ピーター・グリーナウェイ ８ 1/2の女たち
原題：8 1/2 WOMEN
エロティックにゴージャスに… 性のグルメと８と1/2の女たち
1999年カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作品
（全米2000年05月26日公開）
1999年／イギリス＝フランス＝ドイツ＝ベネルクス三国合作 カラー／118min／ヴィスタ・サイズ 提供：ムービーテレビジョン／配給：ムービーテレビジョン、キネティック
2005年02月19日よりＤＶＤリリース 3月14日ＤＶＤ発売／3月14日ビデオ発売 2000年11月18日より渋谷シネパレスほかにてロードショー！
公開初日 2000/11/18
配給会社名 0026
解説
観客の知性と常識的なモラルを常に刺激し、センセーショナルな話題を提供しつづけるイギリス映画界の鬼才ピーター・グリーナウェイ。いずれの作品も独特の美学に貫かれ20世紀最後の映像錬金術師と異名をとるグリーナウェイ監督が今世紀最後に放つ最新作がこの作品『ピーター・グリーナウェイ ８ 1/2の女たち』である。
この作品は、1999年カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、監督の狙い通り、世界中のジャーナリストたちからの性のモラルに対する賛否の声を巻き上げ、大きな話題をさらった。というのもグリーナウェイが新たに挑戦しているのは、性的搾取と消費というテーマであり、世界中にポルノグラフィーが蔓延している現代文明を逆手にとり、20世紀の性のタブーを笑い飛ばしているからだ。そして湯水のごとく金を浪費して地上の楽園を作り出そうとする愚かな男たちと、彼らを取り巻くあでやかだが奇怪な女たちを世紀末的映像絵巻として絢爛豪華に描き出している。
“８ 1/2”というタイトルはフェデリコ・フェリーニ監督の作品からの引用であり、マルチェロ・マストロヤンニ演じる名シーンの幾つかが本作の中にもインサートされている。グリーナウェイ監督にとって男性のエロスの象徴であるような女性を創造するうえで、『フェリーニの８ 1/2』（63）から多くを淫スパイアされているのである。しかし、グリーナウェイの創造した８と1/2人の女たちはやがて反旗を翻し、男たちを自滅に導くことになる。グリーナウェイ曰く「男に従うフェリーニ的な女性が、男を捨て去るゴダール的な女性に変身するかのように。」
自分の父親を性的に教育することになる主演のストリィ役には、イギリスの舞台で活躍しているマシュー・デラメェア。最近の公開作では『アンダー・ザ・スキン』に出演している。大富豪の父親フィリップに扮するのは、やはり舞台のキャリアが豊富で、最近の公開映画では『ダロウェイ夫人』（97）に出演しているジョン・スタンディング。
８人の娼婦たちの顔ぶれは豪華である。馬を溺愛する女ベリル役に『パルプ・フィクション』（94）のアマンダ・プラマー。出産愛好者の代理母ジアコンダ役に、フランスの人気女優ナターシャ・アマル。銀行の横領に手を貸している尼グリゼルダ役に、『ベルベット・ゴールドマイン』（98）のトニー・コレット。フィリップ親子の秘書的存在で性的魅力を発散しながら近寄りがたいタイプの中国人トキ役に『ラスト・エンペラー』（87）『ピーター・グリーナウェイの枕草子』（96）のヴィヴィアン・ウー。パチンコにのめり込んで親の財産にまで手をつけている女性シマト役に、『好男好女』（95）『憂鬱な楽園』（96）など侯孝賢監督作品でお馴染みの伊能静。女形に憧れる歌舞伎中毒の狂女ミオに、真野きりな。『ユメノ銀河』（97）『がんばっていきまっしょい』（98）『BULLET BALLET/バレット・バレエ』（99）などに出演し、女優としての今後が期待されている。娼婦たちの女王パルミラ役に『魅せられて四月』（92）のポリー・ウォーカー。フィリップを毒殺しようと企てるメイド、クロティルド役に、オランダのバーバラ・サラフィン。日本では無名ながら素晴らしい存在感を見せている。また、1/2の女ジュリエッタ役には歌手の藤原マンナ。
撮影は、ルクセンブルグと一部、日本の群馬県桐生市で行われた。撮影監督はグリーナウェイ作品では欠かすことのできない名手サシャ・ヴェルニ。スクリーン上にあでやかな色彩を添えている衣装及び美術協力はワダ・エミ。その他、ヨウジ・ヤマモト及び英國屋が劇中の衣装を提供している。脚本はグリーナウェイのオリジナルで、人物の造形にはフェリーに映画の女たちの他、『エマ』（96）の原作者であるイギリスの女流作家ジェーン・オースティン（1775〜1817）の世界の登場人物に影響されているという。
ストーリー
