原題:JULIEN : DONKEY BOY

現在、世界で最も“恐るべき子供”の称号が似合う若き天才映画作家 ハーモニー・コリンの監督第二作。

1999年ヴェネツィア国際映画祭出品作品 1999年トロント国際映画祭出品作品

全米1999年10年15日公開

1999年/アメリカ映画/94分/スタンダードサイズ/ドルビーSR/ 提供:株式会社東北新社・株式会社タキコーポレーション 配給:株式会社東北新社

2001年8月24日DVD発売/2001年8月24日ビデオ発売&レンタル開始 2000年12月23日よりシネマライズにてロードショー

解説

現在、世界で最も“恐るべき子供”の称号が似合う若き天才映画作家、ハーモニー・コリン。映画狂のスケートボーダーとして少年時代を過ごし、その鋭利な知性と膨大な知識量で伝説の写真家ラリー・クラークを驚嘆させ、彼の初監督映画『KIDS』の脚本を書いたのが弱冠19歳の時。ハードな日常を送るNYのストリート・キッズをリアルに描き、大きなセンセーションを巻き起こす。

しかし所詮それはプロローグにすぎなかった。まもなくコリンは、97年の初監督作『ガンモ』で真の新世代の到来を映画界へともたらし、先鋭的な観客、クリエイターたちからの熱いリスペクトと、保守的な批評家連中からの激しい罵書雑言を同時に浴びることになる。そして早くも放たれる、このストリート発・異端詩人の監督第二作目『ジュリアン』は、まさに21世紀型の前衛を用意する重い衝撃力を備えた傑作に仕上がった。

盲学校の教師をしている青年ジュリアン(ユエン・ブレンナー)は、飼い犬に異常な愛情をそそぐ祖母と、妻を亡くしたエキセントリックな父(ヴェルナー・ヘルツォーク)、レスラーを夢見る弟クリス(エヴァン・ニューマン)、未婚でありながら妊娠している姉パール(クロエ・セヴィニー)と暮らしている。

典型的なマッチョ思想の体現者でもある父の異常な言動と怒りの発作にたびたび晒される家族の奇妙な日常が、独特の映像感覚でスケッチされていく。精神分裂病のジュリアンは、聖性と残酷性を兼ね備えた無垢なる存在。学校で目の見えない生徒たちに献身的に尽くす一方で、家ではナチスを崇めるなど深い心の闇を抱えている。そんな彼の安らぎと去る存在が、姉のパールだ。彼女の宿している子供の父親は話なのか、劇中で明確に示されることはないが、そこに悲劇が訪れる時、ジュリアンは現実との均衡を失う……。

この作品ではいわゆる説明的な描写が一切削られ、観客の解釈や思い入れによって、いくつもの表情を見せる。ぶっきらぼうに差し出される映像を丹念に読み取る作業に没入するうち、映画は我々を言語化不能な精神の深層まで連れていってくれるだろう。本作のプロデューサー、スコット・マコーレーもハーモニーの物語の伝え方についてこう語っている。

「ハーモニーは、キャラクターやシチュエーションを観客自身の視線で観てもらいたいと思っている。スクリーンに映し出される事柄に関して観客それぞれのリアクションをしてくれると信じている。『ジュリアン』の撮影時には率直にキャラクターの要素を説明している部分もあったが、ハーモニーは編集段階でそういうシーンをカットしていった。主人公のジュリアンは客観的に見れば精神分裂病患者だがハーモニーは彼を精神医学の見地や社会的見地から説明したり定義づけたりしないことに固執した。」

コリンの映画は、卑小な日常を題材としつつも、それを越えた次元に到達する大きな広がりを持つ。しかもその根底には、あらかじめ人間関係に喪失感を背負わされた、ジェネレーションXよりさらに後の世代が抱く痛みのリアリティが流れているのも見逃せない。

ジュリアン役には、『トレインスポッティング』のスパッド役をはじめ、『アシッドハウス』などイギリスのユース・カルチャ一系映画には欠かせない俳優であるユエン・ブレンナーを抜擢。ユエンが演じるジュリアンは彼の盲学校での介護者としての日々、妊娠中の姉のパールとの関係、威圧的で暴力的な父との日常生活から不安定な精神が魂の救いを求め徐々に過激に加速し、一気にショッキングな結末を迎えるに至るまで観客の心を釘付けにする。そして姉パール役には、『KIDS』以来のハーモニー作品常連であり、『ガンモ』では衣裳も担当した彼のミューズであるクロエ・セヴィニー。『ボーイズ・ドント・クライ』では堂々アカデミー助演女優賞にノミネートされた現在最も刺激的な若手女優である。また『ガンモ』同様、本作においてもハーモニーはプロの俳優と素人をミックスした異色のキャストを起用している。ユエン、クロエのほかに父親役には、ハーモニーが敬愛し、最も影響を受けた映画作家、ドイツの名監督ヴェルナー・ヘルツォーク(『アギーレ/神の怒り』『フイッツカラルド』)。また弟役には、バリー・レヴィンソン監督の『Liberty Heights』などで知られるエヴァン・ニューマン。そして、サン・アントニオ出身の盲目のアイス・スケーター、11歳のクリッシーは、ハーモニーがテレビのドキュメンタリー番組『Inside Edition』で偶然見つけキャステイングをした。ジュリアンの愛情を示す重要な少女の役である。父親の腕のない友人役を演じるのは、カナダのサリドマイド被害者の会の会長アルビン・ロウ。盲学校の生徒役には様々な地域の盲目者の中から選んだ。また、ハーモニーはトマス・ヴィンターベァの『セレブレーション』に感動し、撮影のアンソニー・ドット・マントルに撮影を依頼した。ジュリアンの内面を表現する新しいビジュアル手法を創り出したいと思った二人は、機動性の高い小型デジタルカメラで撮影し、その結果、本作には奇妙なアングルや、モノクロの夢のような夜のビジョンや、ハンドカメラだからこそ可能なリズミカルなカメラワークが散りばめられたものになった。編集にはマン.トルと同じく『セレブレーション』『ミフネ』のヴァルディス・オスカスドッチアが担当。デジタルビデオカメラの映像と静止画像やポラロイドで撮ったスチール写真とを組み合わせ編集した本作はハーモニーの考える“芸術的な”映像に満ち溢れた素晴らしく刺激的な作品となった。

