原題:Death in Granada

その夜、アンダルシアの月も泣いた

1998年 スペインゴヤ賞ノミネート 1998年 イマジェン賞 最優秀作品賞受賞

1997年/スペイン=アメリカ映画/114min/カラードルビーステレオ/ 後援:スペイン大使館、(財)日本スペイン協会 配給:(株)ギャガ・コミュニケーションズ/宣伝協力:キネティック

2000年6月25日よりDVD発売 2000年6月23日よりビデオレンタル発売 2000年1月22日よりシャンテシネにてロードショー!

公開初日 2000/01/22

配給会社名 0025

解説

20世紀スペインを代表する偉大な天才詩人であり劇作家でもあったロルカには、まぎれもない“詩人の血”が流れていた。アンダルシアの大地に根ざした“詩人の血”は、明るい豊かさと暗い情熱を持ち合わせ、ロルカ自身、そしてその作品に触れた全ての人々を虜にしてしまう魔法のような牽引力を持っていた。サリバート・ダリやルイス・ブニュエルといった芸術家たちとも深い友情で結ばれ、多くの影響を与えた。『ジプシー歌集』『血の婚礼』といった代表作は、激しい情熱と冷たい死に彩られ、読む者に太陽のような強烈な印象を与え、月のように深く心にしみわたった。時にはそれらの自作の詩をピアノやギターで弾き語ったり、また、画家としてもダリが嫉妬するほどの才能を発揮した。
1936年8月19日未明、ビスナールの丘にある一本のオリーブの木のそばで、フェデリコ・ガルシア・ロルカは暗殺された。闇の中で何があったのかはいまだに謎に包まれている。アンダルシアの月だけが、それを見ていた。この映画は、その謎に迫り歴史的事実とフィクションを大胆に組み合わせ展開していく見応えあるミステリーである。内線勃発時に、ロルカの詩を愛し、ロルカその人と強烈な出会いをした少年リカルドが、その牽引力に焼き尽くされるかの如くたどる運命が、天才詩人の死という史実に深い余韻を与えている。ルネッサンス人のような豊かな才能を持った繊細な芸術家が、なぜ、38歳の若さで命を断たれたのか?彼のリベラルな思想とファシズム批判が危険を招いたとも言われるが、“スペイン内戦の悲劇の象徴”とされた彼の死の真実は明らかにされていない。
ロルカを演じるのは、『ゴッドファーザー PARTIII』のハリウッド・スター、アンディ・ガルシア。その役柄の価値を心底信じるまでは出演を引き受けない俳優として知られるガルシアは、従来のハリウッド作品とは異なるこのドラマの真価を認め、ロルカの役を熱望したという。ガルシアは伝説の詩人の死の直前の輝きと苦悩を見事に演じ、新しい魅力を見せている。

この映画はロルカに魅せられた人々の不思議なつながりによって制作されている。
1965年、フランコ独裁政権下でロルカのことを口にするのはまだタブーとされていた頃、アイルランド人の学者であるイアン・ギブソンはスペインに渡り、ロルカの綿密な調査を行った。主人公リカルドの成長してかえらの姿は、まさにこのギブソンをモデルにしている。後に彼はその調査の結果をロルカの伝記『ロルカ』として出版した「突然、マルコス・スリナガという映画監督から電話がかかってきて、私の作品のアメリカ版を読んだばかりだと言うんだ。信じられないくらい話が合って、すぐに脚本に取り掛かろうということになった」
プエルトリコの映画監督、マルコス・スリナガも子供の頃にロルカの魔法に取り憑かれた者の一人だった。学校ではよくロルカの歌を歌っていたという。
スペイン内戦中とその後の民族主義による抑圧のため、多くのスペイン知識人がプエルトリコに逃れてきた。「だからロルカの作品は出版され、自由に手に入った。スペイン本国では読むこともできなかったのに」
スリナガは故ラウル・ジュリア主演で、第2次世界大戦開始前夜のプエルトリコにおける政治的陰謀を再現した映画『ラ・グラン・フィエスタ』(86)でアカデミー賞最優秀外国語映画部門にノミネートされている実力派監督である。他にラウル・ジュリア主演のダンス狂想劇『タンゴ・バー』(88)がある。
また、『ミ・ファミリア』(95)『ネイキッド・タンゴ 剥き出しの愛』(91)のイーサイ・モラレスが、ロルカの死の謎を追うリカルドの役を熱演している。他に『ブレードランナー』(82)のエドワード・ジェームズ・オルモス、『不滅の恋 ベートーベン』(94)『カストラート』(94)のジェローン・クラッベ、『雲の中で散歩』(95)のジャンカルロ・ジャンニーニなどのベテランが脇を固め、ドラマに厚みを加えている。

そして、マルコス・スリナガ監督と古くから親交があった『アダムス・ファミリー』(91)の名優、故ラウル・ジュリアがこの映画のプロジェクトのために計り知れない活動を行った。残念なことに映画が完成する前に亡くなってしまったが、この映画は彼に捧げられたものである。こうしたスタッフ、キャストのこの映画に対する熱い思いが、ロルカをスクリーンに鮮やかに蘇らせたのだ。

