原題:Father Less

☆ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2000出展作品::http://www.nifty.ne.jp/fanta/yubari/index.htm

1999年日本映画/78分/カラー/制作・配給:万福寺シネマ

1999年06月12日より公開

公開初日 1999/06/12

配給会社名 0574

解説

今、家族が問い直されている

 不可解な事件が相次いでいる。インターネットを介した連続自殺事件、数々の毒物混入事件、これまで想像もしないような凶悪な少年犯罪が続発し、少年法の適用年齢までが論議されている。数多く報道されてはいるものの、事件の本質には触れられていない。
 自己表現が苦手で、人間関係をうまく取り結べない若い世代が今、危機を迎えている。
 その複雑な背景をひも解く端緒のひとつは家族にあるのではないだろうか。
 家族の人間関係の危うさは、ここ数年、文学や映画でも頻繁に題材とされている。
 父の失踪と家族の崩壊を描いた映画「萌の朱雀」や、芥川賞受賞小説「家族シネマ」(柳美里著)、俳優自らの少年時代を綴った映画「ニル・バイ・マウス」(ゲーリー・オールドマン監督)、ノンフィクションでは、親を告発する若者の肉声を集めた「日本一醜い親への手紙」が大きな話題を呼んだ。
 今、若者たち自身が、家族への激しい思いを語りはじめた。

ドキュメンタリーで若者たちは主張する

「ファザーレス−父なき時代」は96年9月・日本映画学校ドキュメンタリーゼミの卒業製作作品として始まった。
 このゼミでは、「家族ケチャップ」(ドイツ・オーバーハウゼン国際短編映画祭正式出品/ぴあフィルムフェスティバル審査員特別賞)や、「妻はフィリピーナ」(東京国際学生映画祭・ドキュメンタリー部門グランプリ/日本映画監督協会・新人賞受賞)など、学生自身が抱える問題をドキュメンタリーとして作品化し、高い評価を受けてきた。「ファザーレス−父なき時代」では、いじめ、登校拒否、家庭崩壊、同性愛、自殺、自傷行為など、現代日本の青少年をめぐる様々な問題が、ひとりの登場人物に凝縮されて描かれている。どこにでもいそうな控えめな青年の内側に渦巻く苦悩を見るとき、他人事としてではなく、少年達にとっては自分自身の問題として、また、親達にとっては我が子の問題として突き刺さってくる。

自らを映すことで始まる「自立への物語」

 主人公の村石雅也は、都会でひとり暮らしをしながら自分を見失っていた。だが、ドキュメンタリーの被写体となったことが彼を大胆にする。自分のありのままの姿をカメラにさらけだしながら、自己を再発見し、カメラを通して親たちを見つめることで、失われた家族の絆を取り戻そうとする
 もちろん、どの家族にもそれぞれの問題があり、表には出せない感情のせめぎあいがある。語ってはならない秘密もある。村石の家族が特殊なわけではない。
だが、殺伐とした生活の中で社会や人間との結びつきを失い、生きる意味すらも見失い、自殺を決意した雅也にとって、自分を、そして自らを育んだ家族を見つめ、問い直すことが、生存をかけた戦いとなったのである。
 映像に確かな自分を刻みけつたいという切実な想いがそこにあった。
 結果として、フィクションをはるかに越えたドラマが完成した。 

マンハイム国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞

 「ファザーレス−父なき時代」は完成後高い評価を受け、ニューヨーク大学国際学生映画祭で特別賞を受賞したことをきっかけに数々の映画祭から招待を受け、ドイツ・マンハイム国際映画祭でドキュメンタリー部門のグランプリと国際批評家連盟賞を受賞した。この映画祭では、かつてドキュメンタリーの巨匠・フレデリック・ワイズマンが同じ賞を受賞しており、本作が、一級の映画作品として評価されたことを証明している。

ストーリー

村石雅也(22才)は、日本映画学校に籍を置く専門学校生である。 昼間、学校にはあまり出席せず、ひとり暮らしの部屋に閉じこもり、夜になると盛り場を出歩く。
 中年の男たちが彼を慰める。女性の恋人もいたが、罵倒され、別れた。 自己嫌悪、人間不信、性の悩み、将来への不安。自暴自棄の果て、ナイフで自らを傷つける。その痛みに放心しながら、一時、心の傷を忘れるのだ。 ある日、雅也は郷里・長野へ向かう。
 早くに離婚した両親。母子家庭で育ち、新しい父(義父)に反発し家出した雅也にとって、ふるさとに安らぎはない。高校でも居場所を持てず、いじめを受け登校拒否に陥った。憎悪に近い思いが、雅也にはあった。 母へ、義父へ、そして、自分を捨てた父へ、厳しい追及の言葉を浴びせながら、雅也は必死に自分への愛を見出そうとしていた。自ら回すビデオカメラが、雅也に妥協を許さないのだ。
 信濃の四季が移り変わり、厳しい冬へと向かうにつれ、親子のやりとりは激しいものとなった。やがて、義父が語り始める。その苛酷な人生。
 互いに深く想い合いながら、すれ違い、傷つけ合った家族たち。初めて本気の言葉をぶつけ合いながら、それぞれの姿を再発見してゆく。

スタッフ

企画:村石雅也
監督:茂野良弥
製作:山谷哲夫
撮影:斎藤大樹、村石雅也
録音:久保啓史郎
美術:金井美樹
編集:斎藤大樹
音楽:柞山智宏
音響:柞山智宏
制作・配給:万福寺シネマ
協力:日本映画学校

キャスト

主演:村石雅也

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