ジュネーブの湖畔の屋敷に住む銀行家フィリップ・エメンタールは、30年の幸せな結婚生活を共にしてきた妻を亡くす。京都で仕事を任されている25歳の息子ストリイがすぐに駆けつけ、悲しみに沈む父を慰めようとするが、父は悲嘆にくれるばかり。そこで息子はその老いた身体を抱きしめ、半分好奇心から、父と寝る。ストリイはさらに父を癒すため、モンドリアンの絵画を見せ、そしてフェリーニの映画『８ 1/2』を見せる。ふたりはスクリーンに次々と登場する華麗なフェリーニの女たちに刺激され、自分の性的妄想を満たすため、ジュネーブの豪邸にプライベートな娼館を作りたいと考え始める。
父を連れて京都に戻ったストリイは、日本人と中国人のハーフで、ギャンブルが生きがいのパチンコ中毒の女シマトに出会う。婚約者の家を抵当に入れて、パチンコをしていたことで警察に引き渡されそうになったシマトは、体と引き換えにストリイと取り引きする。しかし、日本語ができる中国人で、エメンタール家の経理兼秘書を務めるお堅いトキは、ベッドでも通訳させられそうになり、複雑な気持ちになる。キトは密かにストリイを愛していたのだ。
ある日、シマトとキトを連れて歌舞伎見物に行った父子は、そこで熱狂的に女形に憧れる女ミオに出会う。今よりもっと女になりたいというミオに、ストリイは手ほどきをするからジュネーブに来るように誘う。
その夜、地震が起きる。ストリイはいつ、どこに来るのか予測不可能な地震に、勝算のない賭けに身を投じるような興奮を感じていた。地震の後、父子とシマトの３人はベッドを共にする。その関係を続けることを望む父に、ストリイは他の女を見つけるよう言い聞かせる。
帰国したフィリップは、自分の保険会社で横領の疑いを掛けられているノルウェー人グリゼルダに思い当たる。銀行に巨額の借金がある彼女を助けるふりをして、さらに窮地に追い込んだふたりは、グリゼルダを屋敷に招き修道女のように振る舞うよう強迫する。
またある日、貴婦人のように馬にまたがる女を車で跳ねてしまった父子は、その女ベリルが馬を愛するあまりサウジのサラブレッドを盗んだことを知る。またもや、問題を解決してやる条件を出すフィリップに、ベリルはブタも屋敷に連れて行くことを認めさせる。馬とブタとベリルは切っても切れないユニークな関係を結んでいたのだ。
ストリィはというと、ベリルを見舞いに訪れた病院で聖母のように美しい妊婦ジアコンダに出会う。赤ん坊を生むのが好きで、妊娠と出産を繰り返しては生まれた子供を売っていたジアコンダは、倫理違反で告発されそうになっていた。ストリイはお腹の子の父親になる代わりに、ジアコンダを屋敷に誘う。
こうして屋敷には次々にワケありの女たちが集められたが、ある夜更けに、父と息子が密かに連れてきた女に関しては全く謎であった。巫女のような衣装、両性具有、未発達な1/2の体を車椅子に預けている神秘的な女。召使たちは、1/2の女は父と息子性的行為の産物ではないかと噂する。
オペラ『オセロー』。屋敷を挙げて見物に来た中に、家政婦のクロティルドの姿もあった。長年、エメンタール家に忠実に仕えてきたクロティルドは、亡きエメンタール夫人の帽子をかぶり、ベッドでフィリップに恩返しをしたいとストリイに打ち明ける。また、ストリイは隣の席の白い羽飾りの衣装で身を包んだ豊満な女性パルミラに心を奪われる。パルミラは黒人オペラ歌手サイモンの愛人だったが、３年前、父フィリップにフラれたことがあり、自分から屋敷に押しかけてきて娼婦の一員になる。
ある日、屋敷の上空にヘリコプターがやってくる。強い風に煽られながら陽気にはしゃぐ女たち。ヘリから降りてきたのは、パリから戻ってきたキトだった。その夜、ストリイはジアコンダの部屋に忍び込んだフリをして、そこに寝ていたキトと関係を持つ。
湖畔の日当たりのよい豪邸は、まるで楽園のようだった。裸で歩き回る美しい娼婦たち、鳥のさえずる声、愛を交わす歓びの歌。日々は静かに過ぎていく。しかし、20世紀最後のファンタジーを実現したプライベート・ハーレムは、やがてバランスを崩していく。
スタッフ
監督：ピーター・グリーナウェイ
脚本：ピーター・グリーナウェイ
製作：キース・カサンダー
製作総指揮：テリー・グリンウッド、ボブ・フーバー、デニス・ウィグマン
共同製作：ジミー・デ・ブラバン、マイケル・パクレッパ
撮影：レニエー・ヴァン・ブルメレン、サシャ・ヴェルニ
プロダクション・デザイン：ワダ・エミ、ウィルバート・ヴァン・ドーブ
衣装デザイン：ワダ・エミ
録音：ガース・マアーシャル
ヘア＆メイク：サラ・メーマン
キャスト
フィリップ・エメンタール：ジョン・スタンディング
ストリイ・エメンタール：マシュー・デラメェア
キト：ヴィヴィアン・ウー
シマト：伊能静
クロティルド：バーバラ・サラフィアン
ミオ：真野きりな
ジュリエッタ 1/2の女：藤原マンナ
グリゼルダ：トニー・コレット
ベリル：アマンダ・プラマー
ジアコンダ：ナターシャ・アマル
パルミラ：ポリー・ウォーカー
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