ストーリー

「僕を忘れるな」詩人は少年に言った
その出会いが少年の運命をグラナダの迷宮に誘い込む
1934年、スペイン。太陽が輝く豊潤なこの地に暗雲が立ち込め始めていた。共和派とフランコ将軍率いる反乱軍の競い合いが日毎に激しくなり今や内乱勃発寸前だった。
そんな時、グラナダ生まれの14歳の少年、リカルドとホルヘのふたりは興奮の絶頂にあった。同郷の詩人フェデリコ・ガルシア・ロルカの最新戯曲『イェルマ』を観にマドリッドまでやってきたのだ。しかし、芝居に夢中になっている少年たちの横で、それぞれの両親は苦い顔を隠せなかった。芝居はスペインの道徳感に対する攻撃とも取れる無いようであり、この時勢の中では、ロルカに傾倒することは命取りになりかねないと思ったからだ。そこにはファシストの手先センティーノに率いられた一団がやってきて舞台をぶち壊そうとするが、ロルカが彼らを放り出してしまう。
すっかり魅せられてしまったリカルドは、舞台が跳ねた後、こっそり舞台裏に忍び込む。青いライトが差し込む中、そこにロルカが立っていた。サインを求めて自分が持っていた『ジプシー歌集』を差し出したリカルドに、ロルカは優しく言葉をかける。そして、「僕を忘れないで」と言い残して去って行った。それはふたりの間の秘密の暗号のように思えた。ほんのわずかな時間だったが、リカルドにとって、その出会いは生涯忘れることのできない素晴らしい瞬間だった。
1936年、グラナダ。リカルドはロルカが帰郷していると知り、会いたくて居ても立ってもいられなくなり、ホルヘを誘いに行く。父親の目を盗んで家を抜け出したホルヘと一緒に、リカルドはロルカの姿を求めて街に飛び出す。しかし、その日の午後5時にグラナダで反乱軍蜂起した。街は殺気立った兵士であふれ、ふたりも雑踏の中に逃げ出す。その門の内側に入り込んだのはリカルドの方が先だった。ほんの少し逃げ遅れただけで、次の瞬間、ホルヘの胸は赤い血でみるみる染まっていった。親友はリカルドの目の前で銃殺されてしまったのだ。
ホルヘの葬儀の日、リカルドは弔いの気持ちを込めてロルカの詩集を棺に入れた。
しかし、ホルヘの父アギーレはすぐにそれを捨ててしまう。「僕が殺した」と泣くリカルドを慰める父ヴィセンテ。しかし、ある夜その父が何者かに連れ去られ、血まみれになって帰ってくる。その夜、一家はスペインを去る決意をする。しかし、同じ夜、あのロルカも連れ去られて暗殺されたことなど、その時リカルドには知る由もなかった。
アンダルシアの月だけが知っていたロルカ暗殺の秘密……
1954年、プエルトリコ。31歳になったリカルドは記者として働くかたわら、ロルカについての本を執筆していた。あの恐怖と暴力の時代から比べれば、それはあまりにも穏やかな日々であった。しかし、ホルヘの死に対する罪悪感はいまだに消えていなかった。そして、明らかにされていないロルカの死の謎も頭から離れないでいた。真実を知るまでは本も完成できそうにない。そう考えたリカルドは、いまではビジネスマンとして成功している父に、スペインに帰ると宣言する。
「スペインでの出来事は全て忘れるんだ」と必死で引き留める父。その顔は青ざめておびえていた。フランコ政権下のスペインは危険だとは十分わかっている。
しかし、リカルドの決意は変わらなかった。
18年ぶりにリカルドは故郷グラナダの地を踏む。そこはいまでは成功したホルヘの父アギーレ大佐とホルヘの妹マリア・ウヘニアの美しく成長した姿があった。
そして調査を進めるリカルドは、ファシスト側でありながらロルカを最後にかくまっていたネストール・ゴンザレス、売春婦クロチルド、魅惑的なジプシー、ナチャ・モンテーロ、謎の人物ロベルト・サラーノらに会い、ついに生きているロルカを最後に見たのは闘牛士のガビーノだと知る。だが、リカルドの行動はフランコ政権下では公安指揮官となったセンティーノによって見張られていた。そして警告を込めた暴行、刑務所への投獄と数々の妨害を受ける。しかし、どうしても闘牛士ガビーノに会って話を聞かなければならない。血を沸き立たせた観客の熱気渦巻く闘牛場で、ついにロルカ暗殺の真相が明らかになる。しかし、それはリカルドにはとうてい信じられない真実であった…。

スタッフ

音楽:マーク・マッケンジー
美術監督:ヒル・パロンド
編集:キャロル・クラビッツ
共同製作:キャロライン・カルデラ&パルミラ・カルバリド
撮影監督:ホアン・ルイーズ・アンキン
製作総指揮:エンリケ・セレーソ
脚本:マルコス・スリナガ&ホアン・アントニオ・ラモス&ニール・コーエン
原案:イアン・ギブソン著『ロルカ・スペインの死』『ロルカ』
製作:モクテスマ・エスパルザ&ロバート・カッツ
監督・製作:マルコス・スリナガ

キャスト

ロルカ:アンディ・ガルシア
リカルド:イーサイ・モラレス
ロサーノ:エドワード・ジェームス・オルモス
アギーレ大佐:ジェローン・クラッベ
センティーノ:ミゲル・フェラー
マリア・ウヘニア:マルセラ・ウォーラースタイン
ヴィンセンテ・フェルナンデス:エウセビオ・ラサーロ
少年時代のリカルド:ナイム・トーマス
タクシー運転手:ジャンカルロ・ジャンニーニ

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