原題:Hold you tight(愈快楽愈堕落)

1997年/香港/カラー/ドルビー/アメリカン・ビスタ/1時間33分/広東語、北京語 提供:オメガ・プロジェクト/ポニーキャニオン 配給:ポニーキャニオン

2001年2月21日ビデオ発売&レンタル開始 2000年9月9日よりシネマスクエアとうきゅうにてロードショー!!

公開初日 2000/09/09

配給会社名 0068

解説

東京国際映画祭・シネマプリズムのオープニング作品として上映されたのが2年前。以来、一般公開が待たれていた『ホールド・ユー・タイト』が遂に公開される。

監督のスタンリー・クワンは、『地下情追いつめられた殺意』(86年)、『ルージュ』(88年)などで、耽美的映像と繊細な女性心理の表現に定評がある女性映画の俊英。中国の伝説的女優、ロアン・リンユイの半生を描いた『ロアン・リンユイ/阮玲玉』(92年)で主演のマギー・チャンにアジア人として初のベルリン国際映画祭女優賞をもたらすなど、世界中で才能を高く評価されている監督の一人である。エンターテインメント作品が主流をなす香港映画界で、芸術感覚溢れるオリジナリティを発揮してきた彼の3年ぶりの新作が、この『ホールド・ユー・タイト』だ。

本作でスタンリー・グワンが描いたのは、“一人の男を愛した、女と男たち”。妻を愛していながらも、つい自分の世界にこもりがちなワイ。そんなワイに、時に苛立ちを覚えてしまう妻・ムーン。ワイに想いをよせているが、遠くから見つめるだけの青年・ジェ。同じくワイに静かな想いを寄せる男・トン。表向きには「幸せ」である彼らの心に“何か”入り込んでくるものがある。彼らの想いは満たされる時間と空間を求め、運命の流れの中で出会いと別れを繰り返し、やがて不思議な人間関係を形成していく…。

一見同性愛の物語と見られがちだが、そこには複雑になっていく現代社会に生きる、愛情を掴み切れない人々の、孤独な魂の触れ合いの物語が描かれている。「幸せ」なはずなのに「満たされない」、伝えたいのに伝えられないと、いう、誰もが心の奥底で感じたことがある切ない想い。見えない心、掴めない愛情を手繰り寄せようとするそれぞれの姿を、単なる恋愛映画として終わらせず、「性」を超越した、現代を生きる大人たちの「魂の物語」として昇華させている。スタンリー・グワンは、前作の『赤い薔薇白い薔薇』(97年)と本作の間に2本のドキュメンタリーを制作しており、その時の経験と手法を大胆に取り込み、よりナチュラルで自由な、透明感溢れる作風を完成させた。まさにスタンリー・グワンの新境地とも言える作品がここに誕生した。

キャストには、その美貌から華のあるビジュアル女優として活躍してきたチンミー・ヤウ(94年『男たちの挽歌4』、96年『欲望の街 古惑仔II台湾立志伝』)が、今までの役とはタイプの異なる現代女性・ムーンとローザの2役を演じ、実力派女優としての新たな一面を披露。孤独な青年・ジェを演じるのは、台湾映画界の若手俳優クー・ユールン(96年『カップルズ』)。ワイに香港映画界の名脇役として定評があるサニー・チャンを配した。またトンに監督・プロデューサーとしても活躍するエリック・ツァンを迎え、物語に深みと広がりを与えている。他にも監督の良き理解者でもあり、アジア映画に造詣が深いことで有名な映画評論家のトニー・レインズ、ビデオ屋の女主人役でサンドラ・ンが顔を揃えているのも見逃せない。スタッフにも、劇映画の経験がない新人を敢えて起用するなど、意欲的に新しい才能を取り込んでいる。スタンリー・グワンのターニング・ポイントとも言えるこの『ホールド・ユー・タイト』。香港映画界に、また一つの新風を予感させる作品が出現した。

ストーリー

香港・啓徳空港
新空港完成に伴い、世界一離発着が難しいと言われたこの空港が閉鎖される。その閉鎖前日、空港ロビーで二人の女がすれ違い、それぞれ違う運命をたどった。一人の女はローザ。台湾で新しい生活を迎える為に空港にやって来た。一緒に来たメイドが、パスポートの入った鞄をタクシーに置き忘れてしまい、娘の面前で怒鳴りつける。そしてその横を通り過ぎるもう一人の女、ムーン。出張で台湾に向かうためロビーを人混みの中すり抜けていく。出国審査に向かうムーンと、ロビーでメイドを怒鳴り続けるローザ。

サウナ
暗闇の中に男たちが漂っている。中年の男・トンが休憩室に入り腰を下ろすと、横に座った男と目が合った。一度視線をそらすが、また目が合う。部屋を出るトン。そしてそれを追うかの如く、男が部屋を出てくる。それが合図だった。二人はシャワー室で体を絡めあう。

地下鉄
地下鉄の中、トンと同僚が座っている。一方的に話す同僚の話をよそに、トンは向かいの席で痴話喧嘩をしている二人の男を微笑ましく見ている。同僚が下車した駅で、トンはホームにたたずむ一人の青年を見つける。電車に乗るわけでもなく、人待ちをしているわけでもない。ただ呆然と立ちつくす青年。そしてその青年を斜め後ろから見続ける少年。全く面識のない三人の男が地下鉄のホームで空間を共にした。