プロデューサーは、『KIDS』と同じくケイリー・ウッズ。インディペンデント・ピクチャーズの設立者である彼は、『スウインガーズ』の監督ダグ・リーマンや『スクリーム』の脚本家ケヴィン・ウイリアムスンなどの新鮮な才能を発掘し、見事ヒット・メイカーに育て上げている。先見の明には定評のある人物である。

ストーリー

激しいくせ毛に金の差し歯、シャツのボタンを一番上まで留めている青年ジュリアンが、森の中で亀と遊んでいる少年に近付いていく。「遊ばないか?」。そう親しげな態度で話しかけるジュリアンだが、次の瞬間、いきなり少年に襲いかかる。ジュリアンは涙を流しながら祈りの唄を捧げる…。

ジュリアンは精神分裂病だ。自宅には、部屋でバレエを踊る妊婦の姉パール、階段を使ってレスラーになる訓練に励む弟クリス、古いフォーク・ソングを愛聴する威圧的な父、愛犬と戯れる祖母がいる。一見バラバラの彼らだが、共に夕食の席につく。

仕事に行くジュリアン。彼は学校で盲目者たちの手助けをする仕事に従事しており、ボーリングなどレクリエーションのサポートもする。一方、自宅の裏通りでは、パンツ一枚のクリスにホースで冷たい水をかけるサディスティックな父の姿がある。

「男らしくなれ。家族に臆病者はいらん。」

産婦人科で検査を受けるパール。父親は誰かと訊ねる医者に、彼女は答えようとしない。白宅では、父がクリスに、金をやるから亡き妻が結婚式で着たドレスを着て一緒に踊ろうと迫る。「母さん似はお前だけだ」。そしてさっきまで神父に懺悔していたジュリアンは、自分の部屋で秘かにナチス崇拝の遊びに興じている。

半裸で電話するジュリアン。話相手は亡き母のふりをするパールだ。甘え声で奇妙な会話に耽る二人。

いつもの夕食の席で、ジュリアンはひたすら「カオス」を連発する自作の詩を披露する。父はそれをひどくけなし、愛する映画『ダーティハリー』について熱っぽく語りはじめる。

ジュリアンはアイス・スケートの選手を夢見る盲目の十一歳の少女クリッシーと出会う。二人は仲良くなり、学校のパーティーで手品師の余興を共に見る。

家族そろって教会へ。黒人牧師の説教を聴き、感動するジュリアン。家に帰ると、パールは好きなハープを弾く。それを父は激烈にののしり、おまけに彼女を淫乱呼ばわりしはじめる。ついにはジュリアンにまで当たり出し、バカであるお仕置きだと、自分で自分の顔を殴るように命令する。

ジュリアンとパール、そしてクリッシーが、アイス・スケート場にやって来る。パールはクリッシーと手をつないで滑り出すが、お腹の子を気遣って、クリッシーは他のスケーターと滑ることにする。クリッシーを見つめるジュリアン。そんな時、パールが転倒する。彼女は病院の救急治療室に運ばれた。子供は死産だった。ジュリアンは看護婦からシーツに包まれた亡き赤ん坊を受け取り、しっかりと抱きしめる。「僕のものだ」。そして突然病院を飛び出しバスに乗って、自宅に向かう。白毛に戻ったジュリアンは部屋のベッドに潜り込み、赤ん坊を抱きかかえながらうずくまるのであった。

スタッフ

監督・脚本:ハーモニー・コリン
キャスティング:ビリー・ホプキンス、スザンヌ・スミス、ケリー・バーデン、ローリー・イーストサイド
ラインプロデューサー:ジム・ツァーネック
音響効果:ブライアン・ミクシス
編集:ヴァルディス・オスカスドッチア
撮影:アンソニー・ドット・マントル
プロデューサー:ケイリー・ウッズ、スコット・マコーレー、ロビン・オハラ

キャスト

ジュリアン:ユエン・ブレンナー
パール:クロエ・セヴィニー
ジュリアンの父:ヴェルナー・ヘルツォーク
クリス:エヴァン・ニューマン
ジュリアンの祖母:ジョイス・コリン
クリッシー:クリッシー・コビラク

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