原題:Mademoiselle

たった、24時間だけの愛のぬくもり。

第9回フランス映画祭横浜2001出品作品::http://www.nifty.ne.jp/fanta/france2001/

2001年3月21日フランス初公開

2000年/フランス/カラー/ヴィスタサイズ/35mm/85分/DTS / Dolby Digital 字幕:松岡葉子/テキスト編集:松田統 配給:シネマパリジャン

2003年11月21日よりDVD発売&レンタル開始 2003年11月21日よりビデオ発売&レンタル開始 2002年11月2日よりBunnkamuraル・シネマにてロードショー公開

公開初日 2002/11/02

配給会社名 0043

公開日メモ 夫があり妻がある男女の偶然の出会い。24時間という限られた時間の中での濃密な感情を繊細に描く。サンドリーヌ・ボネール主演。

解説



 一瞬の出逢い。それがふたりの心を強烈に揺さぶり、一生胸を焦がし続ける慕情の火を焼きつけることがある。
 さりげなく視線をめぐらし、ぎこちない会話を交わす。それだけで彼らには愛を予感し、清冽な欲望をかき立てるには充分だった。
 南仏の静かな街。製薬会社に勤めるクレールは、セールスマネージャーとして順調なキャリアを築き、家庭では愛する夫と2人の子供に恵まれ、なにひとつ不満はないはずだった・・・・その時までは。
 一旗あけようと即興劇団を結成した俳優のピエールは、気の置けない仲間とともに公演の旅を続け、気が向いたら戯曲を執筆する、そんな自由気ままな生活に満足しているはずだった…そう、その時までは。
 クレールとピエールが出会ったのは、まさに偶然の気まぐれによるものだった。
会社のコンベンションでこの街にやってきたクレール。ピエールはその余興のために雇われた即興劇団のメンバーだった。ひょんなことから同じ一台の車に乗り合わすことになったふたりは、たちまちお互いの魅力に魅かれあう。こうして、それそれがこれまでの人生の中で味わうことのなかった思いがけない愛を知ることで、当たり前のように過ごしてきた日常生活が揺さぶられ、人生に新たな可能性が潜んでいることを察知する。しかしそれに気づいたとき、彼らの関係には、あとわずかな時間しか残されていなかったさまざまな事情からシャルル・ド・ゴール空港に閉じ込められた人々のユニークな生態を見つめた『パリ空港の人々』で、自分の居場所を持てない不法滞在者の哀歓を、ユーモアかつセンチメンタルな情感を交えつつ描き出したフィリング・リオレ監督の最新作『マドモワゼル』は、24時間という限られた時間の中で、偶然出会った見知らぬ大人の男女が、やがてお互いの思いを熟成させながら、今まで気づくことのなかった人生の可能性に目覚めるまでの心のうつろいを、往年の恋愛映画の名作『逢いびき』を彷彿させる切実感あふれる愛のほとばしりで綴った芳醇な大人のドラマである。一見、即興劇のような奔放さを画面に息つかせながらも、繊密な構成力と抑制の効いた演出、さらにはフランス映画の伝統ともいえるエスプリあふれる台詞を交錯させながら、遠く思いを馳せるような静かな余韻を残す胸にしみるクライマックスまで、繊細な愛の機微を穏やかに、しかしドラマティックに盛りあげてゆく力量は、観るものを唸らさせずにはおかない。とりわけ、ピエールとクレールが夜の街をバイクでドライヴする幸福に満ちた疾走感は、思わず『パリ空港の人々』における大晦日、カウントダウンの街を往くバスでの触れあいのシーンを想起させる感動的な美しさを放ち、一流監督の水際立った凄みを漂わせ、さすがというほかない。
 これまで“時々、羽目をはずすだけ”の堅実な生活を送っていた人妻クレールを演じるのは、『冬の旅』『仕立て屋の恋』でフランス映画界を代表するトップ女優の名を欲しいままにし、最近では『イースト/ウエスト遙かなる祖国』で円熟した美しさを発揮したサンドリーヌ・ボネール。本作のために金髪に染めあげたボネールは、その髪をシニョンに結いあげたキャリアウーマンとしての横顔と、その髪を下ろして“マドモワゼル”に戻った女性の二面性を、まるで春の陽差しのようなうららかなさわやかさで演じ、等身大の魅力を放っている。
 対するピエールには、「ペダルデュース』『クリクリのいた夏』など、作品ことにまったく異なったアプローチによるキャラクター造形で、若き実力派として注目されるジャック・ガンブラン。リオレ作品には、前作『正装のご用意を』に続いての出演となるが、俳優としての挫折を抱えながらも、自由奔放に生きる男を、青春の名残りを感じさせる瑞々しさのうちに演じきり、女性たちの心を捕らえて離さない独特の二枚目ぶりをみせる。また彼は今年、ベルトラン・タヴェルニエ監督の『レセ・パセ』(仮題/2003年日本公開予定)で見事、ベルリン国際映画祭最優秀男優賞を受賞するなど、現在のフランス映画界で最もノリにノッた俳優のひとりといえるだろう。
 ボネールとガンブランは、98年の『嘘の心』以来の再共演となるが、意味あり気に視線を交錯させ、小粋な台詞の応酬のうちにお互いの愛の炎を静かに燃えあがらせる恋人たちを、まさに名コンビといっても過言ではない息のあったロマンティシズムで体現し、観る者の胸をときめかさずにはおかない。
 そのほか、ピエールの即興劇団のメンバーに、『家族の気分』『ディディエ』のジヌディーヌ・スアレムと『神のみそ知る』『水曜日は大忙し』のイザベル・カンドリエ、クレールの同僚ジルベールに『スワンの恋』『メルシー・ラヴィ』『クリクリのいた夏』のジャック・ブーテら実力派俳優が共演。
 また特筆すべきは、『タなぎ』や『テス』『ボネット』など、30年に及ぶ華麗なキャリアを誇るフランス映画音楽界の大御所、フィリップ・サルドが手がけたスコアである。恋人たちの息遣いが伝わってきそうな、しっとりとした抒情あふれるテーマ曲から、彼らの心の躍動を軽快に表現したフリージャズ風のスコアまで、ふたりの愛のドラマを印象的に彩っている。
 ちなみに、ラストでジュークボックスから流れる「大好きなピクルス」の曲は、ふたりの思い出を象徴するものをと、リオレ監督自ら選曲したものである。
 なお本作は、2001年3月21日にフランスで公開され、初登喝第1位を記録、「ふたりの愛の関係の細部を年代記のように描写するリオレは、とても美しい恋人たちのポートレイトを作り出すことに成功している」(テレラマ)と批評家からも絶賛され、ロングランヒットとなった愛のドラマの傑作である。

