原題:Secret Ballot

第2回東京フィルメックス TOKYO FILMeX 2001 コンペティション参加作品::http://www.filmex.net/index.htm (「票の重み」の題名で上映)

2001年/イラン・イタリア合作/100分/カラー/ドルビーデジタル/ビスタ(1:1.85)/ 字幕監修:ショーレ・ゴルパリアン/字幕:大西公子 共同提供・配給:ムヴィオラ/クレストインターナショナル

2003年10月02日よりビデオレンタル開始 2003年10月02日よりDVDリリース 2003年1月25日より新宿武蔵野館にてお正月第二弾ロードショー公開

© Payam Films/Fabrica Cinema

公開初日 2003/01/25

配給会社名 0096

解説


ヴェネチア国際映画祭監督賞の俊英が贈る「選挙」と「デモクラシー」と「恋より淡い恋ごころ」。

世界中のほとんどの社会にとって大切なことなのに、その題材から、こんなに胸にしみ入るような、温かい映画ができるとは、誰もが思っていなかった。
『1票のラブレター』は、“民主主義=デモクラシーと選挙”という題材を、イスラムの伝統的な島を舞台に、二人の主人公(選挙管理委員の女の子と若い兵士)の思わず微笑まずにいられない淡い恋ごころを絡ませて描いた、可笑しくて、ふしぎで、心いやされる映画である。信じる人に1票を投じるという行為と、誰かを大切に想う気持ちとが重なり、まるで忘れていたものをふと思い出すように。

東洋的な“間”を感じさせ、観客がゆっくりと物語りを噛みしめられる独特のリズム。深い社会洞察を内に秘めながら、ときにコミカルに、ときにシュールに、ときに心優しく綴られるエピソードのひとつひとつ。2001年ヴェネチア国際映画祭では、監督ババク・パヤミの見事な演出手腕が高く評価されるとともに、圧倒的な人気を博し、長編わずか2作目の新人にもかかわらず、金獅子賞グランプリにもふさわしいと賞賛され、最終的には見事、最優秀監督賞をはじめ5つもの賞を獲得している。
また、全米配給には、マジッド・マジディ監督の『運動靴と赤い金魚』や北野武監督の『BROTHER』などをヒットさせているソニーピクチャーズ・クラシックスがあたり、ブッシュ対ゴアの大統領選における開票トラブルが記憶に新しいフロリダでプレミア上映を行い、大きな話題を呼んだ。

マフマルバフの短編ドキュメンタリーから『1票のラブレター』へ。

この映画の着想の源となったのは、『パンと植木鉢』や『カンダハール』で知られるイラン映画界きっての天才監督モフセン・マフマルバフの短編ドキュメンタリー「民主主義のテスト」である。パヤミはマフマルバフのすすめもあって、そこから自身のアイディアをふくらまし、色鮮やかなエピソードに富んだオリジナル脚本を完成させた。

原案者のマフマルバフが「私にとって、東方の伝統的な国におけるデモクラシーとは、チャドルを被った女の子が投票箱とともに、空から荒海に落ちてくるイメージなのである」といっているように、『1票のラブレター』の中でも、“東方の伝統的な国”におけるデモクラシーの困難と矛盾は描かれる。女性たちの票を自分で入れてしまおうとする男、世の中を良くするのは神様しかいないと言い張る老人など、各エピソードに、イスラム社会イランの民主化の実情を見ることもできる。
しかし、西洋近代のデモクラシーにもイスラムの伝統にも等しく疑問をなげかけるパヤミ監督の視点には、イランに生まれながらカナダで青年時代を過ごし、西洋社会とイスラム社会を知るコスモポリタンであることが生かされているといえるだろう。
だからこそ、パヤミ監督は、この映画がいかにイスラム社会を鮮やかに見せようと「これはイランの選挙システムについての映画ではないし、どこか特定の国の話でもない」と言っている。この映画は、いわゆるリアリズム映画ではなく、我々の時代の選挙というものを、寓話的に風刺的に描いたのだ、と。

