原題:BLOOD SIMPLE THE THRILLER

悲しいほど滑稽な殺人

ナショナル・ボード・オブ・レビュー(D.W.グリフィス賞)受賞/サンダンス映画祭 グランプリ受賞/ インディペンデント・スピリッツ賞 監督賞・最優秀男優賞 受賞

全米2000年07月07日公開

1999年/アメリカ映画/95min/6巻2,679mカラー/アメリカンビスタ ドルビーSRD/日本語字幕:古田由紀子 配給:キネティック、アーティストフィルム

2000年11月4日より渋谷 シネマライズにてロードショー 2001年4月25日DVD発売/2001年4月25日ビデオ発売

『すべてはブラッドシンプルからはじまった』(仮題)インディペンデント映画の 夜明け〜コーエン兄弟伝記 アーティストハウスより9月発売予定(予価2000円)

公開初日 2000/11/14

配給会社名 0026

解説

《これぞまさに映画の醍醐味!恐怖とブラックなユーモアに彩られたコーエン・ワールド原体験》
忍び寄る殺人者の恐怖に身をすくませて、闇の中でじっと息を潜めているヒロイン。突然、鋭い銃声とともに、まばゆい光の筋が暗闇に放射される。壁を貫通する凶弾を光と陰によって演出してしまうあまりにも鮮烈で洗練された映像の美学。ジョエル&イーサンのコーエン兄弟による映像の魔術…。すべてはここから始まった。 『バートン・フィンク』(91)、『ファーゴ』(96)、『ビッグ・リボウスキー』(98)など、カンヌ映画祭やアカデミー賞等で数々の栄誉に輝く世界第一級の映画作家コーエン兄弟。“何もないより二つの頭脳”と自分自身を悪戯っぽく語る彼らは、監督を兄ジョエル、製作を弟イーサンと取りあえず分業しているものの、分ちがたい“二つの頭脳”で脚本を練り上げ、誰も想像つかない奇想天外な物語を紡ぎあげてきた。その出発点にして彼らの才能の全てが凝縮され、当時のベストスリラーとして世界中で大第絶賛された長編処女作『ブラッドシンプル』。1999年、コーエン兄弟はそのオリジナル・ネガとサウンド・トラックの全編に渡って再編集を試み、新しく撮影されたイントロダクションを冒頭に加え、完璧なブラッシュアップを施した。こうして生まれ変わった最新作が、『ブラッド・シンプル/ザ・スリラー』である。編集のリズムはピッチを上げ全体で4分間短縮。サウンド・トラックはドルビー・デジタル5.1のバージョンアップされ、新曲も付け加えられ、前作の迫力を一層際立て、心理的恐怖を倍増させている。 血も凍るような恐ろしさと、よじれた笑いとが奇妙に結びついた世界を、固唾を飲んで見守るゾクゾクするような快感。そして互いにボタンを掛け違えたいびつな人間ドラマの筆舌に尽くし難いおかしさ。まさに、心の底から映画の“おもしろさ”を堪能する歓びを教えてくれる極上のエンターテインメント、それが『ブラッドシンプル/ザ・スリラー』である。時が立つのを忘れてしまう最高級のミステリーやハードボイルド小説にも似たストーリーテリングの醍醐味と豊穣な映像体験をもたらす本作は、現在、世界中の観客を魅了し、、全米、ヨーロッパの各国で大ヒットを記録している。

ストーリー

見渡すかぎりの荒野にのびる一本の乾いた道路。彼方には熱い大気を重く震わせて石油採掘の光景が蜃気楼のように揺らいでいる。アメリカ南西部の片田舎、そこにたたずむ一軒の古びたバー。金に細かく、短気で気難しい経営者マーティは従業員に慕われず、客席のストリップ・ショーのネオンが妖しく反映するオフィスでコンピュータのディスプレイを眺めながら日々を過ごしていた。そんな夫との満たされぬ時間に耐え切れず、若く美しい妻アビーが、店のバーテンダーのレイと一夜を過ごしたのは当然の成り行きだった。

ある日、マーティは閉店後のバーのオフィスで、うだつのあがらない地元の私立探偵から二人の密会の証拠写真を受け取る。ベッドのなかの二人の写真を前にして下世話な笑いを浮かべる探偵に、マーティはゴムで縛った札束を投げつけ「二度と俺の前に顔を出すな」と怒りをぶちまける。探偵は「困ったらいつでも連絡してくれ」と見透かしたような台詞と嘲笑を残して立ち去った。

アビーは夫のもとを去ることを決め、小さなハンドバッグに身の回りのものをしまった。そのなかには、結婚記念日に夫から贈られた小型の拳銃と、三発の実弾があった。一方、昨夜アビーと過ごしたホテルにかかってきた無言電話から情事がばれたことを知ったレイは、マーティに会いに店に出かけていく。思いつめたマーティに向かい、残りの給料を貰って退職すると言い渡すレイ。マーティは怒りに爆発しそうな自分を必死に抑えながら、「妻をものにしたと勘違いしているおまえが滑稽だ。あいつは誰でもよかったんだ。今後俺の前に現れたら撃ち殺してやる」と言い放った。

