原題:Nationale 7

チェアウォーカーたちの愛と希望の物語

2000年ベルリン国際映画祭観客賞 2000年サンセバスチャン国際映画祭観客賞 2000年ロンドン国際映画祭 国際映画批評家連盟賞・新人監督賞

2000年12月6日フランス初公開

2000年/フランス映画/カラー/1:l.66/ヴィスタ/1時間30分/日本語字幕:松岡葉子 配給:ザジフィルム

2003年04月23日よりビデオ発売&レンタル開始 2003年04月23日よりDVD発売&レンタル開始 2002年6月1日よりBOX東中野にてロードショー公開

公開初日 2002/06/01

配給会社名 0089

公開日メモ 障害者だって人間らしく生きる権利はある。障害者だってセックスはしたい。そんな当然の要求を無視してきた社会に、鉄槌を加えるような衝撃作が生まれた。フランスの国道7号線に近い身障者施設を舞台に、筋ジストロフィーのため車椅子生活を送るルネと、彼の苦しみを解消しようと孤軍奮闘する女性介護者ジュリを描いた『ナショナル7』。

解説



 『ナショナル7』を観て、笑って泣いて感動した。そして感心した。だってこんなキワドイ、一歩間違えぱヤバイことになるテーマを見事な映画に仕上げて、観た者に幸福感を与えるまで成功しているのだから…。
 変に、変な気を遣わないところが、この映画の良いところだ。重度の身体障害者の収容施設を舞台にしているのだし、登場人物の大半は身障者となると、健常者は腫れ物に触るように度が過ぎた優しさで接してしまったりするのだが、この映画は、のっけからそういったありがちな空気を一掃する。ルネは筋ジストロフィーを患い独りでは何も出来ない。そんな境遇への同情を差し引いても、こいつは最低な野郎だ。介護の女性を顎で使ったあげく罵署雑言で罵倒しまくる。新任の看護人、ジュリは芯の強い女性で少々のことではめげない。ルネがジュリに告白する「女が抱きたい!」。爆弾発言である。しかし、成人の男性として当然の権利(!?)の主張である。所長以下、看護人一同が集まって対策会議が開かれる。
ルネの必要の切迫は分かる。が、いかに?答えは一つ、プロ=娼婦に委ねるしかない。でも、どうやって?施設の規則やら何やらを理由に尻込みする同僚に業を煮やして、ジュリが単独実行へ。彼女が最初にした事は、娼婦が客をとっている国道7号線(Nationale 7)沿いに行って、彼女達のキャラバン車の入り口の幅を測ることだった。車椅子を通さなければならない…。
 フロレルという娼婦と出会って女を抱く自信を回復したルネは、灯台もと暗し、介護の女性の一人とイイ仲になる。これがこの映画の主要プロット。だが、施設という集団生活の場を舞台にしている以上、他の登場人物のキャラクターやエピソードも豊富。ジュリをめぐる三角関係。カソリックの洗礼を受けたいアラブ人青年、ラバの話…これがまた秀逸…なにしろ彼は身障者でアラブ人でホモ(同室のファブリスと同性愛関係)という、差別の対象に成りがちな3大要素を揃えている上に、洗礼式の名付け親にフロレルを指名して、物議を醸す。
 この映画は、喜劇タッチのヴェールの下でしたたかなタブーへの挑戦を試みている。監督のジャン=ピエール・シナピは、多分“偽善”という言葉が一番キライなのではないか?
 良い映画が生まれる時は全ての歯車が全開して噛み合う。テーマの展開、脚本の厚み、人物像の面白さ、それを演じる俳優達の好演、等々。『ナショナル7』の出演陣は誰をとっても素晴らしいが、特に、ルネ役のオリヴィェ・グルメは、『イゴールの約束』の父親役で世間をあっと言わせてから赤丸急上昇。いずれは名優の名を欲しいままにするであろう遅咲きの大輪だ。
 ちなみに、この映画は、プチ・カメラというシリーズの1本として製作された。
このシリーズの主旨は、デジタル・ヴィデオ・カメラという新しい撮影手段を映画のプロに使って貰って、この新機材は映画に何をもたらすか?映画はこの新機材で何が出来るか?という実験的なもの。キネコされた画面も質が向上して余り気にならないし、何よりカメラのハンディーさが生む軽快なリズムに注目したい。

