原題:The Virgin Suicides

1999年カンヌ国際映画祭監督週間正式出品作品

1999年/アメリカ映画/カラー/98分/ヴィスタサイズ/ドルビーSRD 原作:ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹(早川言房刊) 日本語字幕:松浦美奈 提供:東北新社、タキコーポレーション、テレビ東京 配給:株式会社東北新社

2004年12月03日よりDVDレンタル開始 2001年2月2日DVD発売 2000年4月22日よりシネマライズにて公開

公開初日 2000/04/22

配給会社名 0051

解説

 「ソニック・ユース」のサーストン・モアはソフィア・コッポラにジェフリー・エージェニデスのデビュー作にしてベストセラーである「THE VIRGlN SUlClDES」(邦題「ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹」)を渡した時には「彼女がこの本を映画にするほど気に入るとは思わなかった。」と言い、またソフィアはこの脚本を書き始めた時「これを本当に映画化できるとは思わなかった。」と言う。そして1年後、1999年5月、カンヌ国際映画祭に集まった人々は、監督週間に出品されたソフィア・コッポラ初監督作品「ヴァージン・スーサイズ」が上映されるやいなや、思春期の強烈な感受性の渦巻きを独特で“ガーリー”な映像で描いた本作に熱狂し、新しい才能の誕生を祝福した。フォトグラファー、女優、ファッション・デザイナーとしてそれまでマルチな才能を披露してきたとはいえ父は偉大な監督という重圧を見事にはねのけた「映画監督ソフィア・コッポラ」の鮮烈なデビューであった。

 ソフィア独特のリラックス感で媚びも照れもなくロマンティックに描かれた70年代アメリカの郊外の町を舞台に、美しい10代の五人姉妹の謎めいた自殺と彼女達に魅了された近隣の少年達の日常の思い出を回想形式で綴る本作は、観るものに皆、自身の失われた思春期の苦く甘美な記憶を思い起こさせるであろう。十字架にかかるピンクのブラジャー、好きな少年の名をマジックで書いた小さなパンティといった無垢な欲望のシンボルの繊細なディテールは、温かい眼差しで語られる物語の微妙な心のゆれ動き、憧れの悦惚感、閉塞感を象徴し、随所に散りぱめられた比喩的な表現と少しのユーモアとともに人生の特別な一時期を繊細に心優しく描き出す。

 父は数学教師、母は厳格で敬虔なクリスチャンであるリスボン家には、13歳から17歳までの年子で可憐な五人姉妹がおり、近隣の少年達は皆、憧憬を抱いていた。ヘビトンボが美しい郊外の町の上空を覆いつくす6月のある日、一番下のセシリアが自殺を図る。一命を取りとめた彼女に、医師が「まだ人生の辛さを知る年齢にもなっていないのに」と諭すと、彼女は「でも先生は、13歳の女の子になったことはないでしょ」という意味深な言葉を残す。そして数日後、自宅で開いたパーティーの最中にひとり部屋に戻った彼女は窓から身を投じる。セシリアの死後、少年達はそれまで以上に姉妹に憧れを感じ始めるが、奔放な四女のラックスが引き起こした事件を機に、姉妹はセシリアの死で過敏になっていたリスボン夫人によって自宅での軟禁状態に陥る。少年達はそんな彼女達を救い出そうと試みるのだったが…。

 物語の始めからタイトルが語るとおり姉妹の自殺を提示するこの作品で、少年達は彼女達の思い出やエピソードをあれこれ取り出して自殺の真相を探ろうとする。原作と異なり、この姉妹の描写をメインに据えたソフィアは、「幼くて無垢なもの」に対するガーリーな美意識、「ソフィア・コッポラの世界」を代弁するかのような姉妹達の持ち物や写真を通して、少年達の記憶の中で神格化された彼女達の思い出、イノセンスの象徴としての彼女達のミステリアスな存在感を巧く引き出し、思春期の抑圧された感情と過酷な環境の中で、両親も同年代の少年達でさえも踏み込めない自分達だけのサンクチュアリを作り上げ、そこに留まることを選んだ姉妹達のイノセンスの輝きと哀しみを描き出した。結局、少年達には何もわからず、わかったのはただ彼女たちには彼らの呼ぶ声が聞こえなかったということだけであった。彼らの姉妹を巡るジグソーパズルは、「彼女達を復活させるピースは決して見つからないだろう」という言葉で結ばれる。謎は謎のまま残され、映画は生半可な解決より深く余韻を残してイノセンスの終焉を告げる。

