原題:Faithless

夫の親友との些細な戯れは、その夜、情欲の炎に変わった。

2000年カンヌ国際映画祭出品 2000年トロント国際映画祭出品 2001年香港国際映画祭出品

2000年9月15日スウェーデン初公開

2000年/スウェーデン映画/35mm/ビスタサイズ/ドルビーSR/2時間34分/ 配給:ムービーテレビジョン

2002年08月21日よりDVD発売開始 2002年08月21日よりビデオ発売&レンタル開始 2002年3月2日よりシャンテシネにてロードショー公開

(C)2000AB Svensk Filmindustri & Swedish Television AB

公開初日 2002/03/02

配給会社名 0102

公開日メモ 三人の大人が陥った三角関係と、その愛欲のゲームの只中で傷つく一人の少女。巨匠イングマール・ベルイマンが自らの半生をもとに脚本を手がけ、公私共に長年のパートナーであり、彼の作品にも多数出演している、女優リヴ・ウルマンが監督。

解説


数々の名作を生み、現在83歳にして、今なお活動を続ける巨匠イングマール・ベルイマン。トリュフォーやロメール、ゴダールといったヌーヴェルヴァーグの監督たちに敬愛され、男女の愛の深遠をテーマにした傑作で世界中の観客を魅了して止まないベルイマンは、私生活面でも結婚、離婚を繰り返す愛の遍歴が有名である。そんな彼が98年に自分巨身をモデルとして執筆した脚本を基に、ベルイマン作品の名女優であり、かつて同棲していた時期のあるパートナーでもあったリヴ・ウルマンが監賢した作品がこの『不実の愛、かくも燃え』である。
老境に差し掛かったベルイマンと思しき人物が、かつて悲劇に終わったある実在の女性との愛を振り返り、その人生の舞台に立った者たちの心の内側を克明に探っていく。この物語は、老人が書斎で原稿を執筆しているところに、記憶の彼方から霊的な存在感をまとった一人の女性が呼び出され、彼女との対話を重ねることによって物語が進行していく、という特筆すべきスタイルによって展開される。かつての親友の妻であり、物語の中では女優マリアンと呼ばれるこの女性は、ベルイマンが若かりし頃に関わった姿で登場し、現在のベルイマンが、彼女の言葉に耳を傾けるという形でこの物語の全貌が浮き彫りにされていくのである。
リヴ・ウルマンは、ベルイマンに見出され今や世界的な大女優としての地位を築いているが、92年以降は監督としての活躍も目覚しく、近年はむしろ監督業に専念している。本作は彼女の長編第4作目にあたる監督作である。2000年のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、その繊細かつ大胆な演出は世界中の映画人やジャーナリストの絶賛を浴びた。最初、ベルイマン自身に監督を薦めたリヴ・ウルマンは、オリジナル脚本に彼女白身の解釈を施すことを条件に、監督を引き受けたという。そのためか、一人の天才映画監督の愛の日々は、女性の立場から洞察され、男のエゴイズムや人聞的な弱さを曝け出した、ある意味で辛らつな様相をまとっている。そして大人たちの不実の愛欲の輪の中心で、苦しむ娘イザベルの存在が、より一層クローズアップされることとなる。結果的に二人の人間を死に追いやってゆく愛の悲劇は、「不純」とは決して言い切れない些細な戯れの心から生まれていく。現代において誰の身に起こっても不思議ではない、日常に仕掛けられた「罠」であり、理性を失わせる力は、愛の本質に初めから潜んでいるものなのだ。
老ベルイマンを演じるのは、現在ベルイマン自身が親友として親交の厚い、スウェーデンの名優エルランド・ヨセフソン、若き日の映画監督ダーヴィッド役には、スウェーデンの舞台、映画、テレビで活躍しているクリスタル・ヘンリクソン。そして最高の演技力と存在感で女優マリアンを演じ、物語の設定に生命を与えているのはスウェーデン映画界切っての名女優レナ・エンドレ。彼女の指揮者の夫マークス役にはリヴ・ウルマンの前作「Private Confessions」(96)にも出演しているトーマス・ハンソン。
撮影監督はラッセ・ハルストレムの『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』(85)やビレ・アウグストの『ぺレ』(87)『愛の風景』(92)などで知られるスウェーデンの第一人者、ヨルゲン・パーション。単調になりがちな書斎でのシーンに様々な光の陰影を与えて心の移ろいを表現している。また、老ベルイマンが書斎から遠く見つめる、静謐な美しさの中に、どこか黄泉のイメージが漂っている海辺の光景は、現在ベルイマン自身が住んでいるスウェーデンのフォーラ島で撮影された。

