシャ・リチャードソン
グレタ:チューズデイ・ウェルド
オードリー:ロザリオ・ド−ソン
ヴァル:マーク・ウェバー
スキニー・ボーンズ:ジミ−・スコット
ウォ−ル:ドゥエイン・マクラフリン
ディーン:ジョン・セイズ
ローナ・ドゥーン:ビアンカ・バキージャ
クラッチズ:ケヴィン・コリガン
レニ−・バーナム:フランク・ウェイリ−
刑事:ポール・ファイラ
新米刑事:マシュ−・デル=ネグロ
少女:パズ・デラ=フエルタ
少年:ギレルモ・ディアス
記者:マーク・ストランド
バレリーナ:ヘザ−・ワッツ
編集者:ハリス・ユーリン
仲間1:サム・コネリ−
仲間2:リック・リンクレイタ−
仲間3:ピーター・サレット

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