 ソフィアは「映画の出来は脚本とキャストで決まる」と考え、リスボン夫妻に、ジェームズ・ウッズ、キャスリーン・ターナーといったベテランを配し、姉妹の中でメインとなる四女のラックスに「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」でゴールデン・グローブ賞に輝いたキルステン・ダンストを、ラックスに心奪われる学園のアイドルに「パラサイト」のジョシュ・ハートネットという若手を起用した。また、実際に思春期にいる少年少女達に演じて欲しかったという彼女は、ラックス以外の姉妹と彼女達に魅了される少年役には、素人の子供達も起用した。70年代のニュアンスを重視しながらもファッショナブルな衣装は、映画、音楽ビデオ、コマーシャル業界での実績と70年代の経験を持つナンシー・スタイナー。映画に幻想的な奥行きを与えたオリジナルスコアを提供したのは、デビューアルバム「Moon Safari」がSpin’s Top20にランクされたフランスのエレクトロニック・デュオAlR。さらに、フレッド・フッチス、ジュリー・コスタンゾ、そしてフランシス・フォード=コッポラをはじめとする製作陣が脇を固める。

ストーリー

 ぼくらか騒々しいガキだった頃.まだ、結V婚にも離婚にも縛られずに、自由に妄想を飛び交わせ、好奇心に胸を高鳴らせていたそう、それは思春期の真っ盛りだったと思う。
 工場から吐き出される汚物に揺れる藻の中から孵化したヘビトンボが、ぼくらの美しい郊外の街の上空を覆いつくす6月。セシリアか聖母マリアの写真を胸に抱きながら、剃刀で腕を切った。両手首から流れる血で染まった浴槽に横たわるセシリアを発見した母親のミセス・リスボンは、駆けつけた救急隊員にも、口さがない近所の人々にも「事故だった」と主張していた、しかし、その理由はともかく(ぼくたちは、イタリア移民の息子ドミニコにふられたせいだと確信していたか)、セシリアが13歳にもかかわらず、ストイックにも自殺を図ったことは誰もが知っていた。病院に担ぎ込まれなんとか一命を取りとめたセシリアに医師が「まだ人生の辛さも知る年にもなっていないのに」と諭すと、彼女は「でも先生は13歳の女の子になった事はないでしょ。」という意味深な言葉を残した。
 ぼくらがリスボン家の美しい五人姉妹に抱いていた興味の強さをはっきりと自覚したのは、この自殺未遂がきっかけだった、姉妹は、セシリア13歳、ラックス14歳、ボニー15歳、メアリー16歳、テレーズ17歳。珍しい年子の五人姉妹は、ふくよかな唇と美しいブロンドの髪を持つ、驚くほどよく似た少女たちだった。しかし観察が進むうちに、姉妹の性格がくっきりと違っていることも、ぼくたちにはわかってきた。テレーズは知性、メアリーは格好良さ、ボニーは信仰、ラックスは性、セシリアは神秘に強く傾いている。ミセス・リスボンは、この美しい5つの宝を世俗の毒から守ろうと必死になり、そして無駄な努力をしていた。娘たちは学校以外の外出をほとんど禁じられ、ダサくて慎み深い格好を強いられていた。高校の数学教師であるミスター・リスボンは、娘たちをこよなく愛していながらも、成長した彼女たちが部屋中に発散するむせ返るような女の匂いに、ときおり辟易してもいたようだ。
 さて、セシリアか退院した数週間後、リスボン家にちょっとした変化が起こった。「彼女の自殺は外界との接触の少なさや、抑圧された生活のストレスからと、精神科医が診断したからだ。そこで、ミスター・リスボンは妻を説得して、男の子たちを招待するホーム・パーティーを開いたのだ。それには、ぼくや仲間のポール・バルディーノ(マフィアの息子で地下道から他人の家に侵入するのが得意)、やジョー・ラーソン(姉妹の家の通りを隔てた向かいに住んでいる)も招待された。めかしこみ、緊張した面持ちのぼくらを出迎えたのはミセス・リスボン。案内された地下の遊び部屋には、五人姉妹が天使のような輝きを放ってゆらゆらと漂っていた。いや、正確には4人だけ。セシリアは姉たちに借りたありったけのブレスレットで自殺の傷あとを隠し、精気のない顔をして部屋の隅にうつむいて座っていた。それでも、ぼくたちは姉たちの注いてくれるパンチを飲みながら、初めて秘密の女の園に入り込んだめくるめく興奮に酔っていたのだ。だから、セシリアが部屋を出ていったのすら気がつかなった。
 ドサッという物音で外に飛び出たミセス・リスボンの不吉な予感は当たった。2階の窓から飛び降りたセシリアは、庭の柵に体を貫かれ、今度こそ帰らぬ人となったのだ。
 悲しみに暮れたリスボン家の女たちは、それから何日間も夢遊病者のようだった。ミセス・リスボンは慰めに来た神父にもそっけなく、娘たちは折り重なるようにひとところで寝そべり、ひたすら時間の過ぎるのを耐え忍んでいるかのようだった。ただ一度、彼女たちが外に出て行動力を示したのは、セシリアの愛したニレの木が病気と診断され切り倒されようとした時だ。姉妹は木の幹を囲むように手をつないで、チェーンソーを持った男たちの作業を阻止したのだ。そんな命を懸けた出来事は、以前にセシリアの自殺を取材したTVレポーターが再び取材し、多くの人々の興味をかき立てることにもなった。
 それでも、新学期がはじまる9月には、姉妹たちは学校にやってきた。表面は何ごともなかったかのようにふるまっていたが、他人は入り込めない雰囲気が彼女たちを包み込んでいることは、誰もが感じていた。そんな空気を破ったのは学園の女の子の憧れの的トリップ・フォンティンだった。ラックスに一目ぼれした彼は執拗なアタック作戦を開始して、リスボン家の居間でラックスといっしょにテレビを見ることに成功した。もっとも、そこには他の姉妹も両親も同席していたのだが。もちろん、トリップはもっと多くを望んだ。ほかの姉妹にも相手をみつけて、全員でダンスパーティーに行く許可を願い出たのだ。日ごろから、娘を少しは自由にと思っていたミスター・リスボンは、妻の説得に成功した。
 パーティー会場に現れた姉妹たちの美しさは、群を抜いていた。母親のお手製の少々やぼったいドレスですら、その輝きは隠せない。それぞれにハメを外して、ダンスを楽しむカップルたち。そんな中でもひときわ目立ったトリップとラックスは、パーティーのキング&クイーンに選ばれた。有頂天になったふたりは隠れて飲んだお酒の酔いも手伝って、人気のないグラウンドで愛を交わし、そのまま寝込んでしまった。しかも、翌朝目覚めたトリップは、ラックスをグラウンドに置去りにして、2度と会おうとしなかった。
 翌日、ラックスの朝帰りに激怒したミセス・リスボンは、姉妹たちを家に閉じこめ、学校に行くことすら許さなくなった。まったく外界から隔離された姉妹たち。ぼくたちはなんとかコンタクトをとろうと、電話をしたり、手紙をかいたりした。そして、なんとかあの家から助け出したいと願ったのだか’。いまにして思えば、彼女たちはぼくたちよりずっとオトナの女であり、悩みも思いも、計り知れないものだったようだ。だからこそ、彼女たちは彼女たち自身で人生に決着を付けることを選んだのだろう。
 いまとなっては、なぜに5人の美しい姉妹が自らの命を絶ってこの世から姿を消したのかわからない。しかしぼくたちはあの夏、ヘビトンボのように儚い命を生き急いだ少女たちがいたことだけは、決して忘れない。

