苦しみを乗り越えて、家族が信頼と絆で結ばれる。 そして折れても、老いても、美しく咲く梅のように、 命が輝く。

2001・2002年/日本/カラー/ビスタサイズ/111分/35mm 配給:パンドラ、シネマワーク

2004年12月15日よりビデオレンタル開始 2004年12月15日よりDVD発売開始 2002年3月16日よりシネスイッチ銀座、名古屋シルバー劇場ほか全国順次ロードショー!!

公開初日 2002/03/16

配給会社名 0046/0063

公開日メモ 原作「忘れても、しあわせ」をもとに、老人性痴ほう症の義母を介護していくことになった主人公とその家族。日増しに進行する症状から家族関係も複雑に。ある日、ひょんなことから出会った絵を描くことが、義母の生きがいに……。  家族の在宅での介護を描いたドラマが家族愛と老人介護のあり方を教えてくれます。

解説



実話をもとに、『ユキエ』の松井久子監督が正面から向きあう人間の可能性
これは、誰にでも起こり得る出来事。ある人にとっては遠い未来、ある人にとっては近い将来、そしてある人は今、その渦中にいるかもしれません。
これは、あなた自身の物語なのです・・・。
それは、ある日突然、平和な家族に降りかかった一一。郊外の一戸建てに暮らす夫婦に子供2人の家族。このどこにでもある平凡な家族に、新たに加わった夫の母。幸せな新生活の始まりだった。ところが、ほどなくして、義母がアルツハイマー型痴呆症の症状を見せるようになる。その急激な変貌ぶりに誰もが驚き、戸惑う。そして、それまで疑うことのなかった家族の愛は、見せかけだったかのように、脆くも崩れ去ってしまう。しかし、数々の迷いや苦しみの中からやがて一家は、本当の信頼と絆で結ばれていく・・・。
この映画は、ある家族が自分たちの迎えた危機を、みごとに乗り越えた実話をもとに、人と人との信頼や人間の限りない可能性を描いた作品である。
深い考えもなく義母との同居を始めた嫁の巴、老いへの不安の中で、痴呆症に見舞われ自分を失ってゆくことへの恐怖から、やり場のない苛立ちを巴にぶつける義母の政子。だが、政子の辛く悲しい半生を知り、彼女を人生の先輩として敬い、あるがままを受け入れるようになる巴。自分がひとりの女性として認められた、その歓びと安心から、やがて眠っていた才能を開花させていく政子。ふたつの心の遭遇から深い信頼と愛情が生まれ、思いやりの心が育まれていく。その変化はまわりにも伝わり、夫も子供たちも、本当の優しさや愛情を取り戻していく一一。
一度は崩れかかった家族が、揺るぎない地盤を固めていきながら、強い信頼と共に再生していく物語は、見るものすべてに限りない勇気と希望と歓びをもたらすだろう。
見終わって、嬉しい涙に包まれながら、世代を超えて、自分の人生と重ね合わせてみたくなる、そして、かけがえのない人生の贈り物をもらえるような、本物の価値ある傑作である。
監督は、初監督作『ユキエ』(’97)で、アメリカ人の夫とアルツハイマー病に冒された妻との深い夫婦愛を真摯な目で描き、高い評価を受けた松井久子監督。
『ユキエ』の上映運動で広がった日本各地での交流の場を通して、松井監督が出逢ったのが、本作の原作「忘れても、しあわせ」と、その著者・小菅もと子さんと義母のマサ子さんだった。松井監督はこの美しく感動的な実話の映画化をすぐに思い立ち、今回はシナリオも自ら執筆。その間にも、小菅さん家族の2住む愛知県豊明市を中心に、映画化への市民運動が自然発生的に生まれ、豊明市の助成金を得ることができた。

また『ユキエ』の上映をきっかけに、犬山市では『折り梅』応援団が結成され、その輪を広げていく。こうして、資金集めから撮影協力まで、市民たちの熱いエネルギーが実って映画化が実現。作り手と観客側が一体となって、1本の映画を作り上げた、まさに稀な例がこの作品なのだ。
そして映画ならではのオリジナルなメッセージが、このタイトル『折り梅』に込められている。梅は、たとえ枝が折れても、また、老木となって中ががらんどうになっても、枝から蕾が生まれ、美しい花を咲かせる。松井監督は、この自然界の奇跡を人間の人生にたとえ、“いのちの輝き”を、叙情的で美しい梅の花々の映像と共に感動的に謳いあげた。

巴を演じるのは、「愛を乞うひと」(’98)「雨あがる」(’00)などで数々の映画賞に輝き、今や日本映画のNo.1女優の座を誇る演技派・原田美枝子。義母と向き合うことで、人生に新たな歓びを見い出していくひとりの主婦を自然体で演じる。その等身大の魅力は、全女性の共感を浴びるに違いない。政子を演じるのは、映画・舞台・テレビで幅広く活躍する大ベテランの吉行和子。本来の知的な美しさをかなぐり捨てて、痴呆に捕われる老母役に全力で取り組み、激しい表情から穏やかな聖母のような笑顔まで、リアルに演じて、大きな感動を呼ぶ。
また、巴の夫・裕三役に、コメディアンとしてだけでなく、大島渚監督の「御法度」(’99)など俳優として実力を築いているトミーズ雅が扮し、独特な存在感を醸し出す。
この他、加藤登紀子、金井克子、りりィといった、映画畑にとらわれない、多彩な人材が揃い、作品により深い味わいとリアリティを添えている。
スタッフには、松井監督の馴染みの人材が揃った。『ユキエ』でも音楽を担当した川崎真弘の心に沁みる旋律は、作品を優しく、暖かく包み込んでいる。また、「化身」(’86)「橋のない川」(’92)など東陽一監督作でお馴染みの川上皓市のカメラワークも秀逸で、特に梅の花々をとらえた美しい映像が印象に残る。
なお、作品中の絵画を提供しているのは、原作のモデルとなった小菅マサ子さん本人。その豊かな感性と力強い筆致で描かれた美しい絵画の数々は、観るものを至福の境地へといざない、映画の感動をより深めている。

