原題:La Repetition

あなたは私の友達であり、恋人であり、わたしであり、わたしではない。

2001年カンヌ国際映画祭・コンペティション部門出品 第9回フランス映画祭横浜2001出品作品::http://www.nifty.ne.jp/fanta/france2001/ (上映邦題:リハーサル)

2001年8月22日フランス初公開

2000年/フランス/95分/ 提供:日活・トライエム  配給:日活、トライエム・ピクチャーズ

2003年04月25日よりビデオ発売&レンタル開始 2003年04月25日よりDVD発売&レンタル開始 2002年11月9日より日比谷シャンテ・シネにてロードショー公開

公開初日 2002/11/09

配給会社名 0006/0244

公開日メモ あなたは私の友達であり、恋人であり、わたしであり、わたしではない。

解説


すべてを分かち合ってきた、大切な女友達。だが一人はより華やかで才能に恵まれ、もう一人が挫折した道で、いつのまにか成功をおさめている。やがて女二人の間には、友情という言葉だけでは片づけられない、複雑な思いが忍び込む…。
女友達に対する愛情と嫌悪が入り混じったアンビバレントな感情、そこから少しずつ狂っていく人間関係のバランス。女性なら誰もが身に覚えがあるはずの複雑な心の襲に分け入って、女の友情の極限を圧倒的なリアリティとともに描き出したのが、本作『彼女たちの時間』だ。女優になる夢を実現して恋人の演出家とともに着実なキャリアを重ねるナタリーと、演劇をあきらめて地方都市で平穏な生活を送るルイーズ。学生時代に絶交してから10年、30歳を超えてから再会した二人の関係は、一見、ルイーズのナタリーに対する一方的な嫉妬に彩られているように思える。表面的に見れば、ジェラシーに駆られた女がかつての親友にストーカーとしてつきまとう物語のように映るかもしれない。しかし、美貌や才能など、親友にないすべてを手にしたナタリーも、自分だけを見つめ、愛情をそそぎ、優越感を感じさせてくれる「観客」をつねに必要としている点で、実はルイーズに深く依存している。彼女たちにとって親友とは、自分自身の姿を反映する鏡のような存在であり、二人の女が苦しむのは、相手の視線のなかに自分の存在理由を見出そうとするからなのだ。作品全体から見えてくるのは、もう子供ではないけれど、まだ自分のアイデンティティを確立するには至らない、そんな30代という微妙な年齢を生きることの難しさと痛みである。30代前後の女性だけでなく、この映画のルイーズと同じような、自己実現に向けて着実に歩む友人への祝福と羨望と焦りが混じったような感情は、誰もがどこかで経験したことがあるのではないだろうか。それは単に嫉妬というだけでなく、「まだ本来の生き方に出合っていない」という自分自身への不満でもある。女優に挫折して別の仕事に就いたルイーズがナタリーと再会して動揺し、かつての友達を追いかけるようになるのはそのためだ。またナタリーも、女優として100%の自信をもち、孤独やプレッシャーに耐える決意があれば、ルイーズに依存することはなかったはずだ。完全に自立できない人間同士の友情は、程度の差はあれ、必ずどこかに歪みが生じる。その葛藤をそれぞれが乗り越えて新たな一歩を踏み出すまでを、この映画は時には厳しく、時にはそっと見守るような視線で追っていく。原題は”La Repetition”。演劇のリハーサルを指すが、「反復」という意味もそこには重ねられている。タイトルの通り、二人のヒロインは相手を愛しては憎み、絶交と和解を何度も繰り返す。映画は、日常の小さな出来事を繊密に積み重ねて、抑圧された感情に端を発するとっさの行動や、思わず口にしてしまった言葉が人生の歯車を狂わせ、小さな嘘が次第に重みを増していくさまをたんねんに描写する。「ああ、こういう場面は私もいっか経験した」と思わせる繊細な演出も、この作品を見る楽しみのひとつだ。ナタリーとルイーズは反復の末に次第に追いつめられ、愛憎の暴発からついには一線を超えた抱擁を交わし合うまでになるのだが、それが性的嗜好とはまったく関係のない「事件」であったことは、それまでの流れを息を詰めて見守ってきた観客、とくに女性には自然に理解できるはずだ。監督と共同脚本は、本作が初の日本公開となるカトリーヌ・コルシニ。奔放でコケティッシュ、女の目から見てもセクシーな魅力にあふれるナタリーを演じるのは、『美しき謡い女』『8人の女たち』(年内公開予定)のエマニュエル・ベアール。彼女に執着するあまり、その人生を破滅の一歩手前まで導いてしまうルイーズにはパスカル・ブシェール。フランスや日本ではまだ知名度が低いが、本国カナダでは高い人気を誇り、国際映画祭の主演女優賞を何度も受賞している実力派だ。異なるフィールドでそれぞれにキャリアを築きあげたトップ女優二人の火花を散らすような演技も、この作品に緊張感を与え、深みを増す結果につながっている。
2001年のカンヌ映画祭コンペティション部門に出品され、受賞こそ逃したものの、特筆すべき秀作として高い評価を得た『彼女たちの時間』。新世代の才能が開花し、ヒット作品が次々と生まれて、いま波に乗っているフランス映画界から、またひとつ見逃せない作品が登場した。