スタッフ

監督・脚本:ソフィア・コッポラ
エグゼクティブ・プロデューサー:フレッド・フッチス、ウィリー・ペアー
共同プロデューサー:フレッド・ルース、ゲイリー・マーカス
プロデューザー:フランシス・フォード=コッポラ、ジュリー・コスタンゾ、
     ダン・ハルステッド、クリス・ハンレイ
撮影:エドワード・ラックマン
編集:メリッサ・ケント、ジェームズ・リヨンス
プロダクション・デザイナー:ジャスナ・ステファノヴィク
衣装デサイン:ナンシー・スタイナー
音楽監修:ブライアン・リエトゼル
音楽(オリジナル・スコア):AlR
原作:ジェフリー・エージェニデス(The Virgin Suicides:
    邦題「ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹」)

キャスト

リスボン氏:ジェームズ・ウッズ
リスボン夫人:キャスリーン・ターナー
ラックス・リスボン(四女):キルステン・ダンスト
トリップ・フォンティン(少年時代):ジョシュ・ハートネット
セシリア・リスボン(五女:ハンナ・ハル
ボニー・リスボン(三女):チェルシュ・スウェイン
メアリー・リスボン(次女):A・J・クック
テレーズ・リスボン(長女):レスリー・ヘイマン
トリップ・フォンティン(ミドルエイジ):マイケル・パレ
ムーディ神父:スコット・グレン
ホーニッカー医師:ダニー・デヴィート

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