ストーリー



 フランスのトゥーロンに近い成人の身体障害者施設。そのそばには国道7号線が通っていて、娼婦が大勢立っている。車イスのルネは筋ジストロフィーで糖尿病も患っているが、とにかく反抗的。皮肉屋で人嫌い。看護人をいじめるから、だれも世話しようとしない。性欲だけはおう盛で壁にはヌード写真がベタベタ。
ビデオはエロビデオばかり。
 心のやさしい女性看護人のジュリが彼の世話に回されてきた。ルネは早速買い物に行ったスーパーで、ジュリにエロビデオを買わせて恥をかかせる。その帰り道、ルネが低血糖に陥り具合が悪くなる。車のキーをなくしたジュリは、車イスを押して他人の私道を通って施設に戻ろうとする。すると女の人が出てきて「一人通すと、きりがない」と通行を断る。怒ったルネが「ババア!」と怒鳴ったため、もめごとになる。一方、改造車イスをイージーライダーそこのけで乗り回す若者障害者が国道で事故って負傷。またアラブ人青年のラバがイスラム教からカトリック教徒に変わりたいと言い出して所長は頭が痛い。
 施設の雑用係ローランは密かにジュリを愛しており、ドアや洗濯機をせっせとジュリの家に届けるが、ジュリは精神科医のジャックと愛し合っている。だがジャックは猫のアレルギー。ジュリは愛猫をローランに預ける。ローランはそれと知りながら引き受ける気のいい奴だ。
 糖尿病の悪化で、ダイエットを強要されたルネはハンストを行う。そっとワッフルを持って行くジュリ。誠実に尽くしてくれるジュリに心を開いたルネは「女性とセックスがしたい」と打ち明けた。「障害がない女性がいい。売春婦しかない。頼めるのは君だけだ」とも。
 その申し出は至極もつともだった。これまでにもそういう問題は内在していたが、うやむやにされてきたのだ。所長と看護人たちは話し合い、秘密厳守を条件にルネの要求を飲むことにした。「態度を改めるなら希望を与えるとルネに伝えろ」と所長。
 ジュリは国道7号線のトレーラーハウスに行き、こっそり巻き尺で入り口の幅を計った。車イスが通れるか確かめたのだ。電話ボックスで会ったフロレルに協力を頼むジュリ。「あなたが本物の女だから頼むのよ」というジュリの言葉がフロレルを動かした。
だが、同僚はだれもルネの送迎に手を貸そうとしない。一人でルネを連れて行くジュリ。車イスがなかなかトレーラーに入らないので、悪態をつくルネにフロレルが言った。「あんたのためにここまで来たんだ。この人は聖女だよ」
 ルネはすっかり元気になり、仲間たちと娼婦のトレーラー村でピクニックをするまでになった。ラバはフロレルを自分と同じジョニー・アリデイのファンと知って、カトリック洗礼式の代母にしたいと言い出した。娼婦が代母とは前例未聞で、苦り切る所長は断固反対。それに対し、ついに障害者たちはデモを決行した。それが実って、洗礼式とパーティーは2000年を迎える12月31日にぎにぎしく行われた。幸せそうな障害者たちの姿が、そこにはあった。

スタッフ

監督・脚本:ジャン=ピエール・シナピ
脚色:ジャン=ピエール・シナピ、アンヌ=マリー・カトワ
製作:ジャック・ファンスタン(テレシプ)
番組編成主任:ピエール・シュヴァリェ(ラ・セット・アルテ)
撮影:ジャン=ポール・ムリス
録音:ジャン=ミシェル・ショヴェ
編集:カトリーヌ・シュヴァルツ
美術:リサ・ピリュ
製作指揮:ピエール・ドフェリーズ
セット:エルミニア・シナピ、ジャン=ノエル・ポレセク
衣裳:ヴァレリー・ドニウル
第1助監督:フレデリック・ジェラール

キャスト

ジュリ:ナディア・カチ
ルネ:オリヴィェ・グルメ
ローラン:リオネル・アベランスキ
サンドリーヌ:シャンタル・ヌーヴィルト
ジャン=ルイ:ジェラルド・トマサン
ラバ:サイード・タグマウイ
フロレル:ナディーヌ・マルコヴィッチ
精神科医(ジャック):ジュリアン・ボワセリエ
ソランジュ:イザベル・マザン
所長:ジャン=クロード・フリシュング
ジルベール神父:フランソワ・シナピ
フランソワ:フランク・デマルー
娼婦:マニュエラ・グラリー
“私道”の女:ジリア・パラス
クリスチャン:ジャック・ボンド
医者:ドミニク・ラミュール
ファブリス:ニコラ・ルキュイヨ
セシル:カリーヌ・ルパルキエ
ジャン=シャルル:ステファン・サンカン
調理士:ヴァレリー・クリニエール
老人:コスタンツォ・シナピ

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