ブチ、キレる。世界を壊しても愛は止まらない!

第44回アジア太平洋映画祭 正式出品作品 第29回ロッテルダム映画祭 正式出品作品 第24回香港映画際 正式出品作品

2000年/日本映画/110min/発売:レジェンド・ピクチャーズ

2001年9月4日DVD発売&レンタル開始 2001年9月4日ビデオ発売&レンタル開始 2000年劇場公開作品

公開初日 2000/05/06

配給会社名 0026

解説

何度も同じ夢を見せられているような、長く黒いトンネルをくぐり抜けているような、一人のヒロインの心の彷徨につきあった後に観客が見出すものは、希望ともいえないくらい淡いけれど、仄かに温かい微かな光である。
現代的なテーマで常に斬新な映像世界を構築してきた鬼才、瀬々敬久監督の最新作『HYSTERIC』は、人生の軌道を失った二人の男女が強い磁力のようなものに引き寄せられながら、青春を疾走していく切ないラブ・ストーリーである。
行くところも、為すべきこともない若い男女がデッド・エンドに向かっゆっくりと下降していく様を、鋭いリアリズムで描きながら、同時にヒロインの心に巣くう奇妙に歪んで現実感に乏しいシュールな映像感覚で見事に映像化している。
物語のベースとなっているのは、1994年2月に起きた「青学大生殺害事件」という実在の事件である。ひと組の男女が、女の知人の留守中のアパートに無断侵入して数日間居座り、金に困って隣人を部屋に誘い、衝動的に殺してしまったというショッキングな実話である。監督と脚本の井土紀州は、この男女がもし逮捕されていなかったら、その後どんな人生を送ったであろうかという興味から物語を発展させていったという。
その眼に破壊的願望が漂う、繊細で、暴力的で、辛抱することが苦手なキレやすい性格の男、智彰。紡績工場で働きながら保母の資格を取ろうとしているごく普通の女性、真美。にわか雨から逃れてガード下で出会った時から、二人の人生は変わっていく。平凡な日常の繰り返しに思われた真美の人生に突如侵入してきた暴力的な刺激。工場も学校も放棄し、盗難車で暴走し、金に困っては車上荒らしや空き巣で食いつなぐ智彰に引きずられていく真美。「太く短く生きて死ぬ」と刹那的に振舞う智彰にとって真美は、自分のステージのたった一人の観客であり、道連れだった。何度も自分から逃れようとする真美を探し出し、彼女も見つけられたことを喜ぶかのように深みにはまっていく関係。これを愛と呼ぶか否か、その答えは観客に委ねられている。
智彰を演じるのは、『ポルノ・スター』(98)の千原浩史。キレたカリスマとして、またお笑い芸人として若者の間で絶大な人気のある千原にとってはまたとないハマリ役。ヒロインの真美役には、小島聖。『完全なる飼育』(99)『あつもの』(99)など日本のインディペンデント映画で感受性豊かな演技を披露している女優である。彼女の押さえ気味の演技が、一人の男によって人生を狂わされていく真美役に、不思議な説得力を与えている。彼らに殺される隣人役に鶴見辰吾、真美のかってのボーイフレンドに村上淳。他、寺島進、阿部寛、余貴美子という日本映画期待のキャストが映画に厚みを加えている。
物語は一本の直線的時間軸を辿るのではなく、事件の当日の日付を円環的に巡っていく。冒頭の事件のシーンにラストで再び戻ってくることで円環を閉じ、今度は戸外に据えられたカメラから、殺害される隣人と主人公たちの部屋の窓の両方をのぞき込みながら同じ事件を別のアングルで映し出す。これは様々なジャンルの作品を手掛けてきた瀬々監督の再生への密かな思いが込められている。そのショットが、ブルース・スプリングスティーンの名曲『生きる理由』にオマージュが捧げられていたことを知れば、その感動もまたひとしおである。

ストーリー

地面から浮いているみたいに、疾走するスポーツカー。風を受けて、心地よさを超えたスピードを楽しんでいるふたりの男女、真美と智彰。真美は“人よりちょっとだけ不幸かもしれない”と心のどこかで思いながらまじめに暮らしていたふつうの女の子。ナイーブだけどキレやすい智彰の強引な愛に引きずられて180度違う世界に飛び込んだ。
「太く短く生きて死ぬ」が口癖の智彰は、未来なんかあてにしていない。「やりたいことが出来ないのに生きてても仕方あらへん」とうそぶき、働くよりもっと楽な方法で金を手に入れる。車上荒らし、空き巣、恐喝と、ふたりはその日を楽しく生きるためにケチな犯罪を繰り返す。ただ、現在を走り抜けるスピード感だけがふたりの生きている理由だった。
そんな日々が辛くなり、高校時代に付き合っていた圭二のもとに逃げ込んだ真美。
しかし、追ってきた智彰の姿を見ると、磁力に逆らえないように共謀して圭二から金を脅し取る。真美は自分に言い聞かせるみたいに、「私、変わったんだよ」とつぶやく。
そして夏、事件は起こる。
帰省中の圭二のアパートに、真美と智彰は忍び込み、同棲生活を始める。金も運命も尽き果てたふたりは、一枚の紙切れに犯行計画書を書きなぐる。隣に住む青年を真美が部屋に誘いこむ。そして、智彰が脅して金を奪う。異常な緊迫感の中、計画書にない事態が三人に起こり、ふたりは青年を刺し殺してしまう。
もう走ることを止められない。自分たちの影から逃げるように加速していくふたりの行き先に夜明けは来るのか。

スタッフ

企画:利倉 亮/田中 美孝
プロデューサー:江尻 健司/深谷 登
アシスタント・プロデューサー:関根 浩一/富田 敏家/植木 康夫
脚本:井戸 紀州
音楽:安川 午朗
撮影:斉藤 幸一/中尾 正人/田宮 健彦/三浦 耕/横井 有紀/山崎 詩子
編集:酒井 正次/小田島 悦子
監督:瀬々 敬久

キャスト

真美:小島 聖
智彰:千原 浩史
隆:鶴見 辰吾
圭次:村上 淳
パチンコ店店長:下元 史郎
刑事:諏訪 太郎
智彰の兄貴分・道夫:寺島 進
智彰の母・時枝:余 貴美子
真美の夫・充:阿部 寛
真美の子供・英紀:広野 健至(子役)
車上荒らしにあう男:アリ・アーメッド
犬をつつく男:伊藤 猛
警務官:飯島 大介
智彰の友人・沙耶:後藤 麻衣
真美の祖父:守田 比呂也

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