ストーリー


海辺の小さな町で育った幼なじみのナタリー(エマニュエル・ベアール)とルイーズ(パスカル・ブシェール)は、ともに演劇クラブに所属して、舞台女優を目指していた。女らしく華やかな魅力で周囲の人を引き付けずにおかないナタリー、そんな彼女に誇らしさと嫉妬が入り混じった複雑な感情を抱くルイーズ。ある晩、公演後の打ち上げでそれが爆発する。周囲に見せつけるように挑発的に男と踊るナタリーを「誰とでも寝る女」となじったルイーズは、帰宅後、興奮のさなかに手首を切ってしまう。自殺は未遂に終わったが、そのまま二人は絶交する。そして、10年の歳月が流れた…。
歯科技工士になり、アヴィニヨンで静かな結婚生活を送っていたルイーズは、夫と観劇に訪れた演劇祭の舞台に、女優としてキャリアを積み、名前を知られるようになっていたナタリーの姿を見出す。楽屋で思わぬ再会を喜び合う二人。だがルイーズのなかには再び、昔の複雑な感情が芽生え始めていた。来客のためにナタリーが席を外したすきに、ルイーズは何も言わずに楽屋から出てきてしまう。
それからしばらくして、コペンハーゲンの演劇祭に参加したナタリーは、公演後、劇場の外の暗がりで自分を待ち受けるルイーズに驚く。「どうしてここへ?」夫の出張に同行して来たの、との説明は嘘だった。彼女はナタリーの予定を調べ、単独でコペンハーゲンまで追って来ていたのだ。翌日、学生時代のように気ままに街を散策する二人の間からは、過去のわだかまりは完全に消えたように思えた。しかし、またしても不協和音が忍び寄る。ナタリーは恋人の演出家マティアス(ダニ・レヴィ)に気兼ねして、パリの有名演出家アマール(ジャン=ピエール・カルフォン)の誘いに二の足を踏んでいたが、それを知ったルイーズは、黙ってアマールとの会見をセッティングしてしまう。その結果ナタリーとマティアスの関係はこじれ、傷ついたナタリーは親友にすがる。だが、ルイーズがコペンハーゲンに来た理由を偽っていたことや、ナタリーのホテルの部屋からシガレットケースを盗んだことが発覚し、二人の関係はまたもや急速に冷え込む。
アヴィニヨンに帰り、絶交を宣言する手紙を投函しようとするルイーズのもとに、ナタリーから電話がかかってくる。「マティアスは出ていったわ、人生最悪の時よ……」思わず留守番電話に飛びつくルイーズ。絶交の決意は瞬く間に消え失せて、彼女はアマールからのオファーを受け、失意のなかパリでリハーサルを続けるナタリーのもとに駆けつける。ふたりは同居を始め、ルイーズは役作りに悩む親友を支えようとするが、自分から呼び寄せたにもかかわらず、ナタリーには次第に彼女の存在が重荷になっていく。「もうリハーサルには来ないでほしいの。あなたがいると気が散るから」「私を呼びつけたのはあなたでしょう」愛憎が表裏一体となった、泥沼の同居生活が続く。ある晩、激しい言葉で互いに傷つけ合った後、昔、手首を切ったのはあなたのためだった、と告白するルイーズ。ナタリーは思わず「大好きよ」とキスで応え、二人は高揚した感情に押し流されて抱擁しあう。だが一夜明けた翌日、ナタリーは不思議なほど冷淡になり、ローマ旅行に誘うルイーズを醒めた目で見つめるのだった。
公演の開幕が迫るなか、しぶしぶローマ行きを承知してタクシーに乗り込んだナタリーを、腹部の激痛が襲う。二人は相手の態度に腹を立てながら家に引き返し、大喧嘩の末にルイーズは家を飛び出すが、迷った末にまた戻ってくる。その間、ナタリーの病気は急激に悪化していた。急性腹膜炎と診断され、ベッドから動けずに救急車を待つナタリー。彼女をじっと見つめるルイーズ。やがて救急隊が到着してドアを叩くが、ルイーズは暗闇のなか座ったまま動かない。「早く出てて!」「後でね」。生と死の境界というぎりぎりの場所で対持する二人。愛しながらも憎まずにはいられない女同士の関係は、ついに抜き差しならない運命のクライマックスを迎えていた…。

スタッフ

監督:カトリーヌ・コルシニ
製作:フィリップ・マルタン
脚本:カトリーヌ・コルシニ、マルク・シリガス
撮影:アニエス・ゴダール
衣裳:マルティーヌ・ラバン
編集:サビーヌ・マム
サウンド・エディター:ルイ・コラン

キャスト

ナタリー:エマニュエル・ベアール
ルイーズ:パスカル・ブシェール
マティアス:ダニ・レヴィ
ワルテル:ジャン−ピエール・カルフォン
ニコラス:サミ・ブアジラ
マチルド:マリリュ・マリニ
サシャ:クレマン・エルヴェ・レジェ
アラン:マルク・ボネット

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