『1票のラブレター』は、誰にもなじみのある“デモクラシー”というものを、素直に考えさせてくれる傑作となった。投票率がときに50%さえ割る、“民主主義国”日本の観客もまた、この映画を見て、選挙とは何なのだろう、1票とは、民主主義とは、と自然に素直に、ふと思いを馳せてくれるに違いない。

時が止まったかのようなキシュ島の風景の中で。

映画の撮影は、映画『キシュ島の物語』で日本に紹介されたペルシャ湾の美しい島・キシュ島で行われた。パヤミ監督がいうように物語りは“どこでもない場所”だが、キシュ島の風景は、映画にたとえようのない魅力を与えている。一方で、イラン唯一の商業自由区であり海外からの観光客を迎えて開放的に見えるキシュ島だが、一歩、島の生活に入り込めば、古くからの社会が生きている。
どこまでもつづく白い砂浜、何もない砂漠、うっそうとした緑、時が止まったかのような風景が、主人公二人の道中を包み込む。
映画の中では、朝から夕方までのたった一日の物語だが、撮影は2000年から2001年にかけての冬、約8週間にわたって行われた。天候や機材の故障に悩まされたり、何もないロケ地でスタッフが精神的にまいってしまったり、と数々の問題を乗り越えての撮影だった。

登場人物は、すべて非職業俳優たちである。微笑ましい掛け合いで観客をまさに魅了する主役二人、最初は理想ばかりをかかげているが、やがて現実に気づいていく選挙管理委員の女の子を演じたのは、テヘランでジャーナリズムを専攻したばかりのナシム・アブディ。最初は女の子とぶつかるが、やがてほのかな想いを抱く朴訥な兵士役は、キシュ島に仕事を探しに来ていた青年シラス・アビディが扮している。その他の多くはキシュ島の住人たちだ。音楽を作曲したのは『花様年華』のマイケル・ガラッソで、西洋的構造の中に日本の琴を使ったオリエンタルな響きをミックスしたサウンドで、ビジュアル的にシュールな要素を持ったこの映画のムードを高めている。
撮影監督は、『白い風船』や『ぼくは歩いてゆく』のファルザッド・ジョダット。録音は、『運動靴と赤い金魚』のヤドラー・ナジャフィ。音響設計は、フェデリコ・フェリーニやベルナルド・ベルトルッチ作品でも知られる40年のキャリアを持つマイケル・ビリングスリー。製作は、『ノー・マンズ・ランド』『ブラックボード−背負う人』などの秀作を次々生み出しているベネトン・グループ傘下のファブリカ・シネマが手がけており、まさに新しい時代のイラン映画と呼べるだろう。

ストーリー


空から投票箱がふってきた・・・・
ふしぎの島の選挙の日。

どこまでも青い海と空がつづくペルシャ湾の島、キシュ島。
いつもどことなく呑気な警備兵は、きょうがいつもと違う日だと知る。
選挙の日だ!空から。パラシュートで、投票箱がふってきた!そのうえ小さなボートに乗って本土からやってきた選挙管理委員は、まだ若い女の子だ。きょうの仕事は、彼女が票を集めて回るのを、軍のジープでお供することだ。
どうして男が来ないんだ、と兵士は文句を言うが、女の子はてきぱきと投票箱の準備をして、兵士の不服に取り合わない。
選挙に慣れていない島の人達から票を集めて回る選挙管理委員の女の子と護衛兵の青年のちぐはぐで微笑ましい道中がはじまった。