ストーリー



 ふたりはまったくの偶然から出会った。南仏の静かな街のありふれた小さな薬局。クレール(サンドリーヌ・ボネール)はシェービングクリームを、ピエール(ジャック・ガンブラン)は生理用ナプキンを求めて、この店にやって来たのだった。買い慣れないものを注文したふたりは、苦笑しながらお互いに的確なアドヴァイスを交わしあう。
本来ならば、それだけで終わってしまう、どこにでも転がっていそうな日常の一風景となるはずだった。
 クレールは薬品会社のセールス・マネージャー。会社のコンベンションに出席するため、トゥールーズからこの街を訪れていた。その夜、同僚のジルベール(ジャンク・ブーデ)の引退が決まり、クレールたちは彼に、灯台の模型を送別の記念に贈った。
そしてその直後、クレールの目の前に突然、ピエールが現われたのだ。
 アラカルトを載せた皿を運ぶウエイター姿の彼は、「このサーモンは食べないでください」と早口でまくしたて、妻(イザベル・カンドリエ)の反対をよそに、サケの遺伝子操作に反対する請願書に署名して欲しいと用紙を差し出した。しかし、それをボーイ長(ジヌディーヌ・スアレム)に見とがめられた夫妻は、その場であっさりクビになってしまう。
 ところが、その後のレセプションでピエールたち3人は、実は即興劇団のメンバーで、先程の光景も芝居の一場面であることが明らかになる。そして客からお題を頂戴して、たちまち「ピクルス」の寸劇を披露する彼らの演技に、クレールは拍手喝采を送るのだった。
 翌朝、クレールはひょんなことからリヨン駅行きのバスに乗りはぐれてしまう。
然と立ち尽くすクレールの手には、ジルベールが忘れたあの灯台の模型が。こうしてクレールは、ちょうど通りがかった劇団のメンバーに誘われるまま、彼らの車に同乗させてもらうことになる。前部座席には、昨晩ボーイ長に扮したカリムと、ピエールの妻を演じたアリス、そして後部座席には照明係のアンリ、そして二日酔いで寝込んでいるピエールが高いびきをかきながら、頭をクレールの溝に持たれかかせてきた。
 いったん、アンリとともにリヨン駅でメンバーと別れたクレールだったが、灯台の模型を車のトランクに置き忘れたことに気づき、次の“公演先”である結婚パーティーの会場に彼らを追いかける。もしかしたら、クレールの心にもう一度、ピエールに会いたいという欲望が湧きあがっていたからかもしれない。
 思いがけないクレールとの再会に気を良くしてか、ピエールはポツリポツリと自分のことを語りはじめる。ピクルスが大好物なこと、即興劇団を結成して一旗あげるつもりだったこと、そして書きかけの戯曲がそのままになっていること。その戯曲、会ったこともない友人の恋人に恋する灯台守の物語を聞かされたクレールは「素敵な物語ね。完成させるべきよ」とピエールに告げるのだった。
 こうして行きがかり上、結婚パーティーに出席することになったクレールは、ピエールにそそのかされ、即興でスピーチをする羽目に陥ってしまう。ところが、自分にこれほどまでの勇気があることに驚いたのは、きっと当のクレールだったろう。彼女は、先程ピエールが話した灯台守の恋の物語の続きをとうとうと語り、感動した花嫁からキスを浴びるのだった。
