原題:MARS SWEET HOME

1999年/カラー/35ミリ/104分

2006年03月24日よりDVDリリース 2001年2月23日DVD発売&レンタル開始 2000年9月22日よりビデオ発売・レンタル開始 2000年2月26日(土)よりロードショー

公開初日 2000/02/26

解説

2000年、家族の再生の物語が始まる。

 もうすぐ21世紀、と言ってもそこに”バラ色の未来”を思い描いている人はどれだけいるだろう。1950〜60年代には、21世紀は科学が飛躍的に発達し自由に宇宙旅行ができ労働はロボットが人間に代わるなどというビジョンが高らかに語られていた。しかし、今もそんな夢を見続けている人はほとんどいない。それどころか、人間生活の基本単位であるはずの家族の崩壊がどんどん進行し、経済の低迷と相まって精神のより所をなくした人たちが救いを求めて日本中を彷徨い続けている。私たちが再び未来を語れるようになるためには、人間生活の基盤となる”家族”が再生していくことが不可欠ではないだろうか。
 「火星のわが家」は、父親が夢ばかりを追いかけてきたせいで気がつくとバラバラになっていた家族が、父親が倒れたことで”介護”というシリアスな現実に向き合わざるを得なくなり、互いに本音でぷつかり合うことで本来の家族の姿に戻ろうとする様をリアルに、淡々と綴っている。まさに、20世紀を乗り越えて21世紀に向かおうとする人たちのための映画と言えるだろう。

今、火星ブーム再び!かつて本当に火星に住もうとした男がいた。

 主人公・神山康平は、若い頃「一口千円で火星にわが家をもちませんか」という珍商売を手がけていた。これは、1957年頃「日本宇宙旅行協会」という実在した団体が10万坪の火星の土地を一口千円で分譲し、ブームを巻き起こした事実に基づいている。劇中、登場する火星の土地の権利証やパンフレットはすべて本物で、大嶋監督の亡父が実際に所有していたものである。ちなみにこの協会の会員には土門拳や江戸川乱歩、早川雪州などの著名人も多く含まれていたらしい。近年、NASAのマーズ・パスファインダーの火星探査などにより様々な発見がなされ、火星ブームの再来の様相を呈している。21世紀には火星移住計画が現実となるかもしれない。

音楽界と演劇界の才能が揃ったユニークなキャスティング。

 「火星のわが家」の主要キャストは4人。その顔ぶれは通常の映画では考えられないほどユニークである。
 康平の娘で、心に傷を抱えNYから帰国するヴォーカリストの未知子を演ずるのは鈴木重子。自身も本職のジャズ・ヴォーカリストで、東大法学部卒という異色の経歴をもつ。NYのブルーノートで日本人初のライブを行い、その心に沁み入る歌声で映画のエンディングを飾ってくれる。未知子を愛する青年・透を演ずるのは小劇場のアイドル・堺雅人。早大劇研出身の劇団「東京オレンジ」の公演では、毎回熱狂的な女性ファンが詰めかけることで知られており、その確かな演技力と存在感で将来を嘱望されている。未知子の姉・久仁子を演ずるのは、かつてボンテージ・ルックで一世を風靡したロック・ミュージシャンのちわきまゆみ。ステージのイメージとはガラリと変わった”普通の主婦”をリアルに演じている。そして、康平役の日下武史は劇団四季の重鎮であり、数々の舞台・映画で高い評価を受けてきた。久々の映画出演となった本作では、浮き世離れした自由人を楽しそうに演じている。
 日下武史を除く3人が映画初体験で、そのうち2人が演技初体験ながら皆それぞれの役を見事に演じ切っている。