探偵は果たして、再びマーティに呼び出されていた。マーティの今度の依頼は、なんと妻レイの殺しだった。報酬は1万ドル。「考え抜いた挙句、俺に殺しをやれというわけか。バカげてる…」と、表面では躊躇するポーズを見せながら、大金の約束を前に探偵は依頼を引き受ける。「死体は裏の焼却炉で始末しろ」と命じ、その場を立ち去るマーティの後ろ姿を探偵は何事かを考えながら見つめていた。

数日間、探偵の描いた筋書き通り町を離れていたマーティは、戻ってきて誰もいないバーのオフィスで彼と密会した。そこで見せられたのは、拳銃で撃たれ、ベッドに横たわっているアビーとレイの写真だった。思わず吐き気がこみ上げてくるマーティに、死体の処分については知らないほうがいいと、冷酷に告げる探偵。マーティは侮蔑をあらわにしながら、約束の報酬を渡した。次の瞬間、マーティの胸に一発の銃弾が撃ち込まれた。探偵は「マヌケめ」と捨て台詞を残して去っていった。そこに残された拳銃は、探偵がアビーの部屋に忍び込んだときに奪ったものだったのだ。

数時間後、殺されたはずのレイが部屋に現れた。電気を点け、椅子に深々と沈み込んだマーティの姿を見つけ、声をかけるが変じはない。不審に思って近づいた瞬間、足元で躓いたアビーの拳銃が暴発した。驚いて事態を見極めると、マーティの椅子の下には黒々とした大量の血が滴り落ちている。アビーの拳銃とマーティの死体。とっさに、アビーの犯した殺人だと勘違いしたレイは、ジャンパーで血糊をすべてふき取り、アビーの拳銃をマーティのポケットにしまうと、亡骸を車に乗せ、広大な田園地帯まで闇の中をひたすら走った。ところが、マーティには微かに息があったのだ。畑の真中に深く掘られた穴の中に下ろされたマーティは、ポケットからアビーの拳銃を取り出すと、最期の力を振り絞りレイに向けて引き金を引いた。一発しか残っていない弾は、不発に終った。自分が殺させたはずの男によって、容赦ない土くれを浴びせられるマーティ。断末魔の叫びが土中から轟く。

その頃、探偵は自分の練り上げた完全犯罪に重大な綻びを見つけていた。アビーとレイを殺したように見せかけたトリックの証拠写真を灰にしながら、愛用のライターを現場で無くしたことに気づいたのだ。慌てて現場に舞い戻った探偵は、死体が跡形も無く消えていることに動転する。そこにアビーが入ってくる。探偵はとっさに物陰に隠れると、荒らされた部屋に佇み、こじあけようとした形跡のある金庫を見つめるアビーの姿をじっと覗っていた。すべてをアビーに知られたと勘違いした探偵は、今度は彼女を殺さなければならなかった。

図らずもマーティの殺害に荷担してしまった恐怖から逃れられないレイ。「君のしたことの始末はすべて自分がやった」というレイの告白は、意味がわからないアビーを怯えさせるばかり。彼女はレイがバーの金を奪い夫との間に何かがあったと疑い始める。レイはアビーの腑に落ちない態度から誰かと組んで自分を嵌めようとしていると考える。互いの誤解から生まれた疑惑が二人の猜疑心を募らせていく。そして、影のように二人ににじり寄る探偵。二人にとってマッタク道の存在である彼の追跡は、まさに見えない恐怖そのものだった。やがて、レイがこのトリックの端緒をつかんだときには、探偵は二人のすぐ背後にまで迫っていた。ライフルの銃弾がレイの胸を貫いた。残されたアビーの恐怖は今、まさに頂点に達した。追い詰められたアビーは、ついに……。

スタッフ

監督:ジョエル・コーエン
製作:イーサン・コーエン
脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
製作総指揮:ダニエル・F・バカナー
アシスタント・プロデューサー:マーク・シルバーマン
助監督:デボラ・レニッチ
撮影:バリー・ソネンフェルド
プロダクションデザインジェーン・ムスキー
音楽:カーター・パウェル
編集:ロドリック・ジェインズ、ドン・ウィッグマン
特撮:ローレン・ビヴェンス
衣装:サラ・メディナ=パペ

キャスト

レイ:ジョンゲッツ
アビー:フランシス・マクドーマンド
マーティ:ダン・ヘダヤ
私立探偵:M・エメット・ウォルシュ
モーリス:サム・アート・ウィリアムズ
デボラ:デボラ・ニューマン
女家主:ラクウェル・ガヴィア
ガルシア:セニョール・マルコ
貧乏老人:ウィリアム・クレーマー
ストリップバーの店員:ローレン・ビヴェンス
ストリッパー:シャノン・セドウィック
若い女:ナンシー・フィンガー
ラジオの伝道師:レヴ・ウィリアムス、ブレストン・ロバートソン

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