 しかし、ピエールの勝手な振る舞いに激怒したカリムは、ふたりを会場にほったらかして、アリスとともに車でホテルに向かってしまった。こうして、またしても荷物に逃げられてしまったクレールは、ピエールとともにカリムたちの後を追う。ホテルに到着する頃、クレールはある決意をしていた。その夜の列車で自宅に帰ることを諦め、翌朝旅立つことにしたという彼女の言葉に、ピエールの心も決まった。こうして、ふたりは何かに衝き動かされるように、激しく唇を重ね、情熱的にお互いの身体を求めあう。
 そして夜も更け、ピエールは「明日の朝の列車に乗り遅れるのは、行き過ぎだろうか?」とクレールにポツリと告げて、思いをめぐらすように夜の街に消えてゆく。ピエールを探してホテルを出たクレールの前に、またしても突然、バイクに乗ったピエールが。こうしてクレールは、ホテルのフロント係から渡されたサンドイッチの皿を片手に、ピエールとバイクの2人乗りをして、夜の街をドライヴする。クレールの髪が風に揺れ、ふたりはまるでお互いの肌の温もりや鼓動の高まりを確かめあうように、最初で最後の夜のひとときを慈しむのだった。
 翌朝、リヨン駅のビュッフェには、クレールとピエールの姿があった。まるで初めて出会ったときと同じように、ぎこちなく視線を絡めあうふたり。「結婚はしているの?」と問い掛けるクレールに、ピエールはこう答える。「昨晩からね」。ちょうど構内に駐車違反の警告を告げるアナウンスが流れ、ピエールが席を立つ。トゥールーズ行きの列車の出発時間は刻一刻と迫っている。クレールは、ジュークボックスに歩み寄り、「大好きなピクルス」の曲を店内に流す。コミカルで軽快な曲に耳を傾けながら、この24時間の出来事を振り返り、ひとり微笑むクレールの姿があったが..

スタッフ

監督:フィリップ・リオレ
脚本&台詞:フィリップ・リオレ、クリスチャン・シニジェ
脚本協力:エマニュエル・クールコル
製作:パトリ,ク・ゴドー
第1助監督:オリヴィエウタール
第1助監督助手:ヴァンサン・ダシェ、ドミニク・ジェルビ
スクリプト:ベアトリス・ポレ
キャスティング:エマニュエル・ドランク
撮影監督:ベルタール・シャトリ
録音:ジャン=マリ・ブロンデル
編集:ミレイル・ルロワ
音響効果:ジェローム・レヴィ
衣裳デサイン:セシル・マニャン
製作:パトリック・ゴドー

キャスト

クレール・キャンスリエ:サンドリーヌ・ボネール
ピエール・カッシーニ:ジャンク・ガンブラン
アリス・コーエン:イザベル・カンドリエ
カリム・クタール:ジヌディーヌ・スアレム
ジルベール・フレモン:ジャック・ブーデ
ヌーヌル:パトリック・メルカド
フィリップ・カリュー:フィリップ・ベグリア
エリザベス・カリュー:マリボンヌ・シルツ
アンリ・ブラスコ:ジェラール・ラルティゴ
薬局の店員:ブランディーヌ・プリシエ
ヴィルヴァル:オリヴィエ・クリュヴェイエ
グラニエ:アラン・コーシ
ボーリュー:ピエール=ジャン・シェレ
ルイーズ:オルガ・グランベール
ウェイター:ベンジャマン・アラズラキ
フランスのホテルのフロント係:ステファニー・カボン
老女:フランシア・セグイ
駅のコーヒーシップのウェイター:チェリー・ラヴァ
ベンチュリーの運転手:クリスチャン・

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