マンション
喫茶店で偶然相席するトンと青年。前日にはエレベーターの中でも一緒になるが、その時はトンが挨拶をするだけで終わっていた。喫茶店で青年に請しかけるトン。そこでトンは青年の名前がワイであること、先日の飛行機事故で妻・ムーンを失ったことを知る。ワイがムーンと一緒にほんのわずかだが過ごしたマンションを売り払うつもりだと聞いた不動産屋のトンは、ワイと一緒にマンションを訪れる。部屋の査定をしながら、ワイの生活ぶりを見るトン。壁にはワイと、花嫁衣装を着たムーンがにっこり微笑んでいる。そしてそこに漂う妻を亡くしたワイの哀しい思いが詰まった空気。ワイは重い口を開き、ムーンとの生活について話し始めた。

新居となるマンションを二人順番で徹夜して並んで購入し、部屋に配置する家具を二人で選んだ。その頃からムーンは、話に上の空になるワイに少し不満を感じている。プログラマーであるワイは、パソコンを接続するのに熱中し、ろくに部屋の片づけも手伝わない。そんなワイに一人溜息をつくムーン。

プール
プールの監視員をしているジェは、泳ぎに来た青年に心惹かれる。連日のように来館し、黙々と泳ぐ青年、見つめるだけのジェ。ある日その青年は女性と一緒にやって来る。彼女は青年の事を“ワイ”と呼んだ。ジェはワイに対し、決して表には出せない想いを抱いた。

エレベーター
ワイに想いを寄せるジェはムーンと出逢う。何度かデートを重ね、ある日ジェはムーンにコロンをプレゼントする。「僕の好きな香りを、好きな人につけてもらいたい」それはムーンに対する想いなのか、ワイに対するものなのか。その後ふたりはエレベーターの中で、まるで満たされない思いを相手の中に探すかのように、お互いを求め合った。

部屋
特に波風も立たないワイとの生活。そして自分でも信じられないくらいに楽しく過ごすジェとの時間。ワイに対し罪悪感を持ちながらも、ムーンはジェと過ごす時間を求めてしまう。語をする時間を持ちたくて、自室で仕事をするワイに話しかけるが、「後で」とこちらを見ずに返事を返すだけ。暗い寝室に一人入ってゆくムーン、シャワーを浴びるワイをシャワーカーテン越しに指でなぞるムーン、ワイが愛用するパソコンに触れ涙が止まらないムーン。ワイの背中を見つめるだけの日々が過ぎていく。ある日ムーンが帰宅すると、ワイは一人自室でラーメンをすすっている。明日からの台湾出張のため準備で忙しいムーンに、ワイはラーメンを作る。ラーメンをすすりながら書類を見るムーンを眺めるワイ。「君とは長いけど、そんな食べ方をする君を見るのは初めてだ」久々に向かい合って謡し始める二人。ワイの右耳が聞こえなくなっているのを知るムーン。二人の間に、いつの間にか知らない事が生まれていた。それを埋めるかのように話をし、体を合わせ、幸せな朝を迎える二人。そんな幸福な時間が二度と訪れないとは、二人は思いもよらなかった。

ムーンの乗せた飛行機が事故に遭遇した……

ムーンを失い、空間が多くなった部屋に一人たたずむワイ。パソコンに映し出される二人の写真、化粧台に並ぶ香水の瓶、そして留守番電話から流れるムーンの声。消えようのないムーンとの思い出がいっばいの部屋で、ワイは止めどなく流れる涙を、ぬぐおうともしなかった。

バー
ショックから立ち直れないワイを、トンはバーに誘う。飲むことで哀しみをまぎらわせようとするワイをやさしく見守るトン。そんな二人が通うバーでジェが働き始める。なかなか立ち直らないワイに、ジェは苛立ちに似た感情をぶつける。ある夜酔いつぶれたワイを、二人は車で家まで送る。車にトンを残し、ジェはワイを部屋に運ぶ。初めてみるワイの部屋。そこにはムーンとの思い出が至る所にある。化粧台にはジェがムーンにプレゼントしたコロンがある。それを手に取り、寝ているワイにそっとふりかける。複雑な想いがジェを取り囲む。

翌日、ジェは台湾に戻った……

居酒屋
台湾に戻ったジェは、ショーウィンドウ越しに一人の女性を見つめていた。ムーンに似たその女性は、名前をローザといった。離婚したばかりで、親権問題などで前夫と喧嘩が絶えないローザと、一見気楽な振る舞いをしているがワイのことを忘れられないジェ。二人はあたかもムーンとジェのようにつきあい始める。ある日悪酔いをしたジェは、悩みをローザに打ち明ける。自分の本心をなかなか正直に出さないジェを突き放すローザに、ジェは「ひとりにしないでくれ」と哀願する。「ワイに電話しなさい。思っていることを全部話しなさい」と、ムーンは携帯電誘を差し出した。

海辺
夜明け間近の海岸にワイとトンが座っている。留守番電語に入っていたメッセージで全てのことを知ったワイを、トンは何も言わずに大きな優しさで包み込む。二人の間には愛情でもなく、友情でもない、奇妙で暖かい感情が生まれていた。

スタッフ

製作:レイモンド・チョウ
企画:ベニー・ウォン
原案:エルモンド・ヨン
脚本:ジミー・ガイ
撮影:クワン・プンリョン
美術:ブルース・ユウ
音楽:ユー・ヤットユー、キース・リョン
編集:モーリス・リー
録音:ドウ・ドゥージ、キンソン・ツァン

キャスト

ムーン/ローザ:チンミー・ヤウ
ジェ:クー・ユールン
ワイ:サニー・チャン
トン:エリック・ツァン
ビデオ屋の女主人:サンドラ・ン
ローザの友人:トニー・レインズ

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