ストーリー

島で一人で暮らす老人が書斎で原稿を執筆している。思い出のオルゴール、愛くるしい少女の写真、そして記憶は遠い過去に及ぶ。記憶の彼方から一人の美しい女性を呼び覚まし彼女は実在となって書斎に姿を現す。17年前に演劇学校を出て、現在40歳。女優、名はマリアン…。こうして彼の記憶からつむぎだされ肉付けされたマリアンは、老人にかつて悲劇に終わった愛の日々を語り始める。
マリアンは世界的な指揮者の夫マークスと幸福な結婚生活を送り、二人の間には9歳の愛娘イザベルがいた。老人の過去に繋がると思われる映画監督ダーヴィッドは、マークスの無二の親友だった。ダーヴィッドにも二人目の妻と二人の子供のいる家庭があったが、夫婦仲は最悪で、彼は心底寛げるマークスとマリアンの家によく遊びに行った。
マリアンの舞台が跳ねたある夜、二人は一緒にマリアンの家に帰り、彼女は手料理で彼をもてなした。夫は出張中だった。仲のいい兄妹のように、他愛無いお喋りに気の置けない時を過ごした夜更け、ダーヴィッドはマリアンに「君と寝たい」と言い放つ。最初は躊躇し、はぐらかすつもりだったマリアンは、結局、彼と一つのベッドで眠ることに同意する。抱き合うこともなく、ただ手をつなぎ、安らかな眠りに落ちたダーヴィッドの寝顔を見つめながら、「この人は誰?」と、不意に人間存在の不思議に神秘の感情を抱くマリアン。
そのときから安全でプラトニックだったはずの二人の関係が変わった。その後、その夜からの感情の変化に躊躇したのはダーヴィッドの方で、マリアンは逆に罪の意識もないまま、ダーヴィッドとの危険な恋の火種をくすぶらせていた。
二人の関係を決定的にすることになったのは、つかの問のパリヘの逃避行だった。劇団から研修費をもらってパリ旅行を計画したマリアンが、ダーヴィッドを誘ったのだ。マークスは長期ツアーに出るため、イザベルは祖母の家に預けられることになっていた。マリアンとダーヴィッドは自分たちが偶然パリにいるので、二人で会う計画があることを敢えてマークスに告げる。人生を楽しむための欲望が、すでに理性を押し流し始めていた。
初夏のパリ。英国風の小綺麗なホテル。ダーヴィッドとの初めての情事。豪華な食事。ボートを漕ぎ、パリの街を肩を抱き合って散策する一組の恋人。快楽の絶頂にあった二人がパリを離れるとき、もとの生活にもどらなければならないというメランコリーは二人の気持ちをかき乱した。
スウェーデンに戻り、いつもの毎日が始まり、すれ違うことの多くなったマリアンとダーヴィッドだったが、精神のバランスを回復できずにいるのはダーヴィッドの方だった。自分の舞台の演出も役者とうまくいかず、精神的な助けを必要としている彼に、マリアンは手を差し伸べた。マリアンの過去の男との性体験を話すようせがんでおきながら、それに嫉妬して暴力を振るうような子供じみたダーヴィッドの性格を、彼女は受け入れようとしていた。
しかし、ある日の夜、決定的な悲劇が幕を開ける。彼らの情事の直後に、マークスが部屋を訪れたのである。彼はすべてを知っていた。それも二人がパリに発つ前から。二人の情事の炎がすぐに燃え尽きることを願いながら、耐えてきたというのだ。マークスは離婚を申し出るとともにイザベルの親権を主張する。これまでも一人の時が多く、人形相手に物語を語るような夢見がちな少女イザベルは、父と母の間に挟まれて傷つけられる。
そして親権争いにマリアンが勝ったとき、もう一つの決定的な悲劇が彼らを襲った…。「人生を楽しむ。」裏切りと罪悪感の免罪符であるこの言葉が、地獄への片道切符になった。すべての不実な大人たちに囲まれた純粋無垢なイザベルだけが、唯一本当の犠牲者だった。

スタッフ

監督:リヴ・ウルマン
脚本:イングマール・ベルイマン
製作:カイ・ラーセン
製件総指揮:マリア・キュールマン
撮影監督:ヨルゲン・パーション
アートディレクター:ヨーラン・ヴァスベリィ
衣装:インゲル・エルヴィラ・ぺールソン
メイクアップ:セシリア・ドロット・レーン
編集:シルビア・インゲマルソン
音楽:ガーボル・パストール

キャスト

マリアン:レナ・エンドレ
ベルイマン:エルランド・ヨセフソン
ダーヴイッド:クリスタル・ヘンリクソン
マークス:トーマス・ハンソン
イザベル:ミッシェル・ユーレモー
マルガレー夕:ユ一二・ダール
マッティン・ゴールドマン:フィーリップ・サンデーン
ぺ一トラ・ホルスト:テレース・ブルナンデル
アンナ・ベルイ:マリー・リッカルドソン
エヴァ:ステイーナ・エ一クグラード
ヨハン:ヨハン・ラベーウス
アクセル:セン−オロフ・ストランドベリィ
グスタフ:ピョーン・グラナート
マルタ:イェルトルッド・ステーヌング

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