原題:A True Story

ひとりの少年を救うため、映画監督はある決意をした。そして映画は真実の物語となった。

1996年/イラン/カラー/スタンダード/35mm/125分 配給:ビターズエンド

2002年11月22日よりDVD発売&レンタル開始 2001年12月26日より三百人劇場にてロードショー公開

公開初日 2001/12/26

配給会社名 0071

公開日メモ ひとりの少年を救うため、映画監督はある決意をした。そして映画は真実の物語となった。

解説



新作”時計の息子”の主人公に適した素人の少年を探していたが、なかなか見つけられずにいたジャリリ監督は、やむを得ず企画の続行を諦めかける。ある日、ジャリリはパン屋で働く少年サマドを見かけ、新作の主人公にぴったりだと思い、彼を使って映画を撮り始める。しかし、彼は幼い頃、足に大きな火傷を負ったため、走ることができなかった。しかも、放っておくと命にかかわる状態にまで悪化していた。そのことを知ったジャリリは、”時計の息子”の撮影を放棄し、彼の足を治療することを決意する。そして、その過程をフィルムに収めてゆくのだった。「映画によって子供たちを救いたい」と言い続けているジャリリが、「子供の現状を伝えるだけでなく、現実に何をすべきなのか」と自問自答していた時にこの2人は出会った。新作の撮影を諦め、ただ、少年のためにできることは何か模索するジャリリ。その状況にかかわらず、笑顔を絶やさず、明るく生きるサマド。「こういう事件との出会いを映画の作り手として夢見ていたところもあった」とジャリリ自身が語るように、2人の偶然の出会いによって奇跡がおき、傑作が誕生したのである。
“ドキュ・ドラマ”と称される独自のスタイルで映画を撮り続けてきたアボルファズル・ジャリリ。本作『トゥルー・ストーリー』は、サマドヘのインタビュー、スタッフとの話し合い、診察風景など、あたかも
ニュース・フイルムのように進行していく。しかし、ところどころでフイルムの端や黒みが挿入され、”映画”と”現実”の境を暖昧にしてゆく。また、ジャリリとサマドの出会いなどが再現されているが、どの部分が”ドラマ”でどの部分が”ドキュメンタリー”なのか、その境も分からない。ドキュメンタリーとフィクションの垣根をとりはらう、その型破りな編集は彼の手法の原点であろう。彼は”事実の物語”、ではなく、”真実の物語”すなわち『トゥルー・ストーリー』を描き出した。”現実”を切り取りながらも”現実”に劣らない”映画”として成り立たせてしまう、これまでに前例のない木作は”ドキュ・ドラマ”と称されるジャリリの真骨頂といえる作品である。

1990年に製作していた”Dorna”はセリフがほとんどない映画になる予定だった。だが、
製作中に撮影禁止の命令を受け、2年間、映画が作れなくなってしまった。そのフラストレーションから、再度セリフのない『ダンス・オブ・ダスト』を作ったが、この作品もまた、イラン国内のみならず、国外での上映も禁止されてしまった。次にジャリリは『7本のキャンドル』を製作した。病気になり、動くことも、話すこともできない妹とは、彼自身の姿を表している。「映画の中でその少女を治すことができれば、自
分自身も癒されるように思えた」とジャリリは語る。だが、この作品もイラン国内で上映することはできなかった。そこで彼は、自分自身を治療することは困難だと悟ったという。そして、次の映画に取り掛かろうとした時、サマドに出会った。彼の足の状態を聞き、ジャリリは自分にできること
は何であるのか深く考えた。そして、サマドの治療を手伝うことならば自分にもできるのではないかと思い撮影を開始した。そして、『トゥルー・ストーリー』が完成したのである。

ストーリー


 新作”時計の息子”の主演に適した少年を探して、子供たちをビデオに収めてゆくジャリリ。大勢の子供たちと会うが、なかなか気に入る少年に出会えない。ある日、ジャリリは立ち寄ったパン屋で働く少年サマドを見かけ、主人公にぴったりだと思い、翌日、パン屋へ出演交渉に行くが、彼は既に店を解雇されていた。サマドの行方を捜すがなかなか見つからない。やっと見つかったサマドから、足が悪いことを聞かされる。病院で診察してもらうと、膝の裏の骨が変形し、癌を発症している可能性もあり、早急の手術が必要であることが分かる。ジャリリは迷った末に、”時計の息子”の撮影を中止してサマドの治療をし、その過程を撮影するドキュメンタリーに映画を変更することを決意する。戸惑いを隠せないスタッフ・キャストたち。ある日の撮影でつい涙を見せたサマドに、「なぜ泣いた?」とジャリリが聞くと、サマドは「もういいんだ。メソメソするよりも、今は笑っていたい」と返す。現在、15歳のサマドはそれまでに11の職に就いた。極端に労働環境が悪い場合もあった。だが、とにかく貧乏な生活が辛く、仕事を選ぶことなく、自分にできる仕事をし続けているという。
 盲目のシンセサイザー奏者ハミドを呼び、シンセサイザーを弾いてもらう。物悲しいメロディに、サマドは思わず涙ぐむ。「今日、撮影したテープが欲しいな。何度も観てあなたの幸せを祈るよ」とハミドにいうサマド。一度は治療風景の撮影を承諾した医師が、自己宣伝と思われるから、と撮影を断ってきた。必死で頼み込むジャリリ。「あなたが怖がっているのは映画ですか?それとも、真実ですか?」。結局、顔を映さないことで、合意を得る。診察の結果、まず、変形した骨を矯正し、次に、ただれた皮膚を綺麗にする、2度の手術が必要だという。手術の日がやってきた。手術台の上でも笑顔を見せるサマド。病院にはサマドの母親・おじ・おばのほか、スタッフや”時計の息子”のキャストの姿もみえ乱レポーターがやってきてサマドの母親に「彼らが一生懸命なのは’彼のため?それとも映画のため?」と訊ねる。「治るのならばどちらでもいい」と答える母親。「いずれにせよ私たちはジャリリさんに感謝しているのです」。手術が終了し、詰め掛けた大勢の報道陣によりフラッシュがたかれる。

スタッフ

監督:アボルファズル・ジャリリ
撮影:マスード・コラーニ
録音:サレー・ハビビ、ハッサン・ザルファム

キャスト

サマド・ハニ
アボルファズル・ジャリリ
メヒディ・アサディ
モハメド・アシャエリ医師
ファズル=アリ・アシャエリ医師

LINK

□IMDb
□この作品のインタビューを見る
□この作品に関する情報をもっと探す