ブルース・リーを探して

舞台はソウルのホンデ地区。正体不明のウィルスが若者たちの集まるこのエリアを襲い、次々と犠牲者が出る。奇妙なことに、死体の傍らにはブルース・リーにまつわる何か（写真、TV画面にうつる映像、等々）が常に発見され、そのためにこのウィルスは”ブルース・リー・ウィルス”と呼ばれるようになる。事件に興味を持ったパンク・ロック・バンドのベーシスト、キュンロックは、”ブルース・リー”を手がかりにこのウィルスの謎を探り始める……。これが監督デビュー作となるカン・ローンは、韓国の人気インディーズ・バンド、クライング・ナッツをこの奇妙な設定の中に放り込む（クライング・ナッツのライブ・シーンもふんだんに登場する）。映画はあたかもミステリーのように始まるが、謎解きをこの映画に期待した者は、完璧に裏切られるだろう。むしろ、映画は論理的な思考を意図的に無視してひたすら無軌道に展開する。そしてバカバカしいと言ってもいいその無軌道さが、この映画に不思議なパワーを与えている。随所に見られる非凡な映像センスは、このカン・ローンという新鋭作家の才能の閃きを十二分に感じさせる。とりわけ、脚に異様なオブセッションを抱く少女のエピソードをセピア調のスチール写真の構成で描く場面のリリシズムは感動的である。