前作「カナカナ」よりも深化した大嶋拓の世界。

 監督は、劇場映画デビュー作となった「カナカナ」(’95年公開)で出演者の自然な存在感を引き出し、ベルリン、モントリオールなど各国の映画祭で注目された大嶋拓。独得の清涼感と日常にある危うさを感じさせる彼独自の世界は、本作でよりパワーアップしている。撮影は、日本初の女性撮影監督として多くのインディペンデント映画に関わってきた芦澤明子。照明を極力抑えたナチュラルな映像が目に心地よい。そして、アソシエイト・プロデューサーおよび配給プロデューサーは武藤起一。大谷健太郎監督作品「アベックモンマリ」(99年3月公開)のプロデューサーとして同作品を成功に導いたのも記憶に新しい。

ストーリー

夏の初め、NYでヴォーカリストとして活動している未知子が2年半ぶりに帰国した。しかし、雨が伝う車窓越しに外を眺める未知子の心は複雑だ。郊外の実家に一人住む父・康平は彼女がNYで活躍していると思っているが、実は未知子は精神的な問題から、ステージに立つと声が出なくなるという症状に悩まされていたのだ。

実家に戻り数日して、未知子は目分の悩みを父に打ち明ける。そんな彼女を父は「人間の悩みなど宇宙から見ればちっぽけなものだ」と優しく励ます。康平はかつて科学ジャーナリストとして著書を発表したり、火星の土地の分譲を行ったりしていた。未知子は破天荒な生き方をしてきた夢多き父を尊敬していた。

ある朝、康平が脳梗塞の発作で倒れ入院、左半身マヒとなってしまう。未知子は滞在を延期して父のリ八ビリに付き添うが、姉・久仁子は介護施設に移すことを主張する。久仁子は母が早死にしたのは勝手気ままな康平のせいだと思い、結婚して家を出た今も父へのわだかまりを捨てられずにいた。それでも財産相続で不利になるのを心配してか、結局未知子と交代で実家で父の面倒を見ることになる。

リ八ビリに励む康平は、倒れる以前から手がけていた「サンゲ録」と称する自叙伝の執筆に一段と力を注ぐようになる。それを手伝うのが、離れに住む青年・透だった。康平の後輩の息子で司法試験を目指し勉強する彼とともに、未知子も父の自叙伝の出版に向けて奔走する。そんな日々の中で、傷ついていた未知子の心もいつしか少しずつ癒されていき、透との間にも不思議な感情が芽生え始める。

やがて、康平の自叙伝も完成し、電子出版という形でなんとか刊行のめども立つ。その出版祝いで出かけた夜、心が通し合ったかに見えた未知子と透だが、まだ未知子は透を受け入れることができず、気まずい関係になってしまう。その微妙な変化を敏感に感じとった久仁子は透の部屋を訪れ2人で一夜を明かしてしまう。

そんなこともあり、未知子はNYへ戻ることを決心し、帰国までの関家を出てホテル住まいを始める。帰国を直前に控え、父に会いに実家を訪れた未知子は、康平が久仁子によって介護施設に入れられたことを知る。すぐさま面会に行くと、そこには酸素マスクをつけてベッドに横たわる父がいた。

スタッフ

製作・監督・脚本・編集:大嶋拓
撮影:芦澤明子(J・S・C)
照明:オフィス・ドゥーイング、尾畑弘昌
録音:小林徹哉
音楽:伊藤竜太
ヘアメイク:鳴海紀子
記録:蜷川晶
スチール:所千議
制作:露木栄司
アソシエイト・プロデューサー・配給プロデューサー:武藤起一

特別協力:ニューシネマワークショップ
製作プロダクション:TAC
主題歌:「It's Time To Love」
詞・曲・歌:鈴木重子
編曲・演奏:渡辺かづき

キャスト

神山未知子:鈴木重子
原沢久仁子:ちわきまゆみ
中島透:堺雅人

原沢昭彦:藤田敏夫
上原敬子(未知子の友人):牧口晶子
永井医師:高瀬勉
藤川医師:井鍋信治
山本(調律師):日下部孝一
高井(編集者):伊藤竜太
佐伯(雑誌ライター):斎藤小百合

神山康平:日下武史

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