ストーリー



名古屋郊外のベッドタウン・愛知県豊明市。サラリーマンの夫・菅野裕三とパート勤めの主婦・巴、生意気になり始めた中学生のみずほと、育ち盛りの小学生・俊介の4人家族に、裕三の母・政子が同居することになった。ところが同居して間もなく、政子が変調をきたし始める。雑巾を縫っては、それを忘れてしまい、毎朝、巴に雑巾を何枚も渡す。ゴミ袋の集積所を見分けられず、他家の玄関先に置く。かと思うと、突然、激しい感情に見舞われ、巴が政子のために作ったお弁当を床にぶちまける。この急激な変貌に、周囲は戸惑い、苛立ち、家族の団欒はあっけなく崩れていく。思いあまった巴は、嫌がる政子を無理矢理、病院に連れていき、そこで義母がアルツハイマー型痴呆症に冒されていることを知る。
どうしてもパートを続けたい巴は、ヘルパーを雇い、この事態を乗り切ろうとしたが、ことはそう簡単にいかない。裕三も理解がなく、夫婦の仲もぎくしゃくして、口を開けば言い争いだ。しかし、誰よりも傷つき、苦しんでいたのは、政子自身だった。痴呆という先の見えないトンネルに迷い込み、自分を見失うのではないかという漠然とした恐怖や、やり場のない苛立ちを、彼女は巴にぶつけていたのだった…。そんなある日、政子が突然いなくなる。巴は思い当たる場所を探し回った。降り出した雨が容赦なく彼女を濡らし、ようやく港で政子を発見したものの、巴は心身共に消耗しきって、寝込んでしまうのだった。「このままでは、家族が崩壊してしまう」。思いあぐねた裕三と巴は、政子を同じような症状のお年寄りが暮らすグループホームに入れることを、決意する。入所前夜、巴は政子の部屋で寝ることにした。そんな巴に、政子は青春時代の思い出を楽しそうに語る。そして、同じ布団で寝たいと言うと、子供のように巴に抱きつき、安心しきって眠ってしまった。日毎に子供の頃の〈記憶の世界〉に帰って行くばかりの政子・・・。
翌日、ホームに向う途中、巴は政子に女手ひとつで4人の子供を育てた半生を聞かされる。幼い頃の母との別れ、義父の暴力、夫の死。政子は母が語ったことを遠い目をして語る。
「梅は枝を折って活けても皮から養分を吸って咲き続けるから〈折り梅〉と言うんだよ」巴は初めて義母を、ひとりの女性としてみつめなおした。たとえ痴呆に冒されても、人が人でなくなるわけではない。これまで自分は、政子を厄介者のように扱ってきたのではないだろうか。「もう一度やってみよう、おばあちゃんのあるがままを受け止めよう!」政子を叱らず、ゆったりと受け入れて相手をする巴を見て、裕三も何かと手助けをするようになった。
政子もすっかり落ち着いてきた。子どもたちも、大好きなおばあちゃんとの友好的な関係を築いてゆく。一家にようやく笑顔が戻ってきた。そしてそれは、初めて本当の愛情と優しさで結ばれた、強固な家族の絆だった。
やがて、政子は今まで眠っていた素晴らしい才能を見せ始める。それは、絵を描くことだった。ようやく安らぎを見出した心により、秘められた才能の扉が開いたのだ。自信を与えられたからだろうか、政子の才能はいっそう磨かれていった。そして、ある日、それまでの一家の苦しみと努力がすべて報われるような素晴らしい出来事が起こる…!!

スタッフ

製作・監督:松井久子
原作:小菅もと子(「忘れても、しあわせ」日本評論社刊)
脚本:松井久子・白鳥あかね
エグゼクティブプロデューサー:福島昭英
プロデューサー:新藤次郎・里中哲夫
アソシエイト・プロデューサー:吉井久美子
音楽:川崎真弘
撮影:川上皓市
照明:水野研一
美術:斎藤岩男
録音:芦原邦雄
編集:渡辺行夫
スクリプター:堀ヨシ子
助監督:森宏治
製作担当:桑原一仁

製作:株式会社エッセンコミュニケーションズ
制作:株式会社近代映画協会
協力:豊明市映画製作実行委員会
協賛:三共株式会社、第一製薬株式会社
助成:芸術文化振興基金

キャスト

原田美枝子
吉行和子
トミーズ雅
田野あさ美
三宅零治
加藤登紀子
金井克子
乾貴美子
岡本麗
中島ひろ子
天衣織女
鶴間エリ
りりィ
蛭子能収
角替和枝

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