女の子は選挙管理委員。
1票で世の中が良くなると信じてた。
青年は嘘だといった。

走る男性を見つけて、最初の投票者だ、と女の子は喜ぶが、あいつは悪党だから逃げてるんだと兵士は銃で威嚇。ようやく掴まえたその男性に「銃で脅して投票させるのか」と言われ、女の子はつい「あなたがいると皆が投票しない」と兵士に皮肉を言ってしまう。
へそを曲げた兵士は車を乗り捨てて帰ろうとするが、女の子に引き止められ、しぶしぶ引き返す。そこへ隣の島から投票のためにやってきたという男があらわれた。男のトラックには30人もの女性がのっていて、男は彼女らは字が書けないから俺が皆の分を投票する、という。女の子は、投票は個人で秘密にやるものだ、と説明するが、なかなかうまくいかない。女たちから、結婚は12歳になればできるのに選挙ができないのはなぜなのか、と問いただされても、その答えを見つけられなかった。
浜辺では洋上に浮かぶ船にまで投票を呼びかけに行くが、そこで見つけたのは外国人に嫁いで違法に国を出ようとしている小さな女の子。二人はその子を島に連れ帰り、故郷の村へとジープを走らせた。
到着した村は、お産の最中で、男たちが出払っていた。男に聞かなければ選挙はできないと女たちは投票を断る。そんな問答の最中に、「赤ちゃんが生まれたわ!」という声がし、選挙管理委員は思わず仕事を忘れ、普通の女の子に戻って、赤ちゃんを見に走り出す。
次は、女大地主のバグーさんだ。投票を願い出るが、相手にされない。バグーさんがその土地一帯を見事に取り仕切っているのを見た女の子は兵士に「あんたの持論はどうした」といわれるが「彼女には選挙の必要がないのよ」と力なく諦めた。

理想とは違う現実とぶつかりながら、女の子は一所懸命、投票をよびかける。
青年は優しい気持ちを抱きはじめた。

岩の下に票があると思って岩をどかしてみたら、4年前の票だったり、太陽発電施設の案内人には「全能なのは神様だけ」と神様に投票されてしまったりの珍道中がつづくが、だんだんと兵士は票集めに協力するようになる。
さあ次の場所。すると、砂漠の真ん中でジープが停車。赤信号なのだ。「車なんか来ないのに、ばかみたい」と女の子は兵士に文句をいうが、「法律のために一日歩いたあんたが法律をやぶるとはね」と、兵士は律儀に信号を守ろうとする。
でも、信号は壊れていた。
町に行くと、住民は墓参りに行っていて留守だった。何か買ってくれたら投票するという物売りを見つけたが、それはイラン籍のない外国人。町の人が集まっている墓地に行くと、そこは女性立ち入り禁止。墓地の外にいた未亡人に投票を呼びかけるが、「あなたは自分のために票を集めているのよ」といわれてしまう。

恋より淡い想いが、空に消えた。

もうすぐ午後5時。女の子が帰る時間が近づいてきた。青年は、少し名残惜しそうだ。女の子に彼は訊ねた。「次の選挙はいつ?」「4年後よ」「年に3、4回やればいいのに」。
兵営所に着いてみると、どうやら、迎えの船は行ってしまったらしい。がっくり肩を落とす女の子。そこで兵士は、僕も選挙しようと、声をかけた。しかし、兵士が投票用紙に書いた名前は、彼女の名前だ。「きみのほかには誰も知らないから」。
その時、同僚の兵士がやってきて、迎えの飛行機が来たぞ、と告げる。女の子はジェット機に乗って行ってしまった。兵士は、「きっと眠れないから」と同僚に言って、また見張りに立つ。海はいつものように波を打ち寄せるばかりだ。

スタッフ

監督・脚本:ババク・パヤミ
製作:マルコ・ミュレール、ババク・パヤミ
製作総指揮:ホーシャン・パヤミ
撮影監督:ファルザッド・ジョダット
録音:ヤドラー・ナジャフィル
衣裳:ファリド・ハラジ
美術:マンダナ・マスーデイ
編集:ババク・カリミ
音響設計:マイケル・ビリングスリー
音楽:マイケル・ガラッソ
原案:モフセン・マフマルバフ

キャスト

選挙管理委員:ナシム・アブディ
兵士:シラス・アビデイ
その他